今回はランスロット(とフリードと裕斗)のお話。
後の二人は殆どおまけ。
一誠が見事に毒龍の暗殺者を撃破した横で、ランスロットと裕斗とフリードは、大事そうに二本の偽聖剣を腕に抱えているバルパーと対峙していた。
「一人でも戦える手段…ねぇ。この期に及んで、何を世迷い事を…って言いたいけど、この無駄に態度はデカい癖に実は小心者のジジイが、この状況でンな事を言うとは思えねぇしなぁ…」
元教会関係者と言うだけあって、フリードはバルパーの事をそれなりに知っていた。
だからこそ解せなかった。
確かに、この男は典型的なマッドサイエンティストだが、バルパーの本分は頭脳労働。
幾ら自分が作った偽聖剣を持っているとはいえ、碌に体も鍛えてなければ、剣も素人な初老の男が腕利きの剣士三人相手に戦えるとは到底思えない。
それはバルパー自身が一番よく分かっている筈だ。
「貴様…何を企んでいる?」
「企む? 人聞きの悪いことを抜かすな。ワシは何も企んでなどおらん。ただ…」
強気の笑みを浮かべたかと思った次の瞬間、バルパーは徐に白衣のポケットに手を突っ込んでから一本の注射器を取り出した。
「今から実験をするだけだ!!」
「しまっ…!」
嫌な予感がした裕斗は、急いで
「野郎…何を注射しやがったんだ…!?」
「なんだ…この奇妙な気配は…」
フリードが怪訝な表情で眉を潜め、ランスロットは警戒心を高くする。
裕斗も、一先ずは二人の元へと後退すると、バルパーが蹲りながら悶え始めた。
「く…くくく…! ははははははははははははははっ!!!」
「「「なっ…!?」」」
三人が絶句するのも無理は無い。
なんと、いきなりバルパーの身体が浅黒くなったかと思ったら、突如として急激に膨れ上がり、服を破って巨大化した。
その体は、先程までの老人と同一人物とは思えない程に凄まじくも醜い筋肉に包まれ、顔もまた神話に出てくる怪物のように異形と化している。
誰がどう見ても、もうバルパーは人間ではなかった。
人の姿を捨てた哀れなモンスターだ。
「やったぞ! 実験は大成功だ!」
「なんだと…?」
「まさか、それがテメェの『一人でも戦える手段』ってやつか?」
「その通りよ! これこそがワシの実験の集大成にして最後の切り札!」
巨大化した手で偽聖剣を掴み、具合を確かめるかのように振り回す。
今のバルパーにとっては、偽聖剣など枯れ木のように細く小さい。
「馬鹿な…!? 偽物とはいえ、あれを使うには『因子』が必要な筈! どうしてバルパーが普通に扱えているんだっ!?」
「まさか…先程の注射器…」
「そのまさかよ! あれの中身は、ワシの手で聖剣計画で生み出した因子の結晶体を液化した物だ! ああすれば、面倒な施術などせずとも簡単に因子を注入できる!」
「そ…そんな…」
嘗ての仲間達の命が液体にされた挙句、目の前でバルパーの体に取り込まれてしまった。
その事実に裕斗は強いショックを受け、思わずその場に膝をついてしまう。
「…罪無き幼子たちの命を我欲の為だけに利用し、あまつさえそれを最後の生き残りである木場祐斗の目の前で実験に使う…」
無辜の民草を守る騎士として、人として、許せなかった。
現世に降臨して初めて、ランスロットは本気でキレた。
「この…下種が…!」
「あーあ…やっちまったな…じーさんよ…」
「な…なんだ…!?」
ランスロットから放たれる迫力に、思わず後ずさるバルパー。
それを見てフリードは、呆れたように頭を掻き毟った。
「バルパー・ガリレイ…。アンタは今、円卓の騎士の中で最強の実力を持つ男を本気で怒らせちまったんだよ」
「え…円卓の騎士だとっ!? 馬鹿を言うな! かの騎士が現世にいる筈がない!!」
「ところがギッチョン。いるんだよ…アンタの目の前にな」
怒りに震えるランスロットは、何も無い空間に手を伸ばし、そこから『剣』を召喚する。
複雑で歪な形状をしているが、その先端は鋭く、持ち手もあることから、それが剣であることが分かった。
「ゆくぞ…我が『
剣がバラバラになり、意志を持つかのように全てのパーツがランスロットの身体に装着されていく。
「邪悪なる者を討つ。この『
それは『
己の剣が、どの剣よりも優れた剣であると信じる闘士。
「アロンダイト…! それが、エクスカリバーやガラティンと並ぶ伝説の聖剣…アロンダイトの真の姿だと言うのかッ!?」
「そうだ…愚かな狂人よ。貴様のような者には勿体無き代物。だが、此度は王をも参戦している戦故に、我も自らの聖剣を身に纏い戦う」
聖剣に憧れ、聖剣に狂った男にとって、エクスカリバーと並び称させる聖剣は、ただそれだけで価値があった。
故に、バルパーは恐れない。
麻痺した思考ではもう、恐怖と言う感情すら無くなってしまったのかもしれないが。
「面白い! 本物の聖剣をワシの聖剣で打ち破れば、この聖剣を本物に出来る! ワシだけの聖剣…ワシが生み出した聖剣! グギャッ! グギャッ! グギャギャギャギャギャギャッ!!」
「とうとう…笑い声すらも人間じゃなくなっちまったか。哀れだねぇ…ここまで来ちまうとさ」
流石のフリードも、聖剣への執念だけで人間を捨てたバルパーに対して憐れみを感じていた。
人間とは、ここまで狂うことが出来るものなのかと。
「歪んでしまったとは言え、その聖剣に対する情熱だけは本物。故に、せめてもの情けだ。この我が介錯をしてやろう」
「アガガガガガガガガガガガガガァッ!! 聖剣!! せいけぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!!」
聖剣を身に纏う騎士と、聖剣によって狂った男の戦いが始まった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「ぜいげんっ!! ぜいげんよごぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
液状化した因子結晶を取り込んだ副作用か、先程までとは違って自我が薄れつつあるバルパーが、その手に握った偽聖剣をランスロットに振り下ろす!
本来、偽聖剣は偽物故の性能の差を特殊な能力で補う形を取っているのだが、今のバルパーはそれを発動させようとはせず、力任せに剣を振っていた。
無論、素人であるバルパーに構えなど出来る筈もなく、ランスロットに簡単に防がれてしまう。
「遅い。人である事を捨て、力に溺れた剣などで我を討ち取れるなどと思うな」
常人ならば一撃で粉微塵になる程のバルパーの攻撃を、ランスロットはその場から全く動かず、左腕だけで防御してみせた。
その顔は涼しく、衝撃すらも受けていない。
だが、周囲の地面にはちゃんと衝撃が来たようで、ランスロットの立っている地面の周りにはクレーターが出来ていた。
「アブガヒズタダダジクヒヒヅゥゥゥッ!!! ビグッ!! ばぎがあぎぶぅぅぅぅっ!!!」
「人語すら解さなくなったか…」
両目がグルンと明後日の方を向き、涎を流しながら暴れ回る。
その様子を見ていた裕斗は、ようやく正気に返った。
「バルパー・ガリレイ…あれが…僕達を苦しめ続けた男の末路か…」
「元に戻ったか」
「はい…申し訳ありませんでした」
「気にするな。あのような事をされて衝撃を受けるなと言う方が無理な話だ」
完全に狂化したバルパーの暴走攻撃を軽々と受け止めながら、器用に後ろに視線を向けながら裕斗を気遣うランスロット。
流石と言うべき貫禄だった。
「このまま暴走させておくのも不憫。バルパーよ。貴様の希望通り…我の聖剣にて冥府に送ってやろう。見るがいい…我の聖剣を!」
ランスロットが右腕を天に掲げると、突如として超巨大な剣が実体化する!!
「我ら剣闘士は、その身に宿る聖剣を己が小宇宙によって実体化させ、その刃にて敵を討つ! これこそが…」
「キタ――――――!! ランスロットの旦那の十八番!!」
「これが…剣闘士の力…!」
眼前に出現した聖剣の姿に、バルパーは涙を流しながら両手を伸ばす。
異形となってもまだ、その心の中に聖剣への執着があるのか。
「ぜーげん!! ぜーげ――――――ん!!」
「さらばだ。来世では、その頭脳を人々と平和の為に活かす事を願おう」
天空へと伸びた聖剣が、ランスロットの意志の元に振り下ろされる!
バルパーは全く動こうとせず、その刃を真っ直ぐに受けようとしていた。
「あぁ……せ…い………け…………ん………」
光り輝く刃の煌めきに、バルパーは満足げに飲み込まれていった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
ランスロットの聖剣屹立を受け、瀕死となったバルパー。
全身が無残な程にズタズタに引き裂かれ、周囲に大量の血が巻き散らかされていて、粉々になり原形すら留めていない両手足が転がっている。
そのような状態であるにも拘らず、まだバルパーは辛うじて息が合った。
本当に息があるだけで、身動き一つすら取れず、声も碌に出ない。
「ぁ……ぁ……」
実はランスロット、威力を調節してギリギリ死なない程度にしておいたのだ。
その理由はたった一つ。
「裕斗よ。こやつはお前の紛う事無き仇だ。介錯をし止めを指すか、このまま放置し死なせるか。好きな方を選ぶがよい」
「旦那…随分と残酷な事を選ばせるこって」
「僕は……」
魔剣を具現化し、地面に横たわるバルパーに近寄る。
先程までとは違い、その手は微塵も震えていない。
「もう、その目には僕の姿すら見えていないんだろうね。いや…それどころか、僕が聖剣計画の被験者だった事すら碌に覚えていないんだろう。お前にとって、僕達は単なる消耗品でありモルモットでしかなかったから」
剣を振り上げ、逆手に持ち替え、ジッとバルパーを見つけた。
「ここでお前を殺しても、僕の過去は消えないし、変えられない。だから…これは『敵討ち』じゃない。これは…」
真っ直ぐに…その刃をバルパーの心臓目掛けて突き刺す。
その瞬間、バルパーの辛うじて聞こえていた呻き声も消え、その目から光が消えた。
「…『介錯』だ」
こうして、聖剣に憧れ、聖剣に執着し、聖剣に狂った男の人生に幕が下りたのだった。
次回、ソニア&クレイオスの戦い。
多分、呆気なく終わる。