【中編】蜘蛛屋敷~ボクとヤベぇ女の脱出夏休み戦争~ 作:影薄燕
少し考えれば分かることだったんだ。
体力に自信のないのに、その体で行う探索。
不得意だけど、しなければいけない立体地図の作成。
あとは夏場だったこととか、監禁に対するストレスとか。
まあ、色々だよね。
だから、考えれば分かったはずなんだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はい、そーくん。あ~ん♡」
「ハァ、ハァ。あ、あーん……」
「フフフ♡ 美味しい?」
「……うん。リンゴの甘みが良いよ」
「ホント! じゃあもっとたくさん作るね!」
「ナーねえ、ボク病人。そんなに食べられないよ――けほっ」
はい。風邪を引きました。
38度だって。
この熱いのか寒いのかよく分からない感覚、随分久しぶりだなー。
そんなこんなで、朝から風邪の症状で苦しんでいたボクは半泣きのナーねえによって診察され、ただの風邪だと判明した今は、打って変わり上機嫌になったナーねえによる看病をされているわけだ。
現在ボクはいつも寝ているソファじゃなく、ナーねえの仕事部屋――その奥にあった天蓋(?)とかいうヒラヒラなものが付いた大きなベッドで寝かされている。ビックリするぐらいフカフカだ。風邪を引いてなかったら2、3分で眠れていたと思う。
朝ご飯代わりのすり潰したリンゴがやけに美味しく感じるなー。
「ふふふ♡ まさか本当に看病プレイができるなんて……日頃の行いが良かったのかな~? もうもう♪ いつも以上に世話焼いちゃうぞ♪」
「だかr――ゴッホゴホ! ……だから、何で上機嫌なの?」
「私がいつも寝ているベッドなの。今度からそ-くんもこっちに来て良いんだよ?」
「話を聞いて」
「意識が混濁しているそーくん。1人はヤダというワガママを聞いてあげて一緒に寝る私。夢と現実の境が曖昧になったそーくんは……きゃ♡」
「ナーねえにツッコミどころしかない件」
もうね? 全てが疲れる。 ダルくてしかたない。
“看病プレイ”って、ただの“看病”でいいでしょ。
カタカナ3文字が付くだけで急にいかがわしくなる。
日頃の行いが良いとか、ボクを監禁しておいてどの口が言うか。
いつも以上に世話されるとか嫌な予感しかしないし。
ほぼ毎朝ボクの寝ているソファに潜り込んでいるのに、今更ベッドで一緒に寝たって大した違いないだろって感じだし。
最後には妄想の世界に入り込んじゃってるし。
こんなのいちいち反応していたら切りがないよ。
考え事するだけで疲れる。
ナーねえはほっといて寝るに限るよ。
明日までに治して、また探索を再開するんだ。
……あぁ、だけど、
これだけはキチンと言っとかないとな。
「ナーねえ」
「なーに?」
「風邪を引いた子供相手の1番の看病が何か知っている?」
「世話する人の愛♡」
「そういうのいいから」
ここら辺で現実を教えなきゃな。
「それは――」
「それは?」
「静かに寝かせることだよ。というわけでおやすみ」
「………………え? 本当に寝ちゃうの!?」
布団をかぶり直して完全に寝る体勢に入れば、珍しく本心から焦った雰囲気のナーねえが「ウソでしょ!?」と驚いていた。
「看病のために、たくさんのプランも用意したのに!?」
「ゴッホ! ……ナーねえは風邪を何だと思ってるの? 下手に側で色々されると、むしろ悪化するって。何の病気でも病人用の食べ物をよく食べて、環境を整えてよく寝るのが1番効果がある治療法なんだから。……そもそも、そこに置いてある長ネギとかどうする気なの?」
「刻んで布に包んで首に巻くと良いって!」
「民間療法か」
「おしりに長ネギをブスッ!とすればすぐ治るって!」
「民間療法か」
いや本当に民間療法かも怪しいな。
どこの情報なんだか。
……それ以前に、あの立派なネギをボクのおしりに刺すつもりだったのかナーねえ。座薬じゃないんだよ?
絶対大変なことになるところだった。
理由は分からないけど、確実にボクの中にある大切なものを無くす危機だったに違いない。
「じゃ、昼食の時に起こして。おかゆでお願い」
「そ、そんな~~~」
「本当にボクのこと大切なら本気で静かにして」
「うぅ~……そーくんがいるのに何もしちゃいけないなんて。待っているだけだなんて。――はっ! まさか、これが世に聞く“放置プレイ”ってやつなのかしら!? そーくん、恐ろしい子!!」
確信した。
例えボクがいなくなっても、ナーねえなら逞しく生きていけるって。
少なくとも、日本で最初におしりへ長ネギぶっ刺した人は頭がおかしい。