兜虫だ......。何か文句でもあるのか?   作:デンデ・テンゲン君

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2 たまったもんじゃない

現状の確認をしよう。

 

襲ってきた猪を倒し、湧き上がる高揚感を深呼吸で抑える。

目覚めてからいろいろ起きすぎた、一度頭の中で整理したい。

 

まず、俺は死んで兜虫になった。何の虫になったか不明だったが、角付きの虫なんて兜虫くらいのものだろう。

六本の足を一本一本動かし体を回転させ、自分の角の影を見る。

目が若干外向きになっているためか、こうしなければ角を確認できない。先ほど空を眺めた時に一緒に角が見えなかったのはこのせいだろう。

 

しかし.....。

 

兜虫の角はこんな形状だろうか?

そこには、俺の頭から伸びる刀のような角の影があった。

刀状の角を持つ兜虫.....そんな種類が日本に、いや地球にいただろうか?

 

この猪だってそうだ。

猪の死骸を()る。

成人男性の身長を優に超える巨体、それを支える太い四肢。これらを深い青色の毛皮が覆っている。

その中でも目を引くのは、口元の牙だ。象牙と見紛う程の大きさがある。

こいつもまた、

 

《熟練度が一定に達しました。スキル〈鑑定ⅬV1〉を取得しました》

 

地球じょ、は?

突如頭の中に聞こえてきた声に驚き、周りにその主をいないか探すが自分と獣の死骸、山に木々しかない。

身に覚えのない、いや知っているな。

思い出すのは、猪に突き飛ばされた直後。

 

あの時確か、

 

       熟練度が一定に達しました。スキル衝撃耐性LV1を獲得しました

 

こう言っていたな。

殺した時にも何か言っていた気はするが、猪に注意を向けていたためあまり覚えていない。

 

熟練度にスキルか。

薄々感づいてはいたが、ここは地球ではなさそうだ。そもそも太陽系ですらないだろう。

転生したら別の惑星で兜虫になったと。笑えない冗談だ。

しかもその惑星には「スキル」だとかいうおかしなものまである。

 

そもそもなぜこんなものが存在するんだ?

誰が一体どういう目的で?

 

....まぁ碌なことではないだろうな。

さっき取った鑑定にはレベル表記があった。つまり成長させることが出来るということだ。

最大レベルが幾つかは知らないが、上げるために四苦八苦している連中を見て楽しむためだろう。コレを作った者はいい趣味をしているようだ、反吐が出る。

その興のために自分が巻き込まれていると考えると腹が立つな。

 

腹、腹か。

この世界に転生してからまだ何も口にしていないな。

日の位置からしてもう昼頃だ、ちょうど今腹も減ってきた。手に入れた鑑定とやらも食いながら調べればいいだろう。

そこの山で食料になるものを探すか。山菜、キノコ...毒には当たりたくはないから無難に果実か?だがこの巨体それで足りるだろうか。それで足りなければ最悪....この猪を生で食べなければいけないかもしれないな。

せめて火が使えればいいんだが、この手では火起こしも出来そうにないな。

さっきのスキルとやらに火の何かがあったりしないだろうか、火攻撃とか火遁

《現在所持スキルポイントは125010です。

 スキル「火攻撃ⅬV1」をスキルポイント500使用して取得可能です。

 取得しますか?》

 

......あぁ、取得する。

《「火攻撃ⅬV1」を取得しました。残りスキルポイントは124510です》

 

再び聞こえてきた声にスキル取得の提案を持ち掛けられ、流されるまま了承した。

頭の中にスキルの名前を浮かべるだけで取得するかどうか提案してくれるようだ。

この調子だと氷攻撃もあり

《現在所持スキルポイントは124510です。

 スキル「氷攻撃ⅬV1」をスキルポイント500使用して取得可能です。

 取得しますか?》

 

取得する。

《「氷攻撃ⅬV1」を取得しました。残りスキルポイントは124010です》

 

これ以上スキルについて考えるのはよそう、この調子のままでいると日が暮れてしまう。

とにかくこれで火が使えるようになった、のか?まぁ、ものは試しか。

火攻撃と頭の中で念じる、手が赤く発光し熱!熱い熱い熱い‼

手である鈎爪の爪部分が赤熱したかと思うとそのまま燃え始め、その熱さに耐えられずその場を転げまわった。

まずい、このままでは焼死だ!何か消火に使えるものは!あっそうか、氷!

咄嗟に氷攻撃と念じる、途端に爪先の火が消える。はぁ、なんとかなっ冷たっ!

今度は凍り始めた!焼死の次は凍死の危機か!

どうする。また火攻撃を使ったとしても...ん?

ここで衝撃耐性のスキルを思い出す。衝撃への耐性のスキルがあるなら氷耐性のスキルも

《現在所持スキルポイントは124010

取得する!

《「氷耐性LV1」を取得しました。残りスキルポイントは123510です》

 

氷耐性のスキルをとると、体の凍結が止まった。二度の死の危機を乗り越えたことに安堵の溜息を漏らす。

酷い目にあった、耐性がなければこんなことになるとは思いもよらなかった。

その後すぐに火耐性のスキルも取得した。もう自分で自分を焼くなどどいうへまはしたくない。

あらためて火攻撃を使う、凍っていた体が融け始め10秒もせぬうちに元に戻った。

手が真っ黒であることを除けば。

...かなり燃えていたからな、むしろ炭化していないことを喜ぶべきか。まだ感覚もある、動かすことはできそうだ。

 

手から注意を外すと今度は頭部が熱を帯びていることに気づいた、目で見れぬため恐る恐る手を伸ばして確かめてみる。

角に触れた時その変化に気づいた、どうやら角にも火攻撃の影響があるらしい。

 

角で火が使えるならあの猪も焼けるだろう。

もともと火攻撃をとったのは猪肉を焼いて食べることが目的だ、火耐性のスキルをとることでも焼死でも凍死でもない。

 

まずは下準備だな、毛皮を剥ぐところから始めなければ。

 

毛皮を爪で剝がしながら、これからどうするか考える。

まず住処、はっきり言って必要ない。

と言いたいが。夜行性の獣もいることだろう、夜襲などされれば寝ることもできん。

そこらの山に洞窟があればそこを塒にすればいいか。住人がいたなら奪えばいいだけだ。

 

次にスキルの強化だ、今後どんな敵に遭遇するかわからない。スキルポイントも潤沢にある、思いつくスキルはとっておこう。

今考えれば12万5000は多い気がするが。まぁ使えるポイントが多いに越したことはないだろう。

 

あとは...

背中に意識を集中させる、翅がバタバタと動きその速度を高めていく。しかし体が宙に浮くことはない。

飛ぶことが出来れば楽なんだがな。

翅があるのだから飛んで周りになにかないか探したいが、体が重くて無理だ。

スキルでそれらしいものを探してみるか?

いや、熟練度というのがあったな。それで鑑定も取得したんだったか。

あれは猪を観察していたことがきっかけになっていた。となるとそれらしい行動をしていると新しいスキルも手に入るということか。

スキルポイントも多いとはいえ節約できるならしておきたいな。

 

スキルのレベルも熟練度で上がるのだろう。

ちょうどいい、熟練度上げも兼ねてまだ使ったいない鑑定をここで使ってみるか。

今皮を剝いでいる猪に対して鑑定を試す。

 

《猪の死骸》

 

作業していた手が止まる。

...もう一度試す。

 

《猪の死骸》

 

.....

........

所詮レベル1だ、そこまで期待をしていたわけではない。

レベル1に見合った情報量ではある。だがあまりに浅すぎる。

レベルが上がれば量も増えるだろうがこの調子だとあまり期待しない方がいいな。

 

そう結論づけ、毛皮剥ぎの作業に戻った。

 

 

 

それから準備を終え、塒を探すために山を歩いている。

角に猪肉を刺しながら。

肉を焼きあがるまでの間特にすることがなく、待っている時間を探索に充てることに決めた。

火攻撃の角の熱で猪肉を焼き、熟練度も上げられる。更には塒探しもでき、一石三鳥。

レベル1でも火力はあるのですぐに焼きあがるだろう。いまも内側から焼けている音がする

ただ懸念があるとすれば。

匂いにつられて獣が集まってくることだな。角には肉が刺さるだけ刺さっている、残ったこの鈎爪で戦うしかない。

一対一ならまだしも群れで襲われると厄介だ。

この星にどんな生物がいるかわからない、常に警戒を

 

                      ぎぃっ

 

左奥から枝の軋む音が聞こえた。

 

首をそちらに向けると

 

 

 

 

 

 

十を超える猿の軍団がこちらを見ていた




皆さんこの夏はいかがお過ごしでしたか。今年の夏もクソ暑く熱中症になっていないか心配でございます。
私ですか?
バイトや買い出し以外は大体家にいましたね、だってクッソ暑いんですもん。家で何してたかって、ハイラルを厄災から救ったり、宇宙の帝王の兄貴とかとドッカンバトルしてましたね。

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