【中編】蜘蛛屋敷~ボクとヤベぇ女の脱出夏休み戦争~ 作:影薄燕
朝。
珍しく、起きてすぐ体調が優れないという事態になっていた。
何というか、疲れが抜けきれていないというか……
どれぐらい疲れてるかって、当然のようにソファに潜り込んでいたナーねえを見ても、二度寝するぐらい。
「眠い」
「夜、盛り上がったからね♡」
ゲームの夜更かしは良くないな。
もう少し大きかったらまた違ってたんだろうけど、小学生が深夜0時過ぎてもゲームするのはやっぱり体に悪いみたい。
「体中の骨が鳴る」
「それだけ酷使したもんね♡」
目を酷使すると体中に影響があるって本当だったんだ。
ちょっと力を入れるだけで関節からポキポキ音が鳴る。
「ナーねえにも、何だかんだで付き合わせちゃったし」
「もうもう♡ そーくんたら初めてとでは思えないぐらい上手くなっていって、付き合ってた私も興奮でたくさん汗かいちゃった♡」
「……ねぇ、昨日遅くまでゲームしてたって話をボクたちはしているんだよね? 何かナーねえだけ別のこと考えてない?」
「そーくん……頭の中で妄想するだけなら、犯罪じゃないんだよ?」
「何の話!?」
「ようは自分の想像力。想像力があればどんな会話も、いくらだって頭の中で書き換えることが可能になるの♪」
「今の会話で何をどう書き換えたー!!」
「やん♪ 恥ずかしくて言えないよ……そーくんのエッチ♡」
「ナーねえの妄想の中のボクぅ……!」
きっとナーねえの妄想内容は知らない方が良いんだろうな。
知ったら立ち直れない気がするというか、背筋がゾゾッってなるんだ。ちょっと、やめてナーねえ。妄想を続けるの。見れば分かるよ。ねっとりした視線をボクに向けないで。さっさとよだれ拭いてよ汚いなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「このエリア、いろんな種類がいるなぁ。低確率で出るのがいないか確認のためにも、歩き回ってみるか」
「ここ、そんなに歩き回らないとダメなの?」
「事前情報が無い分、自分で地道に探さないとダメだからね。クラスのやってた子が言うには、根気よく時間を掛けないと一向に現れないのもいるらしいよ。そういうのに限って強かったりするって」
「へー。……そういえば、さっき経験値で倒したのが他のと違う色だったけど、あれも低確率で現れるの?」
「まさかの色違い!? それ超・低確率だよ!!」
今日もナーねえとゲームしてます。
昨日とは違うソフトで、マ〇オと同じく超有名シリーズからポケットなモンスターのゲームを、ボクとナーねえがそれぞれプレイしている。
育成バトルってピンと来なかったけど、やってみると納得のおもしろさだ。
同じくピンと来なかったナーねえもハマったみたいだけど、ボク以上に事前情報が無かったせいで二度と会えるか分からない個体を普通に倒しちゃってた。
少しは躊躇しようよ!
色違い、見てみたかったなぁ……
「うんうん♪ 一喜一憂してるそーくんの笑顔プライスレス!」
「誰のせいだよ……」
「だってー、何の反応もしてくれなかったり、冷たかったりするそーくんと一緒にいてもつまらないもーん。前みたいに1人になった気がするもーん。せっかく最近はずっと昔みたいに楽しくなってきたのに。……やっぱり、1人は寂しいよ」
「……」
何となしに言われたことが気になってナーねえの方を向く。
不満そうに口をとがらせ、脚をブラブラと揺らすナーねえ。
その顔はどこか子供っぽいけど、ほんの少し、寂しさが見えた。
「ん? あ、そーくん。バトル不利になってるよ?」
「え? あ、ヤバッ」
ナーねえの方を向きながら適当なボタンを押したせいか、バトルのコマンドをミスってた。あぁ、せっかくのエースが瀕死に。
「………………」
何とかバトルを立て直しながら考える。
前から思っていた、ナーねえのことを何も知らないこと。
それを、今の会話の流れなら聞けるんじゃないかって。
「……ふぅ」
聞いたら、ここから出る気持ちが揺らぎそうだと思いながら、ずっと悩んでも何も進展しないと、ボクは覚悟を決めて口にする。
「……ナーねえは、さ?」
「うん?」
「外国の神様だったんだよね?」
「そうだよー。同じ神話の中じゃ知ってる人ほとんどいないけど」
まぁ有名な子の名前が強すぎるからだけどーと、あっけらかんに言う。
どうやらナーねえは“マイナー”な神様らしい。
「じゃあ、何で日本に?」
その質問に、手を頭に置きながらナーねえは話す。
「うーん……昔すぎて思い出すの大変だけど……あぁ、そうそう。世界のいろんな神様が実際にいて、みんなに信じられて、自分たちのことを教えてる中で、私のいた体系の神たちは当時の人間に興味持ってなくて無視してたの。えーっと、大体の理由が『おもしろくない』だったかな」
「それは他の神たちのほとんどが人間に見切りをつけて、新天地に旅だったあとでも続いたの。かく言う私も興味が向かなかった」
「それからさらに年月が経って……ようやく人間たちがおもしろいモノを作り始めて、そこで私たちは興味を持った」
「でも、その頃には神様のこととか忘れられてて、変に出しゃばったら余計な混乱起こすだけだから昔のやり方はできない」
「で、リーダー格の神が提案したの。『人間になりすまさない?』って」
「まーそこから準備に準備を重ねて、元いた場所を捨てて人の世に飛び出したってわけ♪ そして私に割り当てられたのが日本だったの♪」
……か、軽ぅ。
神様が人の世に出た理由、めっちゃ軽い。
もっと壮大なスケールの話だと思ってたのに。
「というか、ナーねえみたいのが世界中に散らばってるって……」
「みんなそれぞれの生き方してるみたいだよ? さっき言った提案した神様なんか、100年ぐらい前に波長の合った人間に自分たちのことちょろっと教えて、小説にさせたんだー。私の名前も載ってるんだぞ♪」
「思いっきり人の世に干渉してる件」
「架空の神話扱いだったんだけど、独特の世界観が引き込まれるって話題になって、今じゃ結構有名になってるんだよ」
「そりゃ引き込まれるよ。本人――いや本神?が自分たちのこと教えているんだから。むしろ今の話で不安が的中した」
架空じゃなくてマジだと知っているボクからすれば、徐々に自分たちの存在を世界に広げていってるようにしか思えない。
ある意味、平和的な侵略というか……
「私も日本に来て管理人さん――あ、正確にはそのご先祖に支援してもらいながら、着物着てみたり、お美味しいものを食べたり、お祭りを楽しんだりして不自由なく暮らしていたの」
「そのまま今にいたると」
「……ううん。暮らしていた、だよ。つまり過去形」
楽しそうに当時のことを語るナーねえ。
だけど、急に暗い雰囲気になる。
「楽しい日々。そんな暮らしも、たった50年ちょっとで陰りが見えます」
「普通の人間からしたら十分な件」
相変わらず時間間隔が違うなー。
「戦争が始まりました。しかも世界規模」
「あー……」
歴史の授業で習ったな。
そうか、その頃か。
「まず、戦争のドタバタで当時の管理人さんの家が衰退しました」
「思っていたより大事になってた」
当時の管理人さんって、ようはナーねえを養っていた人でしょ?
たぶん良い家の出だったんだろうし、影響が大きそうだなー。主に金銭面とか、権力的な面で。
「次に、当時住んでた屋敷に爆弾が落ちて木っ端微塵に」
「ナーねえ……!」
同情案件だった。
ぶわっと、涙が出そうになる。
思わずゲーム機を手放して口元を手で覆う。
「何とか戦争を乗り越えて再出発しようとしたんだけど……人間の技術が一気に進んで情報のやり取りとか、価値観の変化だとかがあったことで、全く成長しない私は迂闊に外へ出ることが不可能になちゃった」
「人外が生きづらい世の中に……」
「そのあとも都市開発で立ち退き要求されたり、管理人さんの家の都合もあって人の目が少ない地方に飛ばされたり、お金が足りなくなってきたから私も洋服作りで働くことになちゃったんだよねー」
「うわぁ~~~」
な、ナーねえの日本に来てからの人生が想像の数倍ハードだった。
時代の流れでそうなったって言えばそれまでだけど、仮にも神様に対して酷すぎないかな? 家が木っ端微塵のくだりが特に。
「そこから何とか今いる屋敷での生活基盤が安定していったのだけど……時代的にも人の目に不用意に触れるのは不味いってことで、ず~っとこの屋敷から一歩も外に出れないの。管理人さんにお願いしてみても、『今のこの状態ですら氷上のうえで成り立っているのに、姿が変わらないナクア様のことが世間にバレれば、本当に暮らせなくなってしまいます』って言われたら、ね」
「……一歩も外に出ていないって、いつから?」
「もう40年ぐらい経つかなー。管理人さんとも基本的には電話越しばかりでね、ずっとこの部屋で1人だったの」
「だから、そーくんが屋敷に迷い込んだ時、ワクワクしたんだ♪」
「本当、久しぶりに子供とお話ができるって♪」
「まぁ数十年、下手したら100年ぶりぐらいに可愛らしい男の子と会話できたんで、ちょっと欲望が抑えられなかったんだけど♡」
「戦争のあとは、よそ者っぽい外見の私のこと警戒して誰も話し相手になってくれないまま屋敷に閉じ籠もっちゃったから……」
「何十年もほとんど1人で過ごしてきたから……」
「だから、そーくんと一緒の日々が楽しくて仕方ないの♪」
「
「だから、そーくん……」
「私と――ううん、何でもない」
「さって! ゲームの続き続き~♪」
クトゥルフ神話って、調べたら想像以上に近代生まれの架空神話だったんですよね。もっと前だと思ってましたよ。