「ろ…老師…? それ…師匠から聞いたことがある…確か…」
シオン様と一緒にいたであろう老師様が現れた時、最も驚いていたのは兵藤さんだった。
「やっぱり、教えて貰っていたんですのね」
「あぁ…確か…俺の師匠の師匠だったって…スゲー楽しそうに何度も話してくれたよ…」
楽しそうに…か。
そりゃ当然でしょうね。
紫龍さまにとって、老師様は親も同然の大恩ある偉大なるお方。
思い出話にも花が咲くってもんですわ。
「だが、老師はそれだけの存在ではない」
「そうだ。この方こそ、教皇と並び称される伝説の聖闘士の一人なのだから」
クレイオスとソニアが補足を加えると、老師様はお髭を撫でながら微笑み、他の方々は驚きの表情になる。
「そ…それは…どういうことなのかな…?」
「今から240年以上も昔、冥王ハーデスとの聖戦が勃発した際、このお二人は黄金聖闘士として最前線にて戦っておられた」
「神々の聖戦は熾烈を極め、最終的にハーデス軍は全滅し、その魂は封印され…」
「アテナ軍はたった二人の黄金聖闘士を残して全員が死亡した」
「その二人と言うのが…」
「このお二人…なのか…」
私達で簡素ながら説明をすると、サーゼクス様は顔から冷や汗を流していた。
まさか、この方々が神々との戦いを生きぬいた人達とは想像もしなかったんだろう。
「嘗てのこのお二人の名は…黄金聖闘士『
「つまり、私達の代から数えて先々代の黄金聖闘士と言う事になりますの」
私達の説明を聞いている間も、シオン様と童虎さまはニコニコとしておられた。
まるで、孫の成果を聞いているかのように。
「ま…待って頂戴。このお二方がとてつもなく偉大なお方と言うのは理解出来たけど…」
「まだ何か? グレモリー先輩?」
「気のせいかしら…このお二方が200年以上の月日を生きてきたって聞こえたような気がしたんだけど…」
「気がした…ではなく、実際にそう言ってますわ。シオン様も童虎さまも、二世紀以上の時間を生きておられるお方ですわ」
「嘘…でしょ…!?」
詳しい事を話せばまた長くなりそうなので、ここは一先ず普通に驚いて貰いましょうか。
「更に言えば、貴鬼と兵藤さんは似たような立場になりますわ」
「え? 俺と貴鬼さんが似たような立場?」
流石にこれだけじゃ分からないか。
なんて思っていたら、貴鬼がちゃんとフォローしてくれた。
「シオン様は俺の師…先代の牡羊座であるムウさまの師でもあるんだ」
「あぁ…成る程」
多分ですけど、これを切っ掛けにして兵藤さんと貴鬼が仲良くなりそうな気がしますわ。
「兵藤一誠」
「は…はい!」
「紫龍はちゃんと師匠としてやっておるか?」
「も…勿論です! 師匠は俺の自慢の人であり、目標でもありますから!」
「そうかそうか…昔は生真面目で堅物だったが、弟子を取ることで良い影響を与え合ったようじゃな」
「童虎よ。孫弟子が出来る気持ち…ようやく理解出来たか?」
「そうじゃな。存外悪くないもんじゃ。まるで本当の孫が出来たようじゃ」
「ま…孫…へへ…」
あら…兵藤さんが珍しく歳相応なお顔に。
この純粋さが昔からあれば、普通に女性にもモテてたでしょうに。
「ところで姫子よ。今日はどうしてここに来た? よもや、自身の従者や友人達を紹介しに来た…と言う訳でもあるまい?」
「そ…そうでしたわ。申し訳ありません。実は…」
「いや。ここは僕から話そう」
「サーゼクス様…」
私の事を手で制すると、サーゼクス様はさっき部室で私達にも話した三大勢力会談の事を事細かに説明してくれた。
「成る程…つまり、今まで駒王町で起きた事件の当事者にして、コカビエルの一派と戦った者達として、姫子達も会談に出席させる…と」
「はい。彼女達からもアザゼルやミカエルたちに詳しい説明をして欲しいと思いまして」
「堕天使達の総督と噂に聞く大天使か。中々の面子が来るようじゃのぉ…」
さ…流石は老師様…。
アザゼルとミカエルと言えば、双方ともに聖書に名が刻まれている程の相手…。
それを『中々の面子』で済ませるだなんて…。
「我等が黄金聖闘士が出席すると言うのであれば、この私も出ない訳には行くまい」
「シ…シオン様っ!? ご出席なさるおつもりでっ!?」
「そう言っている。お前達の上に立つ教皇として、アテナの地上代行者として、その会談には出なくてはいけないだろう。人間…いや、ギリシアの勢力の代表として」
「ほっほっほ…シオンが出るのならば、この儂も出なければなるまいて」
「ろ…老師様まで…!?」
こ…これはまた、とんでもないことになってきましたわ…!
単なる報告のつもりで来たのに、まさかこのお二方が会談に出席することになるなんて…!
「瞬」
「はい。なんでしょうか」
「たった一日だけ、外出することは可能だろうか。医者としての意見を聞かせて欲しい」
「無理をしなければ、一日ぐらいなら問題はないかと」
「そうか。それを聞いて安心した」
あぁ…瞬さまからのお墨付きが出てしまいましたわ…。
これはもう会談出席が確定事項に…。
「シオンよ。どうせなら会談の日に合わせて『黄金結合』をしたらどうじゃ?」
「それはいい。三大勢力に対する牽制にもなるやもしれんな」
なんか目の前で凄いことを相談されてるんですけどーっ!?
そして、さっきからサーゼクス様がずっとお腹を抱えて胃が痛そうな顔をしてますわー!
「瞬くん…後で胃薬とか処方して貰えるかな…?」
「人間用で良ければ」
「頼むよ…」
なんだろう…今のサーゼクス様は、魔王と言うよりは、中間管理職の人に見えますわ。
「詳しい日程が決まったら、こちらから連絡する形でよろしいでしょうか…?」
「そうしてくれると助かる。我々も色々と用意があるからな」
多分ですけど…聖域から教皇の法衣とか取り寄せるんでしょうね…。
あれこそが教皇の正装ですし。
「ついでだから、あの事も話したらどうだ?」
「あの事…ってなんですの? クレイオス」
「参観日」
「いや、流石にそれは…」
なんでこの流れで急に日常的な話題に持って行こうとするんですの?
クレイオスって何気に天然ですわよね…。
「参観日…だと…? どういうことだクレイオスよ…!」
シオン様が急に食いついて来たッ!?
そんなに興味あるんですの参観日ッ!?
「実は、このサーゼクス殿たちも、参観日に出席する為に、少し早めにこちらに来られたとの事です」
「そうか…」
あ。急にシオン様が瞬さまの方を見た。
「瞬。外出予定をもう一日追加で頼む」
「無理をしない程度なら」
「当然だ。何を着て行けばいいのか…スーツとかか…?」
なんだろう…シオン様のお茶目な一面を垣間見た気がする…。
どれだけ強くても、どれだけ偉大でも、やっぱり人の子…ってことなのかしら…?
「それに、参観日ともなれば姫子の養父殿も来るのだろう?」
「恐らくは…まだ話はしてませんけど…」
「ならば尚更、行かなくてはな。教皇として、ちゃんと挨拶をしておかなくては」
あー…さっきまでのシリアス空気が窓から出ていくぅ~…。
もう完全に話題が参観日になってますわ~…。
「教皇とは即ち、聖闘士たちの親も同然。参観日に行かない理由が無い」
なんか自分に言い聞かせるように言ってますわ…。
只でさえ存在感抜群なのに、参観日になんて行った日には…。
(物凄いことになりそうですわね…色んな意味で…)
そもそも、小宇宙なんて燃焼させなくても『凄い人オーラ』が全身から溢れ出ているのに…スーツなんか着て学園に来たら間違いなく、同じように授業を見に来た奥様方をノックアウト間違いなしですわね。
だってシオン様…眩しいぐらいの超美形なんですもの。
「フッ…今後の楽しみが増えたな。なんなら童虎も来るか?」
「そうじゃのぉ…」
お願いだから、これ以上、私達の胃に負担を掛けないでくださいましー!
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
教皇猊下への謁見と言う名のお見舞いの帰り道。
私達は精神的にヘロヘロになっていた。
「なんか…スゲー事になってたな…」
「ですわ…」
正直な話、シオン様が会談に出席すると言い出す可能性はあると思っていた。
けど、まさか参観日にまで来ると言い出すとは…。
「会談の事は、後でランスロット達にも話さないといけないだろうな」
「そうですわね」
彼らも立派な当事者の一人。
出席する理由なら十分にある。
「ランスロット…話に聞いた円卓の騎士だね」
「はい。中々に癖がある人物ですけど…悪人ではありませんわ」
と言うか、私が会談に出ると聞いたら、何も言わなくても勝手に着いてきそうですけど。
恐らく、フリードさんも半ば強制的に連行されて。
「それにしても、本当に物凄いお方だったわね…。あんなにも緊張したのは生まれて初めてよ…」
「心中お察しします…リアスお嬢様」
グレモリー先輩は、かなり緊張してましたものね。
私たちでさえガッチガチだったんですから、完全初対面な皆さんの心境は凄かったでしょうに。
グレイフィアさんも表面上は涼しい顔をしてましたけど、内心はかなり緊張していたみたいで、病院から出た途端、ハンカチで額に浮き出た汗を拭いていた。
「今度の会談は…とんでもないことになりそうだね。君達と同格の者達が全員集まるだけでなく、教皇陛下たちまでご出席なされるとは…。アザゼルとミカエルの驚く顔が目に浮かぶようだよ」
私はまだお二人の事は存じてないけど、サーゼクス様の話から察するに、アザゼル様もミカエルさまも愉快な方々みたいですわね。
「現在、駒王町に集まった黄金聖闘士は瞬さまを含めて五人。残り八人も会談までに町に集まって来るでしょうね」
「って事は、また一輝さんとも会えるってことか」
「えぇ。あの方も黄金聖闘士ですし」
そう言えば…この事はレイヴェルさんにもお伝えした方がいいのかしら?
一応、番号交換はしてるけど…地上から冥界に電波って届くの?
「ソーナにもちゃんと伝えておかないとね。黙っていたら、また五月蠅そうだし」
そりゃそうですわよ。
どんな時もホウ・レン・ソウは大事ですわ。
「支取先輩も…今回の事を知ったら卒倒しそうですわね…」
「そうね…。今度、生徒会室に行く時はお茶菓子でも用意して行こうかしら…」
なんと言うか…結果として心配事が爆増しましたわ…。
こんな事で、ちゃんと会談の日を迎えられるのかしら…。