コカビエルが去り、私は思い切り息を吐く。
流石は聖書に名が刻まれる程の堕天使…かなりのプレッシャーでしたわね…。
「あれがコカビエルか…。流石の小宇宙だったな」
「もしかしたら、私達は奴の事を過小評価していたのかもしれないな…」
「威厳っつーか…なんつーか…とにかく凄かったな…」
手に汗が滲んでいる…?
これは…。
(どうやら…一筋縄ではいかなそうですわね…)
最初から本気で戦うつもりではいたけど…心のどこかで油断をしていたのかもしれない。
けど、それも今夜の邂逅で完全に消え去った。
もう油断も慢心もしない。
コカビエルの闘志に敬意を払い、私も全身全霊で戦おう。
「あ…やば…腰抜けたかも…」
「わ…私もだ…。情けないが…身体の震えが止まらない…」
後ろを振り向くと、紫藤さんとゼノヴィアさんが床にペタンと座り込んでいた。
本人達の言った通り、先程のコカビエルに圧倒されてしまったのだろう。
無理も無いですわね…私達とは違い、彼女達は教会所属とは言え、殆ど一般人に近い立ち位置。
最上級堕天使と真っ向から向き合ったら、こうなるのも当然。
「コカビエル…どうやら、奴は堕天使云々以前に一人の戦士だったようだな…」
「お? 旦那が嬢ちゃん以外を褒めるなんて珍しい。明日は雪かにゃ?」
「抜かせ。我とて評価すべき者はちゃんと評価をする。それが騎士というものだ」
「ふーん…」
あのランスロットを唸らせる…か。
これはいよいよって感じになって来ましたわね。
「にしても…初めて聞いたな。野郎の本音ってやつを」
「そうなんですの?」
「あぁ。俺と会った時は、んなことなんて少しも言わなかったからな。マジで何を考えてるのか意味不明だったけどよ…」
恐らくコカビエルは、フリードさんの強さを純粋に評価をした上でスカウトしようとしたんですわね…。
けど、その前に彼は知ってしまっている。
聖闘士の強さを。その神髄の一角を。
だから靡かなかった。
もし彼に付けば、確実に負けると思ったから。
「さて…と」
グレモリー先輩達に連絡でもしておきますか。
テレパシーとかが一番手っ取り早いんですけど、ここは確実性を取って普通にスマホで。
「もしもし。使い魔で一部始終は見てましたわよね?」
『えぇ…。まさか、彼があんな事を考えていたなんてね…』
「意外ですか?」
『そうね…想像もしてなかったわ』
でしょうね。
私達でさえ普通に驚かされたんだから、こちら以上に先入観を持っていた彼女達はもっと驚いただろう。
『これからどうするの?』
「明日の事や、今夜の事について色々と話をしておきたいと思っているんですけど…」
『明日じゃダメなのかしら?』
「出来る限り、明日の昼は体を休める事に専念したくて。コカビエルとの戦い…私達は本気で掛からないといけなさそうですので…」
『…それもそうね。分かったわ。それじゃあ、オカ研の部室で話すのはどう? 今の時間のここなら、遠慮なく話がする事が出来るわよ?』
「そうですわね…って、もしかして先輩方は二人揃って部室にいらっしゃいますの?」
『えぇ。悪魔としての仕事をする時は、基本的に部室に集まってからやってるから』
「初耳ですわ…」
よもや、オカ研メンバーが夜の学校の訪問常習犯だったとは。
同じ悪魔である支取先輩も知っているんだろう。
知らなければ絶対に何かを言っているだろうし。
「分かりましたわ。今から、皆でそちらに向かいます」
『一応、裏口から入った方が良いかもしれないわ。警備員とかに見られるかもしれないから』
「そうですわね。承知しましたわ。では、また後ほど」
通話を切ってポチッとな。
「と言う訳で、今からオカ研の部室に向かいますわ。ランスロットとフリードさんも一緒に来てくださいな」
「よろしいのですか?」
「勿論。これからの事も考えて、一度ぐらい顔合わせをしておいた方が良いでしょうし」
「王がそう仰るのであれば、我はそれに従います。フリードもそれで良いな?」
「へーへー。どこまで旦那に着いて行きますよー」
なんと言うか…フリードさんってランスロットの部下ってよりは舎弟っぽくなってませんこと?
そっちの方が似合いそうだけども。
「では、行きますか」
小宇宙を燃焼しまくって疲れたので、徒歩ではなくテレポーテーションで。
え? そっちの方が小宇宙を消費するのではですって?
心配ご無用ですわ。
テレポーテーションで消費する小宇宙なんて微々たるものですから。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
と言う訳でオカ研部室に到着ですわー。
ノックをしてから中にはいると、そこにはグレモリー先輩率いるオカ研メンバーが勢揃いした上で、支取先輩が混ざっていた。
「おかえりなさい。そして、お疲れ様」
「ありがとうございます。まずは、使い魔の子達をお返ししますわ」
私は目配せをすると、紫藤さんとゼノヴィアさんの肩から二匹の小さな蝙蝠が飛んで行き、それぞれの主の膝の上にちょこんと乗った。
蝙蝠が離れていく際にゼノヴィアさんが少しだけ寂しそうな顔になったのは内緒。
「よしよし。それで、そこの二人が…」
「えぇ…そうですわ」
今度はランスロットに目配せをする。
すると彼は微笑みながら静かに頷いた。
「円卓の筆頭騎士ランスロットだ。今は王に仕えている」
「「王って…」」
先輩方…こっちを見ないでくださいまし…。
「元神父のフリード・セルゼンでーっす! 今はランスロットの旦那の舎弟をやってまーす!」
あぁ…遂に自分で舎弟って言ってるし…。
聞いてて悲しくなってきましたわ…。
「と…兎に角、まずは座って頂戴。朱乃。皆に紅茶を淹れてあげて」
「分かりましたわ」
はぁ…姫島先輩の紅茶…。
実を言うと、ちょっぴりだけ期待をしていたりして。
甘さと苦さが程よく混ざり合った紅茶は、きっと疲れた体に染み渡るでしょうしね…。
「こ…この方が…あの伝説の騎士ランスロット…」
「ん? 我がどうかしたのか?」
「あ…いえ…こうして、お会いできたことがとても光栄だと思って…」
「…そうか」
あらら…木場さんが完全にヒーローショーを見に来た子供状態に。
相手は円卓の騎士の中でもアーサー王以上の人気を誇る騎士。
彼にとってはある意味、正真正銘のヒーローでしょうね。
姫島先輩が淹れてくれた紅茶で喉を潤しながら疲れを癒しつつ、改めてコカビエルと出会って話したことを皆で共有した。
「戦争の正しき決着を望む…ね」
「確かに、当時の資料にも三大勢力戦争についての記述は途中で綺麗サッパリと途切れています。どの勢力が勝利し、どの勢力が敗北したのかなど、ある意味で最も重要かつ大事な部分が欠けていたのは私も疑問に感じていましたが…」
支取先輩もまた魔王の家系。
数百年以上前の出来事とは言え、当時の資料は未だに残されているのだろう。
でも、途中で途切れると言うのは流石におかしすぎる。
明らかに意図して中断させているとしか思えない。
「コカビエルの言うことにも一理ある」
「ランスロット?」
円卓の騎士さまからの御意見。
ちょっと聞いてみましょうか。
「例えどのような形でも、決着をつけなければ戦争は真の意味で終焉を迎えたとは言い難い。勝者も敗者も無き戦いでは誰も納得はしないし、誰も救われない。例え負けたとしても、全力を尽くした上での敗北ならばどの勢力も受け入れるだろう。そして、勝者の義務とも言える敗者への配慮も出来なくなる。こればかりは話し合いなどでは決して解決などしない問題と言えるだろう」
正当なる決着…か。
この問題は冗談抜きで根深いですわね…。
未熟者の身である今の私には、皆が納得出来る方法と言うのが全く思いつきませんわ…。
「だから…コカビエルと戦う…と?」
「それしかあるまい。事実、奴は王を初めとした黄金聖闘士との戦いを望んでいる」
戦う事でしか分かり合えない事もある…か。
私っていつから、こんな脳筋な女の子になったのかしら…?
「今回の事、サーゼクスさん達には…?」
「勿論、全てを伝えるつもりよ。それでお兄様たちが動くかどうかまでは分からないけど…」
動かないでしょうね…多分。
きっと、私達で解決できればそれが一番…とか考えそうですわ。
それがコカビエルを更に憤慨させるとも知らずに。
「紫藤さん。ゼノヴィアさん。今回の事で天界陣営はどんな様子か分かりますか?」
「「え?」」
お二人とも…ケーキのクリームが口についてますわよ…。
美味しいのは分かりますけど、少しは淑女としての慎みを持った方が良いですわよ…?
「お…おほん! そうね…私達にも詳しいことは全く分からないわ。ただ…」
「ただ?」
「天使様たちも、全く動く気配は無いみたい。下手に自分達が動いたら相手の思う壺…とか考えてるんじゃないかしら?」
「そんな悠長なことを言ってる場合じゃないでしょうに…」
平和ボケって悪魔や天使にも通用するんですのね…。
「となると、問題は堕天使勢力の動きですわね…」
「それが一番不明だからな…。堕天使の知り合いがいない以上、探りようもないし…」
「普通に考えれば、総督自ら動いているのが自然だが…」
「そんな様子は今んところ見受けられねぇよな。もしくは、俺達が気が付いてないだけで裏で動いてるとか?」
もしかしたら、兵藤さんの言ってることが一番的を得ているかもしれませんわね。
総督ともなれば、黄金聖闘士の裏をかくぐらいはやってのけそうですし。
「ところでドライグさん?」
『は…はひぃっ!?』
あらら。一体どうしたのかしら?
私は普通に名前を呼んだだけなのに、怯えるような声を出しながら籠手が出現しましたわ。
「どうして戦争の真っ最中に戦場に乱入しましたの?」
『いや…その…あれは若気の至りと言いますか…』
「若気の至り?」
ドラゴンに若気も何も無いでしょうに…。
あなた今、何歳ですの?
『いつも通り、俺は白いのと戦っていて…戦いに夢中になって周りが見えなくなっていた。で、気が付いた時には…』
「三大勢力が争っている戦場に二匹揃って迷い込んでしまった…と」
『そ…そうなる…。お…俺達も決してワザとではないんだ! それだけは信じてくれ!』
「ワザとでなければ全て許されるとでも?」
『ホントーにさーせんしたぁぁぁっ!!!』
なんで急に若者のコンビニバイトみたいな口調になってますの…。
ドラゴンとしての威厳が完全に無くなってますわよ。
「ドライグ…お前…」
『そんな目で俺を見ないでくれアイボォォォォォォォォォォッ!!!』
最後、どうして闇遊戯の真似をしたんですの?
「そ…それにしても、まさかコカビエルから非戦闘員扱いされるとはね…」
あ。グレモリー先輩が軌道修正しましたわ。
「仕方がないでしょう。歴戦の戦士である彼からしたら、碌に実戦経験も無ければレーティングゲームデビューもしていない私達なんて、取るに足らない小娘でしょうし…」
「そうかもしれないけど…なんか悔しいじゃない…! 眼中にないって言われてるみたいで…」
みたい…じゃなくて、実際に眼中にないんでしょうね。
ある意味、二人はコカビエルの誇りに守られているとも言える。
「明日の夜、私達はコカビエル一派に決戦を挑みます。皆さんはどうしますか?」
「…一緒に行くわ。例え戦力外であったとしても、私はこの町の管理者。戦いの行く末を見るぐらいの義務はあるから」
「リアスが行くのであれば、私も行かない訳にはいかないでしょう。念の為、眷属の子達は学園周辺で待機させておきますが」
それが賢明ですわね。
流石は支取先輩、ナイス判断ですわ。
そしてグレモリー先輩…意外と責任感はあったようで感心しましたわ。
コカビエルの言葉が本当ならば、仮に連れて行っても手は出さないでしょうし。
「僕も連れて行ってくれないかな」
「木場さん?」
ある意味、これは予想出来た展開。
彼の人生を狂わせた張本人も来る以上、来ない理由の方が無い。
「もう僕は復讐には捕らわれない。でも、だからと言って何もせずに傍観も出来ない。せめて、バルパーの顔を一発ぶん殴ってやらないと気が済まない」
「そうだな…お前にはそれをする資格がある。もし会ったら思い切り殴ってやれ」
同じ剣士としてクレイオスも共感…と。
私も同意見ですけど。
「裕斗先輩が行くなら、私達も一緒に行きます」
「そうね。私達はリアスの眷属。王が行くのに私達だけが待機なんてのは有り得ないものね」
塔城さんと姫島先輩も行く気満々…と。
結局、ここにいる皆で行くことになるんですのね…。
「では、明日の夜…恐らくは夜の7時頃…駒王学園前に集合と言う事で。よろしいですわね?」
私の言葉に全員が頷く。
もう後戻りは出来ない。
こうして、私が黄金聖闘士になってから初めての闘いが始まろうとしていた。