ブルアカ一周年という事で記念に書きました。
カリカリカリカリ・・・・・・。
ゲヘナ学園にあるとある一室、風紀委員会の部室にて私は執務作業に追われていた。
いつもは人の出入りのあるこの部屋も深夜帯という事もあって私以外の生徒は既に就寝している頃合いだろう。
壁に設置した時計を見ると長針は十二、短針は三、もう深夜三時だ。
今日で三日連続の徹夜になる。流石に眠気が辛い。
眠気覚ましに用意しておいた何かのマスコットキャラがプリントされたコップに入った無糖コーヒーを胃に流し込む。
スッキリとまではいかないにせよ少しは眠気覚ましになったとは思うが、気分は良くはならない。
眠気以外なら体の疲労感はそこまで感じない。現状、特筆すべきは精神的な疲労感だろうか。
机の上を一瞥した私は心の底から思った言葉を吐き出した。
「はぁ、めんどうくさい」
風紀委員長の空崎ヒナ.もとい私でしか処理できない案件が山のように机の上に積まれている。それこそが先程語った精神的な疲労感の元凶とも言える。
その案件の中身の殆んどはエデン条約で起きた事件の後処理だ。
これも政治関係なので生徒会に丸投げすればいい話なのだが、今回は風紀委員会も大きく関与しているので知らぬ存ぜぬは出来そうになかった。
様々な思惑と暗躍とスレ違いと悪意によって起きたこの複雑とも言えるこの事件は、先生がいなければ本当に悲劇だけになっていたかもしれない。
一歩間違えれば私や先生も含め.死んでいたかも。
嫌な想像に薄ら寒さを感じ、落ち込みそうになる気分を紛らわせる為に再び無糖のコーヒーを口内に含み嚥下する。
先生は今頃寝てるのかな。
こうして私が思いを寄せる存在は多分、先生だけだ。
先生と知り合う前の私にとって大人という存在は権力に固執する利己的な存在としか認識していなかった。
私の肩書き、ゲヘナ学園風紀委員会風紀委員長に取り入ろうとする大人が沢山いたからだ。
ゲヘナ学園での地位はそれなりに高く、風紀委員長としての権限は解釈に次第によってはあの生徒会長をも上回る事だろう。
故に、その地位を狙う輩は多く一時期は素行の悪い生徒達から狙われもしたのは懐かしい思い出だ(素行の悪い生徒達については捕まえて懲戒委員会に丸投げした結果、襲われなくなった事については良い仕事をしてくれたと思う)。
ゲヘナの規模は他の学校と比べても在籍数も多く、比例して資金も多い事から議席数もそれなりにキヴォトスでの参政権を得ている。
学校に所属する生徒数が多く、連邦生徒会にある程度の寄付をすればどのような学校でも連邦生徒会主催の会合への参加権を得ることが出来る。
私も当然その参加権はもっている訳で加えてゲヘナに対する発言力も相まって数多くの大人が接触して来た。
しかし、その数多くいる内に含まれる一人の大人である先生は変な人、という評価は今も対して変わっていない。
初対面はアビドスの管轄地域、しかもアコ達と対立している状況下。最悪と言える。
次に会ったのはゲヘナ学園。イオリの足をな.
後から話を聞いたが生徒を助ける為にしたらしい。
足をなめ.なんていうイオリも問題だけど先生も先生。いくら生徒の為とはいえ大の大人が安易に子供にあんな事をするべきじゃない。
でも、あの一連の出来事があったからこそ私は先生に興味を持った。
今まで大人が子供の為にあんな事をしてまで頼み込む人はいなかった。
だから、この人なら.と期待した。
期待した結果、色々な出来事があってこの人を守りたいと強く思うようになって守ろうと私は奮闘したんだけど.
脳裏に一つの光景がフラッシュバックする。
銃で撃たれる先生の姿。その時、私は深い絶望感と無力感に苛まれており・・・・・・。
「っ! こんな時間帯に誰から」
スマホの通知音が鳴る。正気に戻った私はスマホのロックを解除し画面を確認する。
そこにはたった今、思いを寄せていた相手からのモモトークだった。
連邦捜査部シャーレの活動は多岐にわたる。
連邦生徒会が各学園の問題に関して干渉できる余裕がない状況下の為、一般業務を除いてそれ以外の雑務はシャーレに丸投げされている。
先生は私と同じかそれ以上に忙しい立場といえる。
今日この日、シャーレに呼ばれたのはある重大な仕事を手伝って欲しいと頼まれたからだ。
流石に風紀委員会の腕章とゲヘナの制服を着ていくのは目立ちすぎるという理由から、数少ない私服を引っ張り出して変装の為に買った伊達メガネを着用している。
先生から念のために着替えや日常品を持ってきて欲しいと言われたので大きめの鞄も今日は準備してきている。
それなりの重量になったがいつも携帯している銃と比べれば全然軽い。
.どこか変な所はないかな。
シャーレの建物に入る前にガラスの反射で一通り身嗜みを最終確認した後、意を決して中へと入る。
フロントにいるロボットの男性に生徒証を見せて先へと通して貰う。
シャーレに割り当てられた部室は五階にあるのでエレベーターを使って五階へ移動。
目的の部屋の前についたので扉を軽くノックする。
しばらく待つが反応がない。
「・・・・・・先生? 入るよ」
鞄を持った方の手で扉を開ける。
いつも通りのオフィスの光景だが、そこにも目的の人物はいない。
ふと静寂の中に異質とも言える小さな音が隣の部屋から響いて来る事に気付いた。記憶が正しければ確かそこは.
「あ、ヒナちゃん。ようこそ、待ってたよ。出迎え出来なくてごめんね。今ちょっと手が離せなくて.あ、伊達メガネ凄く似合ってるよ!」
エプロン姿の先生がキッチンで料理を作っていた。
入ってきた私に対していつも通り、にへらぁと擬音が聞こえてきそうな人懐っこい笑顔を向けて来る。
テーブルの上には多様な料理が並べられており何かの祝い事かと勘違いするような量だ。
「・・・・・・ちょっと待って。先生、今日は重大な仕事を手伝って欲しいと聞いてきたんだけど」
「あー、それは嘘というか嘘ではないというか。ある意味仕事とも言えることもないような?」
「なんで疑問系なのかよく分からないけど仕事がないなら帰る」
「待った待った! 仕事ならあるから帰らないで! まずは荷物を置いて椅子に座って欲しい! お願い帰らないで!」
「・・・・・・はぁ、大人がそう簡単に情けない声を出さないで」
きっと先生でなければ問答無用で呆れて帰っていたに違いない。今日だって無理やり時間を空けてここに来ている。
本来なら今日も一日執務作業に追われる所だ。
言われた通り椅子に座る。テーブルからは食欲をそそる良い匂いが鼻腔をくすぐる。
そういえば、最近まともに食事をとったのはいつだろうか。
「さ、召し上がれ」
茶碗に盛りつけられたご飯とスープが先生の手によって置かれる。
「お腹空いてるでしょ? 遠慮せず沢山食べていいからね」
「先生、そんな事より重大な仕事について早く話を聞かせて。私には遊んでいる暇はないの」
「あぁ、それなら大丈夫だよ。その仕事というのは嘘だから」
「へ?」
とんでもない言葉を聞いた。嘘? しかも本人は全く罪悪感を感じている様子もない。
「・・・・・・先生」
いくら先生でも私をからかう為だけに無駄に呼びつけて時間を浪費させられるのはムカついた。
この数日間私がどれだけ身を粉にして働いたと思っている。
文句を言おうと沸き上がる激情を先生に少しでもぶつけようと立ち上がる。
「安心して。ヒナちゃんは今日一日休みにしてもらってるから」
「休み? いつの間にそんな話を.? 何も聞いてない」
「そりゃあ、サプライズみたいなもんだからね。本人に言っちゃったらサプライズにならないじゃないか」
そう言って器用にウィンクしてくる先生に溜め息を吐きながら所在なくした私は腰を降ろした。
「風紀委員会の方は私がいなくて大丈夫なの?」
「いただきまーす。うん。我ながら美味しい」
「先生」
「もう少しヒナちゃんは行政官や他の皆を信用して任せてみる事を覚えた方がいいよ。君は確かに他の生徒と比べて優秀で強くて可愛い」
「・・・・・・っ!?」
いきなり褒められた。褒められ慣れていないので落ち着きなく右往左往する事しか出来そうにない。
先生に褒められて嬉しい気持ちと風紀委員長という背負った肩書きによる自制心が私の内心でせめぎあっている。
「けれど、人一人には限度があるんだ。君は責任感も強く真面目だし可愛いのは美点ではあるんだけど、それは孤独に繋がる危ういあり方だと私は思う。それに何より.今のヒナちゃんは見ていられないよ」
いつもの先生とは違う悲しみを瞳に宿した儚げな表情。
まるで目の前にいる先生が先生ではないような気がして私はどこか落ち着かない気分になって来た。
具体的に言うと胸がドキドキしている。
一体どうしたというんだろう、私の体は。
「凄く疲れた顔をしているよ。話に聞くと最近まともに食事もとれていないのと、睡眠もとれていないみたいだね。私はね、今日一日ヒナちゃんにはゆっくり休んで欲しいんだ。もっと具体的に言うと.存分に私に甘えてもいいんだよ?」
「その、あの、急に言われても困る.」
想定外。休みを貰えた事じゃなくて先生に甘えられる状況が突然やってきた事。
待って待って待って。確かに私は先生に甘えたいし愚痴を聞いて欲しいと.ほーんの少しだけ思ってる。でも、それはあくまで願望や希望であって現実にそれが出来るとかと言われれば困難と言える。
私の立ちふる舞いや言動は風紀委員長という肩書きに見合ったものを常に意識してきた結果、無意識のレベルにまで昇華されてしまっている。
いきなり先生に甘えようと思って甘えられるほど染み付いたモノは容易くはない。
「さ、食べて食べて。カレーやシチューもあるから冷めない内に食べて」
「二人だけならそんなに作る必要なかったと思うんだけど。先生って結構大食い?」
「いや、単純にヒナちゃんの好みが分からなかったからね。とりあえず沢山色々作ってみて好みのものを自分で取って食べられるようにしたんだ。バイキング形式みたいでしょ」
先生はそういう所が何かズルい。
私の好みが分からないからと色んな料理を用意したり、心配だからと休みをとってきて私の事を気遣ってくれたり、その優しさがどれだけ私にとって嬉しいものなのか。
本当は笑顔で本心を伝えたい。でも.自信がない。私は可愛くない.可愛くないけど、先生が可愛いと言ってくれているのもまた事実。
勇気を出そう。
「先生、ありがとう。うん、とっても美味しいよ」
笑顔でちゃんと言えた。
可愛い.かどうかは分からないけど。
「っ!・・・・・・ヒナちゃんごめんね、その可愛さで私のリビドーが爆発しそうだから、ちょっと外を走ってくる」
「へ?」
有無を言わせず先生はどこか神妙な顔で勢いよく外へと出ていってしまった。
一体どうしたんだろう。
一時間後位にようやく戻ってきた先生はシャワーを浴びて汗を流して新しい服に着替えた。
どこか表情は晴れやかでスッキリしている様に見える。
リビドーを発散してきたんだろう。
よく分からないけど。
「昼食は食べたし、次は・・・・・・」
それからは二人でゆっくりと映画鑑賞を行った。
当然、ソファーに座るんだけどせっかくなので自分から甘えてみる事にした。
いつかしたみたいに先生の太ももの上に私は腰を落とす。
両脇から伸びた大きな腕が私の小さな体をぎゅっと包み込む。
「重くない?」
「全然軽いよ! むしろご褒美さ!」
「・・・・・・降りようかな」
「冗談だよ。うん、冗談」
絶対嘘でしょと思ったが自分から要求しておいてやめるのも何とか勿体ない。せっかく存分に甘えられる状況下なんだからその、少しは楽しまないとね。
アクションやら恋愛やらSFやら色んなジャンルの映画を見ていく内に段々眠気がやって来た。
適度な温かさを全身に感じているのもそうだけど、信頼できる人が近くに居てくれるからだ。
そのまま眠気に身を任せ、先生か自分かよく分からない激しい心音を聞きながら眠りに落ちた。
気が付くとベッドに寝かせられていた。
「おはよう。というよりは、こんばんはが正sぶがっ!?」
目覚めると横から先生の顔が出てきた。それも結構近い距離で。
思わずテンパって顎に一撃入れてしまったのはご愛嬌ということにして欲しい。
夜食を食べ、風呂に入り(先生は二人で入ろうと言い出したが流石に断った)、雑談をしながらテレビを見ている内に気が付くと就寝する時間になる。
二十二時に布団に入ったのはいつぶりなんだろう。
「おやすみ~。また明日」
「おやすみ、先生」
部屋は当然、別々の部屋。
挨拶を済ませた後、隣の部屋の自室へと先生は帰っていった。
今日一日楽しかった。明日からいつものめんどくさい日常に戻るのはめんどうくさいが誰かがやらなければいけない。
私の代わりがいればいつでも変われる、筈。そう断言できないのはやはりアコ達と縁がなくなってしまう事に寂しさを感じるから。
もしかしたら私は自分の思っている以上に風紀委員会に思い入れがあるらしい。こうしてゲヘナから離れてみて皆に会いたいと思うようになるなんて思わなかった。
目を閉じて眠気を感じる。そのまま気持ちの良い微睡みを楽しみながら意識が落ちていく。
そして、あの悪夢のような光景が再びフラッシュバックする。
勢いよく上半身が起き上がる。反射的に近くの床に置いた銃を手に取って.体が止まる。
単なる夢で現実ではないと実感したから。
心臓がバクバクとうるさい。まるで冷や水を浴びせられたかのように体が、心が寒い。
先程までの気分の良さはどこへいってしまったの。
「物音がしたけど.っ! ヒナちゃん、大丈夫?」
私が音を立てたせいで起こしてしまった。迷惑をかけてしまった事に罪悪感を感じる。
「せ、先生・・・・・・」
心配そうに見つめる先生の顔を見ている内に混乱していた精神が落ち着きを取り戻して来た。
それなのに涙が、止まらない。訳が分からないまま私は涙を流し続けた。
「はい。ホットココア。怖い夢を見た時はね、甘いものを飲むといいよ。根拠は特にないけどね」
私が落ち着いた後、二人で先生の部屋に移動した。 二人でベッドに腰掛けながら座って話している。
先生から手渡されたコップの容器を受け取る。中からは甘い匂いが優しく私を癒してくれる気がした。
「迷惑かけてごめんなさい。私が弱いばかりに先生には沢山迷惑かけてる」
「謝らなくていい。それに、私はヒナちゃんに沢山助けられてきてる。ヒナちゃんは弱くなんかないよ」
「・・・・・・何度も悪夢を見る。先生を守りきれず撃たれてしまう、あの時の光景が脳裏から離れない。そのせいで最近、睡眠を取ることが難しくなった。ううん、正直に言うと怖くなっちゃった」
この話を先生にするつもりはなかった。これは私自身の弱さでしかなく、風紀委員長として相応しくない姿だから。
でも、もう見られたからには言い訳は出来ない。悩んでいるのもまた事実で、いつまでも隠し通せるものでもないとは薄々勘づいていたから話す覚悟自体は出来ていた。
そっと.先生の大きな手が私の手を握り包み込む。
無意識に頬が熱くなる。
大きい手.私とは全然大きさが違う。ゴツゴツしていて硬い大きい手だけど温かくて、その温かさが私を落ち着かせてくれる。
先生の優しげな表情に胸を高鳴らせながら羞恥で外しそうになる視線を合わせた。
「ヒナは.不安なんだね。私がまたああなるかもしれないと考えたら」
「うん、そうかもしれない。先生がまた傷ついたらと思うと不安になる。夜も寝られなくなるくらいに」
「なら、約束しよう」
「約束?」
「うん、二人だけの約束さ。これから先、同じような事がないようにする。ヒナに心配かけないようにって」
指切りの形。それは約束事をする時の定番で、定番だからこそ強い意味を持つ。
「それと、ヒナ自身も自分を大切にして欲しい。今日、朝会った時に目のクマを化粧で隠していたよね」
「あ・・・・・・」
「私もヒナと同じで心配なんだ。君は確かに強くて賢くて凄い子だけど、いつ倒れやしないかとヒヤヒヤしてる」
先生も私と同じだったんだ。
私が感じている不安や心配事を先生も同じように思ってくれていた。
その言葉は今まで出会ってきた大人や子供.いや、正確には出会ってきた人の中でも一線を画す。
私の事を風紀委員長としてじゃなく、空崎ヒナとしてきちんと見てくれる人。
「うん.約束する。先生には心配かけないように、頑張る」
「頑張るんじゃなくて肩の力を抜いて、ね」
嬉しい。さっきまであんなに落ち込んでいたとは思えない程、今の私の胸中には幸福感が満ちている。
ああ、今なら素直に言えそう。
私が先生にして欲しいこと。
「先生」
「ん?」
「まだ不安だから、その、えっと.今日は一緒に寝て欲しい」
「え!?」
珍しく先生が慌てた様子で右往左往している。
なんだか見ていて面白い。いつもなら私がそっち側だけど今日は先生がそっち側らしい。
.なんだか楽しくなってきた。
手に持ったコップを床に置いて先生の手を掴んだままベッドに引き倒す。
「うわ!?」
ぼふっ! と音を立てて二人してベッドに倒れ込む。
そうなると必然的にお互い向かい合う形で見つめ合う事になる。いつもなら羞恥心で逃げる所だけど、今は不思議と羞恥よりも定義出来ていない別の感情が勝っていた。
「いつか前にこんな風に私が寝転んで先生が近くに居てくれたそんな神秘的な夜があったけど、今日はあの時以上に神秘的な夜だと思わない?」
「は、はい」
「ふふっ、なんで敬語なの?」
「ヒナちゃんが可愛いのは当たり前なんだけど良い匂いとか至近距離で月明かりに照らされた姿とか最高過ぎて言葉に詰まる」
「.そっか、ありがと」
「えっ!?」
反撃のつもり?
今日は私の番。反撃なんてさせてあげない。
「ほら、寝よ。? ・・・・・・先生?」
「ヒナ」
突然、先生が体を起こしたかと思うと私の上に覆い被さって来た。
顔のすぐ横に手が置かれ、すぐ間近に先生の顔が見下ろされている。
そこにはいつものお気楽な感じでも真剣な感じでもないいつもとは違った先生の新しい顔があった。
男はオオカミですから気を付けて下さい! とアコから言われていたのを思い出す。
確かに今の先生はまるで捕食者の如き目で私を見ている。
そして、段々と顔の距離が近くなっていく。このままだと唇と唇が触れ合う事は確定事項。
所謂、それはキスと呼ばれる行為で男女であれば.愛情という事は知ってる。
私は目を閉じた。
恥ずかしいし普段なら絶対に逃げる所だけど、今だけはこの神秘的な夜に呑まれて先生と一緒になってもいい。
「ヒナ」
先生は私の唇.ではなく、まぶたに口づけをした。
その後.ベッドから先生が離れる音がした。
目を開ける前にバサリと服が脱ぎ捨てられた音がして、思わず止まる。
これって、キス以上まで行く気なんじゃ.淡い期待、じゃなくてピンク色な妄想が広がる。
私だって年頃の女だから"そういう事"に興味がない訳じゃない。
でも、先生は私みたいな体型で満足してくれるのだろうか。
不安と期待と興奮にゆっくりと目を開ける。
「えっ、先生?」
そこにはスポーツウェアに身を包む先生の姿があった。
「危なかった.危うく一線を越えそうになったよ。でも、大丈夫。この溢れ出るリビドーをヒナちゃんにぶつける気はないから」
「・・・・・・」
「それじゃあ、行ってくる」
「うん」
本日二度目の事なので流石に慣れた。
先生はそのリビドーとやらを肉体的疲労を伴う運動をする事で発散しに行くのだろう。
走って出ていく先生を見送った後、冷静になって我に返った私が羞恥心に身を悶えたのは黒歴史と言えるのかも。
次の日、シャーレ付近で奇声を発して走る不審者の噂が広まったり、私があの口づけの意味を調べて色んな感情に身を焦がす事になるのはまた別の話。
エデン条約後のヒナちゃんを沢山甘やかしたい人生だった