ガヤガヤと大勢の人が行き交うデパート内の光景が目の前に広がっていた。
普段なら一人では中々来ない場所だが、今日はシュンと会う約束がある。いつもの仕事着とは違って少しラフな格好をしているのはプライベートという意思表示。
初めの頃は仕事着だったが、彼女の要望もあり私服になった。
待ち合わせをした時計台の前で待っているとパタパタと小さな姿が駆けてきた。
「先生〜!ごめんなさい、待たせしちゃいましたよね」
「大丈夫だよ。気にしないで」
「ありがとうございます、先生」
シュンはいつもの姿ではなく、シュン(幼女)の姿だ。
小さくて可愛らしいその姿と比例してなのか中身も普段と比べて甘えたがりになるから困ったものだ。
可愛過ぎて思わず撫でたくなる。
「まずは限定シュークリームを食べにいきましょう。期間限定メニューらしいので売り切れるかもしれません。早くいきましょう」
楽しそうなシュンに手を引っ張られながら目的の店へと向かう。
今日はシュン曰く先生に甘える日らしい。ストレスが溜まったシュンがシュエリンの姿になって数週間に一度だけこうして二人っきりで遊ぶ。
私も小さなシュンを見て癒やされているのでまさにWin-Winの関係といえるだろう。
店に辿り着いた私とシュンは各々の選んだシュークリームを注文した。
しばらくして店員に呼び出された私はシュークリームを受け取るとシュンに手渡した。
「今回は以前の時とは違って失敗はしませんよ」
ドヤァと擬音が聞こえてきそうな表情を見ていると何だか微笑ましい。
確か、前にスイーツを食べに行った時はレーズンのパフェを食べられなくて泣く泣く私のイチゴパフェと交換したんだっけ。
「わあっ!これが3種の生クリームをふんだんに使った期間限定シュークリーム・・・・・・とっても甘くて美味しいです〜!」
美味しそうにシュークリームを頬張るシュンを横目に私も手に持ったシュークリームを口に含む。
チョコレートの甘味が口いっぱいに広がり思わずその美味しさに笑みが溢れる。
こちらは期間限定商品ではないもののチョコレートのシュークリームは普段食べないので選んだ。
「あ、シュン・・・・・・じゃなくてシュエリン」
今日は知り合いには黙って遊びに来ているのでシュエリンという偽名で呼ぶ。
「なんですか?」
こちらを振り向いたシュンの口元にはベッタリとクリームが付着していた。
恐らく、普段の感覚で頬張った為、小さい口では入りきらなかったクリームが頬についてしまっている。
私は人差し指でシュンの頬に触れ付着したクリームを拭うとそのまま人差し指を口に含んだ。
チョコレートとは違った甘い味が口に広がる。
「クリーム、頬についてたよ」
「あ、ありがとうございます。お恥ずかしい所を見せちゃいました。先生、次からはちゃんと言って下さいね。急にされると、その、心臓に悪いので」
心臓に悪い!?もしかして何か心臓に不安を抱えていたりするのだろうか。
「シュエリン、辛い時はちゃんと言うんだよ。君が倒れたら私は凄く悲しい」
「?はい!でもこの姿なので・・・・・・いえ、いつもそうなんですが、元気いっぱいなので問題ありません」
笑顔のシュンを見る限り大丈夫そうだ。
でも、大切な生徒の健康を気遣うのも大人の役目。今日は激しい運動は控えさせた方がいいかもしれない。
シュークリームを食べ終えた私達は子供向けのアミューズメント施設へと向かった。
「屋内アスレチックの安全性を確かめる為に少し行ってきますね。言っておきますが、私が楽しむ為ではありませんからね」
「待って」
「どうしました?何か心配な事でもありましたか?」
私の表情を見て何かを察したシュンが私を見上げながら首を傾げる。
可愛い。
「シュエリンは心臓に不安があるんだよね?あまり激しい運動はしないほうがいいんじゃないかな」
「心臓に不安?一体何の話でしょうか・・・・・・あっ、もしかしてさっきの話ですか?」
シュンの問いに私は首を縦に振るとどこか嬉しそうに口を開いた。
「ふふっ、それはモノの例えですよ。本当に心臓が悪いわけじゃなくて、その・・・・・・急に触れられたのでびっくりしちゃったんです」
「そうだったんだ。勘違いしちゃってごめん。なら、次からはああいう事はしないように気を付けるよ」
「あ・・・・・・」
どこか残念そうな顔のシュン。
「どうかしたの?」
「な、なんでもありません。安全性の確認にいってきます!」
どこかやけくそ気味にシュンがアスレチックの方へと走っていった。
大丈夫かな?怪我しないかな?見ているだけでなんだか不安になる。やはり小さい姿をしているからだろうか。
シュンが戻って来てからは子供達の服を見繕ったり、色んな服を着たマネキンが立ち並ぶショーウィンドウを眺めたりした。
「これとかシュンに似合いそうだよね」
スタイルも良く美人なシュンに着せたら似合いそうなマネキンを見つけた。
「わぁ・・・・・・!和風を意識したこの服装は素敵ですね・・・・・・」
「欲しいなら買ってあげるよ」
「えっ!流石に先生に悪いです。パフェも奢ってもらっていますし」
「うーん、なら私からのプレゼント。今日のデートのお礼という事で貰って欲しいな」
「デ、デートっ!・・・・・・はい。そういうことなら先生からのプレゼント、下さい」
ショーウィンドウに立ち並ぶ一体のマネキンの事を店員に伝え、購入を決める。
サイズの方は流石に私が直接聞くのはデリカシーがないのでシュンに頼んで伝えて貰い服を一式購入した。
手渡された大きめの紙袋は小さなシュンが持つのは大変なので私が片手で持って歩く事にした。
「ありがとうございます。大切に使わせてもらいますね」
それから時間一杯まで私達はデパート内の施設を楽しんだ。
その帰り道・・・・・・。
「ここでお別れですね。先生、今日はありがとうございました」
シュンは紙袋を大切に抱えながら頭を下げた。
「楽しい時間はあっという間とは言いますが本当ですね」
寂しそうな表情を見た私は思わずその頭に手を伸ばして、優しく撫でた。
「大丈夫。またこうして遊べばいいだけでしょ。お互いに忙しいから中々時間は取れないけど、またこうしてデートしよう」
「先生?この姿の私じゃないとお気に召しませんか?」
「え?いや、そんな事はないよ。シュエリンだろうとシュンだろうとどんな姿をしていても君は君だから」
私の言葉に驚いたように目を開いたシュンは頬を赤くした。
「そう言ってもらえてすごく嬉しいです。先生?少し屈んでもらってもいいですか?」
お願いされたのでしゃがむとシュンの目線と私の目線が同じくらいの高さになった。
「・・・・・・ん!」
突然、頬にキスをされた。呆然とした私はろくな反応を返せず驚きながらシュンを見ると。
「ふふっ、これはあの時のお返しです」
「急にやると心臓に悪いからやめてくれ」
「また新しい先生と私だけの秘密、できちゃいましたね」
小さいシュンだがそこには確かにいつもの色気を感じるシュンの雰囲気を感じた。
子供っぽいシュンと大人な雰囲気のシュン。どちらも本当のシュンなんだろう。
そして、それを知っているのは私だけ。
どこか背徳的な感覚に陥りながらもその特別性に優越感を感じさせた。
「次はシュンの私服姿・・・・・・先生の色に染まった私をお見せしますね」
私の耳元で小さく囁いてからシュンは走り去っていった。
「最後はやり返されっぱなしだったな」
でも、どこか満更でもないと思いながら私はシャーレに帰ったのだった。
読んでくれてありがとうございました。