【中編】蜘蛛屋敷~ボクとヤベぇ女の脱出夏休み戦争~   作:影薄燕

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8月22日 閑話.深夜のナクアと……

 

 

【side.アトラク=ナクア】

 

 

「全く、何で巨大な毛糸の塊が階段を転がってくるんだか……」

 

「がんばって作ったんだ♪」

 

「がんばりすぎだから。何で2メートル近い大きさの毛玉に追いかけ回されなきゃならないんだって話でさ」

 

「だって石の塊じゃ大変なことになっちゃうでしょ?」

 

「大変なこと――というか、ほぼ確実に死んじゃうね」

 

 今日も疲れた様子でそーくんが帰ってきて、いつものように愚痴を言いながらソファで休む。可愛い♡

 

 むー……

 そろそろ私のベッドに誘うべきかな?

 

 そーくんが寝静まった頃を見計らって、掛けてある大きなタオルケットの中に潜り込む作業。あれって地味に大変なんだよね。

 あぁ、でもダメダメ。絶対にダメ。

 そんなことしたら押さえが効かなくなくなっちゃう。

 

「……急に寒気が。ナーねえ、変なこと考えてるでしょ」

 

 そーくんがジト目で見上げてくる。

 食べちゃいたいぐらい可愛い♡

 

「考えてないよ~。ほら見てこの真剣な目を!」

 

「目は真剣だけど口元がだらけきってるから」

 

 おっと。

 ムニムニムニ――っと。これで良し!

 

「ほら見てこの真剣な目を!」

 

「もう遅いから。何を無かったことにしているのさ……」

 

 ダメだったかー。

 

 あー……呆れた顔のそーくんも良いなー。

 ずっと見てたいなー。

 

 

 だけど、難しいなー。

 

 

 夕飯を食べている時も、

 お風呂に一緒に入っている時も、

 最初に比べたら薄くなったとはいえ、やっぱり壁を感じる。

 

 そーくんにとって最初は意識してて、今は無意識で出してる壁。

 

 壊すのは簡単。

 薄い壁だし、どんな方法で壊せばいいのかも分かる。

 

 でもダメ。

 

 壊そうとする行動にストップが掛かる。

 それが私にも、そーくんにも、良い選択のはずなのに。

 壊すために腕を上げようとしても、意志に反して腕は上がらない。表面の問題じゃなく、もっと心の奥底にある意志がそれを拒む。

 

 最初にそーくんをずっと側に置きたいって、ちょっと、いやかなり、思考が暴走気味だったのは反省するけど、本当だったら3日目ぐらいで落ち着いたんだし、そこで謝れば良かったんだと思う。「好みだったし、人肌恋しくて暴走しちゃったの!」って頭を下げればまた違った展開になってたはず。

 

 だけど、私は――

 

「――っ!?」

 

「ナーねえ? どうかした?」

 

「……ううん。何でもないよ♡ そーくんの寝顔は今日も可愛いだろうなーって、楽しみなだけ♡」

 

「頼むから毎日潜り込むのやめてよ」

 

「それはできない相談だね♪」

 

「あーはいはい」

 

「おやすみ、そーくん」

 

「おやすみー」

 

 そーくんの側からゆっくり離れる。

 

 …………

 そーくんには、特別変な反応はなかった。

 なら、聞こえているのは私だけだ。

 

 

――ジリリリリリ! ジイリリリリリリ!

 

 

 黒電話の音(・・・・・)は、まだ鳴り続けている。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 1時間後。

 そーくんが完全に寝た頃、気配も音も消してあの部屋(・・・・)へ向かう。

 

 変な黒電話しか置いてない部屋。

 昔の仲間たちと唯一繋がりのある部屋。

 

 その部屋にある黒電話は1時間ずっと鳴っている。

 

 

――ジリリリリリ! ジリリ“ガチャ”……

 

 

「もしもし?」

 

『やあやあ久しぶりナクアちゃん! みんな大好き世界の奈落から這い寄る混沌、ニャルさんとは私のことだあああああああ!!』

 

「切っていい?」

 

『わーーーーー!! 待って待ってそれやめて! 突然電話切られるのここ最近になって苦手になっちゃったんだよー』

 

「それで何の用事? 私にはこのあと、そーくんのソファに潜り込んで寝顔を見ながらドキドキして寝るって使命があるんだけど?」

 

『……気のせいかな? キミの使命って世界が終わる“その時”に備えて故郷で永遠に巣を作り続けることだったはず』

 

「アナタが『もうやらなくていい』って言ったんでしょ?」

 

『そうだったそうだった!』

 

 たはー!と、わざとらしい声が受話器越しに聞こえる。

 しばらく連絡を取らない内に随分ユーモア(?)を覚えたらしい。

 人間世界で上手く生きていけるのは、やっぱりニャルみたいな存在なのかな?

 ようは順応力というか、臨機応変力というか。

 私はそこまで器用じゃないから羨ましい。

 

「それで? 言ったい何の用なの?」

 

『つれないなー。もっと昔話に花咲かせようぜ!』

 

「そーくんと話している方が百倍楽しい」

 

『この私が、百分の一だと……!』

 

「けど、そうね。敢えて話に乗るなら……そーくんへの特別な道具の支給、助かったとだけ言おうかな」

 

『……やっぱり知っているじゃん。私が関わっていること』

 

 知っているも何も。

 ニャルが私を含めた“全員”を頻繁に覗いていることは昔から分かっていたことだし、今回の件も当然知っている体で話していた。

 ……そうじゃなきゃ、「そーくん、って誰?」と聞くはずだし。

 

 そもそも、そーくんからこの部屋の電話の音について聞かれた時も、私には聞かせたくない話をニャルがそーくんとする可能性が高いって予想は付いている。心の中でものすごく介入すべきか迷ったし、そーくんにもコズミックホラーを体験させることに対して隠れて謝罪したりもした。

 

『ナクアは変な所で抜けているからねー。彼も常々言っているけどさ、何も道具も知識も持っていない小学生のもやしっ子が攻略できる空間じゃないでしょ? 何あの最近見たアニメに出てきた無〇城の中みたいなの? 本当に攻略できると思ったの?』

 

「それは……」

 

 後になって、不味いと本気で汗を出したのは秘密。

 

『彼にもそれとなーく伝えたけどさ、ナクア……本当は分かってるんだろ? 冷静になって気付いてるんだろ? なのに何で……?』

 

「心配してるの?」

 

「今現在、私の仲間で幸福度が1番低いのはキミだよ」

 

「分かってるわよ。それぐらい」

 

 それぐらい、本当は分かってるの。

 私は、そーくんに――

 




ニャル( ^o^)「『鬼滅〇刃』おもしろいなー」
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