グレイフィアさんの後に続く形で魔法陣へと入っていくと、一瞬にして全く違い場所へと移動した。
というか、まさかここは…?
「な…なぁ…川上さん。ここって、もしかして…?」
「えぇ…どう見ても、駒王学園の校舎の中…ですわよね…」
何処からどう見ても、ここは紛れもなく駒王学園の校舎だ。
だけど…なにかしら…奇妙な違和感があるような…。
「ふむ…グレイフィアさん。ここは一体どこなのかな?」
「この度の試合会場となる場所にございます」
「試合会場?」
「はい。ここは姫子様やリアスお嬢様たちが通っておられる駒王学園の校舎を模しております」
成る程…私が感じた違和感の正体はそれか。
ここは私達が知っている駒王学園ではなく、非常に酷似したレプリカになると。
「この度の試合は非常にイレギュラーなものとなっております。人間の少女一人と上級悪魔とその眷属の一団との試合…常識的に考えれば絶対に有り得ない組み合わせではありますが、姫子様は実際に我々の予想を遥かに超える能力を持っているのもまた事実。ですが、他の方々はその事を存じてはおりません。なので…」
「形だけのハンデとして、姫子が普段から通い慣れている校舎を模した会場を作りだし、地の利を得させようと思ったのか」
「…お見事な慧眼にございます。一輝さま」
要は、大人の複雑な事情…ってやつですのね。
ヤレヤレですわ。
「もう既に、お嬢様方や他の方々もいらっしゃっております」
「「他の方々?」」
それは、もしや…?
「はい。グレモリー家の現当主にして『四大魔王』の一角でもあらせられる『サーゼクス・ルシファー』様と、ライザー様のご両親でございます」
あらまぁ…まさかの魔王さまご本人のご登場?
確か、その魔王さまがグレモリー先輩のお兄様なんですのよね?
てっきり私は、ご両親の方が来ると思っていましたわ。
「ま…魔王がいるのかよ…急にドキドキしてきた…」
「多分ですけど、兵藤さんが想像しているような人物じゃないと思いますわよ?」
「…やっぱり?」
恐らく、ゲームに出てくるような魔王を想像してたんでしょうけど。
今まで見てきた悪魔の方々の容姿から察するに、魔王さまも一見すると、どこにでもいるごく普通の人間と大差ない姿をしていると思われますわ。
だからと言って油断はしませんけど。
「試合前に御挨拶をしたいのですけど…ご案内して頂ける…と思ってよろしいのですかしら?」
「勿論にございます。こちらです」
では…噂に聞く魔王陛下のご尊顔を拝見すると致しますかね。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「こちらにございます」
案内された場所は、明らかに駒王学園の校舎には存在しない部屋の前。
恐らく、ここが所謂『観覧席』のようになっているのだろう。
「サーゼクス様。川上姫子様御一行をお連れ致しました」
ドアをノックしながら報告をするグレイフィアさんだったけど、その言い方だとまるで私達が水戸黄門一行みたいに聞こえますわ。
勿論、お義父様が黄門様で、兵藤さんがうっかり八兵衛。
「そうか。中に入れてあげてくれ」
「畏まりました」
返事が来たので、グレイフィアさんが静かに扉を開ける。
うーむ…流石は本職のメイドさん…。
一つ一つの動きの全てが勉強になりますわ。
「君がリーアの報告にあった『川上姫子』さんか」
「アナタは…」
そこにいたのは、赤く長い髪を持つ好青年。
格好こそ、まるで教皇陛下や冥王ハーデスのようだが、彼からはそれら特有の威圧感は感じない。
普通に抑えているだけでしょうけど。
「僕の名は『サーゼクス・ルシファー』。リーア…リアス・グレモリーの実兄であり、今の冥界を統べる四人の魔王の一人さ」
あぁ…リーアってグレモリー先輩の事を指してましたのね。
家族間での渾名みたいなものかしら。
「初めまして、魔王閣下。駒王学園二年の川上姫子ですわ」
「これはこれは、ご丁寧にどうも…。グレイフィアに聞いていた通り、礼儀正しい御令嬢のようだね」
「御令嬢だなんて…そんな…」
そんなこと初めて言われましたわ…ちょっぴり照れますわね。
「川上さん!」
「先輩方も、こちらにいらしたのですね」
サーゼクスさんの背後から、早歩きでやって来たのは制服を着たオカ研の面々。
意外と真面目と言うか、何と言うか。
「って…その格好は何…?」
「私の勝負服ですわ。これを着ると気が引き締まりますの」
「そ…そう…」
因みにこれ、実はあの『ヴィディア・ムー』の店長である『蘭子ママ』からプレゼントとして頂いた物なんですの。
なんでも、私に合わせた世界にたった一着の完全オーダーメイドなんだとか。
値段を聞いた時は、思わずその額に意識が一瞬だけエリシオンに行きかけましたわ…。
「ところで、どうしてさっきから木場さんは目を逸らしてますの?」
「な…なんでもないよ…」
答えになってませんわよ。
「その気持ち…よく分かるぞ木場…」
男子同士で共感しないでくれません?
女子が完全に放置状態になってますから。
「そちらの方が姫子さんのお父上かな?」
「そうですわ」
ここでサーゼクスさんが話を逸らしてくれた。
流石は魔王…ナイスですわ。
「初めまして。サーゼクス・ルシファーと申します」
「こちらこそ初めまして。姫子の父のフィリップス・パラケルススです」
挨拶をしながら握手をする両者。
うーん…大人の世界。
「こちらのおじ様が、川上さんのお義父様なのね…」
「ナイスミドルな優しそうなお方ですわ」
「川上先輩が、あんなにも真面目に育った理由が分かったような気がします」
あら意外。
ウチのお義父様が女子高生に人気ですわ。
「そして、君達が姫子の話していた『オカルト研究部』の子達だね?」
「は…はい! リアス・グレモリーと申します!」
「姫島朱乃ですわ」
「塔城小猫です」
「木場祐斗といいます」
「うんうん。これからも、うちの娘と仲良くしてくれたまえ」
別に、そこまで仲がいいってわけじゃないんですけれど。
けれど、そこまで言うのならば少しは顔を出すようにしても良いかもしれませんわね。
「それで…そちらの男性が?」
「はい。今回の試合の『立会人』を務めてくださるお方ですわ」
「…一輝だ」
あら…サーゼクスさんと一輝さまが見つめ合ってますわ。
無言の牽制をしていると見ていいのかしら。
「…凄いね。今までにも色んな人間達を見てきたけど、ここまで底が全く見えない人物は初めてだ。感じる力も尋常じゃない。まるで、地獄の悪鬼すらも裸足で逃げ出しそうな迫力だ。君は一体…」
「姫子の立会人と言った筈だ。今の俺は、それ以上でも、それ以下でもない」
「…そうか。では、一つだけ聞かせてくれないかな?」
「なんだ」
「君と姫子さんとの関係を…教えてくれないか?」
「俺と姫子の関係…か」
これまた、いきなりブッ込みますわね。
どんな風な答えを言うのやら…ドキドキですわ。
「…頼りある後輩であり、未来の同胞だ」
「後輩であり同胞…か」
…今の言葉だけでテンションMAXですわ――――!!!
一気に気力150、もしくは超強気になりましたわ――――!!!
「因みにだけど…あの一輝って人。俺の師匠の仲間でもあるらしいんだ…」
「兵藤君の…!? それはまた凄いね…!」
「見ただけで只者じゃないとは思っていたけど…」
「私達の想像より、強大な力を持つ人間というのは多いのかもしれませんわね…」
なにやら兵藤さんがオカ研の皆さんに耳打ちしてますけど。
そんなにしなくても別にいいんですのよ?
「ところで、ちゃんと先輩はご自分の『言うべき言葉』を考えてきましたの?」
「も…勿論よ! 一週間ずっと考えに考えてきたんだから!」
試しに尋ねてみたら、グレモリー先輩はポケットの中からメモ用紙らしきものを取り出して見せた。
ちゃんと、やるべき事はしてきたのですわね。
それならば、私もちゃんとそれに応えなければ。
「そこの君が、見学を申し出て来たという兵藤一誠くんだね?」
「は…はい! 今日は俺の我儘を聞いて貰って、ありがとうございます!」
「ははは…別にそんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
「う…うっす!」
いや…魔王云々関係無しに、初対面の大人相手に緊張するのは当たり前ですわよ…?
「サーゼクス様。少しよろしいでしょうか」
「あぁ…どうぞどうぞ」
「失礼…」
奥の方からなにやら高級そうな服を着た御夫婦らしき人達がやって来た。
ダンディと美人の二人組…この方々が?
「君が…川上姫子さんだね?」
「はい。そちらは、ライザーさんのご両親…でございますわね?」
「そうだ。この度は、うちの息子のせいでとんでもないことになってしまって、本当に申し訳ない…」
「そんな…謝らないでくださいまし。今回の試合は私も同意の上で開かれたこと。こちらも彼を煽るような言動をしてしまいましたし…気にしないでくださいませ」
「…聞いた通り、本当に素晴らしいお嬢さんだ。ありがとう」
お礼を言われるような事は無いのですけれど…。
こっちは完全に最初から戦る気マンマンでしたし…。
ここまで丁寧に謝罪をされると、逆にこっちの方が罪悪感を感じてしまいますわ。
「とても良い御息女ですな。羨ましい限りです」
「えぇ…自慢の義娘ですから」
自慢…か。
それを聞くだけで、胸の辺りがほっこりとしますわ…。
「姫子さん。ライザーの両親として一つだけ頼みごとをしたい。聞いてくれるか?」
「なんなりと」
「君は普通の人では考えられない程の力を持っていると聞く。それで、ウチの息子を成敗してやってくれ」
「え…えぇ…? い…いいんですの…?」
「あぁ…構わない。どうも、最近のアイツは増長し過ぎのきらいがある。我々の言う事も全く聞く耳を持たない。この間の訪問も、半ばアイツの独断に近い形で行われたに等しいのだ」
随分と我儘放題で育てられてきたようで。
ご両親にも問題はあるでしょうけど、その過ちに気が付いているだけまだマシですわね。
「元を辿れば我々が全ての原因でもあるのだが…今のアイツの目を覚まさせるには一度、思い切り痛い目に遭わせる必要がある…と考えたのだ」
「なる…ほど?」
ならば、ご自分ですればいいだけなのでは?
なんて考えましたけど…それでは意味が無いのでしょうね。
「ライザーは昔から人間を見下している。そんなアイツをどうにかするには、我々よりも君の方が適任だと思ったのだ。余りにもぶしつけとは思うのだが…どうか…頼む…!」
「ちょ…お顔を上げてくださいまし!」
兵藤さんじゃないですけど、私だっていきなり初対面の大人に頭を下げられたら、普通に反応に困りますわよ!
「はぁ…頼まれずとも、最初から本気で戦うつもりだったので大丈夫ですわ。ですから、どうかご安心を」
「そ…そうか! それはよかった!」
にしても、息子の為とはいえ…他者に『子供を叩きのめしてくれ』と頼むとは…中々にサイコパスですわね。
それとも、悪魔の中じゃこれぐらいはまだ常識の範囲内なのかしら?
見た目は似ていても、物事への価値観は全く違うでしょうしね。
「ところで、もう向こうは…?」
「はい。既にスタンバイしております。今は作戦会議の真っ最中かと」
「では、私も行かないといけませんわね。移動しながら、軽くパルクールでもしながら体を温めつつ柔軟をしますか」
「それを普通に言える川上さんって…やっぱスゲーわ…」
なんか兵藤さんが言ってますけど、いずれアナタも似たような事が出来るようになるんですのよ?
決して他人事じゃありませんわ。
にしても…作戦会議…ねぇ…。
どんな作戦を弄してきても、全て真っ向から打ち破るだけですわ。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
一方その頃。
偽駒王学園の生徒会室。
ここがライザー陣営の拠点となっていた。
「ライザー様。例の娘が到着したようです」
「そうか…」
椅子に座りながらライザーは考える。
正確には、考える振りをする。
「どんなに超常の力を持っていようとも所詮、相手は人間の小娘に過ぎん。しかも、たった一人だ」
「では…?」
「数で押せば、どうとでもなる…と言いたいが、それでは余りにも芸が無い上に格好が悪い。今回はウチの両親も見に来ているのだからな」
この期に及んで、まだライザーは姫子の実力を正しくに認識していないばかりか、体面のことばかりを考えていた。
それで痛い目を見るのは自分だというのに。
「お前達は分散して迎え撃て。最低でも一組三人以上で行動するようにしろ。決して一度に仕掛けようとはするなよ? 波状攻撃で奴の心身を大きく疲弊させろ。そうすれば、いかに奴がどんな能力を持っていても意味が無くなる。そうして弱った所を…」
「ライザー様がトドメを刺す…と」
「その通りだ」
フッ…っと笑みを浮かべるライザー。
もう既に勝った気でいる勝者の笑みだった。
「俺の可愛い眷属たちよ! 身の程知らずの人間の小娘に残酷な現実というものを存分に教えてやれ!!」
「「「「「「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」」」」」」
生徒会室に彼女達の気合いの入った声が響く。
だが、彼女達はまだ知らない。
残酷な現実を思い知らさせるのが自分達であると言うことを。
そして…自分達が一体誰に勝負を挑んでしまったのかと言うことを。
数分後に、その身を持って思い知ることとなる。
次回、試合開始ですわー!