四月という月も過ぎ去り、五月。
牧場の放牧地。そこにはつい最近に産まれた当歳馬が放牧に出されている。
今所有している当歳馬は三頭。
牧場で産まれたメジロティターン、モンテファスト、そして……。
「あっ! また買ってきましたねオーナー!」
「ばっ、バレたァッ!?」
「そりゃバレるに決まってますよ! 堂々と放牧してますし!」
牧野さんのあまりの正論に、俺は何も言い返せない。
まさにクリティカルヒット。致命傷を負ったわけだ。
「どうせまた海外から買ってきたんでしょう! これで何回目なんです!?」
「ははは……うん、はい」
「……で、血統は?」
「……はい?」
「血統書ですよ! 血統書! それを確認しないと気が収まりません!」
慌てて血統書を懐から取り出し、手渡す。
こうも早く血統書を要求されると、とうとう諦めがついたのかもしれない。
だとすれば、流石に申し訳なさも湧いてくるというもの。
「次回以降は予め伝えておきます……」
「あ、ああ……お願いしますよ!」
どうにも気まずさが生じるなか、牧野さんは黙々と血統書に目を通す。
「……この馬、いくらぐらいしたんですか?」
血統書に目を向けつつ、牧野さんは唐突に問いかけてくる。
アイルランド産の良血馬というのもあってだいたい……まずい、今さらながら自分の金銭感覚が狂っていることに気がついてしまった。
「確か、一億ぐらいだったような……」
「まあ……この血統だと、そうなりますよね。父のグレイトネフューは、欧州だと相当な良血馬ですからね」
牧野さんは頭を抱えながらも、血統書を返却してくれる。
この血統書に記載されている父と母は、俺にとっては見覚えがある。
父グレイトネフュー、母シャーミーン。しかも1978年生となれば、行き当たる馬は一頭しかいない。
「ですけど、こんなゴリゴリの欧州血統、本当に日本で走りますかね? 私としてはそれが一番不安で……」
「走りますよ! ……たぶん」
「そのたぶんはなんですか、たぶんって。確信を持ってくださいよ」
改めて、鹿毛の仔馬に目を向ける。
この仔馬もいずれ、名馬となりえる素質を秘めている。
それをどこまで引き出せるかどうかは、今でも史実でも未知数だが、やるしかない。
俺の知っている史実では、この仔馬はクラシックディスタンス――2400mという王道距離だと無敵を誇る。
ラストランでは距離が合わず惨敗してしまったが、それでも底がないと思わせるほどの強さを有していた。
目の前を走り抜けていく仔馬に視線を注ぐ。
表示されたのは『☆シャーガー』という馬名。
そう、彼は将来、あの英愛ダービー馬シャーガーとなるであろう存在。
これほどの馬をアイルランドから買いつけれたのは、本当に予想外だった。
「しかし……この馬、2400mとか、中距離が得意そうですね。ダービー勝ちを目指すのもいいかもしれませんね」
牧野さんの呟きに目を見開いてしまう。
なんでわかるのか、これが俺にはわからない。
「仕上がりも早そうですからね。それに……」
「はい?」
「この仔、英ダービーやキングジョージ、果てには凱旋門賞すら手にしてくれるかもしれませんよ」
一瞬、今度は牧野さんが目を見開く。
「今度はこの馬で、凱旋門賞に挑もうというわけですね」
「はい。あまりにも悔しいので、国内で勝てたら海外遠征させようかと」
拳を握りしめる。
そのせいで爪が手の平に食いこむが、こんな痛みも感じれないほどに、思考が激情に染まっていく。
「血統的には欧州血統ですが、馬場適性がわからないからまだなんとも……」
「個人的には芝に適性がありそうな気がしますけどね……」
史実を知っている転生者などと暴露すれば、どうなることやら。
正直、想像もしたくない。
「……オーナー的にはどう思われますか?」
牧野さんはシャーガーへ目配せし、問うてくる。
「大物になってくれると信じます。というか、信じるしかないので……」
「一億も注ぎ込みましたからね」
これには苦笑いするしかない。
耳の奥深くに突き刺さる言葉を貰ってしまった。
「まあでも、エイプリルフールのたびに現れるような馬にはさせませんよ」
「……?」
牧野さんは首を傾げるだけ。
対して、苦笑するのは俺。
この仔馬がシャーガーならば、エイプリルフールで現れるようになってはいけない。
そんなネタは、そもそも作らせない。
シャーガーには、ぜひとも血を繋いでほしいという想いもある。
絶対に、誰にも邪魔させない。
「シャーガーが発見されたってよ」
「え、マジ?」