ライザーとの決着がつき、私は正式に蛇遣座の黄金聖闘士として認められた。
この身に装着されている聖衣から感じる力は、これまでの比じゃない。
今までは単に借りていただけ。
でも、これからはもう違う。
歴代の蛇遣座の魂と、聖衣に宿りし魂が私に力を貸してくれている。
これが黄金聖衣…これが黄金聖闘士!
「あ…あなた…その鎧は一体…? それに、そこの貴方も…」
おっと。
完全にレイヴェルさんを放置してましたわね。
勝負が終わった以上、私と彼女の関係は赤の他人に戻った訳ですけど…。
「お前は…そうか。そこで無様に倒れている男の妹か」
「え…えぇ…そうですわ。それで、アナタは一体何者なのですか?」
「俺は、この戦いを見届ける為に偉大なる神によって遣わされた者。そして…」
瞬間、一輝さまの小宇宙が激しく燃え上がる。
それはまさに、全てを焼き尽くす紅蓮の業火の如く。
「嘗ては、お前達と同じ『フェニックス』を名乗り、今は『黄金の獅子』を名乗ることを許された男だ」
「アナタが…フェニックス…? なっ!?」
一輝さまの全身から真紅のオーラが立ち上る。
それはやがて形を成し、ある聖獣の姿となる。
「そ…そのオーラの形は…間違いない…
どうやら、レイヴェルさんは一輝さまの肉体に宿る存在の事を知っている様子。
まぁ…仮にもフェニックス家の御令嬢ですし、当然と言えば当然か。
「
それは、全ての邪悪を浄化する神なる鳳凰。
その羽ばたきで星々すらも砕き、未来を照らす金色の不死鳥!
「…どうやら、お前にも俺の小宇宙が見える…いや、感じ取れているようだな」
「コスモ…?」
「…いずれ分かる。お前が『真の不死鳥』になろうとすれば…いずれは…な」
「真の…不死鳥…」
あらあら。
流石は一輝さまと言うべきかしら。
どうやら、レイヴェルさんに何かを見い出したようですわね。
そして、そのレイヴェルさんと言えば…。
「素敵…♡」
はい。完全に恋する乙女になりました。
だって目がハートマークになってますし。
「ふぅ…一先ず、私の方はこれで一件落着…ですけど…」
後はグレモリー先輩の方…ですわね。
なんて考えていたら、転移の魔法陣を使って皆がグラウンドまで降りてきた。
「お義父様…兵藤さん…皆さんも…」
「よくやったね姫子。とても強く…大きくなった。今日ほど、お前を誇らしいと思った事は無いよ。おめでとう」
「ありがとう…ございます…」
なんだろう…黄金聖闘士になった時以上に、私の心が歓喜に震えている…。
血が繋がっていようが、いなかろうが、父の存在は偉大…ってことなのですわね。
「やっぱ…すげぇなぁ…川上さんは…」
「それ程でもありませんわ」
「出す技の全てが超凄かったし! 師匠が試合を見ろって言った意味が分かった気がするよ」
兵藤さんも、私の戦いを見て何か得る物があったみたいですわね。
それだけでも、ここに彼を呼んだ甲斐があったというもの。
紫龍さまは英断でしたわね。
「…一誠」
「う…うす!」
「忘れるな。お前が師と仰ぐ男は、誰よりも誠実で、誰よりも自分に厳しい男だ。故に奴は『聖闘士の要』とまで称されている」
「要…」
「いずれ遠く無い未来、お前も姫子と肩を並べて戦う時が必ず訪れるだろう。嘗ての俺達と同じように」
「一輝さん…」
「その時が来たら、自分の小宇宙を全力で燃やして戦え」
「はい! 分かりました!!」
レイヴェルさんとは別の意味で、兵藤さんに何かを見たみたいですわね。
もしかしたら、昔のご自身達と重ねているのかもしれませんわ。
「姫子さん」
「サーゼクスさん…?」
んで、こっちはこっちで神妙な面持ちですけど…どうなされたのかしら?
「正直、僕は君の事を心のどこかで侮っていた。けど、それは大きな過ちだったようだ」
まぁ…魔王と言う立場上、そればかりは仕方がないと思いますけど。
この機に、人間に対する価値観を改めてくれれば、ぞれだけで十分ですわ。
「まさか、本当にたった一人でライザー君とその眷属たちを倒してしまうとはね…。本気で恐れ入ったよ」
「私は単に、人間の持つ可能性を示しただけですわ」
「可能性…か。良い言葉だね」
この考えは、長寿である悪魔には余り無い考えだろう。
これらは全て、短命である人間だからこそ言える事なのだから。
「君には色々と聞きたい事が沢山ある。その身に纏われている黄金の鎧の事や、君自身の事。神器も無しに、どうしてあれ程までの強大な力を発揮できたのか…とかね」
「別に話すこと自体は構わないと思いますけど…ねぇ?」
「そうだな。全てを説明すれば、それこそかなりの時間を要することになる。少なくとも、この場でするべき話ではないな」
「…みたいだね。ちゃんと然るべき場を設けた方がよさそうだ」
「御理解いただけたようで何より」
伊達に魔王を名乗ってはいませんわね。
話が早くて助かりますわー。
「…姫子さん」
「どうしましたの?」
今度はレイヴェルさんのご両親。
敢えてここでは『ライザーのご両親』とは言いませんわー。
「ありがとう。これであのバカ息子も少しは頭を冷やすだろう」
「自分の血筋を誇りに思うのは良いけれど、だからと言って慢心して他者を見下すのは間違っているものね」
本当に…素晴らしいご両親ですわね。
それなのに、どうしてライザーのような男が生まれてしまったのやら。
「三男だからと言って、あまり厳しく育てなかったのがいけなかったのかしらね…」
絶対にそれが原因ですわよ。
因みに、ライザーの二人のお兄様たちはこんな事は無く、普通に人格者らしいですわ。
彼だけが例外的に我儘し放題のお坊ちゃんになってしまったのだとか。
「さて…私は私の成すべき事を成しました。今度はそちらの番ですわね。グレモリー先輩」
「…そうね。可愛い後輩がここまでお膳立てをしてくれたんですもの。ここで頑張らないと女が廃るわ」
ほぉ~…言うようになったじゃありませんの。
少しはマシな顔になりましたわね。
後輩に背中を叩かれないと前に踏み出すことも出来ない…というか、その考えにすら至らないってのは些か問題があるように思いますけど。
今はその事は飲み込んで心の中に仕舞っておきましょうか。
「お兄様。グレイフィア。フェニックス卿」
「うん。分かっているよ。約束は守ろう」
「はい。両家の会談の準備自体は、もう既に完了しております。リアスお嬢様が良ければ、いつでも始められます」
「ありがとう。では、お願いするわ」
「承知しました」
私の戦いは終わり、次は先輩の戦いが始まる。
一応、御武運だけは祈っておきますわ。
「姫子様。本日は本当にお疲れ様でした。お見事な戦い、私も心より感服いたしました」
「お褒め頂き光栄ですわ」
「では、私はこれにて失礼致します。お気をつけて、お帰り下さいませ」
最初に出会った時と同じように、丁寧な挨拶と共にグレイフィアさんは魔法陣の中へと消えていった。
「私もそろそろ行くわね。朱乃。アナタ達は川上さん達をお送りしてあげて頂戴」
「分かりましたわ」
どうやら、会談に行くのはあくまで先輩一人だけで、眷属の皆さんは同席しないみたいですわね。
これは自分の問題だから…ってことだからかしら?
「…川上さん。アナタの戦っている姿に勇気を貰ったわ。本当にありがとう。それじゃ…おやすみなさい」
…ふーん…そんな顔も出来るんですのね。
普段からそうなら、少しは周囲の評価も変わっていたでしょうに。
なんてことを考えながら、魔法陣で去っていく先輩の背中をジッと見ていた。
「では、我々も行くとしよう。レイヴェル」
「はい。ところで、お兄様はどうしますの?」
「放っておきなさい。アイツにはいい薬だ」
「はーい。では姫子さん。そして一輝さま♡ 失礼いたしますわ!」
レイヴェルさん…しれっと一輝さまのお名前を覚えていったし…。
しかも、去り際にウィンクまでしていった。
これは完全にゾッコン状態ですわね。
「…なんなんだ?」
「さ…さぁ…」
なんて言ったらいいのか分からないので、ここは敢えて誤魔化す事に。
兵藤さんも察してくれたのか、同じように目を逸らしてくれた。
「では、我々もそろそろ帰りましょうか」
「そうですね」
ということで、私達は姫島先輩が展開してくれた魔法陣を使って外に出る事に。
こうして、私は正式に黄金聖闘士と成り聖衣を授かることが出来たのでした。
グレモリー先輩がどうなったのかは後日、報告してくれるとの事。
結果発表が楽しみですわね。
因みに、ライザーは幻魔拳を喰らったまま全く起きる気配を見せず、彼が意識を取り戻して屋敷に戻ってきたのは明朝だったらしい。
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家に帰った私達を出迎えてくれたのは、まだ起きていたアーシアさんとコクトーさん達だった。
アーシアさんは眠たそうにしていたけど、やっぱり心配でおちおち寝てなどいられなかったのだとか。
聖衣はオブジェ形態となってから聖衣箱に収納され、今は私の傍に置いてある。
…で、私は無事に聖闘士となったので、当初からの予定通りアーシアさんを私の従者にする…のだけど…。
「あのー…コクトーさん?」
「どうしたのであるか?」
「るかー?」
「従者の契約って…何をどうすればよろしいんですの? 私、その辺の事は全く教わってはいないんですけど…」
アーシアさんと向かい合わせの状態でテーブルに座っているけど、ここからどうすればいいのかサッパリ分からない。
「別に、そこまで仰々しいことをする必要はないのである。適当にお前が任命すれば、それで十分なのである」
「へ? それだけ?」
「それだけである」
「あるー」
こう…儀式的なことをするとは流石に思っては無かったけど、それでも契約書的な物ぐらいはあるのかと思っていた。
適当に任命って…それでいのかしら…?
「で…では、アーシア・アルジェントさん!」
「は…はい!」
「これより、貴女をこの黄金聖闘士『蛇遣座の姫子』の従者に任命いたしますわ!」
「わ…分かりました! これからよろしくお願いします!」
「「………」」
なんかノリと勢いで言っちゃいましたけど…これで本当に良かったんですの?
「上出来である」
「本当にこれで良かったんですのッ!?」
なんだか不安な要素しか無かったように思えるんですけどッ!?
「心配は無用である。これでアーシアもアテナの庇護下に置かれた」
「たー」
「なら…いいのですけど…」
少なくとも、これでアーシアさんを狙っていたという貴族悪魔の男は手を出せなくなった。
アテナの加護があると言うことは、彼女に手を出すと言うだけでオリュンポスの神々を敵に回すと同義になるから。
それ以前の問題として、アテナの小宇宙がある限り、邪な考えを持つ悪魔では触れる事すら出来ないでしょうけど。
「ならば、これで俺は失礼する」
「一輝さま」
役目を終えたのか、一輝さまの身体が徐々に薄くなっていく。
時間が来た…という事なのですわね。
「私の立会人をして下さり、本当に感謝しております。ありがとうございました」
「…気にするな。俺としても良いものを見れた。俺達の新たな同志が誕生する瞬間に立ち会えたのは幸運だった」
同志…同志…ですか。
その言葉だけで喜びの余り、シャドーボクシングをしそうになりましたわー!
「ではな姫子。次に会う時は…」
「互いに戦場で…ですわね」
「そうだ。お前と共に戦える日を楽しみに待っているぞ」
それだけを言い残し、一輝さまは静かに去って行った。
「彼は不思議な男だね。クールなようにも見えて、その実はマグマのように熱い心を併せ持っている。まさしく『フェニックス』のような男だ」
「えぇ…その通りですわ。あの方こそ、この世で唯一『フェニックス』を名乗ることを許された人間…最強の聖闘士なのですから…」
次回、ライザー編のエピローグですわー!