【中編】蜘蛛屋敷~ボクとヤベぇ女の脱出夏休み戦争~   作:影薄燕

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 大人になると周りの目を気にしてプールとか行かなくなるんですよね……
 ただでさえ小学生の頃、私物を盗まれた経験もありますし。


8月23日 何か違うプール開き

 

 ゆらゆらと揺れる。

 波に揺られているみたいに。

 

 青い空。白い雲。そして、青い海と白い砂浜。

 

 浮き輪みたいに膨らませる寝台っぽいものの上に寝そべって、ボ~~~っと太陽の光を浴び続ける。

 砂浜を見れば黒ビキニを身に付けたナーねえが手を振っている。

 

 ここまで来れば分かるというものだ。

 

「あ~……これ夢だな?」

 

 本当のボクはあの監禁部屋のソファで寝ているんだ。

 今年は何やかんやで結局海に行けなかったからこんな夢を見ているのかな?

 引っ越した当初は夏休みに海行くぞ!って父さんと意気込んだっけ。

 

「いや、問題はそこじゃない」

 

 聞いたことがある。

 寝ている最中に見る夢の内容が“水”に関係する内容だった時の注意点……もとい、悲劇を。

 

 

 ――“おねしょ”してたらどうしよう……

 

 

「うわー最悪だ。しかも海とか大洪水の可能性もあるよ」

 

 昨日そんなに飲み物飲んだっけ?

 寝る前に麦茶をコップ1杯だけだったはず。

 夕食後にトイレも行った。

 

 一体何で?

 単純に海への渇望が見せた夢ならまだしも、本当に漏らしていたらどうすればいいんだ。小6でやるとか恥ずかしすぎる。

 

 これで起きた後でバレるのが母さんとかだったらまだマシだ。

 死ぬほど恥ずかしいけどマシではある。

 

 だけど、ここにはナーねえがいる。

 もしもナーねえに漏らしているのがバレたら?

 

 うわ。

 赤ちゃんプレイとか言って迫る姿が想像できた。

 

 ――って、あぁこの感じ。夢から覚めるやつだ。

 

 頼む。おねしょだけは嫌だ。

 信じてるぞボクの尿意抑制器官!!

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「は?」

 

 目が覚める。

 そう、夢から目覚めたはずだ。

 そのはず、なのに……

 

 青い空!

 白い雲!

 青い海!

 白い砂浜!

 輝く太陽!

 ゴムボート的なものに乗ってプカプカ浮かぶボク!!

 

 そして、

 

「あ♡ そーくん、おはよー♪」

 

 黒いビキニで胸部装甲が主張しすぎなナーねえ!!

 

「………………」

 

 思考が纏まらない。

 それでも考えに考えて――

 

「な~んだ。まだ夢を見てるのか!」

 

 夢から覚めてまた夢だなんて本当にあるんだな~。

 

「えい♪」

 

「冷たっ!?」

 

 ナーねえから水鉄砲による冷水攻撃!

 

「目ぇ覚めた?」

 

「覚めたよ! ……あれ?」

 

 眠気が完全に無くなった頭でもう1度周りを見る。

 

 青い空と白い雲。

 良く見たら天井に貼られたポスターだ。

 太陽だと思っていたのも真ん丸のLED照明だし。

 

 白い砂浜だと思っていたのも防水用カーテンに描かれている柄だった。

 それが前後左右、部屋の全てに掛かっている。

 無駄にリアルなタッチの絵。

 

 というか、良く見たら家具がほとんど無い!?

 あるのは海の家やプールに置かれているような簡素な白いテーブルとイスだけだし、それも海――てか、プールに足下が使っている!?

 

 言ってて分かったけど、これプールだ!

 すっごく大きな膨らますプールがいつも寝ている部屋全体を占拠している!?

 

「ナーねえ、これいつの間に!?」

 

「朝早く起きて準備しました!」

 

「家具は!?」

 

「廊下に一時避難」

 

「何で急に部屋が海風のプールに!?」

 

「気付いたの。このままじゃそーくんは夏休みの期間なのに海に遊びに行くことができないって。そーくんぐらいの子は必ず夏にプールか、可能なら海に行くんでしょ? そんなのかわいそうじゃない!!」

 

「アナタのせいぞ」

 

 そりゃ都心で貧乏だった家の事情もあって1年に1回大きめのプール施設に行くのが限界だったけどさぁ?

 行けないのかわいそうって、アンタが原因だと言えればどんなにいいか。

 ナーねえは自分のせいだって自覚はあるのか本当に……

 

「フッフッフ! ということで今日の午前は海に来たと思って遊び尽くすよ♪」

 

「無駄に凝ってるなー」

 

「そーくんにコッソリ睡眠薬を飲ませて眠りを深くしている間に準備するのは骨だったよ。特に物音とか」

 

「待って???」

 

 さらりと、とんでもないこと言ったぞこの人。

 

「見て! 微弱ながらも波の発生を可能にする装置も開発しました!」

 

「……それって、壁際にいる板を装着した大量の蜘蛛たちのこと?」

 

 ナーねえの言う装置がある場所を指す。

 カーテンを被せてあるからシルエットだけだけど、間違いなく何度も見たナーねえの僕の蜘蛛たちだ。

 それが横一列に並んで水に半分程浸かった一枚の大きな板を装着して、上下に動かすことでかろうじて波っぽいものが生まれている。

 

 けどなー……

 

「すんごい、ひぃこら言っている気がするの気のせい?」

 

「気のせい気のせい♪」

 

 そっかー。気のせいかー。

 蜘蛛の内の1匹がすでにいつプールに落ちても不思議じゃないぐらいフラフラで、隣の仲間からエール(?)を送られているも気のせいかー。

 

 ……深く考えるのはやめよう。

 

「分かったよ。午前中は遊ぼう」

 

「やったー!」

 

 こらナーねえ、上下にピョンピョンしないで。

 布1枚隔てただけの胸部装甲がものすごいことになっているから。

 よく零れ落ちないなアレ。

 

「朝ご飯はパンケーキと南国フルーツの盛り合わせでしょ? お昼は焼きそばと海鮮ステーキの予定でーっす♪」

 

「それは普通に楽しみ」

 

 やっぱ美味しいものにだけは勝てないな。

 

 そうだ。

 ずっと言おうと思っていたことがあるんだ。

 

「ところでナーねえ」

 

「なーに?」

 

「ボク、起きた時には海パン姿だったんだけど」

 

「うん」

 

「まさか、寝ている間にナーねえが着替えさせたなんてことはないよね?」

 

「よーし! まずは泳ごう~!」

 

「聞けよ」

 

 ザバンッ!とナーねえが飛び込む音だけが響いた。

 

 その時の衝撃で例の蜘蛛が足を滑らせてプールに落ちていたけど……

 死にはしないだろ。たぶん。

 心の中でだけで無事を祈ろう。

 




【おまけ】

例の蜘蛛「ひー、ひー」

蜘蛛A「がんばれ兄弟!」

蜘蛛B「両隣のオレたちも協力するから耐えるんだ!」

例の蜘蛛「う、うん。ありg『ザバンッ!』――あ(つるっ……ドボン!)」

蜘蛛A&B「「兄者ぁああああああああああああああっっ!!」」

 こんな会話(?)があったとか無いとか。
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