アーシアがやって来るのは、恐らくはレイナーレ編とライザー編の間ぐらいになる可能性がありますわー!
マーブルトリパーでカラワーナとミッテルトを撃破した私達は、そのまま視界に見えている廃教会へと突き進む事に。
「あのよ…木場…」
「どうしたんだい?」
「さっきからず~っと言いたい事があったんだけどよ…」
「奇遇だね匙くん…僕もさ」
なんか後ろで男子二人がお話をしてますわね。
男同士の友情でも育んでいらっしゃるのかしら?
「「もう全部川上(さん)に任せればいいんじゃない?」」
…今、とてつもなく男らしくない台詞が聞こえたような気がしたけど…気のせいですわよね?
仮にも生徒会のメンバーである匙さんと、剣道部の部員も兼任している木場さんがそんな事を言う訳がありませんわよねェ?
「あら? これは…」
「「うわぁ…」」
廃教会の前に、ついさっき私がテレポーテーションさせた気絶状態のドーナシークが白目を剥いて口から泡を吹いたままぶっ倒れている。
成る程、ここに落ちてきたんですわね。
「幾ら敵対しているとはいえ…」
「哀れとしか言いようがないな…」
何か言ってますけど、そんなのは無視してドーナシークの足を掴み、引きずりながら完全に壊れていて扉としての役目を放棄している物体を開いている手で軽く押す。
すると、これといって力を入れていないにも拘らず扉だった物体は呆気なく床に倒れて粉々になった。
「お邪魔しますわよー」
「ドア壊しておいて言う台詞か…?」
そこ。うっさいですわよ。
「あ…あぁぁぁぁぁっ!? カ…カラワーナッ!? ミッテルトッ!? ど…どうして二人が倒れて…!?」
廃教会内には天井を突き抜けて落ちてきたカラワーナとミッテルトの身体があり、ついさっきまで幻朧拳の影響を受けていたレイナーレが、二人の変わり果てた姿を見て正気を取り戻した様子。
まぁ…彼女に仕掛けたのは本当に精神崩壊をしない程度の軽度の軽度でしたから。
因みに、カラワーナとミッテルトの二人はまだ死んではいませんことよ?
流石の私も、未遂程度で相手を殺したりはしませんわ。
ちゃんと彼女達の組織で罰して、裁いて貰いませんと。
「あいつがレイナーレってやつか…確かに、見た目だけなら本物の天野夕麻と瓜二つだな…」
「どうやら、仲間が倒されたのを見たショックで川上さんの施した技が解けたようだね」
まだ、何が何だか分からないといった感じでこちらには全く気が付いていない。
ここまで動揺してくれると、こっちも少しだけ頑張った甲斐がありますわ。
「お目覚めのようで何よりですわ」
「はっ!? お…お前はあの時の小娘っ!? どうしてここにいるッ!?」
「あら…もうお忘れかしら? アナタが兵藤さんに襲い掛かったあの日…アナタの中枢神経から企みの全てを読み取ったじゃありませんか」
「そ…そうだった…!」
幻朧拳が解けたことで若干の記憶障害になってる?
ふむ…あの程度で威力でこうはならない筈なんですが…もしや彼女…私の予想を遥かに上回る程に弱い?
「ま…待て! お前がその手に持っているのは…ドーナシークッ!?」
「その通り。ここに来る途中で邪魔したので、少しお仕置きをしてあげましたの。ご安心を。まだちゃんと息はありますわ」
確実に重傷でしょうけどね。
「はい。お返ししますわ」
「ドーナシークっ!」
軽くポイッと彼の身体を投げると、奇跡的に壊れかけの床は抜けず、そのまま大の字で横たわった。
「まさか…カラワーナとミッテルトもアンタがやったというの…!?」
「御明察。あの時はパッパラパーでしたのに、本当のピンチになると急に頭の回転が良くなりますのね」
それが普段から発揮されていれば、こんな事にはなってないでしょうに。
「な…何故だ…!」
「はい?」
「何故!! 三大勢力に属していない人間であるお前がここまでするのよっ!!」
「そんなの決まっているでしょう?」
ずっと手に持っていた鞄を匙さんに預け、私はゆっくりと一歩前に出る。
勿論、小宇宙を燃焼させながら。
「大切な友人が目の前で殺されそうになったんですのよ? しかも、このまま放置していたら被害が更に拡大するかもしれない。この私が立ち上がる理由としては十分過ぎますわ」
「ひ…ヒィィッ!?」
昨日の時点で十分に彼我の戦力差は頭でなく心で理解しているのか、レイナーレはみっともなく後ずさりをした。
「わ…私は…こんな所でやられるわけにはいかないのよっ!! 必ずや神器を持ち帰り、至高の堕天使となってアザゼル様の寵愛を受けるまではっ!!」
「はいはい。それはよかったですわねー。羨ましいですわー」
焦るあまり、遂に自分の目的を自分で暴露しやがりましたわ。
これは流石に草が生えてしまいませんこと?
「フ…フリードっ!! どこにいるの!! 侵入者よっ!! とっとと来て殺しなさい!!」
フリード…彼女の頭の中から情報を読み取った際に明確な名前が唯一分かったはぐれ神父の名前か…。
このことはもう既に後ろの二人や支取先輩達にも伝えてある。
「フリードッ!! 聞こえないのっ!! 早く来て……ん?」
彼女の視線の先に会ったのは、ボロボロの長椅子の上に置かれた一枚のメモ紙。
こっちからでは普通は読み取れないけど、マジックで書いたのか、うっすらと裏に文字が透けているので、それで辛うじて内容が読み取れた。
『腹減ったんで適当なファミレスで飯食って来ます。フリード』
「「「「…………」」」」
一瞬、廃教会の空気が本気でシーンとなった。
何と言うか…本気で哀れになってきましたわー…。
「あんのバカがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 一番肝心な時にいないだなんて、なんて使えない奴なのっ!!」
「それ…お前が言うのかよ…」
「上が駄目だから、下も碌に命令も聞かないんじゃないのかい?」
「お二人に激しく同意ですわ」
「だ…黙れ黙れ!! 愚かな人間風情がッ!! いや…そこの二人は悪魔かっ!? ど…どうして人間と悪魔が一緒に…!?」
流石に気配で分かったみたいですわね。
それぐらいして貰わないと、逆にこっちが困りますわ。
「匙さんは私の友人の一人であり、木場さんは…あー…えっとー…同級生ですわ」
「ど…同級生…」
「木場…どんまい…」
し…仕方ないじゃありませんのっ!
木場さんと普通に会話したのは今日が初めてなんですのよッ!?
それ以外になんて言えばいいんですのッ!?
「こ…こうなったら…地下にいる他の奴等を呼んで…!」
「させると思いまして?」
私の小宇宙で生み出した『
レイナーレの頭から廃教会の内部構造も既に把握済みですわー。
「ち…地下への道がっ!? あの黄金の鎖は一体っ!?」
「ギリシア神話の中で王女アンドロメダが縛られていたとされる星降る鎖ですわ。これで増援は呼べませんわね? まぁ…仮に来ても楽勝でしょうけど」
流石に殆ど一般人に近い人間相手に小宇宙を込めた一撃は放てない。
それはそれでちゃんと考えがあるから大丈夫だけど。
「覚悟は…よろしくて?」
「こ…こうなったら私が直にやってやるっ!!」
レイナーレは黒い翼を広げて飛び上がり、その手に光の槍を作り出す。
どうやら、今の自分に出来る全力を込めているようで、昨日よりは若干、槍のサイズが大きく感じる。本当に若干ですけど。
「はぁぁぁぁぁぁぁ……!」
私は腰を低くし、全身の全ての小宇宙を広げ、両手で『ある星座』の軌跡を描いていく。
腕を振る度に、自分の中で小宇宙が爆発的に増大していくのを確かに感じた。
「お…おいおい…なんだよこれ…! 俺達でも分かるぐらいに川上の力が増幅していってやがるぞ…!」
「これが…川上さんの本気なのか…!?」
二人の言葉にも反応する暇も無い程に精神を集中させていく。
大気が震え、私の周囲にあるあらゆる物体が宙へと浮く。
「あ…あの動きは…『
そう…これこそが、嘗て幾度となく世界を守護し続けてきた5人の勇者…その筆頭とされる偉大なる御方の必殺技ッ!!
「こ…小癪な!! こんなの只の虚仮脅しよっ!! 死ねぇぇぇぇっ!!!」
光の槍が飛んでくる!
けど、もうそんなのは関係ない!!
槍ごと『敵』を倒すだけ!!
「ペガサス流星拳!!!!」
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
迫りくる槍もろとも、レイナーレの身体を無数の流星が貫いていく!!
ほぼ同時に攻撃に入ったので、成す術もなくこちらの技を受けレイナーレはズタズタになりながらぶっ飛ばされるッ!!
「がはぁっ!?」
そのまま彼女は朽ち果てた教会内にて唯一、ここが嘗て教会だった名残である十字架に激突し、受け身も取れないままに床に落下した。
「ふぅ……」
静かに息を吐き呼吸を整える。
「これで首謀者は片付けましたわね」
「そ…そうだな…」
「凄い技だった…。流星拳と言っていたけど…」
「割と単純な技ですわよ? 一秒間に数百発から数千のパンチを放っているだけですから」
「「数百から数千っ!?」」
仕組み自体は本当にシンプルだけど、それ故に非常に強力でもある。
技を放つもの次第では無限に威力が増大していきますしね。
「ところで……」
私達が入ってきた出入り口に付近に拳圧を放つ。
最初から廃墟寸前の壁は呆気なく壊れ、そこから白いコートに白い服、白い肌に白い髪と何から何まで真っ白な男が現れた。
「その顔…アナタが『フリード』ですわね?」
「おいおい…なんなんですかねぇ…お嬢ちゃんはよぉ…。幾ら雑魚とはいえ、神器も持たない人間が一方的に堕天使を倒すとかあり得ねぇっしょ?」
「それは、アナタが人間の持つ『無限の可能性』を信じていないだけですわ」
「無限の可能性ねぇ……」
立場的には彼は間違いなく敵ではある。
けど、今の彼からは全くと言っていいほどに敵意を感じない。
「俺ちゃんはここでオサラバさせて貰いますわ! 金の為に仕方ねぇとはいえ、こっちも無駄に高飛車でプライドだけは一人前な女の相手とかゴメンだったしねぇんっ!」
「大人しく逃がすと思うのかい?」
「木場さん…別に構いませんわ」
「なんだって?」
今にも飛び掛かりそうな木場さんの肩を掴んで彼を静止させ、敢えてフリードを逃がす事にした。
めっちゃ怪訝な顔をしていましたけど、ちゃんと理由がありますのよ?
「ここで彼を倒してもこちらには何の得もありません。それよりも、今は地下にいると思われる残りのはぐれ神父たちをどうにかする方が先決ですわ」
「…そうだね」
渋々ながらと言った感じで木場さんも剣を引っ込めてくれた。
今の様子…明らかに何か事情を隠していますわね。
物凄い殺気でしたし…。
「それじゃ…ばいちゃ!!」
それだけを言い残し、フリードは走り去っていった。
もし今度、本格的に私達と敵対したら、その時に倒せばいい。
「こちらも行きましょうか」
「お…おう。残った連中も倒すのか?」
「いえ。はぐれ神父はあくまでも人間。堕天使達はどれだけやっても『こちら側の法律』では裁けませんけど、彼らは別。ちゃんと警察に突き出しますわ。罪状は『不法入国』とかでよろしいんじゃないかしら? 実際、レイナーレに自分から付き従おうとしたってことは、それぐらいの事は平気でやってそうですし」
「なんちゅー偏見…否定できないけど」
というわけで、私達は星雲鎖を解除してから地下へと向かう事に。
その前に、仲良く気絶しているレイナーレ達は奥の部屋に隠しておきましたけど。
後で支取先輩辺りに頼めばどうにかしてくれるでしょう。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「デストリップ・セレナーデ…」
鞄の中から出した白銀の竪琴の音色により、地下にいた大勢のはぐれ神父たちは無抵抗のまま床に倒れ眠りについた。
地下には明らかに何かの儀式の準備をしていた形跡があり、これが例の少女から神器を取り出す儀式なのだろう。
「川上って竪琴も出来るのかよ…」
「凄く美しい音色だったけど、僕達には本当にそれだけだった。なのに、こいつらは全員が揃って眠っている…」
「ちゃんと敵味方の判別ぐらいは出来ますから」
そうでなくちゃこの技は使えませんですしね。
流石は白銀でありながら黄金すらも越えるほどの実力を誇る伝説の吟遊詩人である『琴座のオルフェ』様の技…本当に見事ですわ。
「今、この方々の精神はデストリップ・セレナーデによって完全なる眠りについている。いえ…正確には異次元に遊飛していると表現した方が正しいかしら。例え、十数日後に目を覚ましても、自分達がいつ、どこで眠っていたのかさえも全く分からずに、ただ曲の続きを間断なく聴いていたとしか思えないでしょう」
ポケットの中からスマホを出し、予定通りに警察に連絡。
町外れの廃教会内に怪しい外国人連中が集まっていると伝えた。
「これでよし…っと。さぁ、私達も警察の方々が来る前に帰りましょう。変に事情聴取とかされても答えようがありませんし」
「そうだな。じゃあ、会長には俺から伝えておくよ」
「部長には僕から報告しておくよ。川上さん…本当にお疲れ様」
「これぐらい、朝飯前…ですわ」
こうして、堕天使『レイナーレ』を中心とした一連の事件は幕を閉じたのだった。
次回はアーシアが登場…するかもしれませんわー!
あくまで予定なので、実際にどうなるかは話の展開次第ですわー!