水使いと野生児のカロス旅   作:砂廣ジュン

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プラターヌの研究所

 

 

 舐められてべとべとになった頬をハンカチで拭きながら、プラターヌが口を開く。

 

「いきなりこんな様子ですまないね。ご飯の時間で出していたんだけど、腹ごなしに遊びたがってしまって」

「いえ、お気になさらず。顔洗ってきます?」

「昼、何食ったんだ?」

 

 ハトウとプラターヌの会話を気にせず、ルゥはガブリアスに気安く話しかける。ガブリアスは俗にいう600族のドラゴンポケモンであり、プライドが天を突くほどに高い。

 知らない人間など音を出す木端のような存在。飼育下で育っていてもそれはあまり変わらない。普通の人間ならば話しかけられても無視されて終わりだが、

 

ぐるあぐるるぁるるる(カイス味のポケモンフード)があぐるあぁぐるる(食後にサワー味のポフレね)

「カイスうまいよな。サワーってなんだ?」

ぐあぁ、ぐああるる(食べて知るのが一番よ)

「ハトウ、サワー味のもん食わせろ」

 

 ルゥは雑談すらできる。これが初対面のオノノクスを従えるほどの統率力と異能の力であった。

 

「……驚いた。ポケモンと心を通わせる能力があるとしても、うちのガブリアスが一見さんにああも打ち解けるのは初めて見たよ」

 

「発してる言葉だけが意思疎通の手段ではないんでしょうね。表情の変化や僅かな動作、果ては観測不能な意識の同調。そういったものをフルに活用して会話してるんだと思います」

 

「言葉を理解するだけじゃなく、そこまで含めての異能というわけだね。ボクはそちらの専門家じゃないけど、アクロマ博士とかは喜びそうな話だ」

 

 顔に付いたよだれを洗面台で流したプラターヌに、ハトウは手に持つ紹介状渡す。

 

「そうだ、これがアララギ博士からの紹介状です」

「ありがとう。紹介状なんて古風だと感じたんじゃないかな。メールで済ませればいいと思っただろう?」

「いえ、そんなことは」

 

 図星だった。師に使いっ走りのような真似をさせてまで受け取った紹介状は、メールで済まないのかと何度も考えた。一度アララギ博士に提案したら却下されたのでやむなく受け取りをシズイに頼んだが。

 

「だけどね、こういった遊び(・・)ができるのは手紙の強みでもあるんだよ」

 

 そう言ってプラターヌは手紙を鼻に近づけて、嗅いだ。

 

「これはチイラの香だね。甘く、辛く、そこはかとなく()が匂い立つ。アララギさんから見たキミがどんな人間か、なんとなく伝わったよ」

「……どうも」

「プラターヌ、メガシンカってなんだ?」

 

 二人が話している間もガブリアスと話していたルゥが、話の脈絡を完全に無視した問いを発する。

 

「せめて"さん"を付けなさい、阿呆!」

「あはは、構わないよ。じゃあ少し講義をしようか」

 

 プラターヌが引っ張ってきたホワイトボードにメガシンカと書いて、丸い石を持った人とガブリアスを描いた。

 

「メガシンカというのはバトル中に発生する一時的な形態変化(フォルムチェンジ)の一つで、人間がキーストーンを、ポケモンがメガストーンを持って、キズナを通じて互いの生体エネルギーを共鳴させることでパワーアップするんだよ」

 

「キズナ?」

「そう、キズナだね。石があってもキズナがなければメガシンカは引き起こせないんだよ」

「石ってどれだ?」

があぁ(これよ)

 

 ガブリアスがチョーカーに付けたメガストーンがルゥに見えるように屈む。

 

「ガブリアスに負担がかかるから実際のメガシンカは見せられないんだ。すまないね、後で資料を見せるよ」

「いえ、十分です。一つ質問があるのですが良いですか?」

「良いよ! ボクに答えられる範囲であればなんでも答えよう」

 

 有望な若者の質問にテンションを上げるプラターヌ。その厚意に甘え、ハトウは訪問の目的の一つとも言える問いを投げかける

 

「メガウェーブによる石無しメガシンカについてはどうお考えですか」

「メガストーンやキズナと言う導線がないことはメガシンカ現象自体にとっては大した問題では無いと思っているよ。だけど、それによって強化された身体を制御するためにはキズナが必要不可欠だと思っている」

「制御、ですか」

 

「継承者というシステムの無いアローラ地方でのメガシンカでは制御不能になるトラブルが相次いでいるそうだ。これはキズナが十分では無い状態でメガシンカを行ってしまう事が原因だと思う」

 

「カロスでメガストーンを得るためにはメガシンカを扱い切れると認められる必要があるそうですね。それによって暴走する程度のキズナのトレーナーとポケモンには石を持てないから、制御不能となる事案は発生していなかったと」

 

「ああ。ただ、メガストーンでメガシンカするにもある程度以上のキズナが必要だから、最低限の足切りはできている状況なんだ。だからまだ最悪の事態(・・・・・)は起こっていない」

 

 ポケモンとキズナを結ぶことがメガシンカの最低条件であり、同時にメガシンカの力を制御するために必要なものでもある。

 ならば、キズナ無し、石無しでのメガシンカを可能とするメガウェーブはどうか。

 

「メガウェーブにはその足切りがないから危険である、と」

「そういうことだね。だけどメガシンカを一定のキズナを必要とする免許制にすればあらかたの問題は解決するんじゃないかな。その旨の意見書はポケモン協会に提出したよ」

 

「その場合はメガウェーブのメカニズムを公表することになりますかね」

「うん。まあ本来ならメガウェーブの存在自体公開するべきでは無いんだけど、裏ではおそらく既に出回っているからさ」

 

 一般ポケモンとは一線を画す強さを持つメガシンカ。

 ジャービスの開発したメガウェーブはそれを継承せずして扱えるようにするものであった。ジャービスの開発した別の軍事技術が裏で流れていることは確認済み、メガウェーブも流出していないと考えるのは楽観が過ぎる。

 

「公開して法整備してしまった方が却って安全だと」

「そうだ。継承者に選ばれた人間と裏の人間だけがメガシンカできるとなると裏に接触するトレーナーが増えるだろうから、そこらへんも踏まえてって感じだよ」

 

「そうなってくれると僕のような一般トレーナーにとってもありがたいですね。キーストーンを手に入れられない以上、メガシンカが使える相手には明確に不利ですから」

 

「一応、トレーナーとポケモンのキズナが極限に達すれば、石がなくてもメガシンカに近い現象が起こる例はあるといえばあるんだけどね」

「キズナ変化ですね」

「うん。正解だ」

 

 プラターヌがホワイトボードにキズナ変化と書き足し、ゲッコウガの絵をその下に追加する。

 

「まだ実例は一つ、伝承を含めても二つ。フォルムチェンジを可能としたゲッコウガの変異種の可能性が高いと思いますが」

「そこの解釈は学会でも揺れているね。僕は石無しメガシンカ説を推しているけど」

「理由を聞いても?」

 

「人間側の異能がキーストーンとメガストーンの役割を果たしていた可能性があるんだよ。トレーナーが微小ながら波導を操れたから、その異能でポケモンとパスを繋いでシンクロしたんじゃないかな」

「なるほど。異能由来と考えれば再現性がないことも納得がいきますね」

 

 プラターヌはうんうんと頷きながら、ゲンシカイキと書き加えた下にΩの文字が刻まれた宝玉を持っているデフォルメされたグラードンを描き込んだ。

 

「これに加えてゲンシカイキという現象がある。これは人間の生体エネルギーなしで宝玉を持ったポケモン単独でできるのが特徴だね。発生する被害の問題であまり研究が進んでいないんだけど、僕はメガシンカと根を同じくする現象ではないかと思っているんだよ」

 

「人間の生体エネルギーを必要としていないのに、ですか?」

「目覚めの祠に溜め込まれていたエネルギーを宝玉から取り込んだと超古代ポケモン暴走事件の報告書にはあった。これが人間の生体エネルギーと同じ働きをしたんじゃないかな」

 

「だとすれば、他のメガシンカ可能なポケモンも目覚めの祠で単独メガシンカ可能なのでは?」

「目覚めの祠に溜め込まれてたエネルギーが発散されちゃったから検証できないけど、可能性はあると思うよ。ただ、伝説のポケモン特有の規格外のパワーが必要って可能性もある」

 

 そう言いながら、プラターヌはメガシンカとゲンシカイキの間に、ラティアスの絵を追加する。

 

「実際ラティアスやラティオスが単独でメガシンカをしていた目撃例があるんだけど、これもゲンシカイキではないかと思っているんだ。天運がないと伝説のポケモンには出会うことすらできないからこれも検証はできてないんだけどね」

 

「ラティアスやラティオスはホウエンチャンプがメガシンカに成功していますから、単独でメガシンカしたことを確認できればその仮説の信憑性は上がりますね」

 

 ホワイトボードの空いたスペースに、プラターヌはBREAKと書き込む。これはハトウも知らぬ様子で、途中からずっと首を捻りっぱなしのルゥと同じくハトウも首を捻る。

 

「BREAK……ですか?」

「仮説段階だけどね。BREAK進化は成長限界であるレベル100を超えて、種族の壁を破壊(BREAK)すること。育成力の高いトレーナーに協力してもらって実現しようとしているんだけど、上手くいってはいないんだ」

「なるほど」

 

 更に話を続けようとするプラターヌを、ガブリアスがツンツンとつつく。

 

がぶぅ、ぐるるるる(用意してたのはいいの)?」

「プラターヌ、さん。用意してたのって、何?」

「ああそうだったね。実はキミたちが来ると聞いて用意していたんだ。こっちの部屋に来てもらえるかい?」

 

 プラターヌに連れられてハトウのルゥの入った部屋は温室のような部屋で、ポケモンが暮らしやすいような環境に整えられていることがわかった。

 そしてここで暮らしているのであろう三種類のポケモンが、見知らぬ来訪者に興味の目を向ける。

 

「この研究所では新人トレーナー支援もやっていてね。一人一匹、うちからの支援として進呈しよう」

 

 ハリマロン、フォッコ、ケロマツ。いずれも新人トレーナーでも従えやすいとされる御三家のポケモンである。

 

 

 

 




プラターヌ博士の一人称、二人称の表記揺れを修正
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