一歩、また一歩。枯れ葉を踏むたび、ざくっという音が響く。
牧場にも枯れ葉が舞い散る様を眺めて、春と夏を越えたのだと実感する。
79年も9月となり、枝葉が赤く染まる。それをしみじみと目にしたところで、牧柵がそびえる放牧地に視線を向ける。
「もうこんな時期ですよ、時の流れは早く感じます」
そうですね、と微笑むと、隣に立つ牧野さんは肩を竦めてみせる。
「オーナーが期待されているあの仔も、1歳になり育成し始めてますからね。一目見ただけでも走りそうな気はしますが」
「でしょ? あれは間違いなく俺たちを――」
「
「やはり覚えられましたか」
いやー、と大仰に腕を広げてみせる。
「しかし、なぜ走ると言えるのですか? 不躾な質問ですみませんが……」
「うーん、そうですねぇ。……血統と自信、ですかね」
ほう、と牧野さんは目を丸くさせる。
「父のグレイトネフューは欧州で活躍馬を送り出してますし、母父もけっこう種牡馬として奮っていたそうですからね。自信に関しては根拠はありませんがね」
そう苦笑してみせるが、牧野さんは首を傾げる。納得というか合点がいかないような表情で。
「しかし活躍馬といっても、そのほとんどが欧州でのみの活躍ですし、日本で走らせるとなると……」
「まあ、普通は不向きでしょう」
ただ、とつけ加えて、
「だから根拠のない自信なんですよ。こいつは日本でも通用するっていう。そのほとんどは宝くじを引くようなものかもしれませんけど」
「……そう言うと思ってました」
やれやれと言わんばかりの面持ちで、牧野さんはふうと息を吐く。
「あの馬、間違いなくクラシックを席巻しますよ」
告げられて、今度は俺が目を丸くさせる。
牧野さんの口から飛び出すとは思わなかった言葉が、俺の胸に突き刺さる。
意表を突かれ、そのように呆然としていると、
「牧野さん、シャーガーの今日の馴致終わりましたよ」
牧場スタッフに手綱を引かれて、戻ってきたのは話題となっていたその馬。
「お疲れさん。……今日はもう終わったそうですが、見てくださいよオーナー」
鹿毛の1歳馬――シャーガーのほうに手を掲げ、視線を誘導してくる。
「で、どうだった? 乗ってみて」
馴致を担当していたスタッフにそう問いかけると、
「大物になりますよ、この仔」
そんな答えが返ってきた。なるほど、もう見抜いていたなんて。
「オーナー。8月のトラヴァーズを勝ったスペちゃん、すでに渡米しているダンジグに匹敵するほどですよ」
「じゃあなんで改めて聞いたんですか……」
「すみません、日頃の仕返しでつい」
イタズラが成功したようで、牧野さんは満足げな笑顔を浮かべる。
いきなり聞かれたものだから、正直焦ったが、なんとか理解してくれていて助かった。
「ああ、そういえばオーナー。ダンジグなんですけど……大丈夫、でしょうか?」
「いやー、大丈夫でしょ」
「まあ
この間新馬戦を圧勝したと思ったら、もうアメリカに遠征してGⅠに挑むとは。狂気以外のなにものでもありませんよ……」
「もうスペちゃんでやってますが……」
「スペちゃんは頑丈すぎたんですよ……それにダンジグの鞍上も心配で……」
「倉田さんのことですか?」
「欧州競馬では騎乗が通用していましたが、アメリカではどうなるのか」
「いや、大丈夫ですよ。伊坂先生と倉田さんでしたら」
伊坂先生はアメリカでの経験が豊富ですし、とつけ加えて、牧野さんはようやく首を縦に振る。
「わかりました。今はまず、ダンジグと倉田さん、伊坂さんの健闘を祈ります」
だが――――後日のレース後、アメリカ競馬メディアには電撃のような一報がもたらされたという。
――日本のダンジグとタカカゲ・クラタ、ダート1400mのホープフルステークスで地元勢を12馬身後方に置き去りにする、と。