ヴィディアムーにて情報収集をした次の日。
「う…うん…?」
いつものようにカーテンから差し込む朝日によって私は目を覚ます。
欠伸をしながら背筋を伸ばし目を擦っていると、ふと視界の端にある物が見えた。
「パソコン…メールが来てる?」
私が愛用しているノートパソコンのランプが点滅している。
どうやら、寝ている間に誰からかメールが来ていたようだ。
多分、昨日話をした岳路さ…もとい、蘭子ママから送られてきた資料だろう。
「まだ時間は…ありますわね」
どうやら、スマホのアラームよりも早くに目が覚めてしまったようで、アラームが鳴るまでまだ30分ぐらいの時間がある。
これなら、パソコンを起動させてからメールの内容を見る時間ぐらいはあるだろう。
「さて…と。どれどれ…どんな資料を送って来てくださったのかしらね…っと」
メール自体はごく普通の形式で送られてきていて、特にメッセージの類もない。
本当に事務的に資料を送って来てくれたようだ。
「これ…ですわね」
メールを開き、その中身を確認する。
一文字一文字に目をやり、じっくりと読んでいく。
その途中で…私は思わず後ずさりをして口を覆ってしまった。
「なっ…! これは…!?」
もしも…もしもこの資料の内容が真実ならば…なんと悍ましいことか…!
奴等が異形の姿をしているのも、その精神が歪みまくって人間のソレから遠くかけ離れてしまったのも頷ける。
常人ならば、これを読んだだけで吐き気を催していたかもしれない。
「はぁ…はぁ…朝っぱらから、とんでもない物を読んでしまいましたわ…」
お蔭で、一発で目が覚めてしまった。
朝ご飯は消化が良い物にしますか…。
「他の部分も非常に気になりますけど…これが最もこれが重要そうですわね」
これは間違いなく『顔の無い者』と戦う上で重要な事になってくる。
奴等の『組織』を把握するうえで大切になってくるだろう。
それに……。
「はぁ…なんて厄介な奴らなのかしら…」
この国の『裏』は、決して極道やマフィアといった連中ばかりが支配をしている訳ではない。
木乃伊の暗殺者の依頼者のように、政治家連中だってどっぷりと『裏側』に浸かっている。
尤も、彼らの多くがその恐ろしさには気が付いていないだろうが。
(どうやら、『奴等の真実の一端』に触れて、少し辟易しちまってるみてぇだな)
こ…この声は…!?
いや…声だけじゃあない! この部屋の中から確かに小宇宙も感じる!?
(こっちだよ。こっち)
「えぇっ!?」
これは…なんということでしょう…!
あの…
しかも、なんか現代風のラフな格好をした状態でッ!?
「ど…どうして…デスマスク様がここに…? というか、どうやって…?」
(ん? まぁ…ちょっとな。『裏技』使って魂だけで来ただけだ。それよりも、これからマジで気ぃつけろよ。お前の『敵』は今までの奴等とは明らかに毛色が違う。
「海闘士や冥闘士と違う…?」
(そうだ。他の奴等ならともかく、俺だから…いや、
「デスマスク様だからこそ分かること…?」
この方は全ての聖闘士の中で最も冥府に近い存在。
だからこそ敵味方問わずに恐れられている御方…。
(あれは『死』だ。『死』そのものだ。人間がどうとか、そんなちゃちな次元じゃねェ。生物としての範疇から逸脱している。だからこそ、こっちの常識が全く通用しない)
「『死』そのもの…だからこそ『殺害欲』に支配されている…?」
(そーゆーこった。この間みてぇに油断とかすんじゃねぇぞ。躊躇もすんな。どっちも奴等との戦いじゃ致命的だ)
「うぅ…精進しますわ…」
やっぱり見られていましたのね…。
すっごく恥ずかしいですわー!
(…っと。忘れるところだったぜ。俺だけ…つーか、正確には『蟹座の聖闘士』だからこその『特権』が使えるからって理由で伝言を頼まれてるんだった)
「伝言…? それはもしや『アテナ』様から…?」
(あぁ。もうすぐ、テメェの通ってる学校に『悪魔の不死鳥』が来る。そいつらを一人で倒せ。それがお前に課せられた『最後の試練』になる。そいつをクリアできれば、お前も正式な『アテナの聖闘士』の仲間入りって訳だ)
「悪魔の…不死鳥?」
なんだか単語そのものが矛盾しているような気が…?
(それが何なのかは俺も知らねェし、興味もねェ。どう勝負に持ち込むかはお前次第だ。聖闘士ってのは馬鹿の一つ覚えみたいに拳ばかりを振るってればいいってわけじゃねぇからな。時には頭を使って行動することも重要ってこった。ムウやシャカの野郎みてぇにな)
確かに…私の中でも、あのお二人は強大な力をお持ちながらも、頭脳労働も同時に担当しているようなイメージがありますわ。
(本来なら聖闘士の戦いはタイマンが鉄則だ。だが、これからテメェが戦おうとしている相手にそんなルールは通用しねぇ。目的の為なら文字通り、何だってやるような奴等だ。だからこそ、たった一人で複数の相手を圧倒出来るぐらいの実力が求められる)
「それが…試練の内容の理由…」
一人で多数の敵を圧倒…。
数人程度ならば堕天使との戦いで経験済みですけど…それ以上の人数はまだ未経験ですわ。
(それとは別に、一輝の奴からの伝言も預かってる。聞くか?)
「ぜ…是非!」
(『欲望に塗れた愚かな不死鳥擬きに、真の不死鳥の力を見せつけてやれ』…だとよ)
「真の…不死鳥…!」
青銅時代から既に全聖闘士の中でも最上級の実力者であった一輝さまから、そんな言葉を賜るとは…嫌でも気合が入りますわ!!
(そんじゃあな。俺はここらで去らせて貰うぜ。元気でな)
「はい。この度は、どうもありがとうございました」
(礼なんて言うんじゃねえっつーんだよ。こそばゆい…じゃーな)
そう言って、デスマスク様は静かに空間に溶けるようにして消えた。
最後…明らかに照れてらした…わよね?
なんだかんだ言って、やっぱり『良い人』なんですわよね。
可愛い一面を見た気がいたしますわ。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
時間はあっという間に過ぎて放課後。
私in生徒会室ですわ。
因みに、今回はオカ研の皆さんもご一緒です。
「今朝、蘭子ママから資料が届いたので、それをコピーして持ってきましたわ」
「仕事が早いですね。流石は『情報屋』ですね」
「それには同意見ですわ」
まずは支取先輩に資料のコピーを見せる事に。
本当は全員分あれば良かったのでしょうけど、普通にコピー用紙が足りませんでしたわ。
「あ…読む前に一つだけ忠告を」
「なんですか?」
「何かを食べながら…とか、何かを飲みながら読むのは推奨しませんわ」
「…? 分かりました」
資料をペラペラと捲りながら読み進めていく支取先輩。
数秒も経たない内に、彼女の顔が青くなった。
「か…川上さんも…これを読んだのですよね…?」
「はい。今朝、読みましたわ。その時、私も先輩と同じ顔をしましたけど」
「そうでしょうね…文字だけとはいえ、衝撃が大きいですから…」
流石に堪えたのか、眼鏡を取ってから瞼を揉みほぐしていた。
「か…会長?」
「ソーナ…? ちょ…大丈夫?」
「えぇ…なんとか」
気分転換に傍に置いてあった紅茶に手を伸ばそうとしたが、すぐに気が付いて止めた。
けど、これは必ず向き合わねばならない事。
こんな所ではへこたれてなどいられませんわ。
「一体…何が書いてあったんスか…?」
「そう…ですね。声に出して読むのは余り気が進みませんけど…情報共有はしておかないといけませんよね…」
匙くんの一言で生徒会室が一気に重苦しい雰囲気になる。
これはもしや彼…やっちゃいましたかしら?
「暗殺者ギルド『顔の無い者』…その歴史は非常に古く、一体いつ頃から存在していたのかすらも定かではない。現在ある最も古い記録では明治の初期頃に存在を確認されているが、実際にはもっと古くから組織があった可能性が高い」
「明治時代って…そんな古くから…!?」
「悪魔の歴史的には浅いでしょうけど…」
「あれ程の奴等が、数百年以上に渡ってずっと社会の裏側に潜み続けて、今日に至るまで存在を隠し続けてきただなんて…」
オカ研の皆さんが驚愕するのも無理は無い話ですわ。
その能力もさることながら、情報隠蔽能力も並の組織の比ではない。
今までの暗殺も、その応用でずっと隠し続けてきたんでしょうしね。
「…『顔の無い者』…絶対に失敗しない暗殺者集団。そのギルドの入る条件…それは……」
ゴクリ…遂に言うんですのね…。
支取先輩も冷や汗を掻いていますわ…。
「
「…へ?」
グレモリー先輩が間抜けな声を上げる。
そんな彼女に言い聞かせるように、支取先輩が続きを読み上げた。
「
「うっ…!」
想像してしまったのか、グレモリー先輩が口を押えた。
彼女…明らかにグロ耐性とか無さそうですものね。
「『顔』が『無い』…。確かに…あの時、廃工場で見た『糸使い』には『顔の肉』がありませんでした…」
「塔城さん…よく覚えてましたわね…」
「覚えてたというか…忘れたくても忘れられないというか…」
「そう…ですか…」
本当に死ぬ一歩手前でしたものね。
その時の恐怖が心と体に染み付いていても不思議じゃありませんわ。
「一見すると組織としての体裁が無さそうな『顔の無い者』ではあるが、奴等にも上位となる存在…所謂『リーダー』のような者達がいるとされている」
そう…私が資料を読んで最も驚愕したのが、そこの一文ですわ。
「それは『
「私達で言うところの『魔王』や、堕天使達で言うところの『総督』…みたいなものかしら…」
一応は、その認識で良いと思いますわよグレモリー先輩。
小難しく考えても意味無いですから。
「…資料を見る限りでは、この『長』とやらは一人ではないようですね。どうやら複数いるようです」
「複数の『長』…。まるで『四大魔王』みたいだね…」
四大魔王?
今の魔王って四人もいますの?
それは普通に初めて知りましたわ。
「他にも色々な事が書かれてありますが、主に気になるのはこの辺でしょうか…」
「お疲れ様です」
「えぇ……」
この場の空気自体も、なんだかどんよりとしてしまった。
あんな事を聞かされたんだから仕方がないけど。
「今日の所は解散しましょうか。皆さんもお疲れでしょうし」
「川上さんの言う通りですね。今回はここまでにしましょう。リアス」
「どうしたの?」
「この資料は後でコピーしますので、アナタも目を通しておいてください」
「わ…分かったわ…」
『管理者』として見ておいてほしいという気持ちもあるでしょうけど…本当は単に『自分も読んだんだからお前も読め』という、普段の事に対する意趣返しが本心でしょうね。
ま、これもまた精神を鍛える訓練だと思えば何とかなりますわ。
(顔の無い者の暗殺者……私の試練となる『悪魔の不死鳥』…まだまだ私に安息は無さそうですわね…)
黄金聖闘士としての宿命…か。
いいでしょう。私自らが行くと決めた道。
こうなったら、とことんまでやってやりますわ!