ま…いっか。気にしたら負けだ。
聖剣…と言うか、主にエクスカリバーや教会の裏の部分について話し合った直後、私の目の前には土下座をしている紫藤さんとゼノヴィアさんがいた。
「何も知らなかったとはいえ、本当に失礼しました!」
「まさか、君が真のエクスカリバーの正当な継承者だったとは…!」
「いやいやいや…私は全く気にしてませんから、頭を上げてくださいまし」
いきなり土下座をされる方の身にもなってくださいませんこと?
割と本気で戸惑いますのよ?
「フッ…ようやく我が王の偉大さに気が付いたか」
はいこそ。追い打ちを掛けない。
「イ…イリナ。そろそろ顔を上げろって。川上さんも困ってるしさ」
「そ…そうね。過度な謝罪は逆に失礼よね…」
紫藤さんは日本出身だからか、すぐにこっちの気持ちを理解してくれた。
こんな時、同郷ってのは助かりますわー。
「わ…私って、物凄い人の従者になっちゃったんですねー…」
「アーシアさんも、別に気にしなくてもよろしいですわよ? 今まで通り接して頂ければ」
流石にアーシアさんにまで畏まれたら泣く自信がある。
それはかなり辛いですわ。
「やっぱ、俺ちゃんの見込み通り…嬢ちゃんは只者じゃなかったか」
「ほぅ…? フリードは前々から王の偉大さを知っていたか」
「そりゃまぁね…。あんなのを目の前で見せられちまったら…な」
そういや、フリードさんは私がレイナーレをぶっ飛ばした瞬間を目撃していたんでしたっけ…。
ほんの少し前の出来事の筈なのに、随分と懐かしく感じますわ。
「報告は聞いていたが…姫子は一体どんな戦い方をしたんだ?」
「さぁ…」
少なくとも、聖闘士として恥じるような戦い方はしてませんわよ。
それだけは神…アテナ様に誓っても良いですわ。
「おほん。取り敢えず、聖剣に関する話はこれで終わり。今度はランスロット…貴方についてお聞かせ願いませんこと?」
「王の命令とあらば喜んで」
別に命令じゃないんですけど。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
何から聞こうかと迷ったけど、ここはいっそストレートに尋ねてみる事に。
「では、直球でお尋ねしますわ」
「なんなりと」
「アナタは…本当にあの『聖杯伝説』に登場する『円卓の騎士』の一人である『サー・ランスロット卿』なんですの?」
「はい。私は間違いなく、円卓の騎士の一人であるランスロットでございます」
微塵の迷いも無く答えてみせた。
少なくとも私には、彼が嘘を言っているようには見えなかった。
「どうして、本物のランスロット卿が現代に?」
「それを語るにはまず、『今の我』のことを説明する必要があるでしょう」
「今の貴方…?」
なんとも含みのある言い方ですわね。
けど、ここは敢えて変な横槍は入れずに話を聞くことに集中しましょうか。
皆さんも同じ気持ちのようで、特にこれといった事は言わずに黙って聞いている。
「今の我は『円卓の騎士』であり、『円卓の騎士』ではありませぬ」
「どういう…意味ですの?」
「今の我は…己が『
「闘士…!? では…貴方は…!」
思わず冷や汗が頬を伝う。
心臓がバクバクと大きく鼓動する。
「アテナを守護する戦士を『
「グラディ…エーター…」
聖闘士…海闘士…冥闘士…神闘士に続く第五の闘士…!
それが剣闘士…!
「聖闘士が『
「それはつまり…」
「我等の聖衣がオブジェ形態から鎧に変形するように…」
「聖剣が分解されて鎧に変形する…ということですの…?」
聖剣こそが剣闘士にとっての聖衣に該当する…という認識で良いのかしら…。
「故に、今の我は剣闘士『
「裏切りとは…また怖いですわね」
「ご安心を。この名はもう二度と誰も裏切らぬと言う我なりの決意の表れ。己が罪を償うのではなく、未来永劫背負っていく決意」
罪を背負う…か。
生半可な覚悟で出来る事じゃない。
それだけ彼も本気…と言う事ですわね。
「剣闘士という呼称があると言う事は、アナタ以外にも剣闘士がいる…と見ていいんですのよね?」
「えぇ。聖剣の数だけ剣闘士は存在している。我等の定義では、貴方様も立派な剣闘士なのです」
「私が…エクスカリバーを継承しているから…?」
聖闘士であり剣闘士でもある…か。
なんだか複雑ですわね。
「でも、どうして剣闘士が現代に蘇っているのですか?」
「…『神話』の中で称えられし数々の『聖剣』…。『神話』の数だけ『聖剣』が存在し、其の全てが己が聖剣こそが最高位であると謳う」
「…そうでしょうね」
なんか微妙に話が逸らされましたわ。
「では王よ。一つお聞きします」
「何かしら?」
「『聖剣』同士がその白刃で全力で切り結べば…一体…どうなると思いますか?」
聖剣同士が全力でぶつかれば…それは…。
「一振りが折れて…もう一振りが残る…?」
「その通りです。我が王よ」
当たりましたわ。
「一度『聖剣』同士が斬り合えば、その度に次々と折れ、やがて最後の一振りとなる。それこそが真の『聖剣』」
聖剣同士の…戦い…。
「我等がどうして現代に降臨したのか…その原因は我にも分かりませぬ。だが、その『理由』は分かっている」
「それは?」
「戦う為」
「戦う? 聖剣を持つ者と?」
「えぇ。それを我等は『聖剣戦争』と呼んでいます」
「聖剣…戦争…」
どこかで似たようなフレーズの言葉を聞いたことがあるような気がしますけど、ここは敢えて考えないようにしますわ。
「この駒王町で『聖剣戦争』を行う…と?」
「本来ならば」
「本来ならば? では、今は違うと?」
「仰る通りです。どういう訳かは我にも分かりませんが、この世界では何故か聖剣戦争は勃発していない。なのに何故か剣闘士は降臨している」
この様子…どうやら、本人達もどうして自分達が今の世界にいるのかよく分かっていないようですわね。
「故に、我等は己が望む事をやっている。ある者は強者との戦いの為に。またある者は生前出来なかった事をする為に」
「ランスロットは何を?」
「決まっております。我の願いは只一つ。今度こそ王の傍に控え、王と共に生き、王と共に、王の敵と戦う。それだけです」
ぶれないですわねー…。
それだけ愚直ならば逆に安心出来る…かも?
「今、この町には我以外にも二名の剣闘士が存在しています。そうであろう? フィリップス」
「え?」
どうして、ここでお義父様に話を振って…?
ま…まさか…?
「ふぅ…君も存外イジワルだな。ここでワザと私に話を振って来るとは」
「いかに貴様が王の養父と言えども、王の前での隠し事は決して許さん」
「ははは…参ったね…どうも」
いつもの渇いた笑い。
でも、今のはなんだか雰囲気が違ったような気が…。
「お義父様も…ランスロットと同じ…?」
「そうだ。私もまた現代に降臨した剣闘士なのだよ」
「「「「「!!!???」」」」」
普通じゃないとは思っていた…思っていたけど…これは流石に予想外でしたわね…。
「私は『
「アゾット…」
それって、聖剣と言うよりは魔法の短剣的な物だったような気が…?
そこら辺の知識は薄いから良く分かりませんわ。
「まぁ…剣闘士と言っても、私にとっては単なる異名に近い。本来の私はあくまで錬金術師だからね」
「では、お義父様の目的とは…」
「昔と同じ、錬金術の研究さ」
ほんと…この人も別の意味でブレないと言うか…。
僅かでも心配した自分が恥ずかしいと言うか…。
「その剣闘士が、どうして姫子の養父になっている?」
「なに。そこまで込み入った理由は無いよ。単に、現代に降臨した後に姫子の実の両親と知り合って、その後に友人となっただけさ。それから少しして、姫子の両親が事故で亡くなった。二人は貴重で大事な友人であると同時に、大きな借りも沢山あった。それと同時に、幼いながらも天涯孤独の身となってしまった姫子を不憫に思ってね。遺産目当ての親戚連中を黙らせてから、私がこの子を引き取って養子にした…と言う訳さ」
…そう言えば、当時の事をお義父様から聞いたのってこれが初めてですわね。
気を使ってくれていたのか、お義父様は決して昔の事を語ろうとはしませんでしたから…。
「私自身、聖剣戦争にも戦いにも興味は無い。このまま穏やかに日々を過ごし、錬金術の研究が出来ればそれで満足だと思っているよ」
「そうであろうな。貴様からは全く覇気を感じられん」
「私は戦士ではなく、あくまで研究者だからね」
こちらとしても、お義父様が戦うイメージが全く湧きませんわ。
「だから安心してくれ。君達にも姫子にも害をなす気は微塵も無いよ」
「それは分かる。貴方からは悪意ある小宇宙は微塵も感じないからな」
「姫子にこれだけ慕われている時点で疑う余地などないだろう」
「だよなー」
「私もお世話になりっぱなしですし…」
「我も特に気にしないのである。アテナもそう言っているのである」
「あるー」
…ですって。
心配するだけ野暮でしたわね。
「ランスロット以外にいると言う剣闘士の内の一名がお義父様なら、もう一人は一体何者なんですの?」
「奴は中々に危険な男です。剣士として、騎士として最強の実力を持ちながらも、誰よりも闘争に飢えている」
「それを聞くだけでも厄介な相手だって分かりますわね…」
はぁ…参りますわね。
コカビエルだけでも頭が痛いのに…。
「ですが、話の通じない相手ではないので、無用な争いは避けられるかと」
「それだけが唯一の救いですわね…」
流石に戦闘狂のような奴の相手は普通にゴメンですわ。
ただ只管に疲れるだけですから。
「これからランスロットはどうするつもりなんですの?」
「無論、王の敵と戦います。目下のところは、王の住む町に潜んでいると思われるコカビエルの打倒を目的にしようかと」
「つまり、貴方は味方であると思ってよろしいんですのね?」
「はい。フリードも好きに使ってくれて構いません」
「…だそうですけど?」
「俺の意志は!?」
無いでしょうね…この分だと。
「まぁ…コカビエルの野郎と一緒に負け戦をするよりはずっとマシか…」
「王がいる時点で勝利は確定したも同然。大船に乗った気でいるがいい」
「へいへい」
勝手に私を神輿にしないでくれません?
私自身は黄金聖闘士であると同時に、どこにでもいる女子高生のつもりなんですから。
でも、頼もしい仲間が増えた事は事実。
これでまた盤石の準備でコカビエルと戦えますわ。
また先輩達に報告すべき事が増えましたわね…はぁ…。
やっと説明会が終わった…。
次回こそは話が進めばいいな…。