駒王町中央区 駒王ビル屋上。
空はすっかり暗くなり、町の宵闇を周囲の建物や看板などの灯りが鮮やかに彩る。
夜になっているとはいえ、まだまだ町は喧騒に溢れていて、至る所に人々が闊歩していた。
「俺…こんな時間に外に出るのって初めてかも…」
「健全な学生ならば、それが普通ですわ。今回は例外中の例外ですから」
不安そうにしている兵藤さんだったが、それは今回の作戦の成否がどうこうというよりは、シンプルに『高校生の身で夜の外に出る事』によるところが大きいみたい。
私だって、本当ならば夜に外を出歩くような真似はしたくはありませんけど、このままではいつまで経っても堂々巡りになるだけ。
ここは、多少のリスクは覚悟の上で強硬策に出るしかない。
屋上にいるのは私と兵藤さん、クレイオスやソニアだけでなく、ランスロットとフリードさん、紫藤さんにゼノヴィアさんも一緒だった。
「まさか、私達の知らない所でそんな作戦を立てていたなんてな…」
「でも、本当に大丈夫なの? 姫子ちゃん達が今からしようとしてる事って、要するに撒き餌をばら撒くみたいな事でしょ?」
紫藤さん…日本出身なだけあって、中々に良い例えを言いますわね。
「王が決めた作戦だ。大丈夫に決まっておろう。一体何を心配する必要がある」
そして、こんな時もランスロットは平常運転…っと。
まだ出会って短いですけど、彼の人物像と言うのがなんとなく分かってきましたわ。
「いや…旦那のその嬢ちゃん全肯定っぷりはなんなのよ…」
フリードさんが私の心情を代弁してくれた。
地味にサンクスと言って差し上げますわ。
「む? 姫子よ。来たみたいだぞ」
クレイオスが空に視線を向けると、そこには小さく可愛らしい蝙蝠が二匹、パタパタと飛んできて、そのまま紫藤さんとゼノヴィアさんの肩に止まった。
「この子達が、リアス・グレモリー達の使い魔?」
「えぇ。リアルタイムでこちらの事を見ているので、電話よりも情報伝達が早いんですの」
「へー…」
紫藤さんが使い魔蝙蝠のアゴをコチョコチョとすると、小さく『キュイ』と鳴いて気持ちよさそうにしていた。
「意外と可愛い鳴き声なのね…」
「か…可愛い…」
ゼノヴィアさんの意外な台詞を聞いた気がする…。
もしかして彼女、根っこの部分はかなり女の子だったりします?
「準備も完了した事ですし、そろそろやりますか」
「「了解」」
「おう!」
私の言葉に皆が頷く。
「ランスロット。今から私達は小宇宙を燃焼させる事のみに全力集中します。戦闘中とは違い、その間は完全に無防備になってしまう。ですので…」
「承知しております。王の御身と、その同胞たちは、このランスロットが必ずや守ってみせるとお約束致します。王は心置きなく、己が使命を全うしてくださいませ」
「ありがとう。貴方が味方で本当に良かった」
「なんと勿体無きお言葉…。このランスロット…感激の極みであります」
この程度で感激してくれるのなら、幾らでも言ってあげますけど。
っと、それはさておき。
「では…参りますか」
私はその場で座禅を組み、両手を胸の前に持ってくる。
後ろの右側にはソニアが、左側にはクレイオスが立って、真ん中に兵藤さんが位置した。
「遠慮はいりませんわ…一気に最大まで燃やしますわよ!」
「言われるまでも無い!」
「我等の持つ黄金の輝きで、この宵闇を照らして見せよう!」
「よぉーし…いくぜぇっ!!」
「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」」」」
体の奥底から溢れ出る小宇宙を迷う事無く燃やし尽くす!
私達の周囲に衝撃波が生まれ、髪が逆立っていく!
「轟け!!」
「研ぎ澄ませ!!」
「穿て!!」
「燃えろ!!」
「「「「我等の小宇宙よ!!!!」」」」
三つの黄金のオーラと、真紅に燃えるオーラが夜の空に立ち上る。
普通に生きている人々には決して分からない。
だが、『裏』に潜む者達には確実に見えるオーラ。
この光が、我等が『敵』を誘き出す灯台にならんことを。
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突如として出現した強大な力。
これに真っ先に気が付いたのは、意外や意外、なんと例の『堕天使総督』だった。
「い…一体どこのどいつだっ!? 街のど真ん中で馬鹿デカい力を出してやがる奴はッ!! かなり遠くではあるが…この距離からでもハッキリと分かるってのは異常過ぎるぞ!! どう考えても、天使とか悪魔とかをぶっちぎりで超越してんじゃねぇか!!」
顔中に冷や汗をダラダラと流しながら空を見る。
いつもの飄々とした顔は完全に無くなっていた。
「しかも…これは一つじゃねぇ…明らかに複数の力が存在してやがる…! まさか…この間の恐ろしく強大な力を持った嬢ちゃんかっ!? あれと同じレベルの奴が他にもいるっていうのかよ…! 冗談じゃねぇぞ…!」
どんな理不尽も、どんな不条理も関係ない。
全てを倒し、全てを守る。
そんな『意志』をひしひしと感じていた。
「只でさえ、こちとらコカビエルの馬鹿がアホやって大変だってのに…! いや…待てよ?」
ここで不意に冷静になって考える。
いきなり街中で力を出すなんて、まるで狙って下さいと言っているようなもの。
常識ではまず有り得ない。
しかし、もしもこれが『ワザと』だったとしたら?
何者かを誘き出すために、敢えてこんな危険な真似をしているのだとしたら?
「…そうか。そういう事かよ…! 随分とまぁ…大胆な事を考えやがる…! でもまぁ…あの戦争狂には効果絶大だろうな」
古い仲であるが故に、コカビエルの性格は知り尽くしている。
こんな真似をさせたら、例えそれが罠だと分かっていても動かずにはいられない。
「こりゃあ…また俺達の出る幕は無いかな…」
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別の場所。
とあるビルの上にあるアンテナの先端に立つような形で、その全身を純白の鎧で包んだ人物が遠くを見つめていた。
「なんだ…この強い力は…? 突発的に出現したが…」
力を感じた瞬間から全身が疼く。
今すぐにでも、力が発せられている場所に飛んでいきたい衝動に駆られた。
「まるで、灯台の灯りのように高く強く光る力…ん? 灯台?」
『灯台』と自分で言った瞬間、ある考えが頭を過る。
「そうか…そう言う事か。この力を発している者が誰かは分からないが、恐らくはコカビエルがこの町に侵入してきたことを知っていると見た。ならば、この『力』は、奴を誘き寄せる為の『餌』か」
それならば一応の納得は出来る。
だからと言って、何も思わない訳ではないが。
「今回は『仕事』に専念するが…そのついでに、この『力』の持ち主たちの顔ぐらいは拝んでも構わないよな?」
翼を広げ、鎧の男は夜の空へと飛び立つ。
その姿はすぐに空の彼方へと消えていった。
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駒王町の外れ。
そこに『彼』は立っていた。
金髪でオールバック。
黒いスーツを着て、ポケットに手を入れながら静かに佇んでいる。
「この恐ろしく強大な複数の小宇宙…。そして、その傍に僅かに感じるランスロットの小宇宙…成る程な」
どこまでも純粋で真っ直ぐな瞳で、男は彼方を見つめる。
その先にいる『存在』を見定める為に。
「君がいると言う事は…遂に見つけたのだな。貴公が剣を捧げるべき主…王の中の王にして騎士の中の騎士。騎士王…現代のアーサー・ペンドラゴンを」
虚空に手を伸ばし、ギュッと握りしめる。
まるで、己の未来を暗示するかのように。
「眩しく光り輝く黄金の小宇宙…三つあるうちのどれかが、聖剣エクスカリバーを持つ『
男は笑う。
近い未来にて対峙するであろう最強の聖剣士のことを思って。
だが、その笑みには邪な感情は一切無い。
どこまでも自然に、心から楽しそうに笑う。
「だが…その前にやるべき事があるな」
光が指す方へとゆっくりと歩きだす。
己の中にある『願望』を叶える為に。
「まずは…『
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そして当然、目的の相手であるコカビエルも、突如として出現した強大な小宇宙の存在に気が付いていた。
「ほぅ…? ここまで堂々と自分の存在をアピールするかの如く力を発するとは…余程の馬鹿か、それとも己の実力に絶対の自信があるかのどっちかだが…」
最初に考えたのが、自分が狙っているリアス・グレモリー達の仕業。
事前に調査した、あの小娘の性格ならば、何の考えも無しに力を出す事も容易に想像がついた。
だが、この考えはすぐに払拭した。
「いや…それは無いか。幾ら『グレモリー』の悪魔とは言え、あの小娘にこれ程までの強大な力があるとは考えにくい。となると矢張り…」
何者かが、自分の事を誘い出そうとしている。
それを看破される事すらも全て計算に入れた上で。
「なに…?」
その時、コカビエルは初めて気が付いた。
自分の手に汗が滲み、僅かではあるが震えている事を。
「面白い…! 名も知らず、顔すらも知らぬ相手にここまで気圧されるとは…!」
コカビエルの中にある戦士としての血が疼く。
会いたい。戦いたい。互いの死力を尽くして。
「そうでなくては意味が無い…! この俺が動いた意義が!」
玉座から勢いよく立ち上がり、その背にある五対十枚の漆黒の翼を大きく広げる。
そして、背後にいる『ソレ』に顔を向けた。
「……………」
「いや…その必要はない。お前の出番はもう少し後だ」
「……………」
『ソレ』はコカビエルの意志を理解したのか、そのまま静かに闇の中へと姿を隠した。
「…では、行くとするか。この俺を呼んでいる奴の元へと」
コカビエルはその翼で飛んでいく。
己の中にある『飢え』を満たすかもしれない相手の元へ。
因みに、彼と協力関係にある筈のバルパー・ガリレイは、自分の研究室にずっと籠っていたので何も気が付く事は無かった。
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四人から発せられた圧倒的な小宇宙に、イリナやゼノヴィア、フリードだけでなく、ランスロットすらも本気で驚愕させていた。
「いいいいいいいいいっ!? なんじゃこりゃぁぁぁっ!?」
「う…嘘でしょっ!? これが姫子ちゃんの…イッセー君の実力ッ!?」
「私にもハッキリと分かるっ! 力の次元が違い過ぎるっ!!」
姫子達の周囲だけが、まるで別世界のように黄金色に染まっている。
これが彼女達の身体の内から発せられていると、誰が信じるだろうか。
「こ…これが王の…黄金聖闘士の小宇宙かっ! なんと強大で…なんと美しいのだ!」
ランスロットに至っては、嬉しさの余り目尻に涙を溜めながら笑っていた。
彼にとって、今日この日は一生忘れられない日になるだろう。
その時だった。
「はっ! 王よ! こちらに向かって急速に接近してくる小宇宙があります!」
「なん…ですって…!?」
ランスロットの言葉を聞き、誘き寄せには成功したと判断し、小宇宙の燃焼をストップする。
精神をかなり疲弊させたのか、四人揃って肩で息をしていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…! 久々に…思い切り疲れましたわ…」
「お…俺もだ…。こんなに疲れたのは、師匠と本気の手合わせをした時以来だぜ…」
「だが…疲れた甲斐はあったようだな…」
「あぁ…こちらが撒いた『餌』に食い付いてくれたからな…」
念の為と思って用意しておいた栄養ドリンクを全員で一気飲みしたと同時に、そいつは目の前に現れた。
「貴様等か…先程まで、ここで恐ろしく強大な力を発していたのは…」
「お前が…コカビエルですか…!」
黄金聖闘士、遂にコカビエルと遭遇。