【中編】蜘蛛屋敷~ボクとヤベぇ女の脱出夏休み戦争~   作:影薄燕

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8月10日 娯楽には勝てなかったよ……

 

 何やかんやでこの屋敷に来てから10日が経ち、良くも悪くも生活に慣れてきた――いや、本当は慣れたらダメなんだけど。

 

 ただ……

 

「昨日に続いて寝覚めが悪いな」

 

 どうにも目覚めが良くない。

 最初の内は窓が無く、太陽の確認が取れなかったことで時間間隔がおかしかったことから目覚めがイマイチだったけど、それも初めの2、3日だけだ。そのあとは普通に起きることができた。

 

 なのに、2日連続で目が覚めてすぐは頭が重い。

 ソファから出たくない。

 そんな感じだった。

 

「……」

 

 隣を見るけど、そこに誰もいない。

 かなり高確率でソファに入り込んでいたナーねえの姿無し。

 ここ2日は空気でも読んでいるのか、潜り込んで来なかった。

 

「……はぁ」

 

 何でため息が出るのか分からない。

 年上(すぎる)お姉さんで、この屋敷の主で、人外で、ボクをここに監禁した張本人なのに、どうして朝起きた時にいないのがモヤモヤするんだろう? これまでが異常だったのに。気付かない内にボクまで変になってしまったのか。

 

「考えても仕方ないか」

 

 一先ず起きよう。

 

 適当にテレビを点け、今年の見所情報なんかをアナウンサーが紹介している番組を見ながら体をほぐしていく。

 体が適度に温まってきた頃には番組は変わって、子供向きの教育番組(?)になっていた。かなり長い間続いている玩具やゲームをよく紹介している番組で、クラスメイト曰く、声優でもある司会のメガネの男性は10年以上姿が変わってないそうだ。

 

「玩具やゲームは縁が無かったから、こういった番組の紹介だけで満足しちゃうんだよなぁ……いや、欲しいんだけど」

 

 貧乏を舐めてはいけない。

 去年まで本当に質素な生活を送ってきたんだ。ゲームを買うようなお金は全部ボクの教育費になっている。

 だから、学校でもクラスで玩具やゲームの話になるとまるで付いていくことができなかった。ボクに言えるのなんて「カッコイイよね」とか「やりたいなー」ぐらいだ。借金が無くなって落ち着いたら、お父さんやお母さんに玩具やゲームをねだると心に決めていた。

 

「誕生日にお願いする予定だったんだけど、な」

 

 ボクの誕生日は11月だ。

 その頃には新生活にも慣れてくるだろうと考えて――夏休みに監禁されるとは。状況次第じゃ誕生日を迎えられるかも怪しいよ。

 ナーねえに今のところボクを亡き者にしようとかそんな考えがないから希望が捨てきれないけど、状況次第じゃ一生ボクは玩具やゲームに触れることもできずに死ぬんだろうな-。ゲームだったら有名な『マ〇オ』とか1回ぐらいプレイしたかったなー。

 

 

 ――と、そこまで考えて気付いた。

 

 

「……あれ? ナーねえ起きてこないな」

 

 時計を見れば時刻はすでに7時半。

 某番組も終わってしまっている。

 

 いつもならとっくに起きている時間だけど……

 

 仕事部屋――いない。

 図書室――いない。

 魔の部屋――いない。

 トイレ&お風呂――いない。

 

 で、謎の部屋も入り口から声を掛けたけど――反応なし。

 

「??? え? どこ行ったのあの人?」

 

 監禁されてから初めてのことで少し不安になる。

 いつもなら食事が運ばれてきて、朝食を食べる時間なんだけど。

 

「もしかして、部屋の外?」

 

 朝からどこかへ出かけたのかとドアを開け――すぐに見つけた。

 

 

「うふ♪ うふふ、うふふふふふふ……」

 

 

 ゆっくりとキッチンワゴンを片手で押しながら、もう片方の手で大きな包みを持ち、それを見て薄ら笑い続けるナーねえを。

 

「……」

 

「うふふ――あ」

 

 目が合った。で、すぐに逸らした。

 ナーねえの目がすごい泳いでる。顔に「ヤッバイ。見つかっちゃった」と書いてある。

 

 原因は恐らく、手に持ってる大きな包み。

 大分大きいけど……何が入ってるんだアレ?

 

「……ナーねえ、それ――」

 

「ゴメンねそーくん! 朝から待ちきれなくてずっと廊下で待ってたんだ♪ もしかして、寂しかったのかな?」

 

「………………」

 

「? そーくん」

 

「……別に、寂しくなんか、ない」

 

 答えるまでに変に時間が掛かった。

 え? 寂しくなんかないよなボク?

 

「そう? それじゃ、遅くなったけど朝食にしようか♪」

 

 ナーねえは何もなかったかのように部屋に戻り、ボクもモヤッとした感情のままその後に続いた。

 

 ……ちなみに、朝食のパンはすっかり冷めていた。

 どれだけあの包みに興味津々だったんだ? ホント、興味以上に中身が怖くなってきたんだけど……

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「というわけで! 包みを開けてみたいと思いまーっす!」

 

「マジか」

 

 朝食後、また昨日みたいに冷めた対応をすることになっちゃうのかな?と思っていたところにこれだ。

 気にはなるけど、正体が怖いぞあの包み。

 

「うふふふ~♪ ねー、そーくん? こ・れ、何だと思う?」

 

「分からないし、場合によっては分かりたくもない」

 

 人外特有の正体不明な物質でないことだけを願ってる。

 

「それでは発表しまーっす!! ジャン、ジャカジャカジャカジャカ――」

 

 口でドラムロールの真似事をするナーねえ。

 一生懸命「ジャカジャカ」言ってる姿が不覚にもカワイイと思った。

 

「――ジャカジャカ……ジャーーーンッ!!」

 

 ドラムロールの真似事終了と共に包みを開けるナーねえ……って、思ったより丁寧に包まれていたのか中々入ってるものが出てこない。

 さっきまでのドラムロールの余韻がどんどん消えて……

 

「あんれー? えっと、んと……フガー!」

 

 

――ビリビリビリビリ!

 

 

 ……すごいな。

 最後は力尽くで包みを破いた。

 

 包んだのは管理人さんかな?

 大事なものなんだろうけど、ボクから見ても丁寧に包みすぎだったし、最終手段で破ることまで予測できなかったのか……

 

 そして、ようやく中身を取り出せたナーねえはソレ(・・)をボクの目の前に突き出した。

 

 ――っ!? こ、これは……!

 

「テレレテッテレ~! 最新型ゲーム機~!」

 

「何故にドラえ〇ん? というかそれ、ニンテンドース〇ッチ!?」

 

 今年の春に発売されたばかりの次世代ゲーム機がなぜ!?

 あ、一緒に入ってるのはまさか超有名シリーズの髭のオッサン!? 他にも見覚えのある名前のソフトが……!?

 

「今、子供も大人も関係なくこういったモノが流行ってるんだよね? 私、そーくんと一緒に遊んでみたいな~♪ この髭が生えたおじさんって対戦もできるんだよね? 一緒に遊ぶと白熱するだろうな~♪」

 

「な、何て手段を……!」

 

 やりたい! 遊び尽くしたい!

 夢にまで見た最新のゲームをプレイしてみたい……!

 

 だけど、

 

「ナーねえも一緒にするのか」

 

「最初はそーくんだけでいいよ? でもでも~、私ってば“すぽんさー”っていうのなんでしょ? 少しぐらいご利益が欲しいな~」

 

「やっぱりか!?」

 

 この人外、一緒にゲームすることでここ2日の微妙な空気をなぁなぁにしようと企んでる……!!

 

「こ、媚びないぞ。絶対に媚びるものか! そんな悲しそうな顔をしてもダメだからな! ソフトのパッケージ裏面を見せるな! スイ〇チ本体をチラ見せするな! 屈しない……ボクは、絶対、最新ゲーム機とソフトのコンボなんかに――

 

 

 

 

 

「いやー! そーくん、変な鎖に繋がれた丸いのがー!」

 

「逃げろ! ソイツは基本的に倒せない。早くその場から離れるんだ!」

 

「ちょ、この炎のグルグル通り抜けられないよー」

 

「こうやってタイミングを計って一気に突き抜けて――あぁ、イカが真下から現れてマ〇オがー!!」

 

「そーくーーーーーん!!」

 

 

 勝てなかったよ。ゲームの魅力に。

 ナーねえが「これが即堕ち2コマ……!」って目を見開いていたけど、何のことだろう? 禄でもないことなのは分かるんだけど。

 

「すごいよねー。明治辺りで私も含めて(・・・・・)いろんなものが外国からやって来た頃も日本が発展していったのは実感したけど、ゲームはその時の驚き以上にビックリだよ~」

 

「文字通り生きてきた時代が違う」

 

 うろ覚えだけど、明治って江戸時代の次ぐらいの年号だっけ? ペリーって外国人が来たのを切っ掛けに、本格的に海外との交流が深まったとか言ってた気が……

 ペリーさん。ペリーさんのせいで、ナーねえというどえらい存在が日本に来ちゃったんですが? 何てことしてくれたんですか?

 

「今の人がゲームに嵌まるのも分かるな~♪」

 

「そう?」

 

「……うん」

 

 

 その時見たナーねえの横顔は、少しだけ寂しそうだった。

 

 

「ずっと1人でいるより、誰かと一緒の方が、何百倍も幸せ」

 

「………………」

 

 ゲームに繋げたテレビの音だけがしばらく部屋に響く。

 

 ボクはナーねえの言葉に返すことができなかった。

 

 

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