転生したらウイポ馬主だった件   作:佐月檀

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蹂躙して進出

『シアトルスルー先頭! シアトルスルー先頭! 日本競馬を背負って、シアトルスルーが駆け抜ける! 内につけて逃げる逃げる逃げる! 追ってくるのはいない! もう、誰も追ってこれない! 強い、強すぎる! もはや独走劇! これはシアトルスルーで決まっただろう! 

 

 シアトルスルーが、先頭でゴールインッ! 小田部やったッ! シアトルスルー、小田部信夫がとうとうやってのけましたッ!

 アメリカ最高峰の大舞台、それを三つ、三つです! 見事勝ち抜いて、トリプルクラウンを戴きましたッ! 傷のひとつもない、無敗での戴冠となります!

 ベルモントパーク競馬場、その観客席からの大歓声に応えるようにして、小田部信夫が三本指を掲げました! これは恐らく、今勝ち取った三冠目を意味しているのでしょう。日本馬が、シアトルスルーが、小田部信夫が、アメリカ競馬の喉元に刃を突きつけました! 今正しく、日本馬がアメリカ競馬の頂点のひとつに君臨したのですッ!』

 

 

 

 

 

 六月――ベルモントパーク競馬場。

 米三冠目のレースであるダート十二ハロン(2400m)のベルモントステークスは、日本調教馬の米三冠達成という、前代未聞の締め括りを迎えた。

 ケンタッキーダービー、プリークネスステークス、ベルモントステークス。

 これら三つの大レースを日本馬が無敗のまま勝ち抜いていったのだから、アメリカ競馬からしたら驚くしかない。

 いきなり日本馬から猛烈な打撃を三度貰ったことになる。しかもアメリカ競馬を象徴するレースであるケンタッキーダービーで自国の有力馬が悉く捻じ伏せられているのもあり、プライドはズタボロに違いない。

 しかしそうであっても称賛すべきものは称賛してくれた。無敗で三冠達成時、スタンドから拍手喝采の旋風が巻き起こったのは嬉しかった。日本馬が勝ったというのに。

 

 アメリカ競馬のそんな面には内心で好感を抱く。

 だがその好感がすぐさま悪い方向に塗り替えられるのは、ある人物が俺の前に立ってからだった。

 

「シアトルスルーのオーナー、少しよろしいか」

 

 アメリカの調教師――ベブ・ファバード。

 史実では米三冠馬アメリカンファラオを始めとし、数々の名馬を手がけた名伯楽。

 俺は彼のことを知っている。そして、その未来も。

 

 だから正直、俺はこの人物をあまり相手にしたくない。

 

「……ミスター・ファバードですか。何用で?」

 

「ハハハ、そう畏まらず」

 

 どうやら俺の発する剣呑な雰囲気に気づいたようだ。表情を綻ばせ、快活に笑いかけてくる。

 

「申し訳ないのですが、時間があまりないので焦ってるんですよ」

 

「何を仰るのです。まだ帰国便に乗るわけでもないでしょう」

 

「はは、看過されましたか」

 

 まずい、まずい、まずい。

 どんどん焦燥が心を覆い尽くしていく。

 ポケットからハンカチを取り出して、額を拭う。

 完全に話のペースを握られている。逃さない、ということだろうか。

 

「それで、ご要件は?」

 

「では単刀直入に。我が厩舎に、馬を預ける気はありませんか?」

 

「…………」

 

 予想していた要件だった。こうなるだろうとは予見していた。

 あれだけ日本所属馬で大暴れして目をつけられないわけがない。シアトルスルーが無敗で米三冠馬となったのだから、なおさらに。

 

「……それはなぜ?」

 

「お恥ずかしながら、シアトルスルーのような馬をいずれまた見つけるだろうと読みまして。ですから、今度はウチにも預けてほしいのです」

 

 その理由はあまりにも単純だった。わかり切っていた魂胆だった。

 けれども、この人にそう話されるのは、かなりまずかった。

 

「……ふむ」

 

 考える素振りをして、説き伏せる術を探る。

 だがあれほどストレートに来られると、流石に分が悪すぎる。

 断る口実を見つけようにも、それがなかなか見つけられない。

 

 ……待てよ? シアトルスルーのような馬、と彼は言っていたはず。

 だとしたら、こちらはこう返すとしよう。

 

「シアトルスルーのような馬、ですか。申し訳ないのですが、ミスター・ファバードはシアトルスルーに何を感じたのです?」

 

「それはもちろん、競馬のロマンを。彼には私も多くの夢を見せてもらいましたよ。中でも血統が好きですね。我々が求めていたアメリカドリームとはまた違うアメリカンドリームを秘めていました」

 

「つまりは下剋上、というのでしょうか?」

 

「日本風に言うならそうですね。私は彼に思い出させられたのです。競馬のロマンを、下剋上を、大いなる夢を」

 

 その返答に目を見開いてしまう。

 彼は思い出したという。だとしたらこのベブ・ファバードという調教師は、恐らくだが。

 

「……もし俺の馬を預かるのでしたら、違法薬物の使用だけはやめてください。俺も厄介事に巻き込まれるので」

 

 完敗だった。この際、こうはっきり言ってしまうことにした。

 

「ええ、シアトルスルーに誓って。絶対に使用などしません」

 

「わかりました。では……といきたいところでしたが、アメリカに拠点を持っていないのです。いわゆる放牧先です。それがないことには、どうしても不安が残ってしまって」

 

「でしたら、私が探しておきましょう。こじんまりとした牧場で大丈夫ですか?」

 

「ええ。できれば、ある程度施設が残っていたら最高ですね」

 

「では、探しておきましょう」

 

 ……なんだか少しだけ、善行を為した気がする。

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