転生したらウイポ馬主だった件   作:佐月檀

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 年度代表馬と顕彰馬の選出基準が壊れちゃう。


1977年エピローグ 引退式とデビュー前

 暮れの中山には、多くの観客が押し寄せていた。

 その視線が向けられる先は、ただ一頭。

 凱旋門賞後に引退を発表したカブラヤオーと、その主戦であった倉田隆景さんだ。

 夕陽が沈みゆく光景をバックに、カブラヤオーは鞍上の倉田さんと共に、観衆の前を通り過ぎていく。

 湧き上がる大歓声に応え、観客席に向け、倉田さんが右腕を大きく振る。

 

「寂しくなりますねぇ、カブラヤオーがいないとなると……」

 

「……そう、ですね。カブラヤオーは俺だけじゃなく、多くの人々にも夢、ロマンを与え、それに応えてきました。本当にね、偉大な名馬ですよ……」

 

「私も、カブラヤオーから多くのものを貰いました。……今度は私が、カブラヤオーの産駒を育て、彼に恩返しをする番ですよ」

 

 伊坂先生は何度も何度も、腕で目元を拭っていた。

 こうして伊坂先生が涙するのは珍しい。言葉にしている通り、やはりこの人も、カブラヤオーから多くのものを受け取ったのだろう。

 つまるところ、伊坂先生もカブラヤオーに魅了されたひとりというわけだ。

 

『今年度に引退します、三冠馬カブラヤオーであります。全戦に渡って手綱を取った倉田隆景騎手が、涙を堪え切れず目元を幾度となく拭っております。史上初めて、無敗のまま三冠を達成したカブラヤオー。残念ながら凱旋門賞制覇こそなりませんでしたが、カブラヤオーは常に先頭を征き、我々に多くの希望、多くの光を与えてくれました。気が早くはありますが、カブラヤオー産駒が今から楽しみであります。

 

 

 ありがとう、カブラヤオー! さらばカブラヤオー! またいつか、会える日まで!』

 

 倉田さんが下馬し、カブラヤオーの手綱を引いてこちらにやってくる。

 緑のメンコをしたカブラヤオーの姿をファンに見せるのも、これが最後だろう。

 けれどその勇姿は、永遠に、忘れ去られることはない。

 大逃げ馬にして三冠馬。異色の名馬は、人々の記憶にいつまでも焼きつくのだ。

 

「ありがとう……! カブちゃん、今まで本当に、ありがとう……!」

 

 号泣しながら、倉田さんが手綱を引く。

 カブラヤオーはそっと、倉田さんの顔に自身の額を合わせる。

 この光景で、俺の涙腺は限界を迎えた。

 馬が人に寄り添う光景というのは、いつ見ても泣けてしまう。涙腺が緩いとかどうこうじゃない。見るだけで昇天してしまいかねない。

 

 倉田さんはカブラヤオーの頭に手を添え、撫でる。

 割れ物を扱うかのように、そっと優しく。

 ダメだ、これ以上は俺が保たない。それでも永遠にこの光景を堪能していたい。そんな自分がいる。

 

 カブラヤオーと倉田さんを祝福するように、またもや歓声が湧き上がる。

 こうして目の当たりにすると、こう実感できる。

 

 カブラヤオーは、確かに愛されていたんだと。

 

 

 後日、新しく購入し事務室に設置したラジオから、なんとカブラヤオーの話題が飛び出してきた。

 お笑い馬券師だったか、そういう類の方がカブラヤオーの名前を幾度となく口にしていた。

 そこからさらに時を重ねると、今度は競馬そのものを主題にしたラジオが流れ始めたのだが、その際もカブラヤオーの話題で持ち切りだった。

 他にもトウショウボーイやらテンポイントやらシアトルスルーやら、そういった名前も出てきていたが、一番話題になっていたのはカブラヤオーだった。

 

 ここまでされると、もう思い知るしかなかった。

 カブラヤオーたちのおかげで、競馬ブームの気運が高まりつつあると。

 

 

 

 

 

 預託馬の様子見も兼ねて、伊坂先生の厩舎を訪れると、少しげんなりした様子の伊坂先生が出迎えてくれた。

 

「お、オーナー、助けてください……」

 

 開口一番、助けを求められたのだが。

 だいたい察しはつく。察したくないが。

 

 

 調教コースに通されると、予想通りの光景が目の前に広がっていた。

 そう、つい最近入厩したジョンヘンリー。彼が人を背に荒れ狂うという、そんな光景だ。

 

 ジョンヘンリーは暴れながら走っている。調教をつけている人からすると堪ったものではない。

 それでもなんとか走らせている辺り、ジョンヘンリーの背に乗る人はただ者ではないのだろう。

 

「すみません、ジョンヘンリーの背に乗っている彼は?」

 

「ああ、彼ですか。……おーい! オーナーが来ましたよ!」

 

 その一声に反応して、下馬し、ジョンヘンリーを引いてこちらにやってくる。

 

「ああ! オーナーさんですか! すんません、自己紹介が遅れてしまって……」

 

 ジョンヘンリーをなんとか御するとはなかなかのやり手。きっと気性難の扱いが上手い騎手なのだろう。

 

「自分、山南克弥(やまなみかつや)っていいます! よろしくお願いしますわ! ジョン、オーナーさんやってきとるで。ほら、挨拶せな」

 

 名前を聞いて、合点がいく。

 なるほど、確かに彼ならジョンヘンリーを乗りこなせるかもしれない。

 

「一月のデビュー戦、ワイが鞍上務めますんで、そこはよろしくお願いします! あっ、ちょっ、ジョン! 暴れんでくれって!」

 

 たぶん……上手くやってくれるだろう。




 1977年度 表彰馬

 最優秀三歳牡馬:シアトルスルー
 最優秀古馬牡馬:カブラヤオー
 最優秀ダート馬:シアトルスルー



 年度代表馬:シアトルスルー(187票、カブラヤオーは113票)
 顕彰馬:カブラヤオー
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