コカビエルとの死闘…遂に決着!
姫子の『
「見事…だ…ゴホッ…!」
「コカビエル…」
グラウンドに大の字で倒れ、全身から大量の血を流している彼の体は、誰の目から見ても絶対に助からない。
一方の姫子もまた、全身から夥しい程の出血をしているが、意識はハッキリしている上に、息も絶え絶えではあるがちゃんと自分の足で立てている。
「お前が放った最後の一撃…俺の目には確かに見えた。黄金に光り輝く神々しき刃。あれこそが伝説に名高い最強の聖剣…エクスカリバーか…」
「そうですわ。遥か神話の時代から、我ら聖闘士に脈々と受け継がれている偉大なる聖剣…」
「ふっ…この俺にトドメを刺したのが伝説の聖剣で、最後に戦った相手が、その聖剣に選ばれし担い手…か。戦士として、これ以上ない誉だ。俺のような者には贅沢すぎるな…」
口の端から血を流し、もう立つ事すら出来ない程なのに、その目は今まで以上に生気に溢れ、心の底から満足そうな顔をしていた。
「どうして…最後の一撃を放つ際…貴方はガードをしようとしなかったんですの…? 貴方ほどの実力者ならば、容易に出来た筈なのに…」
「もし仮に防御をしていたとしても、その防御ごと斬り裂かれていただろう。あの状況…何をどうしても俺の敗北は必至だった。それならば、正面から受けてみたくなった…それだけだ」
何度となく拳を交え、文字通り全身全霊を持って戦った姫子だからこそ分かる。
コカビエルからは微塵も悪意ある小宇宙が無いと。
この男は、どこまでも純粋に戦いを楽しんでいたと。
「なんで…その潔さをもっと上手に使えなかったんですの…? 持てる力を調和と協調に使えば、この世界だって救えたかもしれないのに…」
「言った筈だ…。俺の目的はあくまで『三大勢力戦争の正しき終結』だと。だが…その目的は達成された…」
「え…?」
首だけを動かし、コカビエルはリアスとソーナの方を向いた。
彼女達は、いきなり視線を向けられて動揺している。
「今の戦いを何も感じ取らなかったようなアザゼルやミカエル、サーゼクスではない筈だ。特にアザゼルは必ずどこかで、この戦いを見ていただろう。アイツはそういう男だ」
戦っている最中はその余裕が無かったから気が付けなかったが、こうして精神的に余裕が出た今ならば分かる。
遠くから自分達の事を見ている複数の小宇宙があることを。
「自分がやったのは『お膳立て』…と言うおつもり?」
「さぁな。この戦いが今後、どんな風に役立てられるかは三大勢力の長たち次第だ。俺はただ…その『切っ掛け』にすぎん」
本当は分かっていた。
こうしてコカビエルの誘いに乗って戦った時点で、自分達は戦略的な意味で敗北していると。
でも、だからと言って彼の事を無視は出来なかった。
その結果が今となっている。
「姫子だけじゃない…次代を担いし若き力を見る事も出来た。もう…大丈夫だろう」
コカビエルの顔から血の気が引き始め、彼の顔は満足したように微笑を浮かべた。
「もうすぐ俺は死ぬだろう。だが、別にお前が気に病む事は無い。これは正しき戦いであり、俺から仕掛けた戦いなのだから。お前はただ、戦争の継続を望んだ愚かな堕天使を倒した。それでいいのだ」
「それが…潔過ぎだって…言ってるのよ…」
どこまでも純粋な戦士であるコカビエルに、思わずお嬢様言葉ではなく女性口調になる姫子。
家族以外に素を見せた貴重な瞬間でもあった。
「だが…この命果てる前に…お前達に伝えることがある。特に…教会に属している者達にな…」
「そ…それって…」
「私達の…こと…か…?」
「僕も該当する…のかな…」
反応したのは裕斗とゼノヴィア、イリナの三人。
その時点で、三人の黄金聖闘士たちと一誠はなんとなく話の内容を察した。
はぐれ神父であるフリードも、コカビエルが何を言おうとしているか分かったので反応はしなかった。
「良く聞け…一度しか言わんぞ。いや…一度しか言えない…か」
そこでまた咳き込み、吐血をしてからコカビエルは絞り出すように、だがハッキリとした声で言った。
「聖書の神『ヤハウェ』は…もう既に亡くなっている」
「「「なっ…!?」」」
(((やはり…)))
(そういうことか…)
(んなこったろうと思ったよ…)
教会組三人は目を大きく見開くほどに絶句し、一方の聖闘士三人と一誠は予想が当たった事に渋い顔をし、フリードは大きな溜息を吐いた。
「ど…どういう事だっ!? 主が亡くなっておられるなど…そんな話は一度も…」
「聞いたことが無い…か。それはそうだろう。そんな話、安易に話す事は出来ない。特に、お前達のような末端にはな」
「じゃあ…神父様たちや天使様たちは…」
「神父たちは知らんが、天使たちは全員知っている。特にミカエルを初めとした四大天使は。奴は主の死を悟られぬようにしながら天界の『システム』を今も維持し続けているからな」
「そ…そんな…じゃあ…本当に…?」
コカビエルがこの期に及んで嘘をつくとは誰も思っていないので、教会組の三人は眼前蒼白になりながら前後不覚になりかける。
それ程までに衝撃的な告白だったのだ。
「だが…嘆く必要はない。主がおらずとも世界は今もこうして回っている。確かに主は偉大な存在かもしれんが…あの方がこの世の全てと言う訳ではないのだ。それに…」
「聖書の神は完全に消滅したわけではない…からか?」
ここで言葉を発したのはクレイオスだった。
彼の発言に全員が注目する。
「…良く知っているな」
「故あって、その手の事には詳しいのだ」
その理由は、クレイオスの前世と出生の秘密に関わってくるのだが、今はまだその事を話す時期ではないので黙っている。
「神々が不滅とされているのは、決して不老不死だからではない。例え肉体が消滅しようとも、その魂は不滅。気が遠くなる程の年月を経て、再び何処かに降臨をする。それが神と言う存在だ」
「そう…ですわね。実際、アテナも同じように二百数十年に一度、人間の肉体を借りて地上に降誕しますから…」
最も近い場所に最高の例が存在しているので、聖闘士たちはすんなりと話を受け入れられた。
「最も…次に聖書の神が降臨した時にはもう…お前達は寿命で命尽きているだろうがな。いや…そこの魔剣創造の使い手は転生悪魔だから生きているか…?」
「そう…だろうね。この目で見る事は出来ないだろうけど…」
悪魔となった以上、聖書の神とは相対する立場にある。
それでも、いつかまた聖書の神が現れると分かっただけでも十分だった。
「ところで…どうして聖書の神ほどの方が死亡をなされたんですの? やはり、例の戦争の時に…」
「いや…聖書の神は…がはっ!?」
最も重要な事を言うとした瞬間、コカビエルが大量の血を吐いた。
どうやら、肝心なタイミングで限界が来てしまったようだ。
「ここまで…か」
「コカビエル…」
「聖書の神に関しては…いずれ接触して来るであろう…ミカエル辺りにでも聞くと良いだろう…。恐らく…奴は姫子辺りに近づいてくるはずだ…」
今回の戦いだけでなく、これまでにも顔の無い暗殺者を二人を倒している姫子に注目が向くのは、ある意味で必然とも言えた。
だからこそ、コカビエルは姫子に名指しで注意を促した。
「俺達の事を見張っている『無粋な輩』もいるようだが…奴等も大人しくなるだろう。これで…な…」
コカビエルの肉体が徐々に光の粒子に変わっていく。
これが堕天使の…否、天使の死なのか。
「コカビエル…貴方と戦った事…絶対に忘れませんわ」
「俺もだ…。黄金の鎧を纏いし誇り高き勇者よ…最後にお前と戦えた事を…この魂に永遠に刻もう…」
もうコカビエルの体は半分以上が消滅し、下半身はもう存在しない。
それでも彼の顔は微笑のままだった。
「満足だ…悔いも無い。俺は…全力で生きた」
徐々に上半身も消え、遂には首だけとなった。
「さらばだ…我が…好敵手…蛇遣座の姫子…よ…」
それだけを言い残し、コカビエルは光の粒子となって完全に消滅した。
星々の光に負けない程に輝いていた光を見上げながら、姫子は静かに目を閉じて哀悼の意を示した。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「くっ…!」
コカビエルが消滅して、気が抜けた瞬間…一気に眩暈が襲ってきましたわ…。
冗談抜きで一瞬だけ倒れそうになったし。
「「姫子!」」
「川上さん!!」
あぁ…クレイオスとソニアと兵藤さんが駆けつけてくれた。
今はそれだけでも有り難いですわ。
「だ…大丈夫!? 川上さん!?」
「ど…どうすれば…こんなにも大量の出血が…! でも、コカビエルの話も気になるし…」
グレモリー先輩は、もう面白い様に動揺して、支取先輩も珍しく混乱してる。
こんな時だけど面白い。
「お見事でした…我が王よ。矢張り、貴方様こそが我の仕えし真の騎士王」
「ありがとうございますわ…ランスロット」
そして彼は…本当にマイペースと言いますか…。
「コカビエルの最後の言葉が衝撃的過ぎて…まだ頭の整理がついてないけど…それは後で考えるとして! 今は姫子ちゃんをなんとかしないと!」
「そ…そうだな! 素人目から見ても明らかに重傷だ! びょ…病院に連れて行くべきか…!?」
「今の時間じゃ、どこも受け入れてくれないと思うよ…。それよりも、川上さんの家に連れて行くのがベストじゃないかな?」
「だな。嬢ちゃんの家なら、あのアーシアちゃんがいるし、あの子の神器で傷を治せるっしょ。見た瞬間に怪我の酷さに気絶しそうだけど」
割と普通の反応なゼノヴィアさんとイリナさんと比べて、冷静な木場さんとフリードさん。
場慣れしているってことなのかしら?
でも、自宅に帰るって言うのは実に妥当ですわ。
いざとなれば、お義父様に治療して貰えるし。
アーシアさんは…なんか混乱してあたふたする様子が目に浮かびますわ。
「よくやったのである姫子。よもや、あのコカビエルと互角に渡り合っただけでなく、倒してしまうとは…。アテナや教皇にも良い報告が出来るのである」
「それは良かったですわ…。でも…」
「うむ…分かっているのである」
コクトーさんも労いの言葉を言ってくれたけど…今はまだ素直には喜べない。
何故なら…。
「お見事だった。流石は世界でもっとも有名な伝説の聖剣。かの堕天使すらも一撃で屠るとは…素晴らしいとしか言いようがない」
パチパチパチ…。
突如として拍手が鳴り、それと共に現れた謎の男。
金髪オールバックで、黒いジャケットを身に着けている美男子。
それを見た瞬間、ランスロットの目が大きく見開かれた。
「貴様は…!?」
「久し振りだね、ランスロット。彼女が、君の見つけた『王』なのか」
「そうだ。いずれ必ず姿を現すかと思っていたが、まさかこのタイミングとはな…」
彼が反応をしていると言う事は…もしや、この男がランスロットの言っていた…あの…?
「貴様…何者だ」
クレイオスが警戒心MAXで立ちはだかるが、どうにも敵意ある小宇宙は感じない。
彼は…戦いに来たわけじゃない…?
「そう警戒しないでくれ。私は別に君達と戦いをしに来たわけではないんだ」
「では、何が目的だ」
「返して貰おうと思ってね…ずっとどこぞに消えていた…私の『剣』を」
「『剣』…だと…?」
そう言うと彼は、なんとゼノヴィアさんの方を見た。
いきなりの事に彼女も困惑していた。
「な…なんだ? 私がどうにかしたのかっ!?」
「君が持っているのだろう? 返してくれないか? 私の『剣』を」
「お前の剣…だと…? 貴様は一体…」
ゼノヴィアさんが怪訝な顔をしていると、コクトーさんが全員に警戒を促した。
「気を付けるのである。この男は…イタリア・フランス史における…最強の『英雄騎士』!!」
ってことは…まさかっ!? この人がッ!?
「我が聖剣の『黄金の柄』には…」
彼が右手を掲げると、突如としてゼノヴィアさんの目の前に魔法陣のような物が出現する。
「『聖ペテロの歯』『聖バジルの血』『聖ドニの遺髪』『聖母マリアの衣服』…四つの『聖遺物』が収められし…『聖』なる『剣』…」
「や…やめろ! それは…!」
慌てるゼノヴィアさんを余所に、魔法陣の中から一本の剣が出現する。
あれが…そう…なんですの…?
「デュランダル」
剣はそのまま飛び、彼の手に握られた瞬間、光と共にその刀身全てが真紅に染まり、まるで聖衣のオブジェ形態のような姿に変化した。
やっぱり…彼こそがあの…伝説の…!
「少し遅れてしまったが…自己紹介をさせて貰おう」
デュランダルを握りしめ、その感触を確かめるかのように見つめ、その後に私達の方を見た。
「私の名は『ローラン』。
フランク国王…『シャルルマーニュ』の血脈…!
最強の英雄であると同時に…真の聖騎士とまで呼ばれた男!!
そんな人物が…この状況で私達の目の前にいるだなんて…!
本当に…最悪のタイミングですわ…!