転生したらウイポ馬主だった件   作:佐月檀

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 今回は小田部さん視点です。


最強を懸けた一戦

 この場が静寂に包まれてから、僕の胸は弾み、昂る一方だった。

 最高の名馬に乗って挑むのだ。この大舞台は決して負けられないものだ。

 ブリーダーズカップ、それもクライマックスのクラシックとなると、やはりスタンドは賑やかになってくる。

 僕の相棒であるシアトルも、どこか嬉しそうにスタンドを眺めていた。

 この盛況っぷりだと確かに、自然と力が湧いてくるような気がしてくる。

 大舞台ほど燃えるというが、その言葉も強ち間違いではないのだろう。

 

 さて、出走する他馬を見渡してみれば。

 今年の米三冠馬アファームド、その宿敵アリダー、欧州から移籍してきた実力馬エクセラー、それから他二頭……。

 

「シアトルなら勝てる」

 

 小声ではあるが、自然とそんな言葉が口から零れる。

 それでも油断大敵。僕の慢心でシアトルが負けたとなると、一生後悔しても後悔し足りない。

 どんな最強馬が相手だろうと、シアトルスルーは負けやしない。

 だからこの場で示してやろう。真の最強というものを。

 

 

 

 誘導馬に導かれてゲート前まで歩を進める。

 僕の心臓はこの上なく拍動していた。一定のリズムを刻みつつ、力強く響く。

 係員に引かれて、3番枠に収まる。

 鼓動がますます強くなっていく。全身の血液が温まってくる。

 もはや他馬など目にも留まらなかった。頭にある光景は、ただただシアトルの競馬をするという決心のみ。

 

「いこうぜ、シアトル」

 

 一言かけて、前を向く。

 その直後――遂にゲートが競走の始まりを告げた。

 刹那、シアトルは一気に駆けだす。鳥籠から放たれた鳥のように。

 シアトルは自分が為すべき競馬を理解している。僕が手綱で促すまでもなく、先手を奪い去る。

 今はただ、手綱を持っているだけ。それだけで十分だ。

 

 背後から感じる気配は二頭。恐らくはアファームドとアリダーなのだろう。

 推察するに、二頭ともシアトルに狙いを定めたようだ。こうなると逆に誇らしくなってくる。

 あれほどの傑物たちが日本馬をマークしている。その事実だけでも口角を上げそうになる。

 

『やはり先頭いきますのは、日本のシアトルスルー。鞍上の小田部信夫はがっしりと手綱を持って、悠々と逃げていきます。

 シアトルスルーをマークするように、二番手はアメリカの最強馬アファームド、そのあとアリダーと続いています。

 果たしてBCクラシック連覇なるか、シアトルスルー。昨年のグランドスラムホースがこの大舞台で先頭に立っております』

 

 600m、700m、800m……と通過してもなお、睨み合ったまま。

 だが先頭に立ってみてわかる。1000mの通過タイムは恐らく58秒台。かなりのハイペースだ。

 

『1000mの通過タイムは58.3! これは早い! 流石に早すぎる! それでも先頭で逃げるシアトルスルー! このまま逃げ切れるのか、逃げ切ってしまうのかシアトルスルー!』

 

 こんなハイペースでもシアトルをマークするあたり、どうやら相手も本気で勝ちに来ているようだ。

 1200mを過ぎていくころに、最内に着けたまま敢えてペースを落とす。

 今にも迫ってきそうな栗毛の馬体を尻目に、その状態を維持する。

 さあ、ここからだ。ここから勝負といこうではないか。

 

『最終コーナーを回って、最終直線! 日本馬の連覇か!? アメリカの奪還か!? 間もなく決着となります!

 先頭はまだ、まだシアトルスルー! 小田部信夫はまだまだ持ったまま! 一気に2番手以下を突き放していく! 単独先頭! 最終直線でも日本馬が先頭だ!

 2番手のアファームドは伸びを欠いているか! シアトルスルーには近づけそうもない! 3番手から一気にアリダー、さらに大外からエクセラーも来た!

 しかし先頭はシアトルスルー! 3馬身、4馬身と引き離す! 外からのアリダーも伸びてきているがこれは2着争いか!

 シアトルスルーだ! シアトルスルーだ! サンタアニタ競馬場の最終直線、残り200m! しかしもはや勝負は決したか! シアトルスルーが突っ走る! 連覇を狙ってひた走る!

 5馬身、6馬身! シアトルスルーだ! シアトルスルーが突き放して今、ゴールイン!

 やりました! 史上初めて、BCクラシック連覇! その快挙を、日本の馬が成し遂げました!』

 

 

 

 ゴールを駆け抜けた瞬間、僕の目元から熱い何かが込み上げてきた。

 夢だったアメリカ競馬、その頂点に最高の名馬と立てているのだから。

 今日だけは狂喜乱舞しても許されるだろう。スタンドに向かって大きく手を振ってみる。

 歓声に満ちているこの競馬場は僕にとって、最高の思い出となるはずだ。

 関係者席でもオーナーと伊坂先生がハイタッチを交わして喜びを分かち合っているのが見える。

 

 ならば僕も、思いきり喜びを露わにするとしよう。

 僕は騎手用のヘルメットを外すと、それを天高く投げ飛ばした。

 ヘルメットは空で舞い踊る。僕の心情を表現するかのように。

 僕はそっと、シアトルの鬣に顔を埋めた。

 

 

 

「伊坂先生、やりましたね。連覇ですよ、連覇」

 

「ええ、ええ! まさかシアトルがあそこまでの強さを見せつけてくれるとは」

 

「いやぁ、スぺちゃんも勝ってくれて、最高ですよ! 今にもまいあがりそうです! ……そういえば伊坂先生、ちょっとお願いが」

 

「はい? なんでしょう?」

 

「シアトルスルーですが――ラストランは有馬記念にしませんか?」

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