一誠が毒龍の暗殺者を、ランスロット達が変異したバルパーを倒した頃、二匹のケルベロスの相手を受け持ったソニアとクレイオスは、お互いの相手と対峙していた。
「これが『地獄の番犬』と呼ばれているケルベロスか」
「
「グルルルル…!」
「ガウゥ…!」
バカにされたことが分かったのか、見上げるほどに巨大な体躯を持つ二頭のケルベロスは、その鋭い犬歯を剥き出しにしながら地の底まで響くような唸り声を上げた。
「それにしても、我ら二人を前にしても慄く事が無いばかりか、逆に怒るとはな。所詮は魔獣の類…と言う事なのか」
「恐らくはな。嘗て、冥王ハーデスとの聖戦の時に冥界に降り立った星矢さんと瞬さんが現地のケルベロスと実際に戦ったらしいが、彼我の実力差など全く理解しないままに襲い掛かってきたらしい」
「愚かな…。他の者達ならばいざ知らず、あの二人を襲うとは…身の程知らずを通り越して哀れですらあるぞ」
「全くだな。たかが畜生程度が、あの偉大な先輩方に勝てる筈がないのにな」
背後でケルベロスの怒気を感じて固まっているリアス達を余所に、この二人は余裕のお喋りタイム。
黄金聖闘士ともなると、この程度では全く動じない。
「「グガァァァァァァァァァァァァァッ!!!」」
痺れを切らしたのか、二頭のケルベロスが同時に襲い掛かる!
その剛脚の一撃と、牙による噛み付きが決まれば一巻の終わり!
だがしかし、それでは黄金聖闘士たちは倒せない。
「「遅い」」
最高速度が光速の彼らが、その気になれば余裕で回避できるが、二人は敢えてそれをせずに左腕を前に出してからケルベロスの突撃を易々と真正面から受け止めた。
「う…嘘でしょっ!?」
「あの巨体から繰り出される突撃を…片腕で受け止めたッ!?」
普通ならば、避ける暇もなく攻撃を受けて粉々になる所だろうが、そんな『普通』が通用すれば苦労はしない。
88の星座の最高位、最強の十三人の異名は伊達ではないのだ。
「…ソニア」
「クレイオスも気が付いたか」
「うむ。こやつら…どうも様子がおかしい。最初は魔獣故かと思っていたが、どうやら違うようだな」
「私も同意見だ。もしや、こいつらは…」
涼しい顔でケルベロスたちの巨体を防ぎながら、チラっと姫子と牽制し合っているコカビエルの方を見た。
「フッ…流石に気が付いたか」
「では、矢張り…」
「そうだ。その二匹は俺の手によって『
それを聞いた途端、二人の眉間がピクッと反応した。
「普通のままでは戦力として心許なかったのでな。俺の魔法にて理性を奪い、死をも恐れぬ狂犬に仕立て上げた」
「それが何を意味するのか…分かっているのだな?」
「無論だ。戦士としては外道の極み。論外と言っても良いだろう。言い訳はせん。そもそもの話、俺は今回の事で動くと決めた瞬間から、喜んで鬼畜にも劣る賊の烙印を押される覚悟は出来ている。死した後も、俺の名は未来永劫、無垢なる番犬すらも自分の野望の為に利用した下種として語り継がれるだろうな」
もう後戻りなんて出来ない。
否。最初からするつもりすらない。
目的すら果たせれば、自分自身がどうなっても一向に構わない。
死どころか、死した後の事すらも全く恐れていない。
だからこそ、ソニアもクレイオスも姫子も理解する。
生半可な覚悟では、真の意味でコカビエルを倒す事は不可能だと。
「いいだろう…ならば」
「お前のその『覚悟』に敬意を払い…」
「「全力で戦ってやろう」」
その瞬間、ソニアとクレイオスの全身から黄金のオーラが溢れ出る。
二人の小宇宙が燃焼され始めた証拠だ。
「まずは…」
「吹っ飛べ!!」
「「ギャゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!?」」
まるで普通の犬のような鳴き声を上げながら大きく吹き飛ぶ二匹のケルベロス。
あの巨体が宙に浮くと言うこと自体が現実離れしていて、リアスとソーナは思わず口をポカーンと開きっぱなしにすると言う淑女にあるまじき行為をしてしまった。
「あ…あの細い体の一体どこに…」
「あれ程の力があると言うの…?」
開いた口が塞がらないとはまさにこのこと。
もしこの場に『
『要は小宇宙です』と。
「グルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥッ…!」
「ガルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥッ…!」
圧倒的な力の差を見せつけられても、まだ立ち上がり威嚇する事を止めないケルベロスたち。
死を恐れないというのは、こういう所で厄介になる。
防御をする。回避をする。
そんな風な『守り』の姿勢を一切しない。
どこまでも愚直に突撃し、逃げると言う事すらもしない。
正真正銘の狂戦士。
それが今のケルベロスたちだった。
「このままでは埒が明かんな。こうなったら…」
「我等も『必殺の一撃』にて応えねばなるまい」
ソニアの人差し指に真っ赤に伸びた爪が出現し、クレイオスの右手が手刀のように構えになる。
一気に相手の気配が変わったのを本能で察したのか、ケルベロスたちは無意識のうちにお互いの相手を決めていた。
今までは二匹同時に二人を倒そうとしていたが、今度は片方がソニアを、もう片方はクレイオスに襲い掛かる!
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「ゴガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
野性の赴くままに向かってくるケルベロス。
今回のソニアは、避けもせず受けもせず、逆にケルベロスに向かって走っていった!
「戦争の道具と化した哀れな魔獣よ。お前の生を、この技にて終わらせてやろう!」
徐々に迫る両者の距離。
ぶつかる瞬間、ソニアの持つ『真紅の毒針』が、その巨体を鋭く穿つ!!
「受けるがいい!! これこそが、大恩ある我が師『ミロ』から授かりし『真紅の衝撃』!!」
それは、嘗て姫子も炎使いの暗殺者との戦闘にて使用した歴代の『
慈悲と苦痛を与える恐るべき一撃!!
「
すれ違う瞬間、真っ赤な軌跡が走ったかと思ったら、次には静寂が訪れる。
パッと見ではケルベロスの身体に傷跡が無いように見える。
だが、実際には針に刺されたような跡がケルベロスの分厚い皮膚に確かに出来ていた。
「我が奥義『スカーレット・ニードル』の傷跡は、それこそ針のように小さきもの。だが、その一撃はお前の体内にある中枢神経を刺激し、想像を絶するような激痛を全身に走らせる」
ソニアの言葉を証明するかのように、ケルベロスの全身に汗が噴き出て、少しでも痛みを和らげようと地面に寝転がりながら巨体を揺らしてバタバタと全身をのた打ち回った。
「ギャゥゥゥゥゥゥゥッ!!! ガァァッ!! キャゥゥゥゥゥゥッ!!」
それだけ暴れても、その痛みが引く事は決してない。
寧ろ、動けば動くほどに痛みが増すだけだ。
「本来、この『スカーレット・ニードル』は、蠍座の形に三発ずつ攻撃をして相手に降伏か死かの選択肢を与える慈悲深き技。だが、お前は魔獣であり、更には理性すらも失っている。故に私は一度に14発同時に穿った」
狂化の影響なのか、気が飛びそうな痛みを受けながらも全身を痙攣させながら、ケルベロスは口から泡と涎を流しながら立ち上がってソニアを睨み付ける。
まるで『自分はまだ負けていない』と言っているかのように。
その様子を見ながら、ソニアは極めて冷静に、冷酷な事実を告げる。
「そして、最後は蠍座を形成する星々の中で最も巨大な星の位置に穿つ。それは蠍の心臓の位置にある最も巨大で真っ赤に燃える星。スカーレット・ニードル最大の致命点。これを喰らえば…その先に待つのは死だ」
あと数刻の内に自分には死が訪れる。
だが、ケルベロスはソニアに再び突撃する。
最後の一瞬まで抗う為に。
「…さらばだ。哀れな狂犬よ。そして…今こそ究極まで轟け!! 私の小宇宙よ!!!」
ソニアの小宇宙が最大にまで高まり、赤き一撃がケルベロスに炸裂する!!
「
「グギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァスッ!!!!!」
その心臓に最大の一撃を喰らい、ケルベロスはズゥゥゥン…と地響きを上げながら地に伏せ息絶える。
「これが…黄金の蠍の聖なる毒針の力だ」
風が吹き、ソニアのマントと髪を静かに靡かせた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
ソニアがケルベロスの突撃を真正面から迎撃しようとしていた頃、クレイオスもまた同じようにもう一匹のケルベロスと対峙していた。
「これは…ある意味で我にとっての『試練』なのやもしれん。我が最大の『友』の聖衣を纏うに値するか…我が真の意味で『
目を瞑り、精神を集中させるクレイオス。
野性を剥き出しにした魔獣を前にして気が触れたかと思われるような行動だが、生粋の『剣士』であるクレイオスには些細な問題だ。
寧ろ、こうして精神集中をする事でより一層、小宇宙を燃やす事が出来る。
「来い。番犬。我が『剣』を恐れぬのならばな」
「グガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」
人とは思えないような威厳に溢れた言動にも恐れる様子はなく、ケルベロスは大きく口を開きながらクレイオスに突撃する。
静かに目を開け、全身に満ちた小宇宙を自分の右腕に一点集中させた。
「今こそ究極まで研ぎ澄ませ…我が小宇宙よ」
その時、この場にいる者達の眼には確かに見えた。
クレイオスの右手から伸びる巨大な金色の刃が。
「
「ギャゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!」
その身に触れることなく、ケルベロスの巨体が斬り裂かれながら吹き飛ぶ。
大量の鮮血が夜空に舞い散った。
「これで終わりと思うな。我が剣は回転もするのだ」
クレイオスの右腕が白く光る。
それが蛇腹剣のように伸びて、まだ空中にいるケルベロスに更なる追撃を放つ!!
「
白き刃が一気に伸びて、回転をしながらケルベロスの巨体を覆い尽くしながら斬り刻む!!!
その出血すらも旋回して、同時にケルベロスの身体から漏れ出た小宇宙がクレイオスの右腕に吸い込まれていく。
「そして、我が刃にて吸い取った貴様の小宇宙を…我が小宇宙にて増幅して返してやる」
高速で回転する光の刃がクレイオスの右腕から放たれ、ケルベロスの身体を一刀両断した!!
「
「ギャオォォォォォォォォォォォ…!」
遠吠えのような断末魔を残し、真っ二つになったケルベロスは地面に落ちる。
無残な姿となった番犬はピクリとも動かなかった。
「これが…我が腕に宿りし『星をも断つ神剣』だ」
星々が瞬く夜空を見上げながら、クレイオスは遠き地にいる『友』に誓う。
一人の『剣士』として、これからも戦い続ける事を。
人間として…アテナの聖闘士として。