ヒナちゃんが好きです。
私はシャーレの先生だ。
連邦生徒会長と呼ばれる人物に呼ばれてやって来たものの、当の本人は行方不明になっており現場は大混乱。
無事に大混乱を静めたものの、その影響で連邦生徒会は会長の捜索、逃亡者の捜索に集中したいとの事で私の率いる連邦捜査部「シャーレ」には様々な事柄の案件がやって来る。
そんなシャーレにゲヘナ学園の風紀委員会の風紀委員長、空崎ヒナがやって来ている。
いや、厳密に言うと"私がヒナをここへ呼んだ"。
今日は私にとって大事な日だ。
「......」
シャーレのオフィスルーム。最近、ヒナと同じ風紀委員会に所属する行政官のアコがやって来た影響で綺麗に片付けられている。
いつもなら数人の生徒がこのオフィスルームでは忙しそうに執務に追われている。
その内容は例にあげると、任務で使った弾薬の内訳を確認した後に総数を計算、その弾薬費用を更に計算し、請求書としてまとめた資料を作成し、連邦生徒会へ提出という流れだ。
簡単に説明したので一見すると単純作業にも見えるかもしれないが、これを任務に参加した生徒達一人一人の分もあると考えると大変だろう。
「......」
執務作業を黙々と進めるヒナ。
長くて綺麗な白髪、つり目で愛らしい顔、小さな体躯に白い肌、見た目と性格どれも私には魅力的に映る女の子。
こう見えて彼女はゲヘナ学園のみらず色んな生徒達から恐れられている(主に風紀を乱す生徒)。
こうして見ると全然そんな風には見えないのだから不思議なものだ。
その横顔を黙って見つめていると......。
「......えっと、なに?」
目と目がバッチリと合う。
その瞬間、ヒナは数秒間だけ目を合わせ続けた後、ふいに顔を背けてしまった。
数秒後、再びヒナが私の方を振り返る。
その表情は既にいつものモノに戻っている。それは風紀委員長としての空崎ヒナの表情。
「先生、仕事は真面目にして。私の顔なんて見ていても面白いものでもないでしょ?」
「まあ、面白いというか......癒されるね」
「......何を言っているの?」
「可愛いものを見て癒されてる」
「はぁ、そうやってからかって私の反応を見て楽しんでるのは分かってる」
ヒナは自分の可愛さを自覚して欲しいと私は思っている。
しかし、当の本人は私が言い過ぎたせいなのか最近ではこのように素っ気ない態度しか返してくれない。
可愛いの安売りは良くないらしい。
「真面目にしないとそろそろ怒る」
「はい、すみませんでした」
突然だが、私は空崎ヒナが好きだ。それも一人の女の子として。
自覚してから数週間は今まで通り接していただけで何の進展もなかった。
それも当然の話、私はシャーレで忙しいからゲヘナ学園へは空いた時間を作って行くしかないし、ヒナは風紀委員長として忙しいのでゲヘナ学園に行っても不在な時がある。
今の関係を進める為、私はヒナをシャーレに呼ぶ事にした。そのためにまずは協力を仰ぐべく、様々な手を尽くした。
そう、今の状況を作り上げる為に私は時間と労力を捧げたのだ。
私はここ最近の行動をあらためて振り返る事にした。
まず手始めに行政官のアコを説得した。
「ヒナちゃんをシャーレに呼びたいから協力して欲しい」
「えっと、それは業務提携という事ですか?」
「そ、そう、それそれ!」
「......その反応は何か別の事を考えていませんか?はっきり言って下さい。聞くだけ聞きますから」
「ヒナちゃんをシャーレ専属に......」
「却下です」
即答されてしまった。当たり前だよね、ヒナは風紀委員長で忙しいだろうし。
「それだと私が活動する為に必要な"ヒナ委員長成分"が足りなくなってしまいます!」
「ヒナ委員長成分?」
「あっ......。コホン、とにかくダメです!」
「そっか。残念だよ。これをアコに見せてあげようかと思ってたんだけど......っと」バラッ
「そ、それは!?」
ヒナの写真をわざとポケットから落として床に散らばらせる。
その写真には普段は見せない恥ずかしそうな表情から怒った表情まで多種多様なヒナが写っていた。
これらは盗撮じゃない。私がヒナの前で堂々と写真を取ったものだ。
本人の許可は得てないけどアコに見せる位なら問題ないよね。
「こ、こんなにもヒナ委員長の写真が......す、凄いです!はぁぁぁぁぁ、尊い......」
アコの耳元へそっと私は口を寄せて囁いた。
「ヒナちゃんがシャーレに来れるようにして欲しいんだ。受けてくれるなら、お礼にその写真、全部あげるよ」
「っ!」
先生としての権力を持ってしても流石にヒナをシャーレに無条件で連れていくのは難しい。
しかし、公的にお願いしようにも彼女には時間がない。時間がないならその時間を作るしかない。
その時間を作るには行政官であるアコの協力は最低限必要なものになると判断した。
アコは私と同じでヒナが大好きなので写真に食いつくとは予想済みだ。
「先生、分かりました。喜んでご協力させて頂きます」
こうしてヒナの写真を使って(無許可)アコの協力を得ることに成功した。
アコには可能な限りヒナがシャーレに来れるように業務を調整してもらった。他にもゲヘナとシャーレの共同任務という銘を打って夜の巡察を行ったりしてヒナと過ごす時間を可能な限り増やした。
こうして関係は進展......したのかは分からない。多分してると思う。
次に同じ風紀委員会のイオリではなく、同じくチナツでもなく、美食研究会の部長、黒館ハルナを説得した。
風紀委員会じゃないから関係はない?いや、彼女は大いに関係がある。
美食研究会のテロ行為(美食探求)によって騒動が起き、それに対処する為に風紀委員会が動いている。
当然、イオリやチナツも対応するのだがハルナは曲者だ。その尽くを返り討ちにするか、巧みな話術で煙に巻くのだ。
最後には毎回ヒナが出て来て美食研究会を全滅させている。
ハルナはアコ以上に厄介な存在だ。大人しく言うことを聞いてくれるとは思えない。
一応は説得させる為に必要なものは持ってきたが、納得してくれるかどうか。
「ハルナ、ちょっといいか?」
「あら、なんですの先生。シャーレであまり長話をしていると他の子に勘違いされますわ」
「それより、ハルナにプレゼントがあるんだ。はい、これ」
「先生が私にプレゼントを......。ええ、ありがたく頂きますわ。これは、旅館のチケットかしら」
そのチケットはキヴォトスでも有名な老舗旅館。 特殊なチケットで一度発行されれば再発行は不可。
基本は電子チケットの時代に珍しく実物のチケットを発行する旅館だ。
「高い料理が食べられるんだ。美食研究会、全員の分もある。数日間はそこで過ごせるから楽しんで来るといいよ」
ポケットマネーから出したのでうちは財政難だ。
ユウカにはバレないようにしないと......。私の財布まで握られかねない。
「何故、いきなりこのようなモノを下さるのか。何かしら理由があると考えています。よろしければ理由をお聞きしても?」
ハルナなら何も聞かずに喜んで老舗旅館へ行くと思っていただけにこの反応は予想外。
「それは」
イメージとしては「ありがとうございますわ!ほら、すぐに行きますわよ!」と言いながら美食研究会の面々を連れていく......みたいな。
「ハルナは、食を最高に美味しく食べられる瞬間がどんな時か知ってる?」
「そうですね......空腹時、もしくは......先生と食事を共にした時、でしょうか」
ちょっとドキッとしてしまった。さらっとこういう事を言うから心臓に悪い。
「なるほどね。私は、仲間と一緒に食事をしている瞬間だと思ってる」
「それならいつも仲間と共に食事を取っていますわ」
「もし、それが限定的な状況下だとしたら?」
「っ!それは一体どういう事なのか説明をして頂いてもよろしいかしら?」
食いついた!
「ハルナは気にならない?いつもの場所で仲間達と食べる食事と、高級老舗旅館で仲間達と食べる食事、その味の違いが」
「その味の違いは一体どのような違いがあるのかしら?」
「それは......ハルナ自身で確認するしかない。私には分からないからね」
「なるほど......。分かりましたわ。先生、チケットありがとうございます。それではさっそく行ってきますわね」
そう言いながら早足にハルナは去っていった。
これで数日間は美食研究会による騒ぎは起きないはず。
次で最後、ミレニアムサイエンススクール所属、生徒会セミナーの会計あり、シャーレの会計でもある早瀬ユウカだ。
彼女とも仲は良好なので頼めば一日くらいはシャーレを空けてくれるだろう。
「お願いがあるんだ」
「アプリゲームの課金ならダメです」
「いや、まだ何も言ってないんだけど」
執務作業を手際よく処理しながら算盤を弾くユウカは手を止めると私の方を向いた。
「じゃあなんですか?見て分かる通り、誰かのせいで仕事が溜まっています」
「私のせいだ。ごめんね」
「......まあ、別にそんな顔しなくても。先生の頼みなら一応は聞くだけ聞きますから、話してください。それからいいか悪いか判断しますから」
「うん。実は明日なんだけど、ユウカにはシャーレの業務を休んで欲しいんだ」
「......?休んで欲しい?普通そこは業務をして欲しい、ではないんですか?」
「うん。ユウカにはいつも苦労をかけているからね。明日は久しぶりにゆっくり休んで欲しいんだ」
「残った仕事はどうするつもりですか?先生一人じゃ無理ですよ」
その反応は予想している。
ユウカはこう見えて優しい。何だかんだ私の我が儘を聞いてくれる辺り、いい母親になりそうだ。
いや、私の母親っていう意味じゃないからね?
「明日は私も休む事にしたから」
「そうなんですか......。もしかして、どこかお出かけでもするんですか?」
「え、まあ、うん。そんな所だよ」
「......はぁ、いいですよ。何を企んでいるか知りませんけど」
彼女とはシャーレ創設からの付き合いだ。流石に何か裏があると勘づいている。
ユウカに見逃してもらえて何とか時間を作れた。
こうして一日だけだが、シャーレに私とヒナの二人きりになれる時間を作れたのだ。
時間は戻って現在、私とヒナは二人でオフィスルームで作業中。
ここで告白するのはちょっとムードが足りないよね。
「ヒナちゃんは......」
「?」
「あ、えっと、飲み物何がいい?下にコンビニあるから何か買ってくるよ」
そういえば、ヒナの好きな飲み物って何だろう。
「何でもいい。先生が選んだものなら」
「ヒナちゃんは何が好きなの?」
「......それは......コーヒー?」
「なんで疑問系で答えるの?」
「それを言うなら先生もでしょ。眠気覚ましによくコーヒーを飲んでいたら、いつの間にか苦手なブラックも飲めるようになっていたわ。昔は甘いのが好きだったのかな。あまり覚えてないけど」
「そっか......。なら、甘いのにしよう」
「......先生は甘いの、好きなの?」
「苦いよりは甘い方が好きかな。疲れている時は甘いものが良いってよく言うでしょ?」
「ふふっ、お互いにワーカホリックね」
二人して苦笑を浮かべて他愛ない会話をする。
コンビニに行って甘いミルクコーヒーを買って渡す。
「......ん。甘い、とても甘い」
二人きりでいる時のヒナは気を張っている感じがしない。
彼女はいつも風紀委員長として振る舞う必要があるのは舐められない為、それ相応の地位にいるからだ。
面倒臭いと思いながらも風紀委員長としての責務を果たし、ゲヘナ学園の風紀を守っている。
そんな格好よくて可愛い彼女だから、私は好きになったのだとあらためて自覚した。
「なら良かった。ヒナちゃんの疲れが少しでも取れるといいんだけど」
「......あの、先生はどうして私に優しくするの?多分、生徒なら全員にしてるとは思うけど......。こうして愛想のない私と一緒にいても楽しくないと思う」
「私は楽しいよ、ヒナちゃんと一緒にいて」
「そうやって......誤魔化さないで。あなたは悪い人。私をからかって遊んでる。本当の事が聞きたい」
ヒナに疑われている。多分、ここ最近よくヒナと会っていた影響だろう。
いつもの調子で会話を繰り返した為、遊ばれていると勘違いされている。
本気なんだ。私は本気で君と接している。
それを言葉にするのが怖い。否定されるかもしれない。先生としての信用を失ってヒナとはもう会えない関係性になるかもしれない。
口が、震えて動かない。今日はヒナに告白しようと決意した筈なのに。
「......答えてくれないのね。さようなら」
そう言ってヒナが立ち上がる。
気付けば窓ガラスの外側からは夕陽が室内を照りつけていた。
朝から作業を始めて既に夕方。ヒナが帰る時間だ。
その前に言わなければならない。
「ヒナ、ちょっと待って」
初めての呼び捨て。任務だろうと何だろうと私は意図的にヒナを呼び捨てで呼ぶ事を避けてきた。
恋をしていると自覚する事を避ける為であり、先生と生徒という関係性を壊さない為の自分に対する暗示だった。
その暗示を私はたった今、解いた。
私は咄嗟に立ち上がって焦っていたのか思わずヒナの小さな手を掴んでいた。
「......」
ヒナが初めての呼び捨てに対して驚いたように目を見開いている。
「ヒナに伝えたい事があるんだ」
例え気持ちを伝えた結果、彼女との関係性が壊れても......よくない。
壊れて欲しくない。このままでいいじゃないか。
動揺しているヒナと目が合う。私は好きという理由だけで告白するつもりなのか?
いや、違う。それだけじゃない。他にも沢山ある。
ヒナは先生という自分を捨ててでも、守りたい存在なんだ。
「ヒナが好きだ」
「......っ!?そ、それってその、生徒として......違う、これはそうじゃないわ」
私の言葉に赤面した後、顔を背け......。
「先生、私も好き。気付いたら好きになってた」
再び前を向いた時にはヒナはもう恥ずかしがってはいなかった。
小さく笑みを浮かべながら覚悟を決めた顔で答えた彼女はやはり格好良くて可愛かった。
「私は、面倒臭いってすぐ言うかも。それに他の子と比べてつまらない人間だから退屈さs」
「ダメだよ。いくら本人でも私の好きな人を馬鹿にして欲しくない」
ちょっとギザっぽく人差し指でヒナの口を塞いだ。
ヒナの前だからと思わず格好つけてしまった。
途端に恥ずかしくなってきた。
「ヒナの全部が好きなんだ」
「そう、先生ってロリコン?だったんだ」
「まあ、否定は出来ないよね。嫌?」
「そもそも......嫌だったら先生のこと、好きって言わない」
「そっか」
先生と生徒の恋愛。
ここはキヴォトスだから規約上は問題ない。
しかし、シャーレの先生と風紀委員長が付き合っているなんて知れたら大騒ぎだ。
「私達の関係は皆にバレないようにしないとね」
「そうなると面倒臭い。色々と対策を考えないといけないから。特に万魔殿の連中には絶対に知られる訳にはいかない」
「もしかして、後悔してる?」
私の問いに愛しい彼女は答えた。
「後悔なんてする筈ないでしょ。先生のこと・・・・・・好きなんだから」
好きの安売りはどれだけされても慣れそうにないかもしれないな、と私は思った。
ヒナちゃんは格好よくて可愛いイメージあります。
読んでくれてありがとうございました。