転生したらウイポ馬主だった件   作:佐月檀

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秋GⅠとアメリカンGⅠ

 スペちゃんが10月に渡米してからというもの、俺の所有馬たちは前哨戦こそ勝利した。

 そう、前哨戦こそ、だ。ジョンヘンリーは神戸新聞杯、グリーングラスは京都大賞典を勝ってそれぞれ本番に挑んだはいいのだが……。

 

『さあ先頭、先頭はサクラショウリ! 皐月賞馬がまだ粘っている! 鞭が飛んでいるが、これはどうだこれはどうだ! 後方からは他馬が迫ってきているぞ! サクラショウリは危ういか! サクラショウリは脚色悪し! だがジョンヘンリー、ダービー馬は――まったく伸びてきません! ジョンヘンリーは馬群に埋もれている! クラシックホースは万事休す! クラシックホースは万事休す!

 しかし外から一頭、なにか飛んできた! ――インターグシケン、インターグシケンが強烈な一撃を伴ってやってきた! 外からサクラショウリを抜き去って、皐月賞馬を軽々と抜き去って、今先頭に立ってゴールイン!

 インターグシケンです! インターグシケンでありました! これは驚きました! あっと言わせられました! 菊花賞、勝ったのはインターグシケン! 皐月賞馬サクラショウリは粘りに粘って2着か。ダービー馬ジョンヘンリーは5着辺りが精いっぱいのよう』

 

 菊花賞に出走させたジョンヘンリーは、最終直線に差しかかった瞬間に敗北を察してしまった。

 最終直線が短い京都競馬場でも最後方周辺に位置取ったジョンヘンリーではあったが、その最終直線でも伸びてくるような末脚は発揮できず。あの様子からして、ほぼほぼスタミナ切れのようだ。

 ジョンヘンリー5着に大敗したが、グリーングラスの天皇賞(秋)はというと――。

 

『グリーングラスはまだ来ない! グリーングラスはまだ来ない! 1番人気のグリーングラスはどうなっている!? 春の天皇賞馬はどうなっているのか!? 先頭はまだ、まだエリモジョージ! しかし外からテンメイ! さらにプレストウコウ! ようやくグリーングラスも上がってきている! それでも前に追いつけるかどうか! エリモジョージは厳しい! エリモジョージは逃げ切れないか!

 エリモジョージが捉えられた! テンメイとプレストウコウが競り合いながら先頭争い! グリーングラスも外を回してやってきているが、この二頭に届くかどうか! 的田が懸命に手綱を押している! 的田弘が必死に鞭を振っているが! 先頭、抜けた! 抜けた! 抜けた! プレストウコウだ! プレストウコウだ! グリーングラスが上がってきた! 一気に脚を伸ばしてくるが届かない! 先頭はプレストウコウのまま! 秋の府中が銀に染まった! 春の天皇賞馬、春のグランプリホースを破って、プレストウコウがゴールイン! やりました、やりました! プレストウコウがやりました! 2着は僅かにグリーングラス! 3着はテンメイ! 世代を背負って、プレストウコウが大本命馬を破りました!』

 

 エリモジョージを警戒しての競馬となったが、逆にその作戦が仇となってしまった。

 相手の術中にはまらぬよう、的田さんは中団に控えた。だが、グリーングラスが大本命であるのを完全に失念していた時点で、ほぼ負けは確定しているような状態だった。

 テンメイなどの他馬から執拗なマークを受け、得意の最終コーナーで先頭に立ち押し切るという競馬ができず、外を回して伸びるのがやっとというなか、プレストウコウにしてやられた。

 プレストウコウに1馬身差をつけられての完敗を喫してしまう。

 

 と、まあ国内だけなら負けてはいるが、一方でスぺちゃんはどうなっているか。

 

「……スぺちゃんって、もしかして馬のような何かですかね?」

 

 などと伊坂先生がこうして振り返ってくるぐらいにはなっている。

 

「だからスぺちゃんはUMAですって……」

 

「あれで馬とは……」

 

 信じられないものを目の当たりにするように、目を見開いて伊坂先生が呟く。

 その言葉は俺だって呟きたい。史実だと2000mまでならセクレタリアト並とも謳われたほどだ。格が違いすぎる。

 

「シャンペンSといい、先のBCジュヴェナイルといい……スぺちゃんが強すぎて……」

 

 結論からすると、スぺちゃんはアメリカに遠征しても全勝した。だいたい合計16馬身も突き放して。

 

「まあ、他のホースマンからしたら絶望的でしょうな……」

 

「あんなのにダートで勝てる馬とかいますかね?」

 

「今帯同しているシアトルスルーぐらい、ですかね?」

 

「小田部さんと日原くんを会わせてはいけないね……」

 

 彼らなら確かに、最悪大喧嘩に発展している未来が見えてしまう。

 どちらも馬に脳を焼かれすぎて、話し始めると止まらなくなる。

 どちらも気が強く、思い入れを語るとたぶん激突し合う。そういう事故だけはさけねば。

 

「シアトルスルーもシアトルスルーでとんでもない強さをしてますけどね……」

 

 伊坂先生の言葉で、パシフィッククラシックを7馬身、ジョッキークラブ金杯を9馬身で逃げ切ったシアトルスルーの姿を思い起こす。

 

「あれを維持できたらアファームドにも勝てそうですけどね」

 

「ジョッキークラブ金杯では有力3歳馬のアリダーを蹴散らしましたからね、互角以上にには渡り合えるかと」

 

 伊坂先生は力強く頷く。それも強い期待を込めてのものだろう。

 よく考えたら、アリダー相手に9馬身差もつけるとか相当な気もするが。まあ、今さらだから気にしないでおく。

 

「それにしても――いよいよですね」

 

「そうです、ね」

 

 サンタアニタ競馬場。今現在は静寂に包まれ、今か今かと時を待ち侘びる。

 ――間もなく発走されようというレースで、最強馬が決まるかもしれないからだ。

 

「BCクラシック、間もなくですよ」

 

 ごくりと息を呑む。手に汗が伝わっていく。

 

 

 さあ、もうすぐ。もうすぐ始まる。

 ――最強VS最強が。

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