水使いと野生児のカロス旅   作:砂廣ジュン

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カロスの御三家

 

 

「一人一匹、ということは僕も受け取ってよいのですか?」

「ああ、構わないよ。カロスリーグ、狙っているんだろう?」

「ではお言葉に甘えて」

 

 ルゥが群れに飛び込んで遊び回っているのとは対照的に、ハトウは自分の方を見つめている個体を見定める。

 才能があるポケモン、それこそ天賦の才が与えられたようなポケモンはルゥのような相応のカリスマ性がなければ従えることはできない。

 統率力、ポケモンに対するカリスマ性の足りないハトウからすれば、才能あふれる個体よりも人懐っこい個体の方が手持ちにしたいところ。

 

 自分に対して興味を持っている個体それぞれの筋肉のつき方、ちょっとした動作、目の煌めきを見ながら、誰が最も相性が良いかと自分の感性に問いかける。

 この中で最もピンと来るのは———

 

「そこのフォッコ、そうあなたです。僕と一緒にポケモンリーグで戦いませんか?」

「コン!」

 

 指名されたフォッコが元気よく応える。それは了承の証。

 その様子を見ていたプラターヌが興味深いとばかりに表情を変える。

 

「おや。水使いと聞いていたからケロマツかと思ったけど」

「いえ、こういうのは巡り合わせなので。フォッコ、こちらに」

 

 自分に合ったポケモンとの出会いは運命的なことが多いというのはトレーナーの間でよく言われる話である。ハトウもこの話に同感であった。

 ポケモンを選ぶ基準は第一に性格が自分と相性が良いか。次に才能の有無がくる。

 

 ハトウは自分の腕の中に飛び込んできたフォッコに名前をつけなければと思考する。

 手持ちのポケモンのことを種族名で呼ぶのも珍しいことではないのだが、ハトウはニックネーム派であった。

 

「名前は……そうですね。メスなので、コン———」

『キィィィィ!』

『マァァァア!』

「……ではなく、えーと」

 

 ボールの中から手持ち二匹の抗議が鳴り響く。万太とヒヤ子という安直な名前に代表されるように、ハトウにネーミングセンスはない。この二匹は自分の名前を一度つけられた名前と割り切ってはいるものの、本屋に立ち寄った際ハトウにポケモン名付け手帳を買わせて読み聞かせ会を敢行する程度には根に持っている。

 

 ハトウはその読み聞かせ会の記憶を辿る。『もっとも無難な名付け方は、ポケモンの種族かその進化系の名前の一部をそのまま切り取ることです』。最終進化系はマフォクシー。ならばとハトウは口を開く。

 

「マフォ。それが君の名前です」

「コン!」

 

「とりあえず、ルゥ」

「ぼこぼこに言われてる。おもろ」

「喧嘩を売っているのであれば買、いえ、そうではありません。新しいポケモンを仲間に引き入れたトレーナーがやるべきことはただ一つですよ」

「殴り合ってどっちが上かはっきりする」

「ええ。上下関係を———え、殴り合い?」

「ハリマロン。勝負だ!」

「リマ!」

 

 そう言って殴り合いを始めるルゥ。しばらくかかりそうだと判断した大人二人は先ほどよりもディープな話や、資料の共有会を始める。

 ルゥとハリマロンの喧嘩が終わり、二人の話も終わったのは日が暮れるような時間帯であった。

 

「ルゥがボス」

「リマ!」

「そちらも終わりましたか。宿へ行きますよ」

「ハトウは殴り合い、しないの?」

「殴り合いはしません。まあ宿で多少話すつもりではいますが」

「カロスを旅するであろう二人に少し頼みがあるんだけど、良いかな?」

「はい。といっても大したことはできませんが」

「そんな大それたではないさ。この人を見かけたら僕に連絡してくれないかい?」

「……もみじせいじん?」

「コラ。失礼でしょうに。この方は?」

 

 当たり前の質問に、プラターヌは少し影を帯びた表情で、こう答えた。

 

「ボクの、友人だよ」

 

 ◇

 

 翌日。二人は日課のトレーニングを終え、プラターヌから貰った諸々に目を通した後、ミアレに数あるカフェの中でもプラターヌのおすすめであるカフェ・おとこまえで昼食を食べていた。

 

「食べ終えたらミアレジムです。今日は探す時間がないのではぐれないでください。なんせ、強くなるヒントが今日のバトルにあるはずですので」

「わかった。なかったらぶっ飛ばす」

「そう軽々とぶっ飛ばすなどと言わないように」

 

 今日に備えてミアレジムの情報を調べ、対策を練ってきた。ハトウは試合の流れをシミュレートし終わった後に、ふと気になったことをルゥに問う。

 

「メタについては習いましたか?」

「メタモンかメタグロス?」

「習っていないようですね。では軽く説明しましょうか」

 

 テーブルのクロワッサンの皿をどけて、ナプキンにマリルリの絵を描く。その下にはみず・フェアリーの文字。

 

「仮に十分な準備をした上でルゥがエンツォに挑戦するとします。ルールは1on1のレベル50統一、あちらはマリルリを使ってくるようです」

 

 エンツォとはセイガイハジムのジムトレーナーであり、バスラオとマリルリを手持ちに持っている。

 基本的にはパワータイプの戦いをしながらも要所で使う変化技が厄介さを一段と引き上げており、ルゥが挑戦した時の戦績は一勝十敗である。

 

「こんな時、ルゥならばどうしますか?」

「オノノクスと一緒に頑張る」

「これまではそれで良かったでしょう。しかし、もう一つ選択肢があります」

 

 そう言って、マリルリの対面にハリマロンと"くさ"の文字を書き加える。

 

「昨日の研究所で仲間になったハリマロン。彼を鍛えて決戦に挑めば良いのではないでしょうか」

「なんで?」

「相手はマリルリ、フェアリータイプです。オノノクスで戦っていては弱点を突かれ、得意のドラゴン技が通じない。ジムでもそれで苦戦した経験はあるでしょう?」

「たしかに。"じゃれつか"れるとヤバかった」

「苦手な相手に正面から戦いに行く必要はありません。こちらが有利になるよう事前に準備すればいい。ハリマロンで挑めばこちらが弱点をつくことができます」

「なるほどぉ」

 

 クロワッサンを加えながら納得の相槌を打つルゥ。これまでは手持ちが一匹だったために、このような戦略については知識が浅かった。

 

「このように相手のパーティ構成、それぞれの持つ役割と弱点、戦い方。それらに対して優位に立てるような戦略がメタというものになります。これを用いて勝つのが昨今のブームですね」

「メタ、つよい。覚えた」

「ただ、メタを張ることに意固地になって自分のスタンス、信条を曲げてしまってはいけません」

「かてればよくね?」

 

 ルゥの疑問は誰しもが一度は浮かべるものであろう。

 ハトウもかつてはそう考えていた。しかし、イッシュを旅する間に迷い、惑い、師が信念を持てと言った意図に辿り着いた。

 

「多くの手札を持つということはただ良いことばかりではありません。どの手札を切るかで判断に迷い、致命の事態を招いてしまう可能性すらある」

「……?」

「今は分からないかもしれませんが、器用貧乏は弱いという話ですよ。それこそ器用万能の域まで高めなければね。長年連れ添ったオノノクスで勝ちたいという信念があれば貫き通すべきです。例えば"どくづき"を覚えさせるなど対抗策はいくらでもありますからね」

「よくわからん」

「まあ、覚えていれば十分です。」

 

 説明中に食べ終わった皿を手に持ち、ハトウは立ち上がる。

 

「では行きましょうか。カロス最初のバッジ、颯爽と獲得して粛々と次へ進みましょう」

 

 

 

 

 

 

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