今こそ燃えろ黄金の小宇宙! ですわ!   作:とんこつラーメン

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決着ぅぅぅぅぅぅぅっ! ですわ!

 校舎の屋根の上から、姫子のいる校庭まで降りてきたライザー。

 その顔には、この間まであった余裕の笑みは完全に消え去り、焦燥と怒りが滲み出ていた。

 

「どうやら…俺は貴様の事を少々、見縊っていたようだ。認めよう。確かにお前は強い。人間にしては間違いなく破格の強さを誇っている」

「お褒め頂きどうも」

 

 褒められたところで嬉しくもなんともない姫子は、彼の言葉を軽く受け流す。

 そんな事をされたら、普段のライザーならば文句の一つでも飛ばして来るが、今の彼にそんな余裕は無かった。

 本当に、全く予想すらしていなかった事態に陥っているのだから。

 

「だが! どれだけ強大な力を持っていようとも、この俺を倒す事は絶対に出来ん! 何故なら、俺はフェニックス! 不死の存在だからだ!」

「ほぅ…?」

「どんなダメージを負ったとしても、すぐに完全回復する! 分かるか? 何をどうしようとも、全ては徒労に終わるんだよ!!」

「ふーん…それじゃ、少し試してみましょうか」

「なに?」

 

 うっすらとした笑みを浮かべながら、姫子は徐に右腕を肩の高さまで上げる。

 握り拳を作り、それをライザーの方へと向けた。

 

「では…いきますわよ?」

 

 姫子の拳が一瞬だけキランと光ったかと思ったら、次の瞬間には何かが破裂するような凄まじい音と共に、ライザーの右半身が木端微塵に消し飛んだ。

 

「な…なぁぁにぃぃぃぃっ!!??」

「お…お兄様ッ!?」

 

 兄を叩きのめす事に賛成しているとはいえ、家族として反射的に心配してしまうレイヴェル。

 破裂した部分から炎が出てきて、あっという間に体が元通りになってしまう。

 だが、当のライザー本人は苦悶の表情を浮かべていた。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…! バ…馬鹿な…! なんだこの桁違いの威力は…!」

「へぇ~…成る程、成る程…」

 

 確かにダメージは回復した。

 だがしかし『攻撃を受けた』という事実は消せていない。

 回復したのは『ダメージ』だけであって、それに伴う『痛み』や『精神的疲労』までは無効化出来ないのだ。

 

「ぶっちゃけて言っちゃいますと、実はあなたを倒す方法自体はもう既に何通りか考えておりましたの」

「な…なんだと?」

「例えば……」

 

 突如として、ライザーの背後に謎の空間へと繋がる穴が出現する。

 余りにもいきなり過ぎて、フェニックス兄妹は大きく目を見開いた。

 

「異次元空間への扉を開いて、そこに叩き落とすとか」

「なっ…!?」

「他には…」

 

 異次元へと扉が閉じたかと思ったら、今度は姫子が胸の前で両手を合わせた。

 その両手の間からは、今までとは比較にならない程の小宇宙が燃焼している。

 

「アナタの五感を全て強制剥奪する…とかも出来ますし。後は…」

 

 姫子の指先に光が収束していく。

 それは気でもなければ魔力でもない。

 これは燐光。魂の輝き。

 

「その体から、魂だけを抜き取ってしまう…とか」

「う…うぐぅ…!」

 

 考えただけで、背筋に嫌な汗が流れる。

 姫子の言う通り、今の方法ならばいかに不死の肉体を持っていても簡単に圧倒出来てしまう。

 最強の十二人に師事をした姫子にとって、不死の肉体というのは決してアドバンテージにはなり得ない。

 寧ろ、より苦痛を味わうだけになってしまう。

 

「けれど…今回はもっと別の方法で倒す事にしましょう」

「別の方法…だと…?」

「えぇ。アナタを倒すのに最も相応しい技…真のフェニックスの奥義の一端をお見せしますわ」

「貴様…!」

 

 よりにもよって、フェニックス家である自分に対して『真のフェニックス』という言葉を使った姫子に対し、ライザーは確かな怒りを覚えていた。

 ギリッと歯を食いしばり、その握りしめた拳に紅蓮の炎を宿す。

 

「面白い…! ならば、やってみせるがいい!!」

「言われなくても…ですわ!」

 

 刹那の瞬きの間にライザーの懐まで潜り込み、彼の額目掛けて人差し指を突き立てる。

 そのまま姫子はライザーの前を通り過ぎ、背後へと回った。

 

「は…ははは…はははは…はははははははははっ!!! なんだ今のは? まさかとは思うが、今のがお前の言う『真のフェニックスの奥義』とやらかっ!? 蚊が刺したほども感じないぞ!!」

「そうですか」

 

 今の一連の行動で、完全に自分の方が格上だと確信したライザーは高笑いをしながら姫子に向かって炎を放つ!

 

「この俺の炎で、跡形も無く燃え尽きるがいいぞ!! くらえ!!」

 

 姫子の周囲が炎に包まれ、姫子自身もあっという間に燃え尽きる…と思いきや、何故か彼女は微動だにしていない。

 それどころか、その服も髪も肌も、微塵も燃えていない。

 

「な…なんだこれはっ!? どうして俺の炎が通用しないっ!?」

「どうして? まさかとは思いますけど…『炎を放つ』なんて単純明快な攻撃が、この私に通用すると…本気で思っていますの? だとしたら、随分と私も見縊られたものですわね」

 

 怪しい笑みと共に姫子が右腕をあげると、周囲で燃え盛る炎もそれに従うかのように揺らぎ始める。

 

「ほぉら…自分の炎で自分自身が燃え尽きなさいな!!」

「こ…これは一体どういうことだっ!? 俺の放った炎が俺自身に攻撃を仕掛けるだとっ!?」

 

 本来ならば炎なんて燃え移らない筈の身体が燃える。

 しかもそれだけではなく、自分の体の中からも炎が噴出し、ライザーの全身を燃やし尽くしていく。

 

「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! や…やめろぉぉぉぉっ!! 止めるのだ俺の炎よぉぉぉぉぉっ!! 俺はフェニックス!! 不死身の存在!! その俺が人間如きに!! 人間如きにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

 

 どれだけ暴れても、どれだけ足掻いても、全く炎は消える気配が無い。

 それどころか増々、炎の勢いは増すばかりだ。

 

「お……の……れ…………」

 

 やがて、ライザーの全身は灰と成り、粉々に崩れ去ってから原形を失った。

 その後、突如として吹いた風によって、ライザーだった灰の塊は無数の塵となって雲散霧消していった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

「…勝負あったな」

「え?」

 

 観覧席にて試合の行く末を見ていた一輝は、唐突に言い放ち目を閉じる。

 

「ど…どういうことだい? まだライザー君は立っているが…」

「ライザーが姫子から喰らったのは『鳳凰幻魔拳』。俺がアイツに教え、授けた技の一つだ」

「君が彼女に…?」

「ほほぅ…?」

 

 一輝から授かった技だと聞き、サーゼクスは冷や汗を流し、逆にフィリップスは興味深そうに目を細めた。

 

「相手の脳に直接攻撃を仕掛ける技で、一度でも喰らったが最後、無限にも等しき悪夢を脳内に見せられ、その精神をズタズタに引き裂く」

「精神攻撃か…!」

「その通りだ」

 

 確かに、精神に干渉する攻撃ならば、不死身の肉体を持つフェニックスにも十分に通用する。

 だが、サーゼクスはこれだけではないような気がした。

 

「そして、幻魔拳を受けた者は大幅に弱体化する。今のライザーは拳を握ることは愚か、足元を歩く蟻一匹すらも握り潰すほどの力も残されてはいない」

「ま…マジかよ…!」

 

 傍から見ていると、姫子がライザーの額を人差し指で突いただけにしか見えなかったのだが、まさかたったそれだけで、そこまで相手の事を弱体化させていたとは。

 紫龍の元で厳しい修行をしてきた一誠も、これには開いた口が塞がらない。

 

「だから言ったのだ。『勝負はついた』と。グレイフィアとやら。とっとと試合終了のアナウンスを流した方が良いぞ。アイツが両親の前で無様を晒す前にな」

「そ…それはどういう意味で…?」

「見ていれば分かる」

 

 一輝に言われた通り、全員が再びモニターに注目する。

 するとそこには、屹立した状態のまま全身を恐怖で震わせているライザーに向けて、再び人差し指を向けている姫子の姿があった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「あ…ああぁ…ぁぁぁぁ……」

 

 目に焦点が合っておらず、まるで何かに怯えるかのように全身に冷や汗を掻いて震えがっているライザー。

 たった一瞬で見る影もなく変貌してしまった兄の姿に、レイヴェルは戸惑いを隠せないでいた。

 

「お…お兄様の身に一体何が…? 姫子さんがお兄様を人差し指で軽く突いただけなのに、まるで別人のように変わってしまった…」

「大したことじゃありませんわ。ただ…」

「ただ…?」

「彼は長い長い悪夢を見てしまっただけ。私からすればたった一瞬の出来事でも、彼にはまるで無限にも等しい時間に感じてしまったでしょうね」

 

 そっとライザーの額に人差し指を持っていき、そのまま軽くペチンとデコピンを放つ。

 すると、それだけでライザーの身体は何の抵抗も無く地面の上に倒れ伏した。

 白目を剥き、口から泡まで吹いて。

 

『ラ…ライザー・フェニックス様…戦闘不能! よって、この勝負…川上姫子様の勝利!』

「ま…ざっと、こんなもんですわ」

 

 自分の勝利を告げるアナウンスを聞きながら、腰に手を当てて鼻から息を吐く。

 これまでに幾多の必殺技を放っておきながら、彼女自身には全く疲労の色が見えない。

 スタミナが半端じゃないのか、それとも技の威力を落として手加減をしていたのか。

 どちらにしても、姫子の実力は桁違いな事には違いが無いのだが。

 

「よくやったな姫子」

「一輝さま!」

「ひょわっ!? い…いつの間にッ!?」

 

 一瞬でグラウンドまで降りて来ていた一輝に姫子は年頃の少女らしい眩しい笑顔を見せ、レイヴェルはいきなりの事に全身をビクッとさせた。

 

「お前の戦い…たっぷりと見させて貰った。例え、多勢に無勢であったとしても決して怯まず、諦めずに立ち向かい戦い抜く。それでこそ真の聖闘士だ」

「ありがとうございます。今の私にとって最高の褒め言葉ですわ」

 

 歴戦にして伝説の勇者の一人である一輝に認められる。

 姫子にとって、これ以上に嬉しいことは無い。

 

「ここにはアテナも教皇もいないが、代理として俺が宣言しよう。川上姫子」

「はい!」

「今この瞬間、アテナはお前を真の聖闘士と認めた。そして、そんなお前にアテナから授ける物がある。上を見るがいい」

「上…? こ…これはっ!?」

「黄金の…箱…?」

 

 空からゆっくりと降りてきたのは、今までにも見てきた黄金の聖衣箱。

 それがギギギ…という音と共に開き、中から現れたのは…。

 

蛇遣座(オピュクス)黄金聖衣(ゴールドクロス)…!」

 

 金色に輝く大賢者を模したオブジェ。

 姫子の事を自身の主として認めたのか、ゆっくりと彼女の元まで降りてくる。

 

「今日からお前は、もうただの女子高生ではなくなった。これからのお前は『黄金十二宮(ゴールド・ゾディアック)』の十三番目の宮『蛇夫宮』の主にして十三人目の黄金聖闘士(ゴールドセイント)…」

 

 聖衣がバラバラに分解され、姫子の全身に次々と装着されていく。

 これまでとは全く違う着心地。

 自分の身体と完全に一体化したかのような感覚。

 これが黄金聖衣の本来の力!

 

蛇遣座(オピュクス)の姫子だ!!」

 

 こうして、ここに新たな黄金聖闘士が誕生した。

 幻とまで言われた聖衣を纏う新たな希望の闘士が。

 

 それは同時に、彼女がこれから幾多の戦いをするという運命の啓示でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はライザー編のエピローグですわー!

そして、その次は…?




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