夕食を終え、次はお風呂の時間。
今日は色々あって疲れているだろうと言う事で、私が先に入らせて貰う事に。
普段は別に入浴の順番などは決まっておらず、その日その時の気紛れで順番を決めている。
そして、入るのは基本的に一人ずつ。
偶に女子三人で一緒に入ってキャッキャしたりすることも。
今回は私一人でゆっくりのんびりと湯で体を癒そうと思っていたのだけれど…。
「お背中をお流しします。姫子様」
なんでかタオルを巻いたグレイフィアさんが一緒にいる…。
うっ…スタイルが良いことは勿論、肌も綺麗ですわ…。
生傷の絶えない私とは大違いですわ…。
胸の大きさだけは負けてないですけど。
「姫子様はコカビエルの一件での最大の功労者にして、リアスお嬢様も非常にお世話になっているお方。この程度で恩返しになるとは微塵も思っておりませんが、せめて貴女様のお背中を流せて下さい」
「わ…分かりましたわ…」
ここまで言われて『結構です』なんて言えるほど、私は非常識じゃありませんから~!
と言うか、そんな度胸なんて私にはありませんわ~!
「では…早速ですが失礼致します」
お風呂用の椅子に座った私の後ろにグレイフィアさんが膝をつく。
そのまま、洗面器にお湯を汲んでから、そっと私の背中に流してくれた。
「お加減はいかがですか?」
「だ…大丈夫ですわ」
「それは良かったです」
ま…まさか…本当に姫のような扱いをされる日が訪れるとは…。
なんか色んなことを一足飛びしているような気も…。
先代や先々代の黄金聖闘士の方々と夢の中で出会った時も、ここまで緊張した事は無かったですわ…。
グレイフィアさんは同性…そう頭で言い聞かせてはいるけど、それでも緊張する者は緊張するんですのよ~!
アーシアさんやゼノヴィアさんと一緒の時は全く緊張なんてしないのに…。
「では、これより姫子様の御髪を洗いたいと思います。よろしいですか?」
「え…えぇ…よろしくお願いしますわ」
御髪って…リアルで始めて聞きましたわ…。
なんてことを考えていたら、これまた優しく頭にお湯が流された。
「それでは、失礼致します」
シャンプーを手にし、それを掌で泡立ててから私の頭を慣れた手つきで洗い始める。
流石は名家に仕える一流のメイド…凄く気持ちが良いですわ…。
「痒い所などはありませんか?」
「ありませんわ」
なんか床屋みたいな事を聞かれましたわね…。
これもまた凄く懐かしいですわ。
「姫子様の髪はとても肌触りがよろしいですね。何か特別なケアでも?」
「いえ…これと言った事は別に。普通に市販のコンディショナーを使っているだけですわ」
「なら、きっと姫子様は元々の髪質が素晴らしいのでしょうね」
「きょ…恐縮ですわ…」
生まれて初めて髪の事を褒められましたわ…。
と言うか、女性として褒められたのってこれが初めてなのでは?
いつもは主に腕っ節の事を褒められてますし…。
年頃の乙女として、それはどうかと思いますけど…聖闘士としては正しいのですのね…。
なんだか複雑な気分ですわ…。
「それでは、泡を流します」
グレイフィアさんの言葉を聞き、すぐに目を瞑る。
それと同時に再び私の頭にお湯が流された。
2~3回ぐらい繰り返されたのち、私の髪はすっかり綺麗になった。
「ふぅ…ありがとうございます。とても気持ちが良かったですわ」
「お褒め頂き光栄にございます」
本当に全くぶれませんわね…。
でも…何故かしら…。
いつの間にか緊張感がすっかりなくなって、逆に安心感を感じていますわ。
まるで、お母様と一緒にいるかのように。
(って、グレイフィアさんはサーゼクス様の奥様であり、一児の母でもあることは私も知っているじゃありませんの)
子持ちの人妻ならば、何とも言えない包容力を持っているのも当然。
成る程…グレイフィアさんがサーゼクス様に全幅の信頼を置いているのも納得ですわ。
「では、次は姫子様のお体の方を…」
「そ…そっちは自分でやるから大丈夫ですわ!」
流石に体を洗われるのだけは勘弁ですわ~!
もしそれを許したら、禁断の百合の花が咲きそうですわ~!
・・・・・
・・・・
・・・
・・
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川上家自宅にあるテラス席。
月明かりを眺めながら、サーゼクスとアザゼル、フィリップスが相も変わらず酒を飲み交わしていた。
「本当に良かったのかよ? 姫子の嬢ちゃんと一緒に風呂に入らせて」
「構わないさ。グレイフィアが望んでいた事だし、それに…」
「それに?」
「グレイフィア自身も、どうやら姫子さんの事を気に入っているみたいだしね」
「ほほぅ…それはまた…」
自分の義娘は本当に色んな者達を惹きつける。
赤き龍の化身に黄金の戦士たち、円卓の騎士に堕天使総督、果ては魔王やその妻までも。
姫子は、強弱などでは決して測れない『最強の力』を有していた。
組織や人種など関係なく、自分の味方を作り出す力を。
「君の方こそ、本当に良かったのかいアザゼル?」
「何がだよ」
「姫子さん達に『あんな宣言』をしたことさ」
「あぁ…アテナ側につくって話か。良かったに決まってるじゃねぇか。幾らアルコールが入ってたからって、伊達や酔狂であんな事は言えねぇよ」
遥か昔から生きてきたアザゼルからしたら、姫子は年端もいかないなんてレベルじゃない程の小娘。
そんな相手に彼は堂々と土下座をした。
その小娘に、自分達がすべきことを押し付けてしまったから。
彼女が、それだけの力を有しているから。
「姫子の嬢ちゃんと、その仲間達は…あのコカビエルが認めた奴等だ。アイツの言葉…決意…無念…その全てを正面から受け止め、戦い、そして勝った。俺はな…嘗ての仲間を真の意味で救ってくれた恩人相手に『人間だから』『子供だから』なんて下らねぇ理由で何もしないような馬鹿じゃねぇンだよ。つーか、あの嬢ちゃんに借りがあるのはお前だって同じだろうが」
「はは…それを言われると痛いね…」
大事な妹の管理する街を守ってくれただけでなく、相談に乗ってくれて、本人の成長を促すような形での解決法を提示してくれた。
魔王としてでなく、一人の兄として姫子には頭が上がらない。
「いつの日か、姫子さんを冥界のグレモリー邸に招きたいね。父も母も、彼女に一目会って礼を言いたいと言っていたし」
「あの嬢ちゃんも中々に忙しい身なんだろ? そいつは難しいんじゃねぇか?」
黄金聖闘士になった以上、姫子はアテナの名の元の勅命で世界中のあらゆる国へと赴く可能性がある。
しかも、その場合の大抵がかなりの大事である場合が大多数だ。
元来、聖闘士の任務は主に白銀や青銅が出る事が殆どだ。
黄金聖闘士とは聖域側にとって最後にして最強の切り札でもある。
故に、彼らが出る事があるとすれば、それは白銀や青銅の実力では決して解決できない事態…それこそ神話級の怪物や封印されていた邪神が復活してしまった時…即ち、世界の存亡が賭けられた時などだ。
今回のコカビエルの一件がいい例で、彼の相手は白銀や青銅では非常に厳しかったと思われ、黄金聖闘士が三人も派遣されると言う異例の事態になった。
「貴鬼君の話では、どうやら黄金聖闘士と言っても千差万別のようだね」
「そうなのか?」
「あぁ。ソニア君やクレイオス君のように10代の若者もいれば、貴鬼君のような成人済みの者もいる。中には二十代後半…もうすぐ30に近い者もいるらしい」
「随分と年齢の振り幅がデケェな…」
「先代もまた幼少期から選ばれていたと言っていたし、才能と実力さえあれば年齢などに関係なく就任出来てしまうのか…」
常識的に考えれば、そんなのは論外で言語道断だろうが、当時はそんな悠長なことを言ってられなかったのもまた事実。
聖戦後故に人材不足が深刻過ぎたのだ。
「あのシオン猊下も18の頃に教皇に就任したと言っていたしね…」
「マジかよ…」
弱冠18歳で世界の平和の維持を任される。
それがどれほどの責任と重圧なのかは言うまでもない。
「今から250年近く前に行われた冥王ハーデスとアテナとの聖戦…その戦いは三大勢力同士の戦いとは比較にならない程に壮絶で凄惨だったと聞いているよ」
「私もです。冥王軍は全滅し、アテナ軍もシオン様と童虎さんを除いて全滅したと…」
「敵味方含めて、生き残ったのがたったの二人なのかよ…。俺らの戦いが小さく見えちまうぜ…」
「なんせ、ギリシア神話に大きく名を刻んだ神々同士の聖戦だからね…。僕達には想像すら出来ない程の規模だったのは間違いないよ…」
神と神の全面激突。
それが単なる戦争で終わる筈がなく。
互いの主戦力たちがいずれも一騎当千の猛者ばかりで構成されているのだ。
普通の戦いであるわけがない。
「姫子の話では、アテナが戦ったのはハーデスだけではないらしいよ」
「そりゃ…そうだろうよ。遥か神話の時代から地上を欲しがってる神々なんて山ほどいやがるしな…」
「…海皇ポセイドンと地上の覇権を賭けた聖戦。大神クロノス率いるティターン十二神族の侵攻。他にも、神話の時代に封印されていた怪物や邪神の類とも戦っていたらしい」
「冗談でも笑えねぇぞ…それ。どれもこれもが一勢力だけで戦うような連中じゃねぇだろ…。特にクロノス。三大勢力が集結しても勝てる見込みがあるかどうかも分からねぇ程の神じゃねぇか」
「その時は、主に姫子達の先代の黄金聖闘士たちが戦っていたらしいよ。あの貴鬼くんの師匠も、ティターン神族の一柱と互角以上の激闘をし、撃退に成功したとの事だ」
「あの坊主の師匠…どんな化け物だよ…」
「彼曰く『史上最強の超能力者』らしい」
「更に言えば、その人物は教皇猊下の弟子でもあるとの事だよ」
「もうお腹一杯だぜ…」
話を聞けば聞くほど、ギリシアの神々のデタラメさが浮き彫りになる。
だからと言って、協力することを後悔したわけではないが。
「どうやら、俺達はとんでもない奴等にとんでもなくデカい借りを作っちまったようだな…」
「これは僕も、アザゼルと同じ覚悟を決めなくちゃいけないかな?」
「そうなると必然的に天界も巻き込むことになりそうだがな。俺達の話を聞いて、あの馬鹿真面目なミカエルが何も言わないとは思えねぇ」
「だろうね。もしかしたら、会談に向けて彼も姫子さん達と接触するかもしれない」
「それに加えて、嬢ちゃん達の残りの仲間達も集結するんだろ? こりゃ…今度の会談はマジでとんでもないことになりそうだぜ…」
「ははは…二人とも大変だね」
「他人事みたいに笑ってんじゃねぇよ、フィリップス。テメーだって会談に出席するんだろうがよ」
「おっと。そうだった」
「ったく…本当にオメェは掴み所がねぇ奴だな…。錬金術師ってのは全員がそうなのか?」
「どうだろうねぇ。私みたいのが他にいるかは分からないが、少なくとも研究馬鹿なのは確かだろうね」
「そーかよ」
月明かりに照らされながら、大人三人の話は更に盛り上がっていく。
こんな穏やかな時間がいつまでも続けばいいと願いながら。