随分と長かったですわー!
それは、本当に突然の事だった。
つい先日、校門の前でいきなり俺に告白をしてきた謎の女の子『天野夕麻』って子の強い希望で、俺は流れでデートをする事になった。
確かに彼女は可愛いし、スタイルだって抜群だった。
もしもこれが天野さんが駒王の生徒で、クラスメイトとかだったら本気で迷ったかもしれない。
けど、彼女は隣町の高校の生徒であり、今まで一度も面識なんて無かった。
なのに、いきなり『好きです』なんて言われたら、俺じゃなくても真っ先に疑うと思う。
実際、俺だけじゃなくて松田や元浜も滅茶苦茶に怪しんでいたし。
だから、最初は俺も断ったが、それでもしつこく言ってきた。
本当はここで『他に好きな人がいるから』なんて言えれば一番だったんだろうけど、その時の俺には恥ずかしくて、その言葉を言う勇気が無かった。
結局、最終的に『一回だけデートをする』って事で妥協して貰った。
そうでもしなければ、本当に怪しさ全開の女の子の彼氏になっている所だった。
流石の俺も、明らかに怪しいと思われる女の子に鼻の下を伸ばせる程、警戒心が薄いわけじゃない。
なんだかんだ言っても、俺にとって人生初めてのデート。
最初は本当に乗り気じゃなかったが、それでもいつの間にか本気でデートコースを考えたりしていた自分がいた。
はぁ…これが川上さんとの初デートとかだったら最高だったんだろうなぁ…。
なんてことを考えていたら、あっという間にデート当日に。
俺は緊張しながらも、ウィンドウショッピングやら映画館やらに彼女を連れて行った。
表向きは楽しそうにしていたが、俺は知っている。
不意に余所見をした時、思い切り舌打ちをしていた事を。
だって、ピッカピカに磨かれた壁に普通に反射して映ってたし。
で、一通り行くところに行ってから、最後に公園に行こうと彼女が言ってきた。
休憩でもしたいのかなと思って一緒に付いていくと…いきなり天野さんの雰囲気が変貌した。
さっきまでの柔らかい雰囲気は消え、怖い顔つきになり、低い声を出し、そしていきなり…彼女の着ていた服が全て破れ、ボンテージ…だったか?
それっぽい格好になって、しかも背中から黒い翼を生やして宙に浮いた。
もう本当に意味が分からなくて、本気で気が動転してしまった。
「いきなりで悪いけど…死んでくれるかしら?」
「は? 死…死んでくれって…どういう事だよッ!?」
「どうもこうも、そのまんまの意味よ。恨むのなら、私じゃなくて『そんな物』をアナタの身体に宿した『聖書の神』を恨むのね」
そう言うと、天野さんはその手に光り輝く槍みたいのを作りだし、思い切り振り被った。
あれを俺に投げつける気だ。
刺されば本当に死んでしまう。
なら逃げればいい。けど、足が竦んで上手く動かない。
「それじゃあ…さようなら!!」
もうダメだ…!
恐怖の余り、俺は咄嗟に自分の両腕を交差させ目を瞑り、すぐに来るであろう強烈な痛みに耐える為に思い切り歯を食い縛った。
…けど、いつまで経っても痛みは来なかった。
恐る恐る瞼を開けると、そこにあったのは……。
「…………え?」
「な…なによこれはっ!? 私の『光の槍』が完全に防がれたですってっ!?」
透明に煌めく『見えない壁』だった。
これが俺の事を守ってくれたのか?
またもや意味不明な事が起きてポカーンとしていると、後ろから物凄き聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「どうやら…本当に危機一髪だったようですわね」
「か…川上さん…?」
そこにいたのは、私服を着た川上さんの姿だった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
冗談抜きでギリギリセーフ…でしたわね!
咄嗟の判断でクリスタルウォールを発動したけど、それはそれで良かったのかもしれない。
もしもここで『ライトニングボルト』とか『グレートホーン』とかを放っていたら、偽天野さんは消し炭すら残らず完全消滅していたでしょうから。
「ど…どうして川上さんがここにッ!?」
「それは乙女の秘密ですわ。それよりも!」
私がここに来た以上、もうクリスタルウォールを張る必要は無いので解除し、そのまま兵藤さんを守るように前に出た。
「最初から怪しい怪しいとは思っていましたけど…遂に正体を現しましたわね」
「正体? 何の事を言っているのかしら?」
「嘘が下手ですわね。どうせなら、もっとみっともなく誤魔化そうとすればいいものを」
こうして実際に対峙するとよく分かる。
なんて微弱な小宇宙…。
並の青銅聖闘士の半分以下。
それどころか、聖域の雑兵よりも弱いんじゃないかしら?
あまり知られていない事実ですけど、雑兵でも最低でマッハ1のパンチぐらいは出せますから。
「この間…私は『本物の天野夕麻』さんと会ってお話をしました」
「本物って…それじゃあ、まさかこの子はッ!?」
「えぇ…その通りですわ兵藤さん。彼女は本人も知らない所で勝手に天野さんの名を騙り、貴方に近づいてきた偽物。近づいてきた理由は恐らく…この瞬間を狙う為に」
「お…俺…最初から殺されるために狙われてたのかってのか…」
兵藤さんの顔が蒼白になり、体が震えている。
無理もありませんわね…。
私とは違って、彼は日の当たる日常を生きる人間。
いきなり見知らぬ者から『お前を殺す』と言われても実感が湧かないでしょうし、実際に殺されそうになれば恐怖で慄いてしまうのは当然。
「けど、もう大丈夫ですわ。この私がいる限りは」
例え、どんな手段や不意打ちをしてきても全てを見切れる自信がある。
普段ならば『慢心はダメゼッタイですわー!』と言っているけど、ここまで弱く、卑怯な奴が相手だと慢心をする気にすらなれない。
「詳しい話はまた明日にでも。今はともかく、私の傍から離れないでくださいまし」
「わ…分かった…」
兵藤さんが私の背中に隠れるように後ろに下がった。
これで一先ずは安心かしら。
「…あなた…一体何者? 私の正体を見破った事と言い、人避けの結界を張っているにも拘らず、この場にいる事と言い…まさかとは思うけど、さっきの謎の障壁もアナタの仕業なのかしら?」
「そうだと言ったら?」
「決まってるじゃない…」
偽天野さんは再び光の槍を作りだし、馬鹿の一つ覚えのように投擲しようとしてきた。
まさか…それしか出来ないの?
「今ここで殺すだけ……なっ!?」
「はぁ…遅すぎて欠伸が出ますわ」
私は左手の人差し指をぴょこんと突き出し、それを光速で放ち音を置き去りにする勢いで衝撃波をぶちかまし、一瞬で彼女の光の槍を消滅させた。
傍から見ている者からすれば、私の指がキラリと光った瞬間に光の槍が破壊されたように見えるでしょうけど。
「わ…私の光の槍が…! 貴様! 一体何をしたッ!?」
「別に大したことじゃありませんわ。こう…指をチョンっと突き出しただけですわ。ただし…一秒間に三十万キロメートル…即ち、地球を七周半ほどの速度で…という言葉が付きますけど」
「い…一秒間に三十万キロメートル…地球を七周半って…それじゃあ…まさかお前は…!?」
「あら意外。数字を聞いただけで私の最高速度が分かったんですのね」
「えっと…三十万キロ? 七周半? ん~?」
…兵藤さん。アナタはもっと物理を勉強する事を進言しますわ。
じゃないと次のテスト…本気で追試を受ける羽目になりますわよ。
「そんな…絶対に有り得ない!! 人間風情が光と同じ速度…光速の動きが出来るだなんて!! 物理法則を完全に無視している!! ま…まさか…お前も『
「そのセイクリッドなんちゃらとやらは知りませんけど、私のこの力は決して道具に頼っているものではありませんわ。これは紛れもなく私が厳しくも長い修行の末に体得した武の極みの数々。失敬な事は言わないでほしいものですわ。あと、貴女のような方が物理法則云々を言っても説得力に欠けますわよ?」
「だ…黙れぇぇぇぇぇぇっ!!!」
私の言葉で自棄になったのか、ヒステリ気味に光りの槍を両手に作って投げてこようとしたけど、それもまた私の光速拳で投げる前に破壊した。
この方…ガチで学習能力が皆無なんじゃありませんの?
「いい加減に私とアナタの実力差が御理解出来たかしら? 天と地ほどの圧倒的な力の差が」
「う…うるさい!! アザゼル様のご寵愛を受け、至高の堕天使となる私を馬鹿にするなんて…絶対に許せないわ!!」
「あら。まだ何も聞いていないのに、ご自分が『堕天使』であることを自白しましたわ。手間が省けて助かりますわー」
「だ…黙れ!!」
何と言うか…逆に哀れになってきましたわ。
けど、まだ彼女には聞きたい事が沢山ある。
これで終わらせるわけにはいかない。
「どうして兵藤さんの命を狙ったのですか? しかも、他人の名前を使うなんて言う回りくどい真似までして」
「す…素直に白状すると思ってるの?」
地味にさっきの事を反省してますわ。
完全に手遅れな気もしますけど。
「ま…別にアナタの口から直接聞かなくてもいいんですけど」
「ど…どういう意味よ…」
「こういう意味…ですわ」
さて…と。
まずは彼女を地べたに引き摺り下ろしますか。
「お受けなさいな……リストリクション!」
「が…はぁっ…!? か…体が…痺れて…!?」
蠍座お得意の拘束技。
蠍の猛毒が全身に回るように、体の動きを縛り付ける。
これにより、飛ぶ事も出来なくなり偽天野さんは地面に落下してきた。
「それじゃあ…全てを聞かせて頂きますか。そのお口からではなく…中枢神経から…ね」
「な…何をする気よ…!」
自分の口に薔薇を加え、顔を偽天野さんのおでこにくっつく寸前まで近づける。
勿論、この薔薇は魚座の伝統である『デモンローズ』ですわ。
「あらあら…成る程。そう言う事でしたのね」
「お前…私の頭の中を読んで…!」
ふむふむ…よーく分かった。
彼女の名前から、その下らない目的や仲間達の事まで全て。
「ふぅ…呆れてモノも言えませんわね…レイナーレさん?」
「わ…私の名前を…!」
「己の組織の意向に逆らって暴走し、被害まで出そうとした。幾ら未遂とはいえ、決して許されるような事ではない。しかも、まだ下劣極まりないことを企んでいる様子。兵藤さんの手前、余り乱暴な事はしたくはありませんが…このまま大人しく逃がすのもまた論外。ならば…この状況でやるべき事は一つのみ」
指先に小宇宙を集中させ、それをレイナーレさんの脳に直接打ち込む!
最強の黄金聖闘士である双子座のサガ様が『念の為に』と仰って私に伝授してくれた伝説の魔拳…使う機会なんて永遠に無いと思っていたのに、まさかこんな場所で使う事になるとは思いませんでしたわ。
「幻朧…魔皇拳!!」
「がぁぁぁぁぁぁっ!?」
拳を打ち込むと同時にレイナーレさんが地面をのた打ち回り苦しみだすが、すぐに大人しくなり無表情のまま私の前で直立不動の状態になった。
「ご心配なく。貴女に打ち込んだのは軽度の幻朧拳…解除するのに目の前で誰かが死ななければいけない…なんてことはありません。ですが、私の命令には従って貰いますわよ?」
「はい…分かりました…」
「ここで私に会った事は決して誰にも話さず、大人しくご自分の拠点にお帰りなさい。無論、その後も何もせずに大人しくしておくこと。お仲間にもそうお伝えなさい。いいですわね?」
「はい…分かりました…」
虚ろな目のまま、レイナーレさんはフワリと浮かび上がり、夕闇の空へを消えて行った。
「よ…良かったのか? あのまま行かせて…」
「問題ありませんわ。どうやら、彼女には仲間がいるようですし…ここでレイナーレさんをどうにかしても、後で確実に仲間がやって来る。それに…どうせ倒すなら、一人一人と各個撃破をやっていくよりも一網打尽にした方が楽じゃありませんこと?」
「言いたい事は分かるけどよ…」
「それに、彼女達の拠点の場所や、他にも企んでいる事は全て聞きだしました。心配はいりませんわ」
問題があるとすれば、どんな風に支取会長に報告するか…ですわね。
今回、本格的に『堕天使』という存在と遭遇したことで、なんとなくではあるけど学内に存在している『小宇宙』を感じさせる方々の正体にも予想がついてきた。
あの人の事だから、自分達の正体がバレても手荒な真似はしないと思いますけど。
「一先ず、今日の所は兵藤さんも家に帰った方が良いと思いますわ。お疲れになったでしょう?」
「そ…そうだな。色んな意味で疲れた気がする…」
彼にとっては意味不明な事の連続でしたでしょうしね。
「話せる範囲で、今回の事に付いては明日話しますわ」
「分かったよ。川上さん」
「はい?」
「その…今日は本当にありがとな。君がいなかったら、マジでどうなっていたか分からなかったよ。感謝してる」
「姫たる者、同じ学校の仲間の危機を助けるのは当然…ですわ」
「そっか…」
その後、私達はお互いの帰路に着いた。
心配事が一つ減り、また一つ増えた…って感じですわね。
実力だけならば私の方が圧倒的に上回っているとはいえ…前途多難ですわ。
取り敢えず、今日はとっとと家に帰ってからゆっくりと休みましょう。
なんだか、このままだと全くグレモリー一派が出る気配がありませんわー!
けど、個人的には彼女よりもソーナさんの方が好きだから構いませんわー!