転生したらウイポ馬主だった件   作:佐月檀

43 / 61
 メジロティターンでダービーを勝つのは気持ちいいからみんなやれ。


悲願の継承

 メジロアサマを父に持つシェリルの仔が産まれたと聞いて、全速力でシェリルのいる馬房に向かう。

 父メジロアサマ、母シェリル。そんな血統の仔が産まれたのなら、あの人に伝えなければならない。

 メジロ総帥である北見豊武さんは、メジロアサマ産駒を夢見続けていた。

 こういう形になってしまったとはいえ、どうか執念の結実を目にしてほしい。

 

 シェリルの馬房に赴くと、そこにはある人物が先にやってきていた。

 

「北見さん!? どうしてここに!?」

 

「ははは……私としたことが、先んじてオーナーの挨拶に伺うべきでした。どうかご無礼をお許し願いたい」

 

「それはいいのですが……」

 

 いつ来たのだろう、という疑問が喉元から出かかる。

 

「先ほど、シェリルの仔が産まれていると聞きつけましてね。慌てて飛んできた次第です」

 

「そうだったのですね。すみません、連絡も何もせず……」

 

「ああ、いえいえ! シェリルの仔が産まれたとあらば、いつでも飛んできさせていただきますよ!」

 

 それにしても、と北見さんは言葉を続ける。

 

「まさか、まさかこの配合とは……ああ、夢にまで見た仔ですよ……」

 

 シェリルの側に佇む芦毛の仔馬に目をやる。

 すると『☆メジロティターン』という馬名が、俺の目に表示される。

 

「北見さん、この仔は――」

 

「ああ、見たかった、この配合を見たかった……! まさか本当に産まれてくれるとは……!」

 

「あ、あの……?」

 

「あっ、す、すみません。どうしても興奮を隠せず。飛んだご無礼を」

 

 咳払いして、仕切り直す。

 この仔馬が産まれたのならば、この話を切り出さねば。

 

「北見さん、この仔馬なんですが……」

 

「まさか、売りに出されるおつもりですか?」

 

 あからさまに北見さんの表情が曇る。

 

「まあ……それはそうなんですが。ですが売却先が――」

 

「この仔馬はあなたが生産してくださった、私の夢ですよ!? それだけは、どうか! どうかお考え直しください!」

 

「ちょっ、北見さん!?」

 

 肩を掴まれて、思わず声を荒げてしまう。

 そこで自分がしたことに気づいたのか、我に返った北見さんが肩から手を離してくれる。

 

「……売却先はいったいどこに?」

 

「あなたのところですよ、北見さん」

 

 北見さんは一瞬だけ大きく目を見開く。

 まさか、売られるとは考えてなかったのだろうか。

 

「……申し訳ないですが、お断りします」

 

 ……え?

 

「確かに、私の夢はここに果たされました。その仔を欲しくないといえば嘘になります。ですが……その仔馬も、母馬も、父馬も、もう既にあなたのものなのです」

 

「つまりは……」

 

「はい、これはあなたのもの。ここでポンと夢を渡されるというのは、私の矜持、プライドが傷つくだけです。ですから私は、この仔馬を敢えて拒絶しましょう」

 

「………………」

 

 ああ――やられた。

 これがオーナーブリーダーの、メジロの誇り。

 俺は彼を、メジロ総帥を見くびってしまっていたかもしれない。

 

「……この仔はいずれ、ダービー馬になるかもしれません。種牡馬となった暁には、つけてみたいものですね」

 

 北見さんの表情は、先とは打って変わって、あまりにも穏やかなものだった。

 どこか惜しむように、悔しげに。それでも彼は微笑む。

 

「……先のご無礼、大変失礼しました。では、私はこれで」

 

「あの!」

 

「…………」

 

「ひとつだけ、ひとつだけお願いがあります!」

 

 北見さんは振り返らない。

 決してその表情を見せない。

 今から大変失礼な言葉を吐く。

 だが口にしなければ。

 そうしなければ、俺の気が晴れない。

 

「メジロの名を! メジロの冠を! この仔馬につけてもよろしいでしょうか!?」

 

 問いかけても、北見さんは振り返らない。

 

「……それは、なぜです?」

 

「あなたは父馬も俺の所有となったと、そう仰っしゃられた! であるなら、メジロアサマのメジロというのはただの馬名となったはず! だからその名を、仔に継がせるというだけです! しかしメジロと名づけるのなら、あなたの所有馬との関係がややこしくなってしまうため、一応はあなたの許可をいただきたいのです!」

 

「お言葉ですが、意味が矛盾していませんか? メジロアサマはもうあなたのもの。ややこしくなるのは認めますが、だというのならば、私の許可など必要ないはず」

 

「いいえ! 意味はあります! あなたに、この仔馬の名づけ親のひとりとなってほしいからです!」

 

「…………っ」

 

「だからこそ、あなたの冠名をいただきたい! この仔馬には、メジロという、父の名の一部があるべきなんです!」

 

 それでも、北見さんは振り返らない。

 だけれど、肩が小刻みに震えていた。

 それは怒りというより、動揺に近いのかもしれない。

 

「……わかりました。メジロという冠名の使用、許可します」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「……どうか、この仔をダービー馬に。我々が叶えられなかった未知の領域へ、導いてやってください」

 

 その言葉だけ残すと、北見さんは足早に立ち去っていく。

 

 メジロには、悲願がもうひとつある。

 それは、ダービー馬を送り出すこと。

 確かに天皇賞制覇も第一目標であったというが、ダービーも同じくらい重要視していた。

 北見さんは恐らく、メジロアサマの産駒に天皇賞制覇だけでなく、ダービー制覇という夢も見せてもらいたかったのではないだろうか。

 

 彼の悲願、メジロの悲願。

 あまりにも大きすぎるものだが、この仔馬――メジロティターンに託すとしよう。

 きっと、勝ってくれるはず。




 引き継ぎありで1976年からスタートするとシェリルを貰える謎。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。