こんなにも短い間に二つも台風が発生するなんて異常ですわー!
週休二日の恩恵を受け、私は今日もまたパソコンを使って人体発火の調査をしていた。
といっても、ずっと部屋に籠っている訳ではなく、今はリビングにてコクトーさんと一緒にパソコンのディスプレイと睨めっこ状態だ。
まだ昼間なので、伸び伸びと調べ物が出来る。
「精が出るね、姫子。これでも飲んで小休止でもしたらどうだい?」
「お義父様…」
そう言って手元に置いてくれたのは、お義父様お手製のコーヒー。
ドリップから抽出しているので凄く美味しい。
私の数多い好物の一つでもある。
これを飲むたびに、この人は錬金術師兼医者なんて辞めて、喫茶店でも開けばいいのにと思ってしまう。
「調査はどんな感じだい?」
「なんとも言えませんわ…。そもそも、目撃情報が少なすぎる上に、デマ情報も飛び交っていて…」
「無理もあるまい。それこそが『人体発火現象』の特徴の一つでもあるからね」
普通に戦うだけなら簡単なのに、こういった調べ物は本当に苦労しますわ。
コーヒーをずずず…と飲みながらマウスを動かしていく。
うん。今日もお義父様のコーヒーは絶品ですわ。
「……あら?」
「どうしたのであるか?」
「るかー」
「ちょっと…気になるものがありまして…」
それは、とある男性が投稿している映像。
説明文には『偶然にも撮影に成功した人体発火の瞬間!』と書かれてあった。
「…見てみますわ」
恐る恐るクリックをして映像を再生してみる。
映像はどうやら、ビルの窓の中の光景を向かいのビルから撮影して物のようだ。
「少し映像が荒いですわね…」
「それは仕方がないのである」
「あるー」
窓の中では、スーツを着た男性がスマホ片手に何かを叫んでいるようだった。
生憎とビル風や車の騒音などのせいで音声は聞こえないが。
「何かを揉めているようだね」
「どうせ、碌な内容じゃないんでしょうけど」
ビルの中。スーツの男。電話越しに揉めている。
この三つの条件が揃った時点で大方の内容は想像出来る。
「え?」
「お?」
「ん?」
それは本当に一瞬だった。
突如として電話をしていた男性の全身が燃え上がり、同時に彼のいた部屋全体が大爆発する。
窓ガラスも全て割れて、粉々になったガラス片がばら撒かれる。
熱風が周囲に巻き散らかされ、それはカメラを持っていた男性にも襲い掛かった。
『う…うわぁぁぁっっ!?』
撮影者は悲鳴を上げながらカメラを持ったまま飛ばされ、部屋の中へと避難したところで映像が途切れる。
「…確かにこれは人体発火現象だ。あれだけの映像では断定は出来ないが、少なくとも発火の原因となるような物は見当たらなかった。本当に、何の前触れもなくいきなり体が燃え上がった」
「そう…ですわね……」
なんだろう…私もお義父様と同じ意見…なんだけど…。
乙女の勘と言うか、聖闘士の勘と言うか…兎に角、奇妙な違和感が拭えない。
「念の為…もう一度再生しますわ」
この違和感の正体を掴む為、もう一回映像を再生する。
今度は全力で目を凝らし、眼球に小宇宙を集中させて。
「…………」
どんな些細なことも見逃すな。
もしかしたら、これと同じ事が駒王町でも起きる可能性があるのだから。
「……はっ!?」
今…本当の本当に一瞬だけど…確かに
「…姫子よ。何が見えたのであるか?」
「るかー」
「…目の錯覚の可能性もありますわ。もう何回か確認をしてみますわ」
それからも何回も同じ映像を見続ける。
撮影時間自体はそんなに長くは無いので、そこまで苦ではない。
「やっぱり…見間違いなんかじゃない…」
「分かったのかい? この人体発火の正体が」
「えぇ…何回か見ていたら目が慣れて、そのお蔭で徐々にハッキリと分かるようになりましたわ」
最初は自分の中にあった先入観があったから上手に見れなかったけど、それらを排除してから見るようにしたらすぐに分かった。
「これは決して超常的な『現象』などではありませんわ…」
「では…?」
「間違いなく殺人…! しかも、常人では絶対に分からない方法での殺害…!」
完全に納得した。同時に確信もした。
これは確実に『こっち側』の事件だ。
警察とかでは絶対に手に負えない内容だ。
「けど、どうして彼が殺害されたのかしら…? これまでの連続殺人の被害者達には何か共通点などがあったりするのかな…?」
事件発生から時間が経過しているので、犠牲者の簡単な情報ぐらいはネット上を探せば転がっている。
コーヒーカップの中身が無くなる頃には、必要な情報は全て手に入った。
「汚職に賄賂…それから浮気。殺された全員が決して他人には言えないような事をしていた…」
「その証拠を隠滅する為…であるか…」
「るかー…」
殺害の理由は分かった。
そして、駒王町にもこの条件に該当する人物が最近現れた。
ニュースなのでも何回か見た、政治献金問題で話題に上がっている。
確固たる証拠はないが、それでも徐々に追い詰められている感はあった。
「問題は、一体どんな奴がこれをやったのか…ですわね」
「間違いなく普通ではない存在だろうね。いや…下手をしたら人間ですらない可能性も…」
「異種族…悪魔や堕天使達がまた関わっていると?」
「その可能性もあると言うことだよ。けど、頭の片隅に置いておいた方が良いだろうね」
「そう…ですわね…」
ふわぁ…ずっとパソコンを見ていたら目が疲れましたわ。
なんだか小腹も空いてしまったし…何か軽い物でも作ろうかしら?
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・・・・
・・・
・・
・
休憩の後に、まだ何か分かることがあるかもしれないと思ってネット上を彷徨っていると、突如として私のスマホに着信が来た。
相手は支取先輩だった。彼女とは初めて会った時に番号交換しておいた。
「もしもし? どうしましたの?」
『あ…川上さんですか? 実は、アナタが言っていた例のシスターの少女と思わしき人物を私の使い魔が発見したんです』
「まぁ……」
これはまた重畳。
その人物が本当に『例の彼女』とは限らないが、それでも確かめてみる価値ぐらいはあるだろう。
『金髪碧眼で白い肌の明らかな外国人で、町中をキョロキョロと挙動不審な感じで旅行鞄片手に歩き廻っていました』
「聞く限りでは完全にビンゴみたいですけど…」
『ですが、実際に彼女の容姿を知っているのはレイナーレの脳内を覗き見た川上さんだけ。なので、お手数ではありますが実際に現場まで行って確認をお願いできますか?』
「了解ですわ。情報があった時点で、どちらにしても行かなくてはいけないでしょうし。お任せくださいまし」
『よろしくお願いします。もし助力が必要ならばいつでも連絡をください。すぐに駆けつけますので』
「御心遣い…感謝しますわ。では、取り敢えず向かってみます。場所を教えてくれませんか?」
『はい。彼女がいるのは駒王町中央区にある市役所付近です。あの様子だと、恐らく彼女は碌に日本語も読めないと思われます。保護するのならば急いだ方が良いでしょうね』
「同感ですわ。では、一旦切ります。また何かあれば今度はこちらから掛けますので」
『承知しました。では…お気をつけて』
通話を切り、室内にいたお義父様とコクトーさんに目配せをする。
二人とも、今の会話をちゃんと聞いていたであろうから、詳しく言わなくても分かってくれるだろう。
「…行くんだね」
「えぇ…行ってきますわ」
「気を付けて行ってきなさい。ま、姫子に対してこれを言うのは『釈迦に説法』かもしれないが」
私の知っている、あの『シャカ』様ならば、寧ろ喜んで説法を受けそうですけど。
「姫子よ。今回は我も一緒に行くのである」
「あるー」
「コクトーさんが?」
これはまた珍しい。
一体どんな風の吹き回しかしら。
「
「こんな短期間に再び神託が…?」
これは絶対に只事じゃない。
まさか、例の『殺人鬼』がもう駒王町に入り込んで…!?
「聖衣を纏うタイミングだけは違えるでないぞ…姫子よ」
「よー」
「そんな事は重々承知しておりますわ…」
間違えない。間違って溜まるものか。
それはそれとして本当に急がなくては。
私は簡単に外出の準備をしてから、日が沈みかけた外へと飛び出して行った。
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・・・・
・・・
・・
・
駒王町 市役所付近 ホテル『バレッタ』 午後6時49分
その一室でスーツを着た一人の男がスマホ片手に怒鳴り声を上げていた。
「ちょ…待ってください先生! それは一体どういう事ですかッ!? 幾らなんでも話が違いすぎます!」
男は冷や汗を掻きながら焦燥しており、息遣いも荒い。
「私一人で全ての責任を背負えと言うんですか!? そんなの納得できるわけがないでしょう! どうして私だけが立件されないといけないんですかッ!?」
堪忍袋の緒が切れたのか、男は大きく息を吐きながら受話器の持甲の相手にハッキリと自分に決意を告げた。
「…いいでしょう…先生がそう仰るのであれば、こちらにも考えがあります。今回のことだけでなく、今までしてきた事の全てを地検に暴露します。勿論、先生の持っている裏金のルートも全部……え?」
言いたい事を言い終えた男は、ふとある事に気が付く。
追い詰めているのはこっちの方なのに、どうしてか受話器の向こうの『先生』は焦る様子が無い。
それどころか、余裕綽々といった様子だった。
「なん…ですって…? もう一度……」
その瞬間、部屋全体が急激に燃え上がり、凄まじい熱波に包まれる。
「『
驚きの声を上げながら、男は全身を燃やされながら吹き飛ばされる。
すぐに自分の身に起きた事を理解し悲鳴を上げた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」
男の手から離れたスマホの受話器から、相手の声が聞こえてきた。
『あまり私の事を見縊らないでほしいものだ。もう既に手は打ってあるのだよ。文字通り…全てを灰にする…それだけだ』
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
遥か頭上で突如として起きた謎の爆発炎上。
道行く誰もが足を止めて、驚きで大きく目を見開くが…『彼女』だけは違った。
『彼女』だけは全く『違う者』を見ていた。
白いワンピースに白い帽子を被った清楚な金髪の少女。
その少女の目には確かに
それと同時に
『な…何か大きな爆発ッ!? なんなんです……え?』
日本語が話せない少女は英語で叫びを上げる。
最初は咄嗟に頭を守るような動作をしたが、片目だけを開けて事件現場をそっと見上げてみると…『ソレ』と
(何かが…あそこにいるッ!? 宙に浮いてるっ!? あ…)
凄く遠くにいる筈なのに、何故か直感的に目と目が合ったと理解した。
恐怖が限界を超え、頭が真っ白になる。
(見ら…れた…? 頭が…朦朧として…眩暈……?)
少女はその場に倒れるが、ホテルの爆発に気を取られて誰も気が付かない。
気が付かれないまま…少女の身体はその場から消えた。
次回、遂に聖衣を身に纏いますわー!