もうそろそろ本格的に行かなくては…。
放課後になり、予定通り私は匙さんと一緒に隣町の高校前まで行くことに。
駒王学園と同様に、隣町にもまた高校は一つだけ。
故に、そこまで行くこと自体はそんなに難しくはなかったりする。
「ふむ…急いだ甲斐がありましたね。まだ下校が始まったばかりのようです」
「そ…それはいいけどさ…」
「はい?」
隣では何故か匙さんが息も絶え絶えな感じで膝を付いている。
一体どうしてしまったのかしら?
「か…川上って腕っぷしが強いだけじゃなくて…足も滅茶苦茶速いんだな…恐れ入ったぜ…」
「それ程でも」
普段は決して使わないのですが、今回ばかりはそうも言っていられないので、仕方なく匙さんの身体を抱えた状態で聖闘士お得意の高速移動を使う事に。
流石に光速の方はあれだったので、限りなくマッハに近い速度を出すだけに留めておいた。
それでも常人からしたら凄まじい速度になるでしょうけど。
「まるで超高速のジェットコースターにでも乗ったような気分だった…」
「あら。もしかして御気分でも悪くなってしまいましたかしら?」
「いや…もう大丈夫だ。少し休んだらよくなった」
「それは結構」
流石は若者。体力の回復の早いことで。
いや、今は私も立派な若者でしたわね。
「ふむ…こうして遠目で見ているだけでは、誰が誰だか見分けがつきませんわね」
「そりゃそうだろうよ。で、ここからどうする気だ?」
「決まっています。聞き込みですわ」
「だと思った…はぁ…」
溜息を吐いている匙さんを余所に、私は校門から出てこようとしている適当な女子に声を掛けてみる事に。
「あの…すみません。少しよろしいでしょうか?」
「んー? なにー…って、うわっ!?」
ちょっと。そんなに驚く事は無いんじゃありませんの?
流石の私も少しだけ傷つきますわ。
「その制服…もしかして駒王の子?」
「はい。確かに私は駒王高校の者ですわ」
「マジかー…噂には聞いてたけど、やっぱレベル高けー…」
レベルって何の話ですの?
RPGならば、よくやり込みプレイで全キャラのレベルをMAXまで上げたりしますけど。
「で、その駒王の子がウチの学校に何の用なワケ?」
「えぇ。実は……」
私が本題に入ろうとしたら、後ろから遅れて匙さんがやって来た。
呼吸が整っている様子から察するに、私が話している間も休んでいたようだ。
「川上さ…お前、初対面の相手と話すのに躊躇とかしねーのか?」
「躊躇? どうしてですの?」
「いや、だってさ…」
この方が何を仰りたいのか、いまいちよく分からないんですけど。
もしや、私の事をコミュ力お化けとか思ってません? 失敬な。
「わぉ…まさかの彼氏同伴。流石は駒王学園…未来に生きてるわー」
「彼氏? 誰がですの?」
「うぐっ!?」
匙さんがなんか後ろで胸を押さえて蹲っている。
どうかしたのかしら?
何かの御病気とか? それだったら、今すぐにでも病院に急ぐことをお勧めしますわ。
「この方は単なる知り合い…同級生ですわ」
「あ…そーなんだ。その割には彼…なんかダメージ受けてるけど」
「いや…確かに言ってる事は間違ってないんだけどさ……」
だったらいいじゃありませんの。
何をそんなに気にする事があるのかしら?
「っと…話が逸れましたわね。こほん」
軽く咳払いをしてからの仕切り直し。
「実は、この学校にいるという『天野夕麻』さんという方を探しているのですが…」
「天野夕麻? それなら……」
「「え?」」
徐に女子が隣を指差すと、そこには聞いた通りの特徴の女子高生がいた。
まさか…彼女が?
「あそこにいるけど? 夕麻~!」
「ん~? どーしたのー?」
黒いく長い髪…確かに特徴は一致する…けど、こんな大人しそうな子が本当にあんなにも行動力に溢れた事を?
いや…人間は見た目だけじゃ判断できないと言いますし…。
「この子達が夕麻に用事なんだって。知り合い?」
「ううん…知らないけど…」
そりゃそうですわ。
私達だって、貴方に会うのは今日が初めてですもの。
「あなたが『天野夕麻』さん…ですのね?」
「はい。そちらは……」
「失礼。私は駒王学園二年の川上姫子と申します。で、こちらが…」
「同じく二年の匙元士朗っす」
姫たる者、こちらから自己紹介をすべきでしたわね。
少し油断をしておりましたわ。今度から気を付けませんと。
「突然で申し訳ありませんが、今から少しだけ時間を頂くことは可能でしょうか?」
「今から…ですか?」
「はい。無理強いをする気はありません。ちょっと話をお伺いしたいだけですので。何かご用事があれば、そちらを優先して頂いても構いませんわ」
「いえ…大丈夫です。特に部活とかにも入ってないし、後はもう家に帰るだけでしたから」
「それは重畳。では、どこか落ち着ける場所へと移動いたしましょう」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
先程いた学校の近くにあった喫茶店。
その店内の一番隅の席にて、私達は向かい合うように座っていた。
「余りお時間を取らせるのもあれなので、単刀直入にお聞きします」
注文したアイスココアを飲みながら、私は自分のスマホの中にあった兵藤さんの顔写真を天野さんに見せた。
「この方をご存知ですか? 名前は兵藤一誠さんといいます」
「兵藤…一誠さん? いいえ…全く知らないです」
……やっぱりか。
さっき初めて会った時から、なんとなくそんな予感はしていた。
「兵藤の奴を知らないって…それマジか?」
「はい。本当に知りません」
「で…でも…君が昨日、駒王学園の校門前まで来てコイツに『好きです』って告白したって話が出てるんだよ。兵藤の奴は怪しがって告白を断ったけど、何度も同じ事を言ってきてしつこいから、最終的に一回デートをする事で妥協することになったって…」
「私が? この人に?」
「あぁ。しかも、その時に兵藤の友人二人も傍にいてちゃんと目撃してる。この川上がちゃんと証言を得てるから間違いないよ」
「そう言われても…知らないものは知りません」
…この様子から察するに、どうやら彼女は本当に兵藤さんの事を知らないようだ。
これ以上は有用な情報は得られないと見るべきですわね。
「そもそも、私はあんまりこの町から出た事がありません。特に駒王になんて滅多な事が無い限りは行きませんよ。そんなに距離が近いって訳でもありませんし…」
「確かにな。ってことは…これはどーゆーことだ?」
天野夕麻自身は駒王学園に行ったことは無く、それどころか兵藤さんのことすら全く知らない。
なのに、実際に昨日、彼女は校門前で目撃され、彼に堂々と告白をしている。
ここから導かれる答えは……。
「まさか…!」
頭の中で推理をしていると突然、天野さんが自分のスマホを見て『あっ』って顔をしていた。
「どうしました?」
「いえ…お母さんから急にメールが来て、帰りに買い物をしてきてほしいって…」
「そうでしたのね」
「そんなわけなので、もう行ってもいいですか?」
「勿論。いきなりの事でしたのに我々の話を聞いてくれてありがとうございました」
「いえ…では、失礼します」
丁寧にお辞儀をしてから、天野さんは自分が注文したドリンク代だけを置いて店から出て行った。
きっと、素晴らしいご両親がいらっしゃるのでしょうね。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
天野さんが去ってから、私は自分の視野の狭さに本気で呆れていた。
「結局…重要な手掛かりは得られなかった…か?」
「いえ…そうでもありませんわ」
「マジ?」
「えぇ。彼女の証言から、ある可能性が浮上しました。そして恐らく、これこそが真実に最も近いと思いますわ」
「なんなんだ? それは…」
自分を落ち着かせる為に、アイスココアを一気飲みしてからお替りを注文した。
店員さんが去ってから私は口を開く。
「…偽物…ってことですわ」
「それってつまり、誰かがさっきの天野って子の名前を使って勝手してるって事か?」
「その通りです。天野さんの容姿は、それこそやろうと思えば誰でも簡単に変装が出来る。もしくは、偶然にも天野さんと兵藤君に告白をした『偽天野さん』の容姿が酷似していた…」
「け…けど、どうしてあの子なんだ? 兵藤に告白した奴は、さっきの天野さんや兵藤に何か恨みでもあんのか?」
「兵藤さんに告白をした理由はまだ分かりませんが…天野さんを選んだ理由に関しては、そこまで深い意味は無いのかもしれません」
「深い意味が無い?」
匙さんが尋ね返してきたところで、お替りのアイスココアがやって来た。
ここのドリンクは普通に美味しい。
今後も私の行きつけのお店にしようかしら。
テレポーテーションを使えば移動は楽ですし。
「適当…だったのでしょう。さっきも言った通り、天野さんと似たような容姿はそれこそ沢山いる。黒く長い髪…これだけで人物を特定なんて出来ますか?」
「いや…かなり難しいと思う」
「でしょう? 似たような容姿の人間の中から偶然にも天野さんが選ばれた…きっとそれだけの理由なんじゃないかと思います。だって、黒髪ロングなんて、駒王にも沢山いるじゃありませんの。実際、生徒会にもいらっしゃるんじゃございません?」
「言われてみれば…副会長とかモロにそうだしな」
「いざとなればウィッグを用意すればいいですしね。あの手の髪型のウィッグは非常に手に入り易い」
全く…最初は普通に変だと思っただけだったが、これは予想以上に根が深い『事件』なのかもしれませんわね。
あの時、松田さんや元浜さん達の相談を受けたのは間違いじゃなかった。
じゃないと、この事に気が付くことすら出来なかったでしょう。
「運が悪かった…のかな…」
「かもしれません。天野さんの姿を借り、名を語り好き放題する。いざとなれば逃亡して姿を暗ます。そうすれば、後に残るのは身に覚えのない罪を着せられた本物の天野さんだけが残る」
「なんだよそれ…完全に犯罪だろ!」
「全くです。もしかしたら、兵藤さんと接触した女性は女子高生などではなく、その振りだけをした成人だった可能性もありますわ」
今時は童顔な大人も意外と多くいますし。
見た目だけじゃ全てを判断は出来ない。
「…これからどうする気だ?」
「支取会長は『限りなく黒に近いグレー』だと仰っていましたが、今回の証言によってそのグレーが更に濃くなった。ここまで来たらもう…白黒つけるしかありませんわ」
「おい…まさか?」
「その『まさか』…ですわ」
横で驚く匙さんにそっと微笑みかける。
彼が少しだけ顔を赤くしていたのは見なかった事にしよう。
「元浜さん達から兵藤さんがいつデートに行くのかを聞き出し、そのデート現場を尾行し、確固たる証拠を掴みます」
「やっぱり…」
「何も無ければそれでよし。何かあれば、その時は……」
指を動かしてボキボキと鳴らしながら、ほんの少しだけ小宇宙を燃やす。
本当に少しだけ。
「会長に言われた通り…私の『現場の判断』に任せて貰いますわ」
「ま…まぁ…お前なら、そこらの不良が束になっても楽勝だろうけど…」
そこらの不良?
自慢じゃありませんけど、その程度じゃ済まされませんことよ?
「兎に角、当日は私も行動します。匙さんは今日の事を会長にご報告して頂けませんこと?」
「…分かった。けど、マジで無茶だけはすんなよ。俺や会長もだけど…生徒会の皆はいつもお前に凄く助けられてるからな。何かあったら凄く心配する」
「ふふ…肝に銘じておきますわ。心配してくださって、どうもありがとう」
「お…おう……」
あら。さっきよりも顔が赤いですわよ?
気が付かないうちに疲労が溜まっていたのかしら?
その後、他愛も無い話をしてから私達は駒王町に戻った。
次回、原作に本格介入ですわー!