転生したらウイポ馬主だった件   作:佐月檀

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 1976年編、開幕。
 大阪杯さん……。


1976年
差し切って、逃げ切って


 時代というのは、いずれ移り変わっていくものだ。

 無論、それは競馬にも当てはまる。世代交代ともいうが。

 どんなに強かろうと、どんなに速かろうと、やがてその時はやってくる。

 

 所有馬にその時が訪れたら、俺は何を思うのだろうか。

 カブラヤオーは四歳と古馬になり、グリーングラスも三歳となった。

 シアトルスルーも二歳を迎え、競走馬への道を辿ろうとしている。

 そんな彼らにも、いつかはやってくる。

 

 特にカブラヤオーにとっては、次世代との戦いになるだろう。

 無敗で三冠を達成し、満票で年度代表馬に選出された古馬相手に、次世代を担う若駒たちはどういう立ち向かい方をするのか。

 天を翔けるように抜き去るか、流星の如く突き破るか、狙い澄まして討ち取るか、一瞬の豪脚で差し切るか。

 それとも――スーパーカーのような圧倒的な出力で押し潰すか。

 いずれにせよ、カブラヤオーという絶対王者を打ち倒そうとする次世代が現れることは間違いない。

 もちろん――容易に負かされるつもりはないが。

 

 冬を越しての四月。麗らかな春を迎え、激戦は再び開幕しようとしている。

 春のGⅠ戦線となると、強豪たちが再集結する。彼ら彼女らはぶつかり合い、栄光を欲する。

 かくいう俺たちも、GⅠタイトルという栄光を求め、立ち向かう。

 

 ――GⅠ大阪杯。阪神競馬場の芝2000mで行われるそれで、無敗の三冠馬カブラヤオーが再始動した。

 追い切りでの手応えは抜群、体調も万全といえる状態で出走したカブラヤオーは――結果から明かせば、とてつもない逃げ切りを演じ、追い縋るフジノパーシアを完全に置き去りにし、十一馬身という埋めようのない大差を着け、圧勝してくれた。

 これでカブラヤオーはGⅠ五勝目を飾ることとなり、前年の年度代表馬の威光を示した。

 

 その後に伊坂先生や倉田さんとも協議を重ね、カブラヤオーの次走、そして春の大目標はGⅠ宝塚記念という決断を下した。

 天皇賞(春)というGⅠもあるにはあるが、カブラヤオーに3200mという距離は流石に長すぎるため、回避という方針だ。

 また、宝塚記念には、昨年に牝馬二冠を達成したものの怪我で秋を全休し、共同通信杯ではカブラヤオーとも戦ったことのあるテスコガビーが復帰する予定のようである。

 

 史実では果たせなかった再戦であるが、再度彼らの激闘を目にすることができるというのは、感慨深いものがある。

 カブラヤオーを徹底的に仕上げてもらい、宝塚記念に臨もうではないか。

 今一度、テスコガビーと決着をつけよう。

 

 一方で、グリーングラスの方も順調すぎるといえるほどに順調だった。

 今年の初戦として京都の条件戦である梅花賞(芝2400m)を勝利すると、立て続けに阪神で行われたリステッドのすみれステークス(芝2200m)、若葉ステークス(芝2000m)も連勝してくれたのだ。

 特に若葉ステークスは皐月賞へのトライアルレースでもあるため、ここを勝って優先出走権を得られたことはあまりにも大きい。

 

 そんな皐月賞だが、競馬新聞は完全に二強ムードという見方をしていた。

 無敗の二歳王者テンポイントと、無敗の弥生賞馬トウショウボーイの一騎打ち。そのように予想を添えて書かれていた。

 無敗であればグリーングラスもいるだろうと憤ったが、思い返すとグリーングラスにはまだ重賞勝ちという実績がない状態だった。それもそうだった。

 だがそれでも、その二強ムードを打ち崩す。グリーングラスはそれほどの馬なのだから。

 

 どうか鞍上の的田さんと共に、駆け抜けてほしい。

 そう祈るばかりだった。

 

 

 

 快晴となった中山競馬場には、今年も独特の熱気が漂う。

 だが、この熱気にも慣れてきたのか、以前と違って圧迫感はなく、自然と心が弾んでいた。

 今年の皐月賞にもやはり十八頭の選ばれし強豪たちが集う。

 その中でも抜きん出て注目を集めていた馬が、『貴公子』と称されていたテンポイントだった。

 

 陽射しにより、さらに煌めきが増すテンポイントの馬体には、多くの観客が言葉を失っていた。

 グッドルッキングホースという言葉があるが、それはテンポイントのためにあるのかと錯覚しそうになるぐらい。それほどに美しい馬であった。

 悠々とパドックを闊歩する様は、まさしく『貴公子』に相応しい佇まいである。

 

 目線をテンポイントからトウショウボーイへ移す。

 史実では『天馬』といわれるほどの圧倒的なスピードを武器に、数々の名勝負を繰り広げ、テンポイント、グリーングラスと並びTTGの一角とされた名馬。

 はっきりいって、諦観こそしていないが、この名馬を相手取るには今のグリーングラスではまだ物足りない。

 恐らく的田さんを鞍上とするなら、グリーングラスは真っ先に外から貼りつくようにトウショウボーイを徹底的に追い詰めようとするだろう。

 

 果たして、その騎乗がどこまで通用するか。

 史実より何ヶ月も早いTTG対決を観戦させてもらうとしよう。

 

 騎乗合図が発せられ、的田さんがグリーングラスに駆け寄る。

 的田さんはグリーングラスの頭を撫でると、鞍に跨がる。

 他馬が返し馬を行う中、的田さんがゴーサインを発し、グリーングラスも駆け出していった。

 

 俺たちの想いを背負って、若き人馬は頂点を目指しに行く。

 

 

 

 全頭の返し馬が終わり、ゲート前に集結する。

 続々とゲート入りを済ませていき、トウショウボーイは四番、グリーングラスは五番、テンポイントは十四番の枠に入っていく。

 

 そして――この世代の激戦が、火蓋を切った。

 

『スタートしましたっ! トウショウボーイ、テンポイント、二強が飛び出していった! しかしスッと下げて、トウショウボーイはやや内寄りの三番手、テンポイントはやや外の五番手。二強はこういう位置取りとなりました。

 トウショウボーイの外、真横に張りついている無敗のグリーングラス、鞍上的田弘であります。この鞍上は穴馬に乗せると怖い男であります。

 トウショウボーイは前がやや塞がったか、外も塞がっているがこれは大丈夫か? テンポイントは己が道を行くように競馬を進めております。

 

 1000mの通過タイムは、一分台であります。それほど速くもなく、遅くもないペースです。馬群が縦長に広がっております。

 テンポイントがややポジションを押し上げつつある! ここで仕掛けるかテンポイント! 隙間を突いてトウショウボーイが抜け出し、グリーングラスが外から追ってくる!

 残り600m! コーナーに差しかかって、テンポイントだ! テンポイントが先頭に立った!』

 

 テンポイントが先頭に立つと同時に、歓声が沸き上がる。

 だがその背後には、既にトウショウボーイが迫ってきていた。

 

『残り300mで、トウショウボーイがやってきた! 来る! 来る! トウショウボーイが物凄い脚でやってくる! テンポイントはここまでか!? トウショウボーイの外からグリーングラスが猛追! グリーングラスが猛追するが、差がなかなか縮まらない! トウショウボーイがテンポイントを差し切って、グリーングラスから逃げ切ったァッ!

 

 トウショウボーイが勝ちましたァッ! トウショウボーイです! テンポイントと、猛追する穴馬グリーングラスを抑え込み、皐月賞を無敗で制しましたッ! 二着には、四分の三馬身差まで詰め寄ったグリーングラス! 三着にはテンポイント! お見事でした、トウショウボーイ!』

 

 

 

 レースを終えて、悔しそうに拳を握る的田さんと伊坂先生のもとを訪れる。

 

「……あとちょっと、でした。僕が至らないばかりに……」

 

 震えた声音を発して、的田さんは唇を噛みしめる。

 そんな的田さんの肩に、伊坂先生は手を置き、ポンポンと叩く。

 

「いや、あれは今できうる最良の騎乗だった。誰もキミを責めはしないよ」

 

「そうですよ、的田さん。ですから、次こそは勝ちましょう。日本ダービーでギャフンと言わせましょう!」

 

「伊坂先生、オーナー……」

 

「オーナー、グリーングラスは引き続き的田くんでよろしいですか?」

 

「はい。あれほどの騎乗を見せてくれたのだから、文句などありませんよ」

 

「オーナー、伊坂先生……本当に、ありがとうございます……!」

 

 皐月賞での雪辱を、グリーングラス陣営として日本ダービーで晴らしてみせよう。

 胸に手を置き、一呼吸したのち、告げる。

 

「日本ダービーで逆襲しますよ、みなさん」




 クライムカイザーしゅき。
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