転生したらウイポ馬主だった件   作:佐月檀

42 / 61
 実はジャパンカップに参戦したことがある史実ジョンヘンリーさん。


荒ぶる英雄、それから、いずれ来る白き悪夢

 案の定としか言いようのない光景が、目の前に広がっていた。

 中山競馬場、皐月賞。芝2000mのGⅠ。

 またもや彼がやらかした。

 

『皐月賞、間もなく発走の時刻となります!

 

 スタートしました! あーっと! ジョンヘンリーが出遅れた! ジョンヘンリー、これは出遅れてしまった! 前のいきますのがサクラショウリ、先行していきます』

 

 ジョンヘンリーは大一番でも出遅れてしまう。

 間違いなく問題は気性にある。まあ、憂慮していたのがここでも当たってしまったとなると、頭を抱えるしかない。

 それでも鞍上の山南さんはめげずに最後方から競馬をしてくれた。そのおかげで、こちらに一筋の光をもたらしてくれた。

 

『クラシック一冠目、皐月賞、最終直線に入ります!

 短い直線! 先頭で、逃げに逃げるのがサクラショウリ! これは逃げ切ってしまうぞ! これは逃げ切ってしまうぞ! サクラショウリが逃げ切り態勢に入っている!

 外からシービークロス! 芦毛の馬体が追い込んでくる! だがそれ以上の脚色が大外、最後方から飛んできている! 豪脚一閃、ジョンヘンリーだ!

 残り100m! サクラショウリ先頭! 二番手ジョンヘンリー! 一気に脚を伸ばしてくる!

 しかしサクラショウリが粘る! サクラショウリがなんとか粘る! ジョンヘンリーが来る! ジョンヘンリーが来る! サクラショウリに並びかける!

 

 

 だが並んだところでゴールイン! 僅かにサクラショウリ、ほんの僅かにサクラショウリか!? 写真判定となりました! しばらくお待ちください!

 

 

 ……今出ました! 皐月賞、勝ったのはサクラショウリ! 見事粘り切りました! あと一歩、ハナ差で二着がジョンヘンリーであります!』

 

 

 

 

 まさにあと一歩、あと一歩及ばなかった皐月賞となったが、山南さんは笑みを湛えていた。

 どこか不敵な、何かを閃いたような笑みだった。

 

「山南さん、お疲れさまでした。皐月賞は――」

 

「オーナー、わかりましたわ」

 

「……はい?」

 

「ワイなりに掴んだかもしれませんわ、ジョンヘンリーの乗り方を」

 

「そっ、それは本当ですか!?」

 

 山南さんは笑みを深める。

 その笑みからは、かなりの自信が感じ取れた。

 

「次、どこいきます?」

 

「えーと、皐月賞で二着だったので、伊坂先生との相談次第ではありますが……恐らく日本ダービーになります」

 

「なるほど、そこでなんですけどね――」

 

 

 

 ――自由に乗らせてもらって、ええですか?

 

 笑う。山南さんは笑っているだけなのに、その表情がまるで鬼のように見えてしまう。

 歯を剥き出しにし、獰猛な笑みを湛える。

 次こそは勝利を確信したような笑み。

 背筋に冷たい何かが伝う。そうなるほどに、山南さんの笑顔は獰猛だ。

 

「ダービー、勝ちますよ。ジョンなら、勝てます」

 

 口角を上げたのち、山南さんは頭を下げる。

 

「だから、お願いします。ダービーでは自由に乗らせてください」

 

 ジョンヘンリーという馬の手応えを掴んだからこそ、山南さんはここまでするのだろう。

 だとすれば、今の俺の選択肢はひとつ。

 

「わかりました、上手く乗ってくださいね」

 

 今の俺にできるのは、そう口にすることだけである。

 

 

 

 

 

 牧場にある育成場では、一頭の芦毛馬が坂路コースを駆け上がっていた。

 もはや説明するまでもない。米国から購入したスペちゃんこと、スペクタキュラービッドだ。

 二歳になりいよいよ入厩間近となった現在、本格的な育成に入り、こうして走らせたりしている。

 スペクタキュラービッドの背に跨り、馴致を施しているのは牧場長の牧野良夫さん。

 今日はどうやら、馬なりで走らせているようだ。

 

 俺も馬に乗って馴致をつけてみたいのだが、やろうとしたら落馬しそうになって危なかったことがある。

 そのため、落馬しかけた以降は牧野さんだったり、他のスタッフだったりにやってもらっている。面目ない。

 

 にしても、スペちゃんは意外にも生き生きと楽しそうに走っている。

 一部の人はこういう馬を競走族と呼ぶらしい。走る馬もこんなに可愛いのに。

 まあ、スペクタキュラービッドという競走馬自体はだいぶおかしいのだが。

 

 と、牧野さんがスペちゃんから下馬する。スペちゃんの頭を撫でたのち、引き綱を引いてこちらにやってくる。

 

「……なんですかね、この馬」

 

「その言葉をそっくりそのままお返ししたいです」

 

「走らせると相当なんですよ、この馬。芦毛なのに」

 

「そりゃあ、UMAですし……」

 

「芦毛馬でここまで走りそうなのは初めてですよ……」

 

 スペちゃんのほうを向く。肝心の本馬は辺りをキョロキョロと見回していた。そういうところだぞ。

 

「スペちゃんどうです? 走りそうですか?」

 

「走りますよ。調教だけじゃなく、レースでも」

 

「あの牧野さんがここまで言うとは……やはりUMAは全てを解決する……」

 

 牧野さんが相当な評価を下すのも珍しいが、頷ける。だって史実を知ってしまっているし。

 

 だがこれでわかるのは、スペクタキュラービッドが予想の遥か上をいくかもしれない、とんでもない馬だったということだ。

 

「あ、そうだ。オーナー」

 

「はい?」

 

「シェリルの仔、メジロアサマの産駒が無事に産まれましたよ!」

 

 唐突にもたらされた吉報。その言葉を聞き届けたと同時、放牧地のほうに全力ダッシュで向かう。

 

「……行動は早いんだよなぁ」




 スペクタキュラービッドVSシアトルスルーとか書いてみたかったけど、年代がね……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。