私が黄金聖闘士となった日から、よく決まって同じ夢を見るようになった。
その『夢』の事を私はよく知っているのに、不思議と変な感覚があった。
年代的には遠い『過去』の筈なのに、どうしてか私には遠い『未来』の光景のように感じたからだ。
『過去』と『未来』が入り混じった奇妙な夢。
それは深淵の闇の中から始まる。
何も無く、何も感じない。
だけど、知らない内に私は『ソコ』に立っていた。
私は
やがて、眼前に一つの景色が広まっていく。
私は、
巨大なる…終章の刻まれし、神以外の存在を全て阻む大いなる壁の前に屹立していた。
その壁の名は『嘆きの壁』。
地獄の終着点。冥界の果てにあるとされる壁で、その向こう側には神々の楽園と呼ばれる『エリシオン』があるとされている。
それを見た瞬間、私は全てを理解する。
私は…否、『私達』は未来を育むための道標となる為に、今ここで死ななければならないと。
そう…ここにいるのは私だけじゃない。
私以外にも、黄金の鎧を身に纏う、神によって選ばれし十二人の最強の勇者たちが集結していた。
そして、そこに加わる
我々の気持ちは全くの同じ。
目の前にある『その壁』を
それは自分達の完全消滅と同義だった。
絶対的な死を目前としながらも私は…いや、私達十三人に迷いなんて微塵も無かった。
この
その瞬間、不思議と私は心からの幸福感に満たされていた。
私達十三人には、眼前の巨大なる障壁を…人間を拒絶する存在を『
神以外の全ての存在を阻む絶対不可侵の壁であったとしても、必ずや光明が降り注がれる。
そんな風に思えたのはきっと…。
本来ならば出会えるはずの無い最高の英雄達…そんな彼らと最後の一瞬を共に分かち合えることが出来たから。
私達十三人の命で生み出された光明と共に放たれた黄金の矢が嘆きの壁を撃ち『
あの時、私はきっと……。
掛け替えのない黄金の仲間達と一緒に…心の底から笑っていた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「また…あの『夢』を…」
ベットの上で頭を抱えながら、私は先程の夢を思い出す。
詳細な事までハッキリと思い出せる夢を。
冥王ハーデスの最終決戦直前に起きた出来事。
死した筈の黄金聖闘士たちが全員復活し、十二人の力を合わせて最強無敵である筈の嘆きの壁を破壊し、星矢様たち五人に命を掛けた突破口を開いた。
「なのに…どうして私があの場面に加わって…」
真の聖闘士となった以上、あれが単なる夢とは思えない。
もしかしたら、私は遠い将来…あの場面にタイムワープでもするのかもしれない。
あの夢は、それを示唆する『予知夢』なのではないのだろうか。
余りにも突飛すぎるとは私も自覚している。
なので、この事はまだ誰にも話していない。
もし話す時が来るとしたら、それはきっと……。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「…と言う訳で、彼女達に理解して貰いましたわ」
放課後のオカ研部室。
兵藤さんやクレイオス、ソニアたちと一緒にもう毎度のようになっている報告会をする事に。
勿論、生徒会からは支取先輩も来ている。
「それは分かったけど…」
「どうかしましたの?」
「まさか、本物のランスロット卿が現れるとはね…流石に想像もしてなかったわよ…」
ですわよねー。
つーか、誰も想像もしないですわよ普通。
「しかも、彼は川上さんの事をアーサー王だと勘違いしているんですよね?」
「えぇ…それが一番の頭痛の種なんですのよね…」
どれだけ実名で呼んでほしいと言っても『王』呼びの一点張り。
最終的にはこっちの方が折れましたわよ…。
「しかも、剣闘士グラディエーター…ね。ランスロット卿の話じゃ一人二人じゃないのよね?」
「そのようですわ。恐らくは『聖剣』の数だけ剣闘士もいると考えた方が良さそうですわ」
「それ…本当にキリが無いんじゃ…」
あぁ…塔城さんに私が最も懸念している事を言われてしまった。
彼女の言う通り、聖剣なんてそれこそ世界中に存在している。
この日本だって決して例外じゃない。
後は
もし、それらの剣闘士がいるとしたら、間違いなく
日本人として、流石に彼と戦うような事はしたくない。
「しかも、あの時に遭ったはぐれ神父までもがこっちの味方になるとはね…」
「フリードさんの場合、単純に彼我の戦力差を知った上での選択らしいですわ」
「確か彼は、一度コカビエルとも会っているのですよね?」
「らしいですわ。その時に協力するように言われたらしいですが、この町に私達のような存在がいる事を知って、コカビエルに付いても負けるだけだと判断して誘いを断ったらしいですわ」
「賢明な判断ね」
黄金聖闘士が三人もいる上に、聖闘士としての修業をした小宇宙に覚醒した赤龍帝である兵藤さんもいる。
冷静に考えれば、どれだけ無謀な戦いなのかは一目瞭然だ。
しかも今回はそこに円卓の騎士であるランスロットまで加わっている。
ここまで来るともう逆にコカビエルの方が哀れになってくる。
「恐らく、発見さえすればコカビエルの打倒自体はさほど難しくは無いでしょう。問題があるとすれば…」
「『顔の無い者』の暗殺者のほうですね…」
支取会長の仰る通り。
あっちの方がコカビエルよりも遥かに強大で危険性が高いですわ。
戦争狂でイキってるコカビエルとは違い、暗殺者達は『殺害』という行為自体に快楽を感じている集団。
ハッキリ言って、こっちの方が圧倒的に質が悪い。
「そう言えば、監視役としてコカビエルに洗脳された人はどうしたの?」
「私達の手で洗脳を解除してから警察に保護して貰いましたわ」
「流石は川上さん。見事な判断ですね。リアスとは大違いです」
「うぐっ…!」
支取先輩の発言でいきなりグレモリー先輩が胸を抱えて苦しみだした。
自覚があるってことですわね。
「念の為に、洗脳が解けた直後に少し話を聞いてみたのですが…」
「どうやら、洗脳されてた時の事は何にも覚えてないみたいッス。いつの間にか意識を失ってて、気が付いた時には見知らぬ場所にいた…的な感じで」
兵藤さんが私の話の補足をしてくれた。
地味に助かりますわー。
「そう…それじゃあ、彼らからの情報は期待できないのね…」
「ところで、彼女達とランスロット卿たちはどうしてるんですか?」
「ゼノヴィアさん達は今日も町に出てコカビエルの手掛かりを探していて、ランスロットとフリードさん達はコカビエルに洗脳されて監視役にされた方々の捜索を優先しつつ、ゼノヴィアさん達の様子を見ながらコカビエルの事も探すと言っていましたわ」
「流石は円卓の筆頭騎士…器用な事をするんだね」
何やら木場さんが感心しているけど、本当は単にフリードさんをこき使っているだけですわ。
ランスロット曰く『今のフリードは円卓の騎士見習い兼自分の従者』らしいですから。
「今日もまた貴女たちも捜索に行くの?」
「それなんですけど…今回は今までとは少し手法を変えようと思いまして」
「と言うと?」
「これは我々で話し合った事なんですけど、このまま普通に探していても埒が明かないので、向こうからこちらに誘い出すつもりだ」
「「「「誘い出す…?」」」」
「もしや…」
クレイオスの言葉にオカ研メンバーは小首を傾げ、逆に支取先輩はすぐに察した模様。
こーゆーところで差が出ますわねー。
「今日の夜、町のど真ん中で堂々と私達四人で小宇宙を燃やしますわ」
「普通の人間には分からねーけど、コカビエルの野郎なら必ず気付く筈だ」
「今までずっと感じられなかった強大な力がいきなり複数も現れたら、流石の奴も動かざる負えないだろう」
「本当ならば、この方法は余り使いたくなかったのだがな。下手をすれば、コカビエル以外の『余計な連中』も呼び寄せる可能性もある。だが、ここまで巧妙に隠れられたら、こちらもそれ相応の手段を持って対応するしかない」
要するに、私達の小宇宙を餌にして誘き寄せよう大作戦ですわ。
後でちゃんとランスロット達にも教えますわ。
「大胆な事をするのね…大丈夫なの?」
「仮に強襲を受けても問題は無いですわ。唯一の懸念材料は、コカビエルと一緒に『顔の無い者』の暗殺者も一緒に出てくる可能性ですけど…」
「これに関しては完全な賭けだな。コカビエルが戦力を温存してくるような慎重な性格であることを祈るばかりだ」
ここまで尻尾を掴ませないような奴ならば、安易に切り札を使うような真似はしないと思うんですけど…油断は禁物ですわね。
「私達に手伝えることはあるかしら?」
「もしかしたら、今日がコカビエルとの戦いになる可能性がありますわ。可能な限りリアルタイムで情報の共有をしたいので、出来ればお二人の使い魔を一匹ずつ私達に同行させて欲しいですわ」
「何かあればすぐに駆けつけられるように…ですね。分かりました」
「狙われているのは私達…無策で自分の身体を曝け出すような真似だけは避けなくちゃね」
あら?
グレモリー先輩から意外過ぎる発言が。
てっきり『使い魔を同行させるぐらいならば、自分が一緒に行く』ぐらいの事を言われると思っていたのに…。
「それじゃあ、時間が来たら場所とかを知らせて頂戴。貴方達の元に使い魔を寄越すから」
「分かりましたわ」
こうして、コカビエル打倒の為の私達の大胆不敵過ぎる作戦が決行されるのであった。