段々と原作主人公としての存在感が薄くなっていく…。
無事にアーシアさんの保護に成功した次の日である日曜日。
私は予め電話にて支取先輩とグレモリー先輩を行きつけの喫茶店へと呼び出していた。
当然だが、コクトーさんは御留守番をし、アーシアさんは相当に疲労していたのか、未だに夢の中にいますわ。
「折角の休日に呼び出しに応じてくださって感謝致しますわ」
「別にいいんですよ。昨日の今日ですし」
「何があったのかはソーナから聞いたけど…こうして私達を呼んだって事は何か重要な話があるって事でいいのよね?」
「えぇ…その通りですわ」
因みに、私達が今いる喫茶店の名前は『喫茶【風魔】』。
時間は午前の9時頃。
どこかで聞いたことのあるような名前だけど、気にしてはいけない。
「ところで…こんな普通の喫茶店で『私達の話』をしてもいいの?」
「それに関してはご心配なく…ですわ」
「と、言うと?」
「ここの店主さんは私のお義父様の古い友人で、『こちら側』の事も全て知っておられる方なので、聞かれても全く問題はございませんの」
我が養父ながら、あの人は本当に顔が広い。
だからこそ、こうして心置きなく話も出来るんだけど。
「人脈の広さも錬金術師だから…ですか?」
「うーん…それとはあんまり関係ない気がしますわ。ウチのお義父様は普通にコミュ力が高いお方なので」
「あ…そうなんですね」
誰にでも気さくに話しかけるから、大抵の相手は簡単に心を許してしまう。
錬金術師ってよりは、まるで詐欺師みたいだけど。
「それに、私達が今いる席は端っこ。ここならば仮に他の客が来ても私達の会話が聞かれる可能性は低いですわ」
「それもそうね。あんまり気にし過ぎても却って不自然になるし」
なんて話をしている間に、朝食代わりに注文したハニートースト&コーヒーのセットがテーブルに届いた。
支取先輩とグレモリー先輩も同じのを注文していたので、合計で3つやって来た。
「あら、美味しそう」
「このコーヒーも良い香りですね」
「このお店は私とお義父様の昔からの行きつけのお店ですので。他にもお勧めのメニューは沢山ありますわ」
ハニートーストをフォークで刺してからパクリと一口。
ん~…甘くて美味しいですわ~…♡
「では、食べながら報告といきますか」
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「「顔の無い者?」」
ハニートーストを口に運ぼうとした手が急に止まる。
聞いた事の無い単語に二人とも首を傾げていた。
「えぇ。お義父様曰く『社会の裏に潜む暗殺者ギルド』らしいですわ」
「暗殺者ギルド…そんな連中が、私達の住む駒王町に進出してきたって言うの?」
「はい。今までは京都や大阪、東京などを主な活動拠点にしていたようですが、どうやらこっちに移動をしてきたみたいですわね」
全く以て困った物だ。
この町は只でさえ、色んな存在が入り混じっている場所だと言うのに。
そこへ更に『暗殺者』までは行ってきたら、それこそ今まで以上に大変なことになる。
「川上さんが保護したアーシア・アルジェントさんを誘拐し、襲い掛かったのがその『顔の無い者』の暗殺者だったのですね」
「そうですわ。私が遭遇し、倒したのは炎を纏った木乃伊でしたが」
「炎の木乃伊…」
「見た目は完全な異形の怪人でしたが、当人曰く『昔は人間だった』らしいですわ」
「昔…?」
「なんでも三千年間も生きてきたらしいですわ」
その年数を聞き、悪魔である二人は目を見開いて動きを止めた。
「さ…三千年…ですって…!?」
「普通の人間が、そんなにも長い年月を生きられる筈がない…。と言うことは、その木乃伊は間違いなく…」
「何らかの外法の術にて自らを生き永らえさせた…と見るのが妥当ですわね」
アーシアさんの話によると、奴は炎を操る能力を持つが故に人々から迫害されたと聞く。
その憎しみが彼を異形の存在へと変貌させてしまったのかもしれない。
「アーシアさんが襲撃された理由は単純明快。木乃伊の犯行をその目で目撃してしまったから…」
「現代でもよくある動機ね」
「目撃者を消す為に誘拐し、焼き殺そうとした…」
割とあの時は危機一髪でしたわね。
途中から全力ダッシュをした甲斐がありましたわ。
「ご存じの通り、アーシアさんもまた『神器使い』…つまりは『こちら側』の人間。常人にならば目撃不可能な存在も、彼女にならば見えてしまう」
「右も左も分からないままに彷徨っていたら、偶然にも木乃伊の犯行を目撃してしまっただなんて…」
「不幸…の一言で終わらせるには余りにも不憫ですね…」
本当に、アーシアさんの人生は色んな事が起きすぎている。
当人が頑張って明るく振る舞おうとしているのが却って辛い。
…少しコーヒーでも飲んで落ち着こう。
「木乃伊自身は私が倒しましたが、それだけで終わるとは考えにくい」
「またアーシアさんが狙われると?」
「その可能性は低いですが、それとは別に無辜の人々が狙われる可能性がありますわ。顔の無い者の暗殺者は、基本的には依頼を受けて仕事をしているようですが、それとは別に自分の殺人衝動を満たす為だけに誰かを殺害する場合もあるようなので」
「なんて質の悪い連中なのかしら…!」
「依頼を受けて仕事をしているだけならば、まだ私達にも防ぎようがありますが、自己の快楽の為だけに動く場合もあるとは…」
もう彼らを『人間』と定義するのは止めた方が良いかもしれない。
少なくとも、その精神性はとっくに人間のそれを辞めている。
「その姿自体は異形そのものなので見つけやすいとは思いますが、その能力には細心の注意が必要でしょうね」
「今日から早速、使い魔を使った町の監視をより強化する必要がありそうね」
「何か少しでも変化があれば、すぐにお互いに報告するようにしましょう。相手は実力だけでなく、情報戦にも長けた相手。川上さんならばいざ知らず、私達が単独で挑むような真似は絶対に避けなくては。いいですねリアス」
「わ…分かってるわよ…」
本当に分かっているかどうかは疑問だが、実際に遭遇すれば嫌でも警戒心を上げるだろう。
出逢わないのが一番ではあるのだけれど。
「では、今度はアーシアさん自身についてのご報告をしますわ」
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「「なんですって?」」
今度は完全に怒りの表情を見せた悪魔娘二人組。
私がディオドラの名前を出した瞬間の出来事だった。
お蔭で、食後のお替りコーヒーを思わず零しそうになった。
「アーシアさんから聞いた話と、お義父様の情報を統合すると、アーシアさんを教会から追放した切っ掛けを作ったのは間違いなくディオドラ・アスタロトになりますわ」
「あの男…遂に尻尾を出したわね…!」
「前々から怪しいとは思っていましたが…まさか本当にドンピシャだったとは…」
あ…あのー…憤る気持ちは分かりますけど、コーヒーカップ…壊さないでくださいましね?
私も割と力を加減して握っておりますので。
「お二人は彼と知り合いなんですの?」
「一応ね。私とソーナ、そしてディオドラは同じ『若手悪魔』の筆頭として数えられているから」
「その関係で、冥界に戻った時などに行われる会合やパーティーなどでよく会う事があるんですが…」
あ。なんかその先の言葉が分かった気がする。
でも、敢えて聞くことにしよう。
「私やソーナの身体をよく舐めまわすような視線で見ている事が多いのよ」
「それだけじゃなく、他の女性悪魔たちも同じように見ているんです。当人は隠しているつもりなんでしょうけど、見られている身からすればバレバレなんですよね」
その気持ちはよく分かりますわ。
私もよく胸とかを見られていた経験がありますから。
特に体育の授業でグラウンドを走ったり、縄跳びをしたりしている時は。
「ディオドラの眷属も女性ばっかりだし…胸糞悪いったらないわ」
「お義父様の話では、その眷属の方々は殆どが元教会関係者ばかりで構成されていて、眷属にする際も口には出せないような方法ばかりを使っていたとか…」
「…真正の下種ですね。許せません」
支取先輩がプッツンしましたわー!
背筋が普通にゾクってしましたわー!
「そのアーシアって子も、元教会関係者だったから狙われたのかしらね…」
「まず間違いなくそうでしょうね。しかも、かなり本気で狙いに行ったと思われます」
「自分で自分の体に傷を入れ、その姿を晒す為だけに教会の傍まで行くなんて…その執念をどうしてもっと他に事に使えないんでしょうか? 理解に苦しみますね」
うーわー。
なんかもう支取先輩の言葉が完全にクレーマーみたいになってますわー!
割と普通に怖いですわー!
「けど、そうなるとレイナーレとディオドラは実は水面下で繋がっていたりするのかしら?」
「その線は薄いでしょうね。これもまたお義父様情報なんですが、ディオドラにも最低限の貴族としてのプライドはあるだろうから、どんな理由があれど下級の堕天使と手を組む道理が無いと言っていましたわ」
「…確かにそうかもしれませんね。やっている事は最低最悪でも、持っている権力などは本物ですから。その気になればレイナーレ達を利用しなくても、似たような事は余裕で出来た筈です。となると…」
「ディオドラがアーシアさんを教会から追放されるように仕向けた後、レイナーレが接触してきたのは単なる偶然だった…と考えるのが自然ですわね。もしかしたら、ディオドラの方もレイナーレ達がアーシアさんを確保したことを何処かで知り、なんらかの方法で彼女達の手からアーシアさんの身柄を奪取する気だった可能性も有り得ますわ」
「そうなった場合、ほぼ間違いなく…」
「人前では言えないような目に遭っていたに違いありませんわ」
私達が動いたのは本当に不幸中の幸いだった…と言うことになりますわね。
これもまた、ある種の偶然ではあるんですけど。
巡り巡ってこんな事になろうとは、最初の頃は想像もしていませんでしたわ。
「これからアーシアさんはどうなるのですか?」
「一先ずは我が家にて保護する形にしています。まだ日本語もまともに話せませんから。まずは言葉の勉強をしつつ、日本の事を色々と教えていくことになりますわ」
「それはいいけど…大丈夫なの? もしもまたディオドラが来るような事があったら…」
「ご心配なく。私自身にアテナ様のご加護があるように、私の住む家にはアテナ様の結界が敷かれているのですわ」
「女神アテナの結界…?」
「それは一体どのような物なのですか?」
「簡単に言えば、認識阻害&転移術などの完全封印ですわ。一度でも侵入したが最後。自分の足で脱出するしか方法が無くなりますの」
要は、聖域全体と十二宮に張られてる結界と同じもの。
コクトーさんが言うには『これもまたアテナの加護』であるとのこと。
流石は私が最も敬愛する女神アテナ様ですわ…。
「神の結界が敷かれているのなら、ディオドラもそう簡単には手が出せないわね」
「一安心です。あの腹立たしい澄まし顔を歪ませられると思うと、それだけで胸がスッとします」
一体どれだけディオドラの事が嫌いなんですの…?
まだ顔も見た事は無いですけど、この二人の様子から察するに、相当に嫌な男のようですわね。
私的には『女の敵』という認識しかありませんけど。
「川上さんも気を付けてくださいね」
「へ? 私…ですの?」
「はい。あの男は本当に見境がありませんから。もしも、なんらかの理由で出会って何かをされそうになったら…」
「遠慮なく、全力でぶっ飛ばしてくれていいわ。大丈夫。事後処理とかは私とソーナの方でなんとかするから」
「は…はぁ……」
全力と言われても…困りましたわね。
最大威力を誇る奥義は幾つもありますけど…。
ギャラクシアン・エクスプロージョンとか。天舞宝輪とか。
あとはフォトン・バーストとか。インフィニティ・ブレイクとか。
オーロラ・エクスキューションとか。スターダスト・レボリューションとか。
…どれも放てば最後。確実に消し炭も残りませんわね…。
「ディオドラの事は当面は無視するとして、今最も警戒するべきは『顔の無い者』の方ね」
「眷属の皆にも今日の話を報告しておかないといけませんね」
そうして、何とも言えない空気のまま話し合いは終了し、その後は普通に年頃の女子らしく、談笑をしながら食事を楽しんで過ごした。
やっている事は報告会なんですが、実質的には単なる女子会になってますわー!
次回は久し振りに兵藤さん達の出番が来るかもしれませんわー!