季節の変わり目なせいか、疲れが溜まってますわー!
放課後の帰り道。
一誠はいつものように友人である松田や元浜と一緒に帰路についていた。
「はぁ…」
「さっきから溜息ばかり吐きやがって。一体どうしたんだ?」
「あー…ちょっとな…はぁ…」
「言った傍からまた溜息出してるし…」
明らかに『悩みがあります』といった感じの一誠。
いつも明るい彼がこんな表情をするのはかなり珍しかった。
「俺…さ。今回の事で心底『俺って情けねぇなぁ~』って思ってさ…」
「今回のことって…あの告白事件か」
「あぁ…。結局、最後の最後まで全部川上さんに頼りきりで『おんぶにだっこ』状態だった。真相を掴んでくれただけじゃなくて、命まで救って貰ってさ…」
「まぁ~…そうだな。俺達も、まさか生徒会も巻き込んだ事態に発展するとは思ってなかったしなぁ…」
切っ掛け自体は本当に些細な事。
どこにでもあり触れているような出来事。
だが、それはあくまで表向きの形。
本当は、その裏で恐ろしいことが行われようとしていた。
自分の命だけでなく、下手をしたら他の人々の命すらも脅かされていたかもしれない程の。
それを救ってくれたのは、初恋の相手でありクラスメイトでもある一人の少女。
普通に生きていたら絶対にする事なんて無い『堕天使』や『悪魔』と呼ばれる存在と邂逅し、図らずも『世界の裏側』を知ってしまった。
もしも、傍に『彼女』がいてくれなかったら、きっと自分は怯えているだけで終わっていた事だろう。
「あぁ…もう!! この心のモヤモヤ自体がイラつく!! こんなにも優柔不断な男だったか俺は!!」
バチン!
己自身に喝を入れるかのように自分の両頬を叩く。
「おし…俺、決めた!」
「「な…何を?」」
いきなり真剣な目つきで二人の顔を見る一誠。
その口から驚くべき言葉が発せられた。
「今日この瞬間から俺…更衣室を覗くとか、教室でエロ本を読むとか、そう言った事を全部やめる!!」
「「な…なにぃ~っ!?」」
まさかの『エロ脱却宣言』。
これには流石の元浜と松田も大声を上げて驚愕した。
「川上さんは本当に真面目でしっかりした女の子だ。あの子の横に胸を張って立てるようになるには、俺も同じように真面目にならなくちゃダメだ!」
「一誠……」
「お前……」
普段ならば冗談交じりに一笑に伏す所ではあるが、彼の真剣な眼差しを見て二人は何も言えなくなる。
友人だからこそ分かるのだ。分かってしまうのだ。
一誠がどれだけ本気であるのかということが。
「あ…別にこれは俺が勝手にやろうとしているだけで、別にお前らにも強要しようとかは思ってないからな? お前らはいつも通りに……」
「「はぁ~…」」
一誠の言葉を聞き、松田と元浜は同時に溜息を吐く。
「お前な…自分のダチ公が一世一代の決意を告白してくれたってのに『それじゃ頑張れよ。俺達はいつも通りにするからさ』なんて言えるわけがねぇだろうが」
「え…?」
「この際だからお前にも言ってやる。男同士の友情ってのはな、そんな簡単に崩れたりするもんじゃねぇンだよ」
ニヒルな笑みを浮かべた二人は、いきなり左右から一誠の肩に腕を回した。
「お前が惚れた女の為に自分の意志で苦難の道を進もうってするんなら…」
「俺達も一緒に同じ道を歩いてやるよ。それが『男同士の友情』ってもんだろうが」
「も…元浜…松田…お前ら…!」
この決意は完全に自分の我儘、自己満足だ。
それに付き合う義理は全く無い筈なのに、二人は微塵も迷う事無く運命を共にすると言ってくれた。
二人との友情に、思わず一誠の目尻に涙が溢れる。
「お…おいおい…なに泣いてんだよ!」
「そうだぞ! 涙に価値があるのは美女や美少女だけだぞ!」
「だって…だってよ…!」
制服の袖で涙を拭い、ポケットティッシュで鼻水を啜った。
感動して涙を流すなんて生まれて初めての出来事だった。
「それにまぁ…お前の気持ち、分からなくもないんだわ」
「どういうことだ…?」
「自分が情けないって話だよ」
一誠から離れて、制服のポケットに手を突っ込みながら空を見上げる元浜。
「今回の事件さ…俺達、真っ先に川上の奴に頼っちまった。本当なら、友達である俺達が調査しなくちゃいけない事だったのによ…」
「肝心な時に俺達は馬鹿みたいに狼狽えちまって、そんで川上に相談をした。誰かに相談すること自体は悪くは無いとは思うけどよ…それって普通はもっと自分達で頑張ってからするもんじゃねぇのか?」
「一誠ほどじゃねぇけどさ…割とマジで俺達も引きずってたんだよ…」
友人の危機に出来た事は『誰かに相談すること』だけ。
後に、姫子が生徒会の皆と一緒に事件の解決に乗り出したと聞かされ『どうして、自分達もその場にいなかったんだ』と激しく後悔した。
己に何が出来るかは分からない。
けど、それでも、どんな些細なことであっても手伝う事は出来た筈だ。
それなのに、実際にはただ相談をしてから結果を聞いただけ。
無事に解決したと聞かされ、危機は去ったという安心感と同時に自分自身に対する情けなさ、男としての恥ずかしさを実感した。
「お前が本気で生まれ変わりたいって思ってるんなら、俺達も同じように生まれ変わる」
「じゃないとマジで俺達…このまま情けない男で終わっちまう。そんなの…誰よりも俺達自身が一番許せねぇんだよ」
今回の事件で変わったのは一誠だけじゃない。
元浜と松田もまた己自身の弱さと向き合い、決意をする切っ掛けを得た。
姫子のしたことは、彼女も想像しない程に大きな影響を生み出したようだ。
「そうと決まったら早速…」
「だな。まずは今までしてきたことに対する『ケジメ』を着けねぇとな」
「あぁ…。まずは家に帰ってから貯め込んだエログッズを封印しないと」
「それだけじゃない。俺達が迷惑を掛けた女の子たちにも本気で謝らねぇと」
「何をされても文句は言えない。怖くはある…けど、やらないと俺達は一歩も前に進めねぇ!」
三人揃って空に向かって拳を突き上げる。
それは彼らの決意の証であり、友情の証でもあった。
「今日が金曜で明日が土曜だから…」
「土日で色々と片付けねぇとな」
「週の初めって、よく全校集会があるよな?」
「だな。来週の月曜もあるって言ってた。それがどうかしたか?」
「いやさ…今までしてきたことを考えれば、一人一人に謝っても俺達の本気は伝わらないと思って。だったらもういっそのこと…」
「「まさか…」」
長い間連れ添った友人だからこそ分かる。
一誠が何をしようとしているのかを。
「確実に指導室行きになるだろうけど、それぐらいの事をしねぇと駄目な事を俺達はしてきた。覚悟はある」
「へっ…勿論、俺達も付き合うぜダチ公。な、松田」
「おう! 俺達の本気…見せてやろうぜ!」
お互いに顔を見合わせながら首を縦に振る。
そこにはもう下ネタで騒いでいた少年たちはいない。
過去の自分と決別すると決めた男達がいた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
諸々の結果報告が終わった日の夜。
私は自分の部屋にてパソコンを使い、あることを調べていた。
「姫子よ。何を調べておるのだ?」
「のだー」
「コクトーさん」
私の肩に慣れた感じでコクトーさんが乗って来た。
普通ならば重たく感じるのだろうが、鍛えているお蔭で全くそんな事は無い。
「例の人体発火事件について」
「ふむ…?」
パソコンのディスプレイに映し出されているのは拡大した日本の地図。
主に関東地方の部分だ。
「最初に人体発火が起きたのが、今から一か月前の京都。で、二件目が…」
「二週間前に大阪か…」
「えぇ。そして、三件目は一週間前に東京の新宿。明らかに
「…何が言いたい?」
「もし仮に四件目が発生するとするならば…それは恐らく駒王町で起こる」
「その根拠は?」
「ありません。ですが、コクトーさんも知っているでしょう? ここがどんな町であるかを」
「…そうであったな」
「なー」
この駒王町には人間以外の異種族が不思議と集まる。
今はまだ悪魔や堕天使だけで済んでいるが、これから先どうなるかは分からない。
天使もやって来るかもしれないし、妖怪なども来る可能性もある。
一体どうしてこの町なのか。
この『駒王町』という町に何があると言うのだろうか。
私はまだまだ未熟の身。
地脈などの知識については非常に浅い。
一応、お義父様から教わって入るけど、それでもまだまだだ。
「何かあれば、支取先輩やグレモリー先輩達から連絡が入ることになっていますが…」
「シトリーはともかく、グレモリーの方は余り当てにならないのである」
「あるー」
「私も全くの同意見ですけど…ハッキリと言いますのね…」
このフクロウ、オブラートに包むということをしない…というか出来ない。
なので、もし人前に出したら本音を暴露しまくるに違いない。
それ以前に喋るフクロウなんて見たら普通に驚きまくるだろうけど。
「何があってもすぐに対処出来るように準備や調査をしておかないと…」
駒王町という場所がある種の『特異点』であることは今回の事件でハッキリと理解した。
離反者とはいえ、堕天使なんて存在とそう易々と出会えるものじゃないから。
その時点で相当に不可思議な現象に遭遇しているということになる。
「…姫子よ」
「どうしました?」
「お前に『
ア…アテナ様からのお言葉…!
一体何を仰られたのだろう…。
「もしもまた、此度と似たような事態…即ち、不可思議な現象に関わった場合…特別に『お前の
「ま…待ってください! 確かに私はアテナ様から『守護星座』を頂いてはおりますが、まだ『最後の試練』をやっておらず正式に聖衣を授かっておりませんわ! それも無しに聖衣を纏うだなんて…」
「此度は『特例』とのことである」
「特例…?」
「そうだ。近々、ちゃんとお前にも『最後の試練』をやって貰うが、アテナはそれよりも前に『事件』が発生すると睨んでおられるのである」
…流石はアテナ様…私のような者よりも遥か先を見据えておられる…。
本当にお見逸れいたしますわ…。
「気を付けよ。此度の事…我も少々、嫌な予感がしているのである」
「コクトーさんがそんな事を言うだなんて…」
「もしかしたら、今回の『堕天使の一件』は単なる『
プロローグ…あの事件が…。
「姫子よ。お前の運命はここから動き出すのやもしれぬな」
「私の…運命…」
本当に私に纏う資格があるのだろうか…。
『例外』であり『幻』でもある『あの聖衣』を…。
遥か神話の時代に失われた…『13番目の黄金聖衣』を…。
最初、姫子には何の聖衣を纏わせようか本気で悩みました。
他の聖闘士が纏っているのを纏わせるのもいいけれど、個人的にはやっぱり『原作キャラの聖衣を奪うような事はしたくない』という思いが強すぎました。
なので、外伝で初めて登場した『幻の黄金聖衣』にしました。
オタクって本当に厄介な生き物ですよね…。