カーラマインを倒した直後に現れたドレスを着た少女。
見た目からして明らかに『ザ・お嬢様』といった風貌だった。
「…アナタは?」
「私は『レイヴェル・フェニックス』。『
「僧侶…」
レイヴェルを除けば、ライザー陣営の残り人数は兵士が二人に戦車と僧侶と騎士がそれぞれ一人づつになる計算だ。
…が、ここで姫子はある違和感に気が付いた。
「ん? フェニックス?」
「やっぱり、そこに気が付きますわよね…」
「その反応は…矢張り?」
「えぇ。貴女の想像通り。私は主であるライザー・フェニックスの実の妹ですの」
まさかとは思っていたが、本当に親族だったとは。
これには流石の姫子もドン引きしていた。
「なんでまた、そんなことに…」
「私にもよく分かりませんわ。ただ、兄曰く『ハーレムを作るならば妹キャラは必須』…だそうですわ」
「意味が分からないですわ…」
「同感ですわ」
姫を目指す者と本物のお嬢様。
どこか似ている部分があるのか、敵同士にも拘らず共感してしまった。
「…で? 今度は貴女が私と?」
「まさか。元より私は余り『戦い』というものが好きじゃありませんの。今回のゲームも、私は殆ど数合わせに等しいですわ」
「それでいいんですの…?」
「いいんですわよ。ここだけの話、私もお母さまたちやお父様たちと同じように、お兄様には一度痛い目に遭って欲しいと思っていましたし」
「あら意外」
妹というからには、兄を擁護するものとばかり思っていたが、どうやらレイヴェルは違うようだ。
「お兄様の事は嫌いではありませんけど、だからと言って調子に乗り続けている姿を見ているのは余り良い気分はしませんから。今のあの人は、無駄に高くなった鼻っ柱を根元からボキッと折るぐらいの事をして性根を叩き直す必要があると思いますわ」
「それには激しく同感ですけど…」
どうやら、姫子とレイヴェルは色んな意味で似た者同士なのかもしれない。
姫子も彼女の事がどうも他人のようには思えなかった。
「ですので、アナタには期待していますのよ? たった一人でここまで戦い抜き、あのユーベルーナすらも一方的に倒して見せた実力…ここでゆっくりと拝見させて頂きますわ」
「戦う気は無い…と?」
「えぇ。さっきも言ったでしょう? 私は単なる『数合わせ』。今までのレーティングゲームでも、殆ど動いたことはありませんし」
ライザー陣営における、彼女は所謂『
『僧侶』というよりは『主の妹』という役割を与えられたに等しい存在。
確かに、元来『
道理でレイヴェルが、この戦いの場においてドレスを着ているのか、その理由がハッキリした。
「では、アナタは無視するということで」
「それで構いませんわ」
何もしてはいないが、これで実質的に僧侶を一人倒したに等しい。
残り人数、あと5人。
「ということは…お次はそこの木の影でずっと私達の事を見ている『アナタ』が私のお相手をして下さるのかしら?」
「…気付かれていたのか」
木陰から現れたのは、仮面をした女。
その手に一切の武器を持っていない所を見ると、どうやら彼女は『格闘家』のようだ。
「私は『イザベラ』。『戦車』だ」
「二人目の戦車…」
名前を名乗った瞬間、すぐにイザベラは両拳を構えた。
それを見て反射的に姫子も同じように拳を構える。
「では…いくぞ!!」
悪魔特有の身体能力の高さを活かし、なんと一拍で姫子の懐まで潜り込もうとした。
狙うは姫子の顎、その一点のみ。
だが、そんなのは姫子も分かっていた。
「ふん!」
「チッ!」
体を仰け反らせることでアッパーカットを回避。
普通ならば、ここですぐに仰け反った体勢を整えようとするが、なんと姫子は仰け反った体勢のまま全力で飛び上がった!
しかも、その足はイザベラの両脇に引っかかっている!
「な…何ッ!? これはっ!?」
「見事なアッパーでしたわ。けど、それでは私を倒すには程遠くてよ!」
上空に飛びあがりながら、両足に力を込める!
これこそ、相手の力を利用して放つ『超絶飛翔』!
「さぁ…自分の技の勢いで自分が吹っ飛びなさい!」
「し…しまっ…!」
「ジャンピング・ストーン!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
転生悪魔となって強化された腕力に加え、姫子の脚力も加わり、その勢いは凄まじいこととなり、イザベラは逆さまになりながら派手に吹き飛び、背中から校舎の壁に激突、それを突き破って中へと突っ込んでしまった。
「あのイザベラを、あそこまで吹き飛ばすだなんて…」
「いえ。まだですわ」
「え?」
てっきり、今の一撃で終わりだと思ったレイヴェルだったが、姫子はイザベルが吹き飛んだ先をじっと睨みつけていた。
「今のはあくまで『カウンター技』に過ぎない。先程の一撃から察するに、イザベラさんはあの程度で倒される程、軟じゃありませんわ」
「まさか…」
レイヴェルのイザベラの強さはある程度は理解している。
だが、こうして実際に戦うのを目で見るのは初めてだった。
今までは遠くで映像越しに見ているばかりだったから。
「ま…まだだ…」
「イザベル…!?」
息も絶え絶えになりながらも、破壊された壁から膝を付きながらイザベラが姿を現す。
仮面が罅割れ、頭と口の端から僅かに血を流してはいるが、それに反して彼女の闘志は全く衰えている気配が無い。
それどころか、先程よりも更に燃え上がっているようにも感じた。
「例え…負けるとしても…貴様に一矢ぐらいは報いてみせる!!」
「その意気や良し!!」
全力で飛び出してからの、その勢いを利用した正拳突きを放つ!
その一撃も、姫子の顔面に直撃する直前に受け止められ、そのまま地面に叩き付けられる!
「ふん!」
「がはぁっ!?」
まるでトランポリンのように跳ねるイザベルの身体。
空中にいる時に体勢を整えて着地しようと試みるも、その時には既に姫子が彼女の懐へと飛び込んでいた。
「外門頂肘!!」
「ぐっ!?」
肘からの体当たりで鳩尾にめり込む!
そこから流れるような動作で、顎へ向けての掌底を叩き込む!
「ごっ…!?」
(か…身体が動かん…!? まさか…脳を縦に揺さぶられたッ!?)
ほんのひと時とはいえ、完全に全身がマヒ状態に陥った。
今のイザベラが次の行動をするには、最低でも5秒ほどのインターバルが必要となる。
つまり、次の攻撃はなにがあっても避けられないし、防ぐことも出来ない!
「鉄山靠!!!」
「がぁ…!?」
八極拳における必殺の一撃を喰らい、またもやイザベラは激しく吹っ飛ぶ。
しかし、今度は姫子も彼女を逃すつもりはないようで、即座に右拳を後ろにやって、腰を低くして構えつつ小宇宙を一気に燃やす!!
「最後の瞬間まで勝負を諦めない。貴女のその姿勢に敬意を表して…私も全力の一撃を放ちますわ…!」
姫子の全身に電撃が走り、その長い髪が大きく逆立つ。
やがて、その右拳に巨大な雷光が宿り、一気に爆発させる!!
「これこそが…『黄金の鬣を持つ雷光の獅子の牙』!! お受けなさい!!」
姫子の拳が突き出された時、超絶なる雷光の一撃が放たれた!!!
「ライトニング…ボルト――――――――――――!!!!!」
「フッ……」
最初から負けを悟っていたのか、雷光が直撃する瞬間、イザベラは静かに笑った。
勝負の結果に満足したかのように。
雷光が消えた時、イザベラの姿もまた消えていた。
どうやら、途中で戦闘不能だと判断されて転送されたようだ。
『…ライザー様の戦車一名…リタイア…』
グレイフィアの震える声のアナウンスが聞こえる中、レイヴェルが目の前で起きた攻防を見て全身を震わせていた。
「い…今の一撃は一体…!?」
「別に、なんてことはありませんわ」
「え…?」
「超高速で拳を繰り出し、目の前にある空間の空気を切り裂く。その空間に私の
「真空放電現象って…」
レイヴェルが驚いているのはそこではない。
魔力も無い人間が、魔力を持つ悪魔を完全に圧倒するような攻撃を繰り出したことに驚いているのだ。
「…もうそろそろ出てきてはどうかしら? いつまで、そこでコソコソとしているおつもり?」
姫子がグラウンドを見渡すようにギロリと睨みを利かせると、すぐにオゾオゾといった感じで残りの眷属たちが姿を現した。
「ま…まさかとは思うけど、私達がいる事を分かってて…?」
「当然」
出てきたのは猫耳を付けた二人組に加え、十二単を着た少女と、背中に大剣を担いだ少女。
その見た目からすぐに彼女達の駒を割り出した。
「そこのお二人が兵士で、そこの方が僧侶。そちらの方が騎士…といったところかしら?」
「すぐに見抜かれたし…」
もうここまで来れば、姫子に小細工なんてものは通用しない。
しかも、彼女達はついさっきまで姫子とイザベラの戦いを見ていた。
それはつまり、先程のライトニングボルトも見ていたと言うことだ。
「掛かって来なさい」
「「「「え?」」」」
「もう分かっているでしょう? アナタ達の実力では、一人一人で掛かって来ても私には絶対に勝てないと。だったらせめて、僅かな可能性に賭けて全員で纏めて掛かって来なさい!」
「い…言ったにゃ…!」
「そっちがそう言うにゃら…!」
「遠慮なく!」
「やらせて貰う!!」
姫子の挑発に乗り、四人は一斉に襲い掛かる!
陣形も何もない。怒りに身を任せた愚直な突撃!
それを静かに見据え、再び拳に雷光を宿らせる!
「先程は『
飛び掛かる四人に向かい今、無数の閃光が襲い掛かる!!
それは、決して逃げられぬ雷光の包囲網!!
「ライトニングプラズマ―――――――――!!!!」
「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――っ!!!!」」」」
雷光を纏う閃光をその身に受け、四人は空中で四肢をバラバラに躍らせながら落下することなく打ちのめされる!
文字通り、一瞬の間に彼女達の全身はズタボロになり、白目を剥きながら口からは煙を吐き、地面へと落ちる寸前に消滅、転送されていった。
『ライザー様の兵士二名…騎士一名…僧侶一名…リタイア…』
首をコキコキと鳴らしながら、姫子はライザーがいると思われる生徒会室を見上げる。
そんな彼女の背中を見つめるレイヴェル。
もう彼女は、目の前にいる少女を人間とは思えなくなっていた。
「なん…ですの…? 今の閃光は…」
「先程の『ライトニングボルト』の拡散版ですわ。一秒間に約1億発の超高電圧付きの拳を放っているんですけど」
「い…一億発ッ!?」
「ご安心を。先程のは手加減をして精々、一秒間に7000万発程度に留めておきましたわ」
「それでも異常ですわよ…」
それの一体どこが手加減なのか。
そもそもの話、彼女からしたら一秒間に万単位の拳を放てること自体が有り得ない。
悪魔たちの認識でも、明らかに化け物級と言えた。
「これで、残っているのはあなた達兄妹だけ。ということは…」
その時、僅かではあるが確かに『熱気』を感じた。
視線を校舎の屋上へと向けると、そこには腕組みをしたまま背中から炎の翼を出しているライザーがこちらを睨み付けていた。
「まさか…まさか…本当に俺の眷属たちを悉く倒すとは思わなかったぞ…姫子…!」
「ライザー…フェニックス…」
「いいだろう…この俺が直々に相手をしてやる!! 掛かってくるがいい!!」
大将戦…開始。