教皇陛下に三大勢力会談についての報告をしてから帰路につく私達。
兵藤さん達とは途中で分かれたけど、一緒の家に住んでいるアーシアさんとゼノヴィアさん、そして我が家にお泊りになられるサーゼクス様とグレイフィアさん、それから聖衣の修復をしてくれる予定の貴鬼と一緒に歩いている。
「到着しましたわ。ここが我が家です」
「ん? 一見すると普通の家のように見えるが…何か結界のようなものが張られている?」
「矢張り、お分かりになられますか」
伊達に魔王をやっている訳じゃ有りませんわね。
仮に気が付かなくても、隠すつもりなど無かったので別にいいけど。
「我が家にはアテナ様の意志による結界が張られており、敵意のある者の認識をずらしたり、その力を大幅に下げる効果があるのです」
「ぼ…僕達は大丈夫なのかい?」
「ご心配なく。今日のお二人はあくまで『お客様』。アテナ様も、その辺の事はご承知の筈ですわ」
「そ…そうか。なら安心…なのかな?」
例え相手が悪魔であっても、手を取り合えるのならばアテナ様は迷わず手を差し伸べる。
そんな慈悲深い方の意志が宿る結界なのだから、部外者をなんでもかんでも阻むような融通の利かない…なんて事は決して有りませんわ。
「では、入りましょうか」
私が率先して玄関のドアを開けて靴を脱ごうとすると、なにやら妙な違和感が。
「あら?」
「どうした姫子?」
「いえ…見慣れない靴が玄関にあったもので…もしかして、誰かお客様でも来ていらっしゃるのかしら…?」
可能性があるとしたら、お義父様の知り合い。
ああ見えて、お義父様はかなり顔が広いから、誰が来ているのかはさっぱり分からない。
「ただいまですわー」
「「ただいまかえりました」」
返事は無し…と。
でも、靴はあるし気配も感じるから、確実に中に入るんですのよね。
「サーゼクス様とグレイフィアさん。それから貴鬼も。遠慮なくお上がり下さいませ」
「そ…それじゃあ…お邪魔します」
「お邪魔致します」
「失礼するよ」
皆さんを家に上げてからリビングへと向かう。
そこから話声のようなものが聞こえるから。
「お義父様ー? コクトーさーん? いらっしゃいますのー?」
一応、声を掛けながら扉を開ける。
開けた瞬間に漂ってくるのは、ほのかなアルコールの香り。
「おや…姫子。帰って来ていたんだね。気が付かなくて申し訳ない」
「おかえりなのである。姫子」
「あるー」
ちゃんとお義父様とコクトーさんはいたけど、いつもよりも饒舌だ。
これはほぼ確実に酒を飲んでいましたわね。
でも、問題はそこじゃない。
お義父様とは別に、見知らぬダンディなおじ様が一緒にいた事だ。
「お? お前がフィリップスの義娘か? 邪魔してるぜ」
「は…はぁ…」
…誰ですの?
この無精髭が妙に似合うおじさまは…?
奇妙な小宇宙を感じますけど…。
「って、サーゼクス? なんでテメェが一緒にいやがるんだ? メイドの奥さんも連れてよ」
「それはこっちの台詞だよ…アザゼル」
「「「えっ!?」」」
アザゼルって…もしかして、堕天使達のトップに君臨しているという…?
どうして、そんな方がウチに普通にいらして、しかもお義父様と一緒にお酒を飲んでますのっ!?
「なんだよ…そこは知らんぷりとかしとけよな。びっくりさせらんねぇじゃねぇか」
「君がいる時点でビックリするに十分に値すると思うけどね…」
「そうかぁ?」
そうですわよ!
けどまぁ…つい先程まで教皇陛下や老師さまと会っていた事に比べると、まだ驚きの度合いがマシですわね…アザゼル様には申し訳ないけど。
「はぁ…まぁいいや。取り敢えず、改めての自己紹介をするわ。俺は名はアザゼル。一応、『
「黄金十三宮、『蛇夫宮』の主にして『蛇遣座』の黄金聖闘士であり、同時に駒王学園の二年生の川上姫子と申します」
「おう…フィリップスからある程度は聞いちゃいたが…肩書き長げぇな…」
言われてみれば確かに。
でも今更なので気にしませんわ。
「姫子さんの従者をしているアーシア・アルジェントです」
「同じく、ゼノヴィアと申します」
「その年でもう従者持ちかよ…。なんか、トンデモねぇな…」
それもまた今更ですわ。
先代の皆さまなんてもっと凄かったし。
だって最年少で7歳で黄金聖闘士になってたんですもの。
どれだけの天才集団だったんだって話ですわよ。
シオン様曰く、サガ様やアイオロス様を中心にした世代が歴代の中で間違いなく最強の世代だったそうですわ。
「俺は『牡羊座』の貴鬼。姫子と同じ黄金聖闘士です」
「お前もか…。見た瞬間から只者じゃないとは思ってたけどよ…」
「そうか。君が姫子から聞いていた『修復者』か。よく来てくれたね。歓迎するよ」
「ありがとうございます」
さて…後はサーゼクス様たちに関する説明だけど…一応、お義父様には病院を出た直後にLINEで伝えておいたはずですけど…。
「お久し振りですね。サーゼクスさん。よく来て来てくれました」
「お邪魔しております。今日は御息女からのお誘いを受けてやってまいりました」
「えぇ、伺っておりますとも。どうぞ、ゆっくりとしていってください。奥方もご一緒に」
「ありがとうございます。フィリップスさま」
ちゃんと伝わっていたみたいですわね。
これで一安心ですわ。
「ところでー…一つ良いかな?」
「なんですの?」
「気のせいか…そこのフクロウが喋ったように見えたんだけど…?」
「見えた…ではなく、実際に喋っているのである」
「あるー」
「そ…そうなんだね…」
悪魔たちは確か、各々に動物の使い魔を持っていると聞いたことがある。
だから、コクトーさんのような存在はあまり珍しくないと思っていたけど…。
「我が名はコクトー。女神アテナの使いにして、姫子に神託を告げる者である」
「あるー」
「アテナの使い…そんなものまで一緒にいるんだね…」
「フクロウが喋る姿…何とも言えませんね」
「…もういいのである」
「あるー」
実はコクトーさん、動物扱いされるのが大嫌いだったのだが、何度も何度も『喋るフクロウ』扱いされる事で諦めてしまったのか、最近じゃ全く反論をしなくなった。
だって、見た目は完全に可愛らしいフクロウなんですもの。
これで神の使いだって言われても、そう簡単には信じられないですわよ。
「さて…これでお互いの事が分かったって事で…まずは聞かなきゃいけない事がありますわ」
「なんだ?」
「…どうしてアザゼル様が普通に我が家にいらっしゃいますの?」
「あ。そういえば、まだ言ってなかったね」
もしや、お義父様が錬金術であることと深い関係が…?
「「単純に酒飲み仲間だから」」
「…そんな事だろうと思いましたわよ」
やっぱり酒関係の知り合いだったんですわね。
大人って嫌ですわ。
「ここに来たのも割とマジで偶然なんだよ。最近ずっと仕事に追われててよ。偶には思い切り息抜きでもしたいなーって思ってたところに、フィリップスから『久し振りに一緒に酒でも飲まないか』って誘われてな」
「それで今に至る…と」
「そういうことさ。勿論、私は彼が堕天使であり、同時に総督と言う立場であることも予め承知した上で付き合っているよ」
「昔から、お前にだけは隠し事が出来ねぇからなぁ…」
昔って…そんな前からの関係なんですの?
お義父様の交友関係が分からなくなってきましたわ…。
「全く…まずは部屋に荷物を置いて着替えてきますわ。サーゼクス様たちは…」
「僕達は、ここでアザゼル達と話をしているよ」
「そうですか。では、少しの間だけ失礼しますわ。貴鬼も少しだけ待っていてくださいまし。部屋から聖衣を持ってきますから」
「分かったよ」
アザゼル様は兎も角、サーゼクス様たちにはお茶などを出さないと。
急いで着替えて来ますわよー!
「ちょっと待ってくれ」
「はい?」
アザゼル様…?
急に真剣な口調になって…どうしたんですの?
「少し前によ…町のど真ん中で凄まじい力を放出してたのは、お前とその仲間達だよな?」
「そうですけど…それが何か?」
「やっぱりか…。って事は、お前がコカビエルの野郎を止めてくれたんだな」
「…はい」
もしかして…同胞を倒されたことに対する報復?
そんな事をするような人には見えないけど…。
「本当に済まなかった!!!」
「「「え…えぇっ!?」」」
「ア…アザゼルッ!? いきなり何を…!?」
「おぉ…これは…」
い…いきなり目の前で土下座っ!?
ちょ…どうしたんですのッ!?
「アイツが色々と考えていた事は俺も知っていた。本来なら、奴を止めるのは俺の役目だった。けど…それを俺はお前達に押し付けちまった。フィリップスの話じゃ、アイツとの戦いで大怪我まで負ったと聞いた」
「それはまぁ…でも、この通りちゃんと治癒しましたし…ね?」
「そうかもしれない。けど、お前がコカビエルの苦悩と悔恨を晴らしてくれたのは事実だ。どれだけ礼を言っても言い尽くせねぇ」
この人…本当に堕天使なんですの?
物凄く義理堅くて好感が持てるんですけど?
「しかも、少し前に起きたウチの下級堕天使達の暴走を止めてくれたのもお前なんだろ?」
「あれは…友人が危なかったから仕方なく…ですわ」
「だとしても…だ。俺達堕天使は、お前個人には二つも、その仲間達にも物凄く大きな借りがあることになる。確かに俺は堕天使だが、受けた恩を返せないような馬鹿のつもりも無い」
なんだろう…また疲れそうな予感が…。
「サーゼクスと一緒にいるって事は、お前も既に三大勢力の会談の事は知ってるんだろ?」
「えぇ…そのサーゼクス様に教えて貰いましたから…」
「詳しいことは、その会談で話すつもりだが…お前には先に少しだけ教えておく」
「な…なんですか…?」
「俺と、俺達『
「は…はぁぁぁぁぁっ!?」
あの堕天使達が…味方になるっ!?
それは…どういうこと…ですの…?
「これはまた…教皇猊下に報告することが増えたな」
「全くですわ…」
あの方の事ですから、迷わずその提案を受け入れるでしょうね…。
シオン様は物凄く懐深いお方ですから…。
「教皇? そんな奴がいるのか?」
「はい。我等『聖闘士』の統括者にして、女神アテナの地上代行者ですわ」
「マジか…出来れば教皇とやらとも話をしておきたいが…」
あう…心なしか胃が痛くなってきたような気が…。
今になって、支取先輩の気持ちが分かって来ましたわ…。
「その心配なら無用だよ。あの方も会談に出席すると仰ってくれたからね」
「サーゼクス…お前、その教皇とやらに会ったのか?」
「ついさっきね。…アザゼルも一目見たら理解すると思う。『真の王』と言う存在を」
「お前にそこまで言わせるほどの相手なのかよ…」
「あぁ。種族なんて関係ない。彼の前じゃ、皆が無意識のうちに跪いてしまうことだろう」
「…お前もか?」
「僕もさ」
そう言えば、そうでしたわね…。
魔王を跪かせた人間なんて、後にも先にもシオン様だけなんじゃないかしら?
「けど、彼女達の側に付くと言う事は即ち、ギリシアの神々の側に尽くって事になるが?」
「別にいいさ。ゼウスやハーデス、ポセイドン達を敵に回すよりは遥かにマシだ。下手したら、そこにアポロンやアルテミスまで加わる危険性だってあるからな。奴等の強さと恐ろしさは、俺だって良く知ってる」
言いたい事は分かるし、理解も出来るけど…けどぉぉ…。
今日一日だけで色んな事が起きすぎて頭がパンクしちゃいますわよぉぉぉ~!!
「その会談とやら。私も出席させて貰うことは可能かな?」
「お義父様っ!?」
お願いですから、もうこれ以上の混乱は勘弁願いますわ!?
「その『教皇陛下』と言う人物にも挨拶をしておきたいしね。私はこの町に住む錬金術師だ。第三者視点からの意見と言うのも大事だと思うが?」
「確かに…地味に忘れかけてたが、お前も立派に『コッチ側』の住人だったな…」
『コッチ側』って…どっちの事を指してますの?
「僕は良いと思うよ。彼は姫子さんの養父でもある。決して無関係と言う訳じゃない」
「ありがとう」
あぁ~…どうしてこんなことに…。
今日は本当に胃薬を飲んで寝ようかしら…。
「姫子様…心中お察しします」
「ありがとうございますわ…グレイフィアさん…」
これが一流のメイドさんなんですのね…。
今は、その一言だけでも有り難いですわ…。
「今度の会談は、また凄いことになりそうだね…」
「だが、それでもやらなきゃいけねぇ。じゃねぇと、コカビエルの奴が浮かばれねぇよ」
「…そうですわね」
きっと彼の魂も、どこかで今度の会談を見守ってくれている事でしょう。
私は…そう信じますわ。