『さあ、阪神の直線勝負! 馬群は一塊となっている! 大外からやってきた! 末脚を使ってやってきた! 無敗馬ジョンヘンリーと山南克弥! 先行集団を一気に撫で切って先頭に躍り出た! 追える馬はいない! ジョンヘンリーが引き離していく!
ジョンヘンリーが先頭でゴールイン! やはり無敗馬! ここでも強かった無敗馬! 出遅れながらも末脚だけで勝ちを掴んでみせました!』
阪神のリステッド・若葉ステークス(芝2000m)を終えた馬たちが次々と地下馬道にやってくる。
若葉ステークスの勝ち馬となり、皐月賞への優先出走権を勝ち取ったジョンヘンリーも、山南さんを乗せたまま戻ってくる。
ジョンヘンリーの様子は余裕を保ったまま。疲労面では問題なさそうだ。
山南さんが鞍上から降り、ジョンヘンリーの背から鞍とゼッケンを外す。
馬のほうは余裕そうだったが、一方で騎手は若干息を切らしている。
それもそうだろう、騎手からしたら、今日の競馬はあまりにも余裕のなさすぎる競馬だったから。
出遅れた時点で騎手だけでなく陣営も焦るというもの。レース中に荒ぶらなかっただけ前走の条件戦よりかはマシかもしれないが。
「山南さん、大丈夫ですか?」
「な、なんとか……」
これでも今回は折り合いをつけれたほうで、前走までがもっと酷かった。
ジョンヘンリーに乗るたび山南さんは燃え尽きている。こんな現状で大丈夫なのだろうかと、正直不安しかない。
「じょ、ジョンは、今日は折り合えてました……出遅れさえ、どうにか、できれば、ゼェ……ハァ……大きなところも、狙え、ます……」
うん、大丈夫じゃなさそうだ。とはいえジョンヘンリーから山南さんを降板させる気はないが。
こうなってくるとクラシックはかなりキツい。ジョンヘンリーがいくら実力馬でも、その能力を活かせねば敗退は間違いない。
ジョンヘンリーの気性はかなり激しい。そのせいで、史実では騸馬にされたほど。
史実で所属していた米国と今いる日本とでは、騸馬にする基準がけっこう違う。
気性を和らげるためにするのは共通だが、日本だと滅多にない。
そう考えるとなんなのだろうか、日本競馬は頭鎌倉武士かな。
ともかくとして、ジョンヘンリーの気性難はどうにかせねばならない。
騸馬にするか――否。わがままではあるが彼の産駒が見てみたい。
ではどうするか――根性でどうにかするしかない。先ほど日本競馬は頭鎌倉武士と述べたが、どうやら俺も当てはまりそうだ。
「皐月賞の優先出走権は大きいです。次もどうかジョンヘンリーのことをお願いします」
「ま、まあ、自分もなんだかんだ、あの馬、気に入ってますからね……。次も任されました」
皐月賞でも山南さんが騎乗してくれるというのなら心強い。
勝てるかどうかは本番にならないとわからないが、十分な結果は出してくれるはず。
ドバイ・メイダン競馬場。
砂漠に囲まれたこの競馬場で、遂に大一番が迎えられようとしていた。
ダート十ハロン(2000m)、GⅠドバイワールドカップ。
とてつもない賞金額を誇る大レースに、一頭の日本馬が挑もうとする。
休養明けのサウジカップこそ不調により三着に敗れたが、このドバイで雪辱を果たしたい王者シアトルスルー。
昨年に米グランドスラムを達成したというのもあってか、サウジカップで敗れたにも関わらず一番人気に推されている。
このレースに出走する頭数は十一頭。
世界でも最高峰のひとつに数えられる賞金を目当てに、世界中から強豪が集う。
それでもシアトルスルーなら勝ってくれる。
今回も小田部さんを鞍上に据えての出走。シアトルスルーは返し馬から絶好調といったところ。
日本の夢を背にドバイに降り立った白鳥――いや、不死鳥。
それが再び、羽ばたくときが訪れた。
『日本の夢掴めるか!? 今年のドバイワールドカップにトリプルクラウンホース、シアトルスルーが挑みます! ゲート入りが終わりまして……間もなく発走となります!
スタートしました! 日本のシアトルスルー、猛然とゲートから飛び出ました! とてもいいスタートを切りました!』
素人目でもわかるぐらい、スタートはよかった。
その勢いに乗って先手を奪う。鞍上の小田部さんは手綱を握ったまま。
二頭ほど先頭のシアトルスルーを突いてくるが、どちらもそのスピードに追いつけずそれぞれ二番手と三番手に控える。
シアトルスルーは淡々と逃げるだけ。それだけで、後続は必死になって追ってくる。
だが完調状態のシアトルスルーには、誰も追いつけない。
ただ逃げるだけ。逃げて逃げて逃げる。
だというのに、いつの間にか後続との差は三馬身ほど開いているではないか。
間違いなく、1000mの通過タイムは破滅的なタイム。57秒台ぐらいかもしれない。
けれども不死鳥は羽ばたくことをやめない。
他を置き去りにしたまま、飛び立ってしまうのだ。
『最終直線! 最終コーナーを回りまして、メイダン競馬場の最終直線!
先頭は逃げる逃げるシアトルスルー! 先頭は決して譲らない! シアトルスルーが復活する! アメリカンドリームが蘇る! 鞍上の小田部信夫は手綱を扱くだけ! 鞭など要らぬとばかりに、完全に独走態勢に入った!
後続との差は、六馬身、七馬身と広がっていく! これこそがシアトルスルーの本領か!? トリプルクラウンホースの、真の実力か!?
シアトルスルーが先頭のまま、逃げ切った! 今ゴール板をくぐり抜けました! シアトルスルーの完勝でした!
日本馬として史上初めて、ドバイワールドカップを制覇しました! トリプルクラウンホースのシアトルスルーです! 小田部信夫は小さくガッツポーズ!』
シアトルスルーのドバイでの圧勝劇は、まさに圧巻としか言いようがなかった。
ドバイワールドカップを勝利したことによって、俺の牧場もさらに発展させられる。
ただ……シアトルスルーの問題は引退後かもしれない。
『シアトルの背』の発刊年を1984年にするべ……。