やっと、ここから本当に本格的にバトル物になっていく…?
兵藤さんが例の偽天野さんとデートをする日。
私は元浜さんや松田さんから聞いた情報を元に、今日まで準備を進めてきた。
といっても、やった事は簡単な変装の道具を買い集めただけなんですけど。
気配や足音に関しては、修行の段階で限りなく無に近い領域にまで消す事が出来るようになっているので、私がドジさえ踏まなければ問題はありませんわ。
(あそこにいるのは兵藤さん。ということは、その隣にいるのが偽物の天野夕麻さん…ですのね)
髪型をポニーテールに纏めた状態で帽子を被り、眼鏡を掛け、服装は余り目立たないように黒メインで纏めている。
そして、私の手には本日の朝食であるあんぱんと牛乳もある。
尾行と言えばコレですわよね!
(はっはっはっ! 随分と面白いことをする娘っ子じゃのう!)
ふ…ふぇっ!? い…今、確かに天秤座の黄金聖闘士であらせられる童虎さまの声が脳内に聞こえたッ!?
え? もしかして私の事を見ていらっしゃるッ!?
(童虎よ。余り邪魔をするものではないぞ。彼女とて友人の為に真剣に頑張っているのだ)
(それもそうか。すまんかったの)
今度は先代の牡羊座の黄金聖闘士にしてムウ様の師で教皇陛下でもあるシオン様ぁぁっ!?
あ…あれ? なんだか急に別の意味で緊張してきましたわ…。
(こ…これは絶対に失敗は許されませんわね…! 兵藤さんの事を守るのも大事ですが、それと同じぐらいに偉大なる方々の御前にて無様を晒す事など決して有ってはならぬこと! 改めて気を引き締め直さなくては!)
はっ!? 二人が移動を開始し始めましたわ!
よし…こちらも尾行を始めますわ!
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ふむふむ…まずは無難にウィンドウショッピングから…と。
そもそも、碌にバイトもしていない男子高校生のお財布事情なんてたかが知れてますものね。
例え、今回のデートがしかたなく行われているのだとしても、やるからには妥協なんてしないでしょうし…これが彼なりに考えたデートプランなんでしょう。
当然ではありますが、今日は日曜日だったりします。
相手の正体はともかく、一誠さんは紛れもない一般の高校生。
そんな彼が仏に一日を消費出来る機会なんて日曜日を除けば祝日ぐらいしか存在しない。
休日という事もあり、商店街は人で溢れかえっている。
そのお蔭で隠れる場所には事欠かない。
(あら? 兵藤さんがポケットから何かを出して彼女と話している? あれは…もしや映画のチケット?)
妥当…実に妥当。
今までの人生の中で一度も女の子とデートなんてしたことが無い兵藤さんらしい考えですわ。
…そう考えると、これが彼にとって人生初めてのデートと言う事になるのかしら?
その相手が怪しさ大爆発だなんて…なんだか可哀想になってきましたわね。
「あのー…すみません」
「…………」
なにやら、すぐ後ろから若い女性の声が聞こえてくるけど、私には関係が無いので無視無視。
誰に話しかけているのかは知りませんけど、早く気が付いて差し上げなさいな。
「すみませーん」
「…………」
ちょっと? いい加減にしないと流石に可哀想ですわよ?
あ…向こうも動き出した? さっきの様子から察するに、今度の目的地は映画館!
駒王町にある映画館と言えば一ヵ所のみ。
場所さえ分かれば先回りする事なんて楽勝ポイポイ…ですわ!
「すーみーまーせーん」
「あぁ~…もう! うるさいですわよ! いい加減にしないとぶっ飛ばしますわ…よぉっ!?」
わぁっ!? ま…真後ろにいたぁッ!?
尾行に集中し過ぎる余り、後方注意を怠っていましたわ…。
不覚…! まだまだ修行が足りない証拠ですわ!
帰宅したらトレーニングメニューを一から見直さなくては!
「ちょっと、お時間よろしいですかー?」
「え? あ…はい」
この方…なんなんですの?
若い女性が町中で露出の多い格好なんてしてチラシ配りだなんて…この方の雇い主さんは一体何を考えてますの?
しかも、あの背中の蝙蝠っぽい羽根…あれって作り物…ですわよね?
非常に微弱ではあるけど、小宇宙も感じますし…。
「これ、よろしかったらどうぞー」
「はぁ…ありがとうございますわ」
姫たる者、例えどんな物であっても貰い物を無下にするなど論外。
そのせいで家には大量のポケットティッシュがありますけど。
「見た事の無い魔法陣が書かれた真っ黒なチラシ…?」
『あなたの願いを叶えます』って…怪しさ全開じゃありませんの。
ま、何もしなければ単なる紙切れですし…問題無いでしょう。
幸い、裏は真っ白みたいですし、細かく切ってからメモ紙にでもしましょうか。
姫たる者、無駄にゴミを出してはならない…ですわ!
「あっ! 話している間に見失ってしまいましたわ!」
さっきまでそこにいたのに、もういなくなってる!
仕方がない…こうなったら奥の手ですわ!
(光速移動…開始!!)
一瞬にして私は光となり、商店街を文字通り目にも止まらぬスピードで駆け抜けた。
他の人達から見たら、私の姿が一瞬で消えたように見えたでしょうね。
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光の速さで走ったお蔭か、兵藤さん達を余裕で追い抜いて映画館に先回りすることに成功した。
チラチラと視線を動かしつつ、一見すると何の映画を見ようか考えている風を装う。
(チケットを持っていたから、どれを見るのかは予め決まっている筈。そういえば…兵藤さんってどんな映画が好きなのかしら?)
流石にR-18な映画は無いだろうし…というか、ポルノ系の映画を上映しているような映画館なんて駒王町は愚か、今や日本中を捜しても非常にレアだろう。
だとすると、深夜アニメ系の露出の多い少女達が沢山出てくるハーレム系チート主人公…俗に言う『なろう系』…?
(最近は、どんな作品がアニメ化したり映画化したりするのか本当に分かりませんものねー…って、来ましたわ!)
考え事をしている間に兵藤さんと偽天野さんが映画館へと入ってきた。
二人は仲良さ下に話しているように見えるけど…私には分かる。
時折、偽天野さんの表情に負の感情が宿る事を。
目つきが鋭くなり、兵藤さんが余所を向き、尚且つ喧騒で騒がしくなった時を見計らって堂々と舌打ちをしている。
彼の事は誤魔化せても、この私の目だけは誤魔化せませんわよ。
(これは…グレーから完全な真っ黒になった瞬間…かもしれませんわね)
そういえば、二人は一体何の映画を見ようとして…って!?
あれは…戦艦でヤマトな宇宙のアレですのっ!?
私も大好きな超大作SFアニメの金字塔!!
兵藤さん…分かってるじゃありませんの!
よし…これは私も周りに紛れ込むという意味で本腰を入れて楽しむしかありませんわね!
ちゃんと上映前にジュースとポップコーンを購入して…っと。
「すみません。この二つをくださいな」
「はいよ」
これでよし。
さぁ…楽しみますわよ~!
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「う…うぅぅ…感動しましたわ~…」
流石はヤマト…最後の一瞬まで気が抜けない怒涛の展開の連続でしたわ…。
まさか、あそこであんな展開が待っていようとは…。
この二時間だけで一生分の涙を消費したような気分ですわ…。
「感動するのはここまでにして、尾行を再開しなくては。どれどれ…?」
二人は備え付けのベンチに座り何かを話している様子。
恐らくは映画の感想でも言っているに違いない。
あんな大感動巨編だったのですから、それこそは話題なんて山ほどある筈ですわ。
(喧騒のせいでよく会話が聞こえないけど、そこは口の動きを読む『読唇術』でどうとでもなりますわ!)
え? 読唇術も修行で体得したのか…ですか?
いいえ、違いますわ。これは独学で身に付けましたの。
姫たる者、口の動きぐらい余裕で読めてなんぼ…ですわ!
(どうやら、お昼を食べに行くつもりみたいですわね。確かにいい時間ですし…)
私もお腹が空きましたわ…。
後々の事も考えて、お腹に溜まるものを食べたいですわ。
無論、さっきのジュースとポップコーンは別腹ですわ!
(今度もまた先回りをしたいところですけど…映画館とは違って飲食店なんてそれこそ沢山ある。特定をするのは難しいですわね…)
また地道に後ろから着けていきますか。
結局、それが一番確実ですわよね。
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二人が昼食を食べに入ったのはファミレスだった。
冷静に考えれば、値段の高い洒落ている飲食店になんて入れませんわよね。
因みに、私は二人を監視しつつ一番値段が高くてボリュームのあるステーキ定食を頼みましたの。
歯ごたえがあって美味しかったですわ~♡
昼食後も二人は色んな所を回り、時間はあっという間に夕闇が支配する時間帯に。
今のところは何も無かったですけど、だからと言って油断は禁物。
人間は最後の最後にこそ最も油断をする生き物なのですから。
(二人がどこかに入っていって…公園?)
そこは、昼間ならば色んな人々で賑わっている中央公園。
私も今までに何度も訪れた事のある場所。
こんな場所で一体何を…?
「な…これはっ!?」
突如として公園の周囲が斑色の結界に覆われた。
結界の質自体は大したことは無いけど、問題なのは『結界が張られた』という事実。
つまり、結界を張った者が公園…もしくは近くにいるという事だ。
「嫌な予感が大的中ですわね! 急がなければ!!」
私は迷う事無く公園の中へと入っていき二人を捜した。
公園自体はそこまで広い場所ではないので、見つけること自体は容易な筈だ。
「小さいけど小宇宙を感じる…! 向こうですわね!」
小宇宙を感じた場所へと急ぐと、そこにはボンテージのような格好へと変貌し、背中から黒い羽根を生やして宙に浮いている偽天野さんと、突然すぎる出来事に呆然となっている兵藤さんがいた。
「ビンゴ…ですわ! しかも、偽物の正体が『堕天使』だったなんて!」
小宇宙が小さすぎて逆に気が付かなかった!
これがもっと分かり易く大きければ簡単に特定できたのに!
私が自分の未熟さを恥じていると偽天野さんの手に光で形成された槍が出現した。
まさか、あれを使って兵藤さんを殺害しようとしている!?
そうは問屋が…降ろしませんことよ!!
彼女が槍を振り被った瞬間、私は己の小宇宙を全力で燃やした!
「クリスタルウォォォォォォォル!!!」
次回は兵藤さんの視点からお送りしますわー!