お待たせしてすみませんでした。
教会から派遣(?)されてきた二人組の少女がいなくなった直後、私のスマホに蘭子さんから着信が来た。
このタイミングでってのが、実に嫌な予感を加速させますわね…。
「蘭子さんって確か…」
「川上さんの親父さんの知り合いで、バーを経営してる情報屋の人…だよな?」
「その通りですわ」
取り敢えず、まずは着信に出た方が良いでしょうね。
てなわけでポチっとな。
「もしもし?」
『あっ! 姫子ちゃんッ!? 良かったわ~…ちゃんと出てくれて』
「えっと…どうか致しましたの?」
いつも余裕がある蘭子さんにしては、珍しく動揺している感じがする。
一体何があったのかしら?
『えっとね…姫子ちゃん。落ち着いて聞いて頂戴ね』
「ちょっと待ってくださいまし」
『どうしたの?』
「今から言う話って…もしかして、駒王町に何かが起きた的な話ですの?」
『え…えぇ…ある意味ではそうね』
「でしたら、皆も一緒に聞いた方がよさそうですわ」
『皆? って事は、あの時一緒にいた子達も傍にいるの?』
「えぇ。他にも私の友人達が勢揃いしてますわ」
『そう…確かに、この情報は出来るだけ多くの人間と共有していた方がいいかも知れないわね』
「では、今からスピーカーモードに切り替えますわ」
『了解よ』
速やかにスピーカーモードに切り替えてから、皆にも聞こえるようにテーブルの真ん中にスマホを置いた。
「これでよし…っと。もう大丈夫ですわよ」
『んっ…んっ…んっ…ぷはぁっ! え? もう大丈夫なの? 姫子ちゃんが切り替えている間に水分補給をしてたわ。驚きすぎて喉が渇いちゃったから』
それ程だなんて…本当に何があったというんですのよ…。
『えーっと…リアスちゃんにソーナちゃん…だったかしら? 元気だった?』
「はい。蘭子さんもお元気そうで」
「電話越しですけど、お久し振りです。その節はお世話になりました」
『別にいいのよ。こっちとしては『アッチ』の方が本業だし』
バー経営は副業だったんですのね。
てっきり、どっちも本業だと思ってましたわ。
「それで? 蘭子さんほどのお方が取り乱すだなんて、一体何があったんですの?」
『そうだったわ! 姫子ちゃん。それから他の子達も。落ち着いて聞いて頂戴ね』
ゴクリ…!
思わず唾を飲んじゃいましたわ。
『ほんの少し前…アタシの元にとんでもない情報が舞い込んできたの』
「それは?」
『…駒王町に『顔の無い者』の暗殺者が密かに侵入してきたらしいわ』
「「「「「「!!!???」」」」」」
は…はぁっ!?
このくそ忙しくなりそうなタイミングで、よりにもよって『顔の無い者』がやって来たですってっ!?
幾らなんでも洒落になりませんわよッ!?
『どうやら、今回の奴は姫子ちゃんを狙ってきた奴じゃなくて、純粋に誰かに雇われて『仕事』として来てるみたい』
「なんて反応していいのやら…」
狙われてない事を喜ぶべき…じゃありませんわね。
奴等に人間らしい倫理観なんて期待するだけ無駄。
仕事じゃなくても、快楽目的で平気で殺人を犯すような連中ですし。
『しかも、もう既に犠牲者が出ているわ』
「…どこのどなたですの?」
『駒王警察の警察官が二名。前にも言ったでしょ? アタシって色々な仕事を転々としてきているから、色んな所に太いパイプがあるって。その伝手で仕入れた情報なの』
「流石ですわ…」
これに関しては素直に『凄い』としか言えない。
情報と言うのは、ある意味で野菜以上に新鮮さが求められる。
世界の時間が今この瞬間も刻一刻と動き続けている以上、数秒前の情報が無意味になることだってザラにある。
『うち一人は即死。もう一人は辛うじて息が合ったけど、病院に搬送される途中で息を引き取ったらしいわ』
「…死因は?」
『毒殺らしいわ』
「毒…?」
『えぇ。しかも、只の毒じゃない。毒の成分を詳しく分析した結果、死因となった毒は既存のどの毒にも該当しない、完全に新種の毒だった事が判明したらしいの』
「新種の毒…ですって…!?」
ちょっと待ってくださいまし…。
って事はまさか…!
『未知の毒と言うことはつまり、少なくとも現段階では血清が存在していない。解毒する方法が全く無いと言うことになる』
解毒不能の毒を操る敵…!
なんて奴が町にやってきやがったんですのよ…!
『幸いなことに、毒自体には感染能力は無いみたいで、だからこそ救急車に運び込む事が出来たんだけど…』
「不幸中の幸いな事実…ですわね」
『喜んでいいのかは微妙だけどね』
全くですわね。
でも、一番最悪の事態を避けられる可能性があるってだけでもマシと考えますわ。
『それでね、その搬送途中で死亡した警官が最後に言っていた言葉があるのよ。それがどうしても気になって…』
「その人はなんと?」
『『毒の龍に襲われた』…そう言っていたらしいわ』
「毒の龍…?」
私達のような『裏』の事情を知っている者ならばいざ知らず、一般の警官が『毒の龍』なんて言葉を死ぬ直前に言うだろうか…?
普通ならば、意識が朦朧として放ったとされる妄言だと捉えられるだろうが…。
『勿論、他の警官や救急隊員たちは死に際に見た幻や意識が朦朧としたが故に行ってしまった妄言だと判断したらしいけど…』
「それが普通の反応ですわ」
『でも、姫子ちゃん達は違うんじゃない? 少なくとも『毒の龍』と聞いて、何か思う所があったんじゃないかしら?』
「そうですわね…正直、私にも何の事を指しているのかは分かりませんけど、でも…」
『でも?』
「決して無視していいような情報ではない…と、私の『姫としての勘』が激しく訴えてますわ」
『勘…ね。いいじゃない。どれだけ情報や経験があっても、最後の最後に頼りになるのは自分の中の勘だけよ。その『勘』は信じても良いと思うわ』
最後に頼りになるのは自分の勘…か。
流石は蘭子さん。良いお言葉ですわ。
『今の所、こっちが提供できる情報はこれぐらいね』
「いえいえ。十分過ぎますわ。ありがとうございます。このお礼はいずれ必ず…」
『あー…いいのいいの。気にしないで。今回のはこっちから勝手に提供しただけだし。また今度、姫子ちゃんの手作りのお弁当でも持って来てくれれば、それだけで十分よ』
「そ…それでいいんですの?」
『もっちろんよ! あのお弁当が、アタシの元気の源なんだから!』
「ふふっ…でしたら、今度作るお弁当は気合を入れて作らないといけませんわね」
『まぁっ! 今から楽しみな事を言ってくれるじゃな~い! それじゃ、またね~! 姫子ちゃん、この間も言ったけど、気を付けるのよ』
「はい。蘭子さんもお気をつけて。では、失礼しますわ」
ふぅ…なんだか疲れましたわ…。
蘭子さんと話すのは楽しいんですけど、話の内容が重すぎる…。
「…よもや、我等の危惧が現実になるとはな…。世の中、悪い予感程よく当たるとは良く言ったものだが…」
「当たって欲しくなかった予感だな…」
あー…クレイオスとソニアがげんなりしてる。
そりゃそっか。
コカビエルと同じぐらいの厄介事が降りかかってきたんだから。
「まさか、このタイミングで顔の無い者の暗殺者まで来るだなんて…!」
「これを『偶然』の一言で片付けるには余りにも…」
「楽観的…ですわね」
どうやら、グレモリー先輩と支取先輩も私と同じ考えのようだ。
まぁ…当然ですわよね。
「まず間違いなく、暗殺者はコカビエルが雇ったと考えるべきでしょうね」
「というか、その方が寧ろ自然だわ。恐らくは金銭で雇ったに違いないわ。グリゴリって無駄に金があるらしいから」
堕天使の金銭事情に『無駄』ってつける辺り、グレモリー先輩が堕天使をどんな風に思っているかが垣間見えますわね。
「けど…毒の龍…か。今回の暗殺者は、毒使いであり、同時に龍でもあるってことか?」
「龍でもあると言うよりは、『龍の因子を持っている』のかもしれん」
「そうだな。どれだけ異形で異質であるとはいえ、所詮は暗殺者だ。ドラゴンそのものが変質したとは考えにくい。となれば必然的に…」
「どこかで、なんらかの形で『龍を取り込んだ』可能性が高い…」
生物界の頂点に君臨する龍を取り込んだ暗殺者…しかも毒を操ると言うおまけ付き。
どう考えても、今まで以上の強敵になることは間違いないですわね。
「ふぅ…我ら二人が来たのは行幸だったか」
「黄金聖闘士が三人いれば、大概の事はなんとかなる。後は…」
「情報収集ですわね」
敵の正体や戦力、目的は分かっていても、相手の居場所が分からなければ全く意味が無い。
「な…なぁ…イリナ達は大丈夫か? あいつら、只でさえ目立つ格好してる上に偽物の聖剣まで持ってるから…」
「多分、心配はいらないと思いますわよ。兵藤さん」
「なんでだ?」
「向こうにも、殺す相手を選ぶ権利ぐらいはある…ってことですわ」
私達でも分かるぐらいの実力が、コカビエルや暗殺者に分からない筈がない。
半ば洗脳に近い形で自己肯定感を最大限まで上げた未熟者なんて、奴らは呆れて普通にスルーすると思いますし。
というか、私が彼らの立場なら間違いなくそうする。
「仮に襲われたりしても、殺されるまでには至らないでしょう。精々、剣を奪われた後に軽く痛めつけられた後にポイっと捨てられるのがオチですわ」
「その後に、我等の手で適当に『真央点』でも突いておけば問題無いだろう」
「真央点って…あー…あれか」
どうやら、ちゃんと紫龍さまから『真央点』についても教えられているみたいですわね。
感心感心…ですわ。
「真央点ってなんですか?」
「簡単に言うと、どんな出血もすぐに止める、胸の中央付近にあるツボの事ですわ」
「コイツを突くと、どんな大量出血もすぐにピタっと止まっちまうんだよ。ある意味、最高の応急処置だな」
塔城さんの質問に先輩らしく答えてみる。
偶には私もそれらしく振る舞わなければ。
「では先輩方。私達は今から町に繰り出してみますわ。彼女達の事も気になりますし」
「分かったわ。こっちはこっちで使い魔を使って町中を隅々まで調べてみるから」
「お願い致します。では、行ってきますわ。クレイオス。ソニア。兵藤さん」
「うむ」
「了解だ」
「おう!」
現状、自由に動けるのは人間である私達四人だけ。
勿論、いざとなったらそんなのは全く関係なくなりますけど。
さて…と。
まずはどこから回ってみようかしら…。
久し振りなのに、何とも言えないスローペース。
でも、この辺がキリが良いんですよね。
次回は、原作でもあった町中におけるゼノヴィア達との再会からになると思います。