妖艶なイロハ概念、個人的には大好物です。
イロハの魅力が少しでも描けていたら幸いです。
「先生ってチョロいですよね」
シャーレで仕事をしているとソファで絶賛サボり中であると思われるイロハがボソリと呟いた。
眠気を感じていた私はその言葉で何とか気を持ち直す。
またいつものかと思いスルーして事務作業をしていると……。
「冗談……だと思います?」
いつの間に私の背後に立っていたのか甘い囁き声が耳元で聞こえてドキリとする。
優しげな声は普段のモノとは違っていてギャップを感じさせた。
「うわっ!」
「ふふっ、良い反応をしますね」
「悪いけど今日は仕事が山積みなんだ。イロハの相手をしてる暇はないよ。ていうか近いんだけど」
「いつも仕事が山積み、の間違いなのでは?」
うぐっ。何も言い返せない。
「図星のようですね。先生、大変ですよね? 苦しいですよね? その目のクマもあの時みたいに酷いですよ。倒れる前に休み、体調管理をするのも仕事の内だとは思いませんか?」
自分の体調を考えて仕事をするのは社会人として基本的なスキル。必須といってもいい。
最もな意見であり正論だ。
「そうだね。お言葉に甘えて少しだけ休もうかな」
ソファは既に誰かさんに占領されているし仕方ないけど仮眠室を使わせてもらおう。
自室だとつい気が緩んでしまい寝過ごす可能性が高い。
「それでは、先生……こちらへどうぞ」
そう言ってイロハはソファに座ると露出した太腿をポンポンと叩いた。
「どういうこと?」
「はぁ、察しが悪い人ですね。私の膝を貸してあげるので休んで下さいと言ってるんですよ」
「えっと、遠慮しておくよ。流石にそれは……」
「もしかして、恥ずかしいんです? 先生ともあろう方が生徒に膝枕された程度で恥ずかしがるんですか?」
むっ、今日のイロハはよく煽ってくるね。明らかに何か狙いがあるんだろうけど言われっぱなしも癪にさわる。
動揺させられっぱなしだしここは一つ仕返しにイロハを動揺させてやるか。
「いいよ。そこまで言うなら膝枕してもらおうかな。後でセクハラとか言うのなしだからね」
もしかしたら罠かもしれない。懐柔が駄目なら脅しの方向にいく可能性もあるので一応確認しておく。
「脅しなんてそんなめんどくさいことしませんよ。今更そんな事をする仲ではないと思っていましたが? さあ、休むなら早く休んだほうがいいですよ。時間は有限ですからね」
……確かにイロハとは上手く信頼関係を築いていると私も感じている。
お互いに同じ中間管理職としての苦労を共有するサボり仲間でもある。流石に疑うのはイロハに失礼だよね。
「それもそうだね。じゃあ、失礼します」
さっそく言われた通りイロハの太腿に後頭部を乗せる。
柔らかい。甘い花の香りが鼻孔をくすぐる。
「どうですか? 現役JKの太腿は」
「その言い方どうにかならないかな……。まあ、悪くないとは思う」
「正直になってはいかがですか先生。私に膝枕して貰えて嬉しいでしょう?」
「うん。嬉しいよ。イロハは可愛いからこうして間近でその顔を見てると癒やされるね」
私の言葉にイロハは少しだけ頬を赤くした。
「っ……そう来ましたか」
「どうしたの?」
「先生の考えていることくらい分かりますよ。意趣返しに恥ずかしがる私を見たかったんでしょうが、私は先生みたいにチョロくはありませんから。では、次は私の番です」
見下ろすイロハが妖艶な雰囲気を纏うとその手が優しく私の目を覆った。
クーラーで冷えた手が目に心地良い。
何をするつもりか知らないけどこれでは何も見えない。
「ちょっ……」
「先生がよろしければいつでも膝枕してあげますよ。もしくは膝枕以上のコトでも。以前来て頂いた私だけの休憩スペース。もし、先生が宜しければ私と先生だけの休憩スペースにしてもいいんですよ?」
視界を塞がれた状態で耳元からはイロハの艶のある声。
「あの場所は私と先生くらいしか知りません。つまり、二人っきりで中でナニをしても声は外には漏れません。もちろん、大声を出しても問題はないでしょう。さて、これがどういう意味なのか分からない大人ではありませんよね」
しかもその提案はまるで二人っきりでそういう事をしても良いという内容を想像させるもので、思わず生唾を飲み込む。
私は先生ではあるが一人の男でもある。生徒とはいえイロハのような魅力的な女の子にそういう事を誘われて動揺しない男はいない。
でも、これが罠の可能性もある。これを了承し悪用された場合、間違いなく証拠が残るし私の立場はイロハの手のひらの上になる可能性が高い。
「……イロハ」
いや、そもそも私はそんな事をする為にキヴォトスにいるんじゃない。
そっと目を覆っていたイロハの手を優しくどけてその顔を見上げる。
「イロハが私にそういう提案をするという事は多分、特別な好意を抱いていてくれていると思うんだけど私は一人の生徒だけを特別扱いするわけにはいかない。イロハの気持ちはとても嬉しいんだけどね」
「……先生は何か勘違いしているようですね」
私の言葉を聞いたイロハは落ち込む訳でもなくニヤリと悪戯めいた笑みを浮かべて私を見下ろす。
「あの休憩スペースにはゲームや漫画、沢山の娯楽用品があります。私としては先生とそれらを使って遊ぶことを考えていたんですが……一体先生はどんな想像をしたのか聞かせてくれませんか?」
か、勘違いさせられた! 間違いない! イロハはわざとそういう雰囲気を作ってそれっぽい発言をして私に勘違いさせたんだ!
「酷い! 男心をくすぐってそんな勘違いを起こさせるなんて!」
「ふふっ、何の話でしょうか。私には何の話か分かりません」
「……はぁ、もういいよ。余計に疲れたし普通に寝させて。私は仮眠室に行くからイロハはここでゆっくりしてて」
イロハにからかわれて余計に疲れた気がする。
そういう期待は……一瞬だけしてしまったのは不覚だ。
単にからかいたかっただけでそういう気持ちはないんだろうな。
仮眠室に向かうべくイロハから離れて立ち上がる。
その去り際に背中から声がかかる。
「待って下さい、先生。勘違いさせたのは謝ります。でも、あの場所を私と先生の専用休憩スペースにしてもいいというのは本当ですよ。それと・・・・・・何の気もない相手に私がそういうコトを言う軽い女に見えるのなら心外ですね」
「えっ」
思わず扉に手をかけた状態で固まる。
つまり、イロハは私にそういう気があるということ? 途端に先程まで落ち込んでいた気分が高揚し始める。
ああ、どうやら既に私はイロハに骨抜きにされたらしい。
「先生が良いなら……私と一緒に休憩、しませんか」
しゅるり……。衣服のこすれる音。
イロハが背後から近付いてくる。
「実は今日、シャーレの入口に鍵をかけておきました。誰も入ってはきませんよ、先生」
そして、背中に二つの柔らかい感触。
そこから先はよく覚えていない。
私の中で保っていた筈の理性が崩れた音が聞えたのは確かだ。
「やっぱり、先生ってチョロいですよね」
読んでくれてありがとうございました。
この後、先生とイロハがどうなったのかは読んだ人のご想像にお任せします。