とある日の昼下がり。
放課後に私はとある人物に喫茶店へと呼び出されていた。
「……で? こんな所へと私を呼びだして、一体何の御用ですかしら? グレモリー先輩」
そう。私を呼びだした人物とは、まさかのリアス・グレモリー先輩だったのだ。
意外過ぎる相手からの御指名に、流石の私も最初は本気で目が点になった。
「いきなり呼んだりして、ごめんなさいね」
「いえ…それ自体は別にいいんですけど」
私を指名した理由を聞きたいんですけど?
というか、しれっと私の分の注文も済ませているみたいですわね。
彼女の対面の席には既に一杯の紅茶とチーズケーキが置いてあった。
「あ…ミルクティーとチーズケーキを頼んでおいたんだけど…平気だったかしら?」
「えぇ。どちらも好物ですわ」
「それは良かったわ」
普段はコーヒーを飲む事が多いので、こうして紅茶を飲むなんて久し振りだ。
理由はどうあれ、、注文された物に手を付けないなんてことは絶対に出来ない性分なので、仕方なく私も席に座ることに。
「ん……美味しい」
紅茶って、こんな味だったっけ。
何とも懐かしい味がしますわ。
「それで、話はなんなんですの?」
「随分と急ぐわね…もしかして、何か用事でもあった?」
「いえ。ただ、お互いに忙しい立場故に、話をするならさっさと進めた方がいいと思っただけですわ」
「た…確かにそうね」
心身を休める時間が必要なのは理解していますけど、それは決して『今』ではないと思う。
そーゆーのは休日や夜とかで十分な筈だ。
少なくとも、平日にのんびりは出来ないだろう。
「えっと…その…これは、アナタの学校での評判を聞いて、更には貴女のこれまでの行動を実際に見て信用に値すると判断したからこそって事を念頭に置いておいて頂戴」
「分かりましたわ」
学校での私の評判…地味になんて言われているのか気になりますけど、ここで話の腰を折ったら、いつまで経っても話が先に進みませんし。
それを聞くのはまた別の機会って事で、今は黙って話を聞くことに専念しましょうか。
「実は…ね。川上さんに相談したい事があるのよ」
「私に相談したい事?」
学校の有名人で。悪魔の中のお貴族様の。
あのリアス・グレモリーが私に相談?
…明日は雪でも降るんじゃないかしら…。
「どうして私なんですの? プライベートな相談ならば、それこそ姫島先輩や支取先輩などに御相談すればいいのでは?」
「…あの二人はもう既に知っているから…」
「それはつまり…プライベートな相談ではない?」
「そうなる…かしらね。私個人の話ではあるんだけど、プライベートと言われればそうじゃなくて…」
……成る程。
彼女が何を言いたいのか分かった。
「つまり、相談したい事とは『グレモリー家』に関する話である…と」
「…その通りよ。流石に鋭いわね」
私じゃなくても、あれだけヒントを出されれば誰だって分かりますわ。
それならば確かに、眷属である姫島先輩や、同じ貴族である支取先輩がもう既に事情を把握していても不思議じゃありませんわね。
「あーむ。もきゅもきゅ…ごくん」
このチーズケーキ…美味しいですわー。
ケーキ自体、物凄く久し振りに食べた気がしますわ。
普段は洋菓子なんて余り食べませんから。
「あんまり大きな声じゃ言えないんだけど…」
だから、端の席を選んで座っているのですわね。
そのお蔭で、入店してから少し先輩の事を探してしまいましたわ。
「…実は私には親同士が決めた『婚約者』がいるの」
「あらまぁ…」
それはもしや、俗に言う『政略結婚』という奴かしら?
今時、冗談抜きで超絶珍しいですわよ?
どれだけ時が流れても、悪魔の時代感はそう簡単に進んだりしないのかしら?
「そんな事を言うということは、先輩はその婚約者さんの事がお嫌いなのですか?」
「勿論よ。女のことを完全に性の対象としてしか見ていないばかりか、眷属は全員が年下の女性ばかり!」
「非常に分かり易いハーレムですわね…」
「川上さんは、女としてそんな男ってどう思う?」
「割と冗談抜きで好きにはなれませんわね」
こんな事を言うのは不敬罪になるかもしれませんけど、私が最も理想とする男性像は黄金聖闘士十二人の方々ですわ。
ムウ様のように、どんな時も冷静沈着な方も素敵だし、アルデバラン様のように常に雄々しく力強い方も眩しく見える。
アイオリア様やミロ様のような熱血漢も好きだし、カミュ様のようなクールな方も溜まりませんわー!
この間会ったデスマスク様のようなワイルドな方も良いですし…。
もぉ~…誰が一番良いかだなんて決められませんわよぉ~!
本当に十二人全員が大好きなんですもの!!
「もしや、私への相談事というのは、その婚約をどうにかしてほしい…ってことじゃあありませんことよね?」
「そ…それは……」
図星ですわね。
はぁ…家同士が決めた事に対して、私がどうしろと仰るおつもり?
私にもできる事と出来ないことぐらいはあるんですのよ?
「因みに、その婚約者さんはなんてお名前なんですの?」
「…ライザー。ライザー・フェニックスよ」
「フェニックス…!?」
それはもしや…デスマスク様が仰っていた『悪魔の不死鳥』…!?
ということは、こうしてグレモリー先輩が私に相談をしてきたことも神が定めた運命で決まっていたと…!?
「えぇ。『グレモリー家』と同じ冥界の名家『フェニックス家』の三男坊なの」
「三男坊…」
通常、こういう話は長男が対象になる場合が多いけど、三男が出てくると言うことは、もう既に長男と次男は結婚しているから…ってことなんでしょうね。
別にそれ自体はどうでもいいことですけど。
「婚約自体は、私が幼い頃に勝手に私が知らない所で勝手に決められていたみたいで、実際に知ったのだって高校に入学してからなのよ」
「それはまた…」
同じ女として同情したくはなりますけど…だからと言って感情的に行動しはいけない。
こんな時こそ、カミュ様が普段から口癖のように仰られているように『クール』に対処しなくては。
「一応、私が大学を卒業するまではこっちの自由にさせてくれるって約束はあるんだけど…」
「だけど?」
「何を考えたのか、ライザーはかなり結婚を急いでいるみたいなの」
「まぁ…年齢的には問題は無いでしょうけど…」
大事なのは『そこ』じゃないんですのよね。
そもそも、結婚とは当人同士の了承が得られて初めて成立する神聖なる儀式。
そこにどんな理由があろうとも、望まぬ結婚というのはよろしくない。
仮に結婚できたとしても、夫婦生活は長くは続かないだろう。
最悪の場合『成田離婚現象』を引き起こす可能性だってある。
それは誰も幸せにならない結末だ。
「少し気になることがあるのですけど…」
「なに?」
「先輩が婚約を嫌がっている事は、ご両親はご存じなのですか?」
「知っているわ。両親だけじゃなくて、私のお兄様も」
家族全員が彼女の意志は把握している…と。
「では、その事で御家族やライザーさんのご両親と話し合いをしたことは?」
「は…話し合い…?」
「えぇ。そこまでハッキリと意思表示をしているのならば、まずはその意思を両家の関係者の方々に言葉として言ってはいるのでしょう?」
「そ…それはー……」
…この反応…マジで何にもやってませんわね。
口では『イヤだイヤだ』と言いつつも、自分からは何も行動していない…。
なんつーか……質悪ぅ~…。
どこに出しても恥ずかしくない、典型的な『我儘箱入りお嬢様』じゃありませんの~!
はぁ…なんだか、この一連の会話で彼女の本性を垣間見た気がしますわ…。
「仕方がありませんわね…」
「え?」
いつもならば普通に『自分のことぐらい自分でなんとかしろ』と言っていた所ですけど、今回は私も決して無関係とは言い難い。
それに、ここらでグレモリー先輩には『自分の意志で立ち上がり、自分の運命を切り開く事』を学んで貰う良い切っ掛けにしてしまいましょう。
今後の彼女の為にも、これは絶対に必要な事だと思いますし。
「その一件…どうにかしてみますわ」
「ほ…本当っ!?」
「えぇ。それに、今回の事は私も他人事じゃありませんし」
「へ? それは一体どういう…」
支取先輩にだけ話して、彼女にだけ何も教えないというのはフェアじゃないから、ここら辺でグレモリー先輩にも『女神の神託』について話しておく。
「アテナの…神託ですって? そんな物を聞けるの?」
「えぇ…そうですわ。そして、つい最近にも神託を聞きまして、それに例のライザーさんの事を仰っていましたの」
「ライザーの事を…?」
「はい。『もうすぐ私の通っている学校に『悪魔の不死鳥』がやってくる。その一党を単独で撃破してみせよ。それが『最後の試練』となる』…と」
「悪魔の不死鳥…確かにライザーの事を指し示してるわね。それに『最後の試練』って?」
「まぁ…なんと言いますか。詳しく話せば確実に長くなるので今はまだ話せないんですけど、要は私が『アテナにお仕えする戦士』として認められるための試練…と受け取って貰って構いませんわ」
流石に聖闘士の事を最初から教えていけば、確実に日を跨いでしまうし、ちゃんとした場で色んな人達が揃っている場で説明をしたい。
「それって…この間、廃工場であなたが身に纏っていた『黄金の鎧』と何か関係があるの?」
「その通りですわ。今はまだ『貸し与えられている状態』に過ぎませんが、試練を乗り越えて正式に認められた暁には…」
「あの鎧が真の意味で川上さんの物になる…ってことね」
「そういうことですわ」
正式には私が『継承する』のですけど…その説明もまた今度って事で。
「私はライザーとの婚約を破棄したい。川上さんはライザーと戦って勝たなくてはいけない。利害は一致しているわね…」
一致…してます?
微妙に違うと思うんですけど…。
それと、何か凄い勘違いをしているみたいですけど…私は
あくまで私は『その
「兎に角、まずはそのライザーさんとやらと会ってお話をしてみない事には始まりませんわね」
「それなら大丈夫よ。近い内、ライザーがこっちに来ることになってるから」
あぁ…だから、焦って私に相談を持ちかけてきたんですのね?
向こうも答えを急いでいるから、こっちも急いでどうにかしなくてはいけない…と。
この人はあれですわね。
夏休みの宿題は最後の最後に纏めてするタイプと見ましたわ。
あれは毎日毎日、計画的にするのが一番ですわよ?
「その時が来たら、アナタも呼ぶから。お願いね?」
「承知しましたわ」
はぁ……本日三回目の溜息。
神託だからとはいえ、なんとも面倒な事に巻き込まれましたわね…。
貴族同士のトラブルなんて…心の底からどうでもいいですわ~…。
今回のライザー編。
ほんの少しだけ一誠も絡めたいと思っています。
と言っても、マジでチョイ役ですけどね。
今はまだ一誠は『我慢の時』ですから。
彼の活躍する場面はもう既に決定しているので。