転生したらウイポ馬主だった件   作:佐月檀

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 怪物対決定期。


自由なる夢VSスーパーカー

 十二月を迎えた阪神競馬場には、またもや多くの観客が押し寄せている。

 前週に開催された二歳牝馬限定のGⅠ阪神ジュベナイルフィリーズでの興奮は未だに続いているようで、冬だというのにどこか暑苦しささえ覚えてしまう。

 ――朝日杯フューチュリティステークス。阪神競馬場の芝1600mで行われる、二歳王者決定戦。

 史実ではかつて朝日杯三歳ステークスとされ、中山競馬場で行われていたが、公式的な馬齢表示が変更されてからは、朝日杯フューチュリティステークスという形に落ち着き、開催地も阪神競馬場に移った経歴がある。

 そんな朝日杯なのだが、今日はただならぬ熱気が漂う。

 若駒たちが競い合い、来年の飛躍へと繋げるGⅠ競走――けれど今日は、明らかに何かが違う。

 

 まるでクラシック――それこそダービーが開催される直前のような。

 そのような雰囲気が観客席から見て取れる。

 ここでひとつの馬に思い当たる。

 俺の所有馬――シアトルスルーに比肩しかねない『スーパーカー』の存在に。

 

 朝日杯には十八頭ほど出走できるはずだが、パドックには七頭の若駒しかいない。

 どうしてしまったのだろうか。恐れることはないというのに。

 ただ怖い馬がいるとすれば――一番の馬だろう。

 ゼッケンには、こうあった。

 ――マルゼンスキー、と。

 別格、という一言に尽きる馬だ。

 あまりにも強すぎたがゆえに、世代を食らってしまった名馬。

 この世界でも新馬戦を十四馬身差で制すると、GⅡ東スポ杯二歳ステークスすら十三馬身差で圧勝。

 もはや敵なし、といえる――が、そうはいかせない。

 

『スーパーカー』の如きエンジンを搭載する名馬を相手取るは、本当に馬なのか疑いたくなるほどの怪物。

 無敗でここまでやってきて、ただで負けるわけにはいかない。

 世界を目指すには、マルゼンスキーも蹴散らさねばならない。

 七番のゼッケンで着飾った黒鹿毛が、一段と光って見える。

 小田部信夫さんが駆る米国産馬――シアトルスルーは、首を揺らしながら闊歩する。

 

 厩務員に引かれていくさなか、シアトルスルーがマルゼンスキーに視線を向け――何事もなかったかのように目を逸らす。

 まるで、興味などないとばかりに。

 やがて騎乗の号令が発せられると、小田部さんがシアトルスルーに駆け寄ってくる。

 

 小田部さんはシアトルスルーに乗るなり、割れ物を扱うかのような手つきで首元を撫で回す。

 しばらくその行為を経たあと、手綱を握り、シアトルスルーを駆けさせる。

 彼らが見ている景色は、いったいなんだろうか。

 ゴール板の果てには、彼らしか見ることのできない、壮観な景色が広がっているのだろう。

 

 

 

『今年も若駒たちのぶつかり合いとなりました、GⅠ朝日杯フューチュリティステークス。芝1600mであります。

 今日の見どころはなんといっても、無敗馬対決であります。互いに前走は十馬身以上のぶっちぎり。それに逃げて勝っております。これほど心踊る対決はなかなかお目にかかれないでしょう。

 各馬、ゲートに収まりつつあります。ゲート入りを嫌がる馬はいません。静かに、静かに、その時を待ち侘びています。最後に七番シアトルスルー、鞍上小田部信夫が収まります。

 

 ――朝日杯フューチュリティステークス、間もなく発走です!

 

 スタートしましたっ! マルゼンスキー、シアトルスルーが共に抜群のスタートを切りました! 二頭並んでいきます! 後続をぐんぐん突き放していく!

 さあさあ、やはりこの二頭! この二頭がいった! シアトルスルーとマルゼンスキー! 一番人気シアトルスルーと二番人気のマルゼンスキーが、並んで走っている! 後続との差は六馬身だが、ヒシスピードがもう鞭を打って追ってきている! まだ1400mはあるぞ!

 シアトルスルーとマルゼンスキーが完全に並んでおります! 膠着状態! 互いに牽制し合ったままか! ヒシスピードが必死に追いかけている! しかしなかなか差が縮まらない!』

 

 シアトルスルーとマルゼンスキーの対決という、マッチレースにも等しい夢の決戦。

 追走しているヒシスピードには申し訳ないが、レースは完全に二頭が支配している。

 ここは所有馬贔屓であるが、シアトルスルーに勝ってほしいところ。

 無敗の米三冠馬は、伊達ではないはずだから。

 

『前半の1000mは――ッ!? 56秒2! 二歳戦にしてはあり得ない通過タイム! これはどうなる!? これはどうなる!? 決着が楽しみだ!

 残り500mで、間もなく最終直線だ!

 まだ二頭並んだまま! まだ二頭並んだまま! マルゼンスキーに鞭が入った! マルゼンスキーに鞭が入った! しかしシアトルスルーとの差は広がらない! ここでシアトルスルーにも鞭が入って、叩き合いに――いや、マルゼンスキーを突き放し始めた! 加速し始めたシアトルスルー! このエンジンは誰にも止められない!

 マルゼンスキーとの差が一、二馬身と広がっていく! これは大勢決したか!? もはや勝負は決まったか!? 怪物が怪物を捻じ伏せている!

 

 シアトルスルーが突き放してゴールイン! シアトルスルー、小田部信夫です! 小田部信夫が鞭を掲げております! 外車対決は、シアトルスルーに軍配が上がりました! もはやこのエンジンは、誰にも止められない!』

 

 

 

「シアトルスルーで朝日杯を制しました、小田部信夫騎手、おめでとうございます。早速ですが、今のお気持ちを」

 

「……今日は僕の騎乗ミス、ですかね。反省点ばかりです」

 

「マルゼンスキーと並んで走った時の手応えはどうでしたか?」

 

「並びかけてきた時点で確信しましたよ。――これは勝ったな、と」

 

「超ハイペースはどう対応できましたか?」

 

「いや、対応するというより、自然と馴染みましたね」

 

「最後に一言、お願いします」

 

「じゃあ、言っちゃいますね。

 ――シアトルスルーこそが、最強馬です」

 

「ありがとうございました、小田部信夫騎手の勝利インタビューでした」

 

 

 

 

【1976年朝日杯フューチュリティステークス 結果

 

 一着 シアトルスルー 1:32:1

 二着 マルゼンスキー 四馬身

 三着 ヒシスピード 大差(十二馬身)】




 ヒシスピード兄貴ェ……。
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