「それでは挑戦者ハトウと、ミアレジムリーダーシトロンの試合を始めます。試合、開始!」
ジムリーダーの妹、ユリーカが審判として試合開始を告げる。
「エモエモ!」
「エモンガ、"ボルトチェンジ"!」
シトロンのボールから繰り出されたのはエモンガ。電気タイプの中でも先発としての人気の高いポケモンである。
「ソク、耐えてください」
「しゅるる」
対するハトウは、普段の先発であるヒヤ子ではなく変則的にソクを登用していた。その理由は———
「出てきてください、「ソク、後の先を取りましょう。"インファイト"」レアコイル……!?」
先発のエモンガが"ボルトチェンジ"を放つことを知っていたから。各ジムにはコンセプトがあり、おおむねそれに沿ってジム戦は進む。
ハトウはイッシュのライモンジムでの経験とシトロンの手持ち情報を併せて、情報を引き出しつつ有利な対面を作り出すための"ボルトチェンジ"が初手であると予測していた。
それに対する応手として"インファイト"を選んだのは、ジムバッジ数が少ない時のシトロンの手持ちの残りがエレザードとレアコイルであるため。"ボルトチェンジ"さえとつげきチョッキで乗り切ってしまえば、弱点への攻撃で致命的な打撃を与えられる。特にエレザードへの交代であれば一撃で倒すこともできただろう。
だが、レアコイルには高い防御の他にも保険となる特性がある。
「"がんじょう"ですか。厄介ですね」
「すごい読みですね。だけど勝負はまだこれからです!」
ハトウは事前にここまで読んでいた。そしてここからの展開は二つ考えられる。
レアコイルが攻撃してくるか、攻撃しないか。攻撃してくるのであれば"ふいうち"で倒す。
そうでなければ"エレキフィールド"や"ひかりのかべ"の展開をされてしまうが、ヒヤ子に交代して"インファイト"で下がった能力を戻しつつ、高い素早さで倒す。
ハトウが選んだのは後者。優位を作ったのだからギャンブルをせずとも勝てるとの判断。
シトロンの選択は———
「「交代」」
「ざぁぁぁあああど!」
「きぃぃいっ!」
「…………!?」
第三の選択肢、交代であった。
ハトウの繰り出したヒヤ子の対面にはシトロンのエース、エレザードが立つ。
「今度はぼくたちがテンポを握りますよ、"ライジングボルト"!」
「すみません、"あまごい"してください!」
きあいのタスキで耐え抜いたヒヤ子が尻尾から天に水弾を打ち上げてスタジアムに雨を降らせ始め、直後追撃として放たれた電流で倒れ込む。
「ヒヤッキー、戦闘不能!」
「読み違えましたが、
「まあぁあぁあ!」
やる気に満ちて登場したマンタインに、シトロンは疑問符を浮かべる。変種のようには見えないし、他のポケモンの練度を見ると育成で特殊な能力を付与されている可能性も低い。
だとすれば受け担当でも電気四倍弱点のせいで役割を果たせないだろう。特性のすいすいで倍速で動けたとしても、たった一度の行動。マンタインが"ひかりのかべ"を覚えられない以上、"ドわすれ"を使われたとしても脅威にはなり得ない。その考えに従い、安定択の電気攻撃を指示する。
「"かみなり"です!」
「ざぁぁぁぁぁぁどおおお!」
天から降り注ぐ必殺の一撃。それを万太は雨でぬかるんだ泥を遊ぶような所作で撒き散らし、
「"どろあそび"……!? だとしても効果は抜群で耐えきれないでしょう。もう一度"かみなり"です!」
「効果は抜群
万太の渦を巻く水流がエレザードを捕らえて交代を封じ、その代わりに放たれた雷を弱点の電気技を軽減するソクノのみを齧って受け切った。
「詰みです、"おいかぜ"!」
「……っ! 阻止してください、"かみなり"」
エレザードがどれだけ急いでも雨下のすいすいの速度には敵わない。ハトウ側に追い風が吹き始め、万太が雷を受けて倒れる。
「マンタイン戦闘不能!」
「ソク、後はヨセです」
ソクの"であいがしら"で"うずしお"のダメージも蓄積していたエレザードが落ちる。
代わりに出てきたエモンガの"ボルトチェンジ"でも"どろあそび"ととつげきチョッキの効果で大したダメージを受けず、交代して出てきたレアコイルを"いわなだれ"で倒す。
もう一度出てきたエモンガの攻撃も同じように耐えて、"いわなだれ"で倒す。
「エモンガ戦闘不能、挑戦者ハトウの勝利!」
残り一体まで追い詰められてから終盤の三タテ。劇的な勝利でハトウのカロス1発目のジム戦は終わった。
「まさか電気技を"どろあそび"で対策されるとは! 驚きです!」
「みずジムのジムトレーナーだったので必然的に電気対策が身に付いたんですよ。特にうちの受けはマンタインで電気四倍ですから」
「まだまだぼくも学ぶべきことばかりです。そんな強いチャレンジャーさんには勝利の記念にボルテージバッジをどうぞ!」
ハトウは受けとったボルテージバッジをジムバッジケースに収納し、客席のルゥとフィールドのソクを近くに呼び寄せる。
「ハトウ、すごかった!」
「ありがとうございます。では恒例行事を済ませましょうか」
「?」
ハトウは咳払いをし、バッジケースを掲げて高々と宣言する。
トレーナーの中でもノリを重視する人間の恒例行事。テンション重視のシズイに育てられたハトウもそれを継承していた。
「カロスリーグへの第一歩。ボルテージバッジ獲得です!」
「しゅるる!」
「おおーー!」
シトロンとユリーカが拍手する中で、ソクとルゥにハイタッチを決めるハトウ。
一通りハイテンションな流れが終わった後、シトロンがハトウに問いかける。
「カロスリーグを狙っているんですね。次はどこのジムへ行くんですか?」
「順番的にはヒヨクなんですが、一度ハクダンに寄ろうと考えてます」
「おや、先にフクジさんのジムを済ませたほうが良いのでは?」
ジムバッジが多くなるにつれてジムの難易度は上がっていく。そのため、苦手なタイプのジムは先に終わらせることがジム回りの戦略としては一般的である。
水使いにとっては草ジムを早い段階で踏破しておきたいところであり、シトロンの質問は非常に的をえている。
そんな真っ当な問いに対し、ハトウはこう返した。
「祭りがあるので、ね」