これが終われば、ようやく本格的にスムーズにストーリーを動かせますわー!
ある意味、ここが一番の正念場ですわー!
早朝の駒王学園。
その職員室にて、三人の男子生徒達が自分達の担任と何かを話していた。
「決意は…変わらないんだな?」
「「「はい」」」
三人はどこまでも真剣な表情で、力強く頷く。
彼らの顔には一切の迷いも無い。
「…分かった。校長先生には俺から話しておく」
「「「ありがとうございます」」」
「構わないさ。こっちとしては、お前達が自分の意志で変わろうと思ってくれた方が嬉しい。よく…決意したな。辛かっただろう…?」
目尻に涙を浮かべながら担任が尋ねるが、彼らは微笑を浮かべながら首を振る。
「そんな事はありませんよ、先生」
「ようやく、自分達の愚かさに気が付いた…それだけですから」
「勿論、これだけで終わらせるつもりはありません。ちゃんと、俺達が迷惑を掛けた人達の所に行って、一人一人謝っていくつもりです」
「その気持ちだけでも十分過ぎる。きっと、皆も分かってくれる筈だ」
もう迷いは無い。
今日、彼らは『自分の過去』と決別する。
そうしなければ自分を許せない。
何も出来なかった己を。
怯える事しか出来なかった自分自身を。
「それと、お前達が家から持ってきた『アレ』…本当にいいんだな?」
「構いません」
「それが、俺達なりの決意の証でもありますから」
「部屋が綺麗になって、おまけに広くなりましたから。一石二鳥ですよ」
どうやら、彼らは他にも色んな事を考えているようだ。
それがなんなのか、知っているのはここにいる者達だけ。
「…いいだろう。準備しておいてやる」
「はは…結局、最後の最後まで苦労かけさせちゃってますね…すんません」
「別にいいさ。生徒の面倒を見るのが教師の務めだからな」
担任の顔は今までに見た事が無い程に爽やかだった。
彼にとっても、今回の事はずっと願っていた事なのだろう。
「これから…頑張れよ。例え誰が何を言おうとも、俺だけはお前達の味方だ」
「「「はい…」」」
三人の少年と担任は肩を抱き合いながら、静かに涙を流す。
嘗ての彼らからは想像も出来ない光景だ。
「今までずっと…」
「ご迷惑をおかけして…」
「本当にすいませんでした…!」
少年たちの決意の朝が始まる。
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・・
・
あら? 今日は兵藤さん達の姿を見ませんわね?
これまた珍しい…。
まさか、月曜から三人揃って風邪を引いたとかじゃないでしょうし。
なんてことを考えながら通学路を歩いていると、いつの間にか学校へと到着していた。
「おや?」
下駄箱には、もう既に兵藤さん達の靴が入っている?
と言うことは、学校を休んだわけじゃなく、単に早くに来ていただけ…?
「…ま、気にしても始まりませんわね」
教室に行けば流石に会えるでしょうし。
…なんて思っていた時期が私にもありましたわ。
「いない…?」
教室の中にも兵藤さん達の姿は全く見えない。
机の横に鞄が掛けてあることから、一度は教室に入っている事は確実だけど…。
「やっぱ川上さんも気になる?」
「桐生さん」
怪訝な顔をしながら私の傍まで来たのは、私以外の女子で比較的、兵藤さん達とよく話す『桐生藍華』さん。
眼鏡を掛けた姿が素敵な女性ですわ。
「他の皆もあの三人を全く見かけてないらしくて、流石に不思議がってるのよね」
「そうなのですか…」
「でも、川上さんが知らないとなると完全にお手上げか~…」
「ん? どうしてそこで私の名前が出るのですか?」
「いやだって、川上さんって駒王の女子達の中じゃ、あの三人と一番仲が良いじゃん」
仲が良いのかは分からないけど、確かに比較的話す方ではありますわね…。
けど、本当にたったそれだけなんですわよ?
「一時期なんて、あの三人の中の誰かと付きってるんじゃないかって密かに噂になってたぐらいなんだから」
「それは流石に初耳ですわ」
一体どこの誰が、そんな根も葉もない噂を立てたのやら。
「因みに、噂の中じゃ兵藤と付き合ってるって話が一番多かった」
「兵藤さんとねぇ……」
根は悪い人物じゃないのは私も良く知っているけど、あの変態趣味がねェ…。
あれさえなければ割と好意的な男性なんですけど…。
「知らないんなら仕方ないか。校舎内にいるのは確実っぽいし、HRが始まれば自然と戻って来るでしょ。その前に今日は朝からの全校集会があるけど」
全校集会…それがありましたわね。
駒王学園は基本的に月曜日の朝には必ずと言っていいほどに全校集会を執り行う。
私は別に気にはしないけど、それを鬱陶しがる生徒も少なからず存在しているようだ。
「なんて話してる間に、もう時間迫って来てるじゃん。川上さん、一緒に行こ」
「分かりましたわ」
そうして、私は何とも言えないもどかしさを感じながら、桐生さんと一緒に全校集会が行われる体育館へと向かうのだった。
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全校生徒と全教師が体育館に集まり整列をする。
その中にも兵藤さん達の姿は見当たらなかった。
壇上では、生徒会長であり司会進行役でもある支取先輩がスタンドマイクの前に立っていた。
『皆さんお静かに。それでは、これより全校集会を始めます』
おっと。集会が始まりましたわ。
ここからは静かにしないと。
『ではまず、校長先生のお話です。どうぞ』
キマシタワー。
全校集会で最も嫌われている『校長先生の話』。
他の学校は長々と話すようですが、この駒王学園の校長先生は割と話が短いので、そこまで問題視されていない。
それよりも問題なのは、校長先生とは違って全く生徒達の前に姿を現さない『学園理事長』の方が気にかかる。
事実上の駒王学園の最高責任者なのに、顔は愚か名前すらも碌に知られていない。
私としては、校長先生の話よりは理事長の正体の方が気になりますわー。
『それでは、校長先生の話を終わります』
あら。私が考え事をしている間にお話が終わってしまいましたわ。
今度からは気を付けないと。
『では次に…』
「その前に少し待ってください」
『え?』
校長先生? いきなりどうしたんですの?
「実はですね、皆さんにどうしても話を聞いてほしいという子達が来ているのです。彼らの話を聞いてあげてください」
『はぁ…分かりました』
この反応…どうやら、支取先輩も知らない事のようですわね。
にしても、話を聞いてほしい子達というのは、まさか…?
「では、こっちまで来てください」
「「「はい」」」
そうして壇上に上がってきたのは、なんとさっきまで全く姿が見えなかった兵藤さん達三人だった。
どうして彼らがこんな所に…?
「…元浜。松田。心の準備は良いか?」
「おう。覚悟ならとっくの昔に出来てるぜ」
「いつでも大丈夫だ」
「よし…やるぞ!」
何か覚悟を決めたような表情…!
彼らの登場に、皆も動揺を隠し切れていない。
無理も無い。私だって少なからず驚いたのだから。
「皆さん!!!」
え? ひょ…兵藤さんがいきなり…土下座をした?
「今までずっとご迷惑をお掛けして!!!」
今度は元浜さんが土下座を?
と言うことは、まさか…。
「本当に申し訳ありませんでした!!!」
松田さんも土下座をした…。
しかも、いきなりの謝罪と一緒に。
これは一体…?
「ついこの間、俺達は自分達のバカさ加減を本気で思い知った」
「いざって時に何も出来ない自分を恥じた」
「そして思った。このままじゃダメだって! 変わらないといけないって!!」
この間って、レイナーレ事件の事を言ってる…?
あれが切っ掛けとなって、今に至っているという事…?
「もう二度と金輪際、覗きや卑猥な事を話したり、その手の物を持ってこないと誓う!!」
「と言っても、こんな言葉だけじゃ信じて貰えないってことは分かってる!!」
「だから、俺達に言いたい事がある奴は後で好きなだけ俺達に対して言いに来てくれ! こっちは何も文句は言わない。全部受け入れる!!」
アナタ達…それが何を意味するのか、本当に分かっているんですの…?
下手をすれば、全校生徒を敵に回しかねないというのに…。
いや、それは今までと大して変わらないか。
「これが俺達の自己満足だって言われれば、全く以てその通りだ。それは誰よりも俺達自身がよく理解してる」
「けど、まずはこうしないと本当の意味で一歩も前に進めないような気がしたんだ!!」
「俺達は…今までのバカな自分達から完全に脱却する!!」
なんという覚悟…!
言葉の端々から、彼らの気持ちが伝わって来るみたいですわ…。
「勿論、俺達のせいで不登校になってしまった子や、心に傷を負ってしまった子達にも誠心誠意、謝罪をしていくつもりだ」
「そう簡単に受け入れられる筈がないとは思っているが、だからと言って何もしない訳にはいかない」
「罵倒されても、物を投げられても、殴られても構わない。俺達はそれだけのことをしてきてしまったんだから」
…本当に全ての悪意を受け止める覚悟をしているんですのね。
少し…いや、かなり見直しましたわ。
その覚悟…称賛に値しますわ。
「この後、俺達は校舎裏の焼却炉で『お焚き上げ』を敢行するつもりだ」
「今の俺達の言葉が信用できない奴は、出来ればそれを見に来てほしい」
「それが、今の俺達が見せられる最大限の『覚悟』の証だ」
お焚き上げって…意味分って言ってますの?
普通、神社などでする事なんですのよ?
それを敢えて学校の焼却炉でするとは…皆の目で確かめてほしい…と言うことなのでしょうね。
こうして、前代未聞の全校集会での謝罪会見と言う誰もが予想出来ないことにより、私を含めた全校生徒が何も言えずに呆けてしまった時間が終わった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
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集会の後、試しに兵藤さん達が言っていた校舎裏の焼却炉へと向かうと、そこにはなんと全ての男子生徒が集まっていて、女子も少なからず集まっていた。
その中には何故か生徒会のメンバーや、オカ研の皆さんもいた。
私の背では後ろの方からは見えないので、仕方なく光速移動を駆使して人込みを潜り抜けて一番前へと出た。
「これは…」
そこにあったのは、兵藤さん達三人が所持していたと思われる卑猥なグッズの数々が全て焼却炉に放り込まれている光景だった。
本やポスター、DVDなど種類は多岐に渡る。
まさか、これらを全て燃やすつもりなの…?
「お…おい、お前らの気持ちはよく分かったから。な?」
「その辺にしとけって。流石にやり過ぎだって」
同性故に気持ちが理解出来てしまうのか、男子達はなにやら彼らを止めようとしているが、全く聞き入れる気配は無い。
逆の女子達は興味本位で見に来ているようだ。
「いや駄目だ。これぐらいしないと、俺達は永遠に変われない」
「だけどよ…」
あら。匙さんが彼等を心配して止めようとしてる。
割と珍しい光景ですわね。
「元浜。松田。準備はいいな?」
「「おう!」」
三人は揃って火の付いた木の棒を持ち、数回の深呼吸の後にそれを三人同時に焼却炉へ向かって放り投げた。
「「「「「あぁっ!?」」」」」
周囲の男子達が冷や汗を掻くが、そんな事をしても時間は止まらない。
私も彼らの決意を止める気は無い。
結局、大量のグッズが放り込まれた焼却炉に火が付くことになった。
「これでいい…これで…良かったんだ…!」
兵藤さんが歯を食いしばりながら、燃え逝く自分の嘗ての所有物を眺める。
忌まわしき己の過去との決別。
ここに至るまで、彼がどれだけ苦しい思いをしたのか想像も出来ない。
一つだけ分かることは、彼らは本気の本気で自分を変えたいと思っていると言うことだ。
「あばよ…昔のバカな俺達…」
「もう二度と…そっちには戻らねぇよ…」
元浜さん…松田さん…。
「んん?」
焼却炉から煙が昇っていく中、いきなり男子達が何故か血の涙を流しながら『千の風になって』をアカペラで合唱し始めた。
その中には匙さんだけじゃなく、なんとあの木場さんも含まれていた。
なんだかんだ言っても、彼も男の子だったってことなのかしら。
「これで…よかったんですわよね…」
誰に聞かせるわけでもない私の呟きは、男子達の歌声の中へと静かに消えていくのだった。
次回、ようやくマジで話が動き始めますわー!
やっと、ここまで来られましたわー!