【中編】蜘蛛屋敷~ボクとヤベぇ女の脱出夏休み戦争~   作:影薄燕

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8月25日 【検索】タイラ〇ト 追いかけてくる

 

 

――本格的に急がなければ。

 

 

 そう思い始めるのも当然のことだった。

 何せ、ボクに残された時間は僅か5日。

 多少の無理をしてでも、脱出に力を注がないと間に合わないところまでタイムリミットが来ていた。

 

 初期のボクならもう無理だと諦めた可能性もある。

 けど、違う。

 今ここにいるのは、数週間の理不尽を耐え抜いてきたボクだ。

 

 もう体力がないとは言わせない!

 

「だりゃああああああああああああああああっ!!」

 

 無数の階段がひしめく空間。

 その中で重力通りに設置されている通路を走り抜ける。行き先は下が空洞となっている崖のような場所―つまり行き止まりだ。

 だけどボクは助走をつけてギリギリで……ジャンプした。

 

 目の前、跳んだ先にはただの柱。

 普通なら届いても掴まる場所も無く落ちる運命となるだろうがそうはいかない。

 ニャルさん特製のどこだろうとくっつく装備で柱に張り付く。

 

 ゴロゴロと何かを転がす(・・・・・・)音が聞こえて後ろを振り向けば、さっきからボクを追いかけてきた|巨大な毛玉(・・・・・)としか言えない物体がスピードを落とさないまま――止まることもできず、重力に従って落ちていった。

 

 見事な落ちっぷりだ。

 ポーンッ!て、擬音が似合う落ち方だ。

 ひとまず、お疲れ様とばかり巨大な毛玉を転がしていた僕の蜘蛛たちに会釈しておく。……向こうも会釈で返してきた。落ちながら。

 

 聞こえるはずのない蜘蛛たちの「ほな、さいなら~」「また明日~」という幻聴をバックに、ようやく一息ついた。

 

「……ふぅ~~~」

 

 くっついていた柱から比較的安全なセーフティーゾーン(ボク命名)へ移動し、腰を下ろす。

 

「は、ははは。今なら走り幅跳びでクラストップ狙えるわ」

 

 人間って本気になると何でもできるんだなー、と乾いた笑いが出てくる。

 自分でも危ないことをしている自覚はあるけど、残りの日数でこの広大すぎる空間を攻略するためには移動時間すら惜しいんだ。

 すでに掛かったことのある罠なら走りながら回避していないと、まともな調査すらできない。ここに休憩時間や慣れない地図作りの時間まで加わるんだから、1日が48時間だったらいいのにと本気で思わざるを得ない。

 

 だからこそ、ナーねえに直接交渉して時間を作り出したんだけど。

 

「ちょうど良いし、午前の探索(・・・・・)は終わりにして昼食にするか……」

 

 ボクが頼み込んで――それこそ、ナーねえをドン引きさせるつもりで土下座してまで頼み込んだのは、午後だけでなく午前も脱出するための探索時間にさけたいというものだった。

 

 最初は渋るかと思われたけど、意外にもすぐ了承したナーねえ。

 ボクからするとありがたかったけど……

 ちなみに、土下座している最中に聞こえた『ハァ、ハァ、めくれた服の隙間から覗くそーくんの腰……良い!』については忘れることにした。

 

「さて……ついにコレ(・・)と向き合うことになるのか」

 

 例のポーチから取り出した――2段重ねの重箱。

 それは、探索に出掛ける前にナーねえが渡してきたものだった。

 

 

「そーくんのために愛を込めて用意しました!!」

 

 

 とはナーねえ談。

 

 実際は、いつも食事を作ってくれている管理人さん側がすでに作られたものや材料を用意して、それをナーねえが盛り付けただけなんだけど……

 

 

「私の“愛”をたくさん詰め込んだから、それはもう私のお弁当と言っても過言じゃないんだよ! だから、たーっくさん食べてね♡」

 

 

 ともナーねえ談。

 

 過言だよ。

 作ってくれた料理人さんがかわいそうだよ。

 そんでナーねえの愛とか考えるだけで重そう。

 この重箱みたいにズッシリとしていそう。

 

「まあ食べるんだけどね」

 

 どんなに経緯がアレ(・・)でも弁当には違いない。

 さっそくフタを開けてみる。

 

「うわぁ……」

 

 何と言うか……想像通りすぎたというか……

 

 真っ先に目に飛びついたのは、美味しそうな唐揚げでもポテトサラダでもなく、ピンク色の……何だっけ? 伊達巻きとかに使われたりするのは知っているけど、名称は知らない。とにかく、着色料100%なものが大きなハート型でごはんの上に乗っている姿だった。

 

「想いが重い……!」

 

 ここまで来ると一周回って清々しいな。

 ある意味期待を裏切らないと言いますか……

 

「ま、いっか。……いただきます」

 

 いつも通りすぎて安心しているボクがいることを不思議に思いつつ、付属の箸でごはんを食べ進めた。

 ピンク色の謎材料は変わった味がしたけど、不思議と不味くなかった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「うぷ……苦しい……」

 

 食 べ 過 ぎ た

 

 完全にミスした。

 まさかナーねえはここまで考えて……!

 ないな。

 最初から多かったんだから、普通に残せば良いのになぜ完食したし。

 

「今日は上側を重点的に探索するんだ。がんばれボクの胃」

 

 普通に階段を登りながら、また建築法にケンカを売る階段をアイテム頼りにペッタンペッタンしながら、少しずつ上へ向かう。

 当然のように鳥もちや振り子のような毛玉が襲ってきたりするけど、難なく避ける。ここまで来るとさすがにトラップのバリエーションも尽きてくるのか、見知ったモノばかりで助かった。

 

 胃の調子が良ければもう少し早く進めたんだけど。

 

 

 ――で、そんな状況下でが現れた。

 

 

――ギシッ

 

 

「ん?」

 

 あれ? 一瞬物音が。

 気のせい――じゃないなこれ。

 この1ヶ月で無駄に鍛え上げられた気配センサーが反応している。

 

 あの、僕の蜘蛛たちにだって反応するんだ。

 間違いなく近くに何かがいる。

 

「………………」

 

 ジッと、物音がした方向を見つめる。

 すぐに動けるよう準備することも忘れない。

 

 ――で、そいつは現れた。

 

「ウッソー」

 

 大きな蜘蛛だ。

 とても大きな蜘蛛。

 

 いや、僕の蜘蛛たちも大分大きいけど、まだ常識的な大きさだった。

 

 なのにコイツは何だ?

 

 何で体長2メートルはありそうな蜘蛛が出てくるの???

 

 ソイツはゆっくり近づいてくる。

 ゆっくり、ゆっくりと、ボクの方に――って、

 

「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!?」

 

 全力で逃げた。

 脇目も振らず逃げた。

 胃の調子? そんなの逃げる時だけどこかへ吹っ飛んだよ。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 何とか生きて帰れた。

 

「ナーねえぇええええええええええええええええええええっ!! アレはなんだああああああああああああああああっ!!」

 

「おかえりそーくん♡ それで? どうかしたのかな♪」

 

「あの! 2メートル越えの! ストーカー蜘蛛のことだよ!!」

 

 本当に怖かった。

 あの後、逃げたことで一安心したら時間経過でまたあの蜘蛛が近づいてきたんだよ! こっちに何かするわけでもなく、ただ近づいてくるだけ。だけど、それが恐ろしい。ゼロ距離になったら何されるか分からないし、蜘蛛に耐性ができたボクでも生理的な嫌悪が半端じゃないんだよ!!

しかも何が酷いって、あれからどれだけ突き放しても絶対に寄ってくること! おかげで今日探索予定だった場所に2度と近づけなかった。

 

「あ~あの子か。フッフフ、あれこそ私の切り札。偶然見たテレビで紹介されていたのを参考に新たに作った僕の蜘蛛。その名も――」

 

「その名も……?」

 

タイラントチュラ~~~!!

 

「……何それ?」

 

「有名なゲームに出てくる、主人公を追いかけ回し続けるつよ~いキャラの名前をもじってみました♪どう? カッコイイ?」

 

「勇気も元気も沸かない、怖さと恐さ100%の象徴だったよ」

 

 タランチュラと合わせているのか?

 たった2文字増えただけでああ(・・)なるなんて、どんな化け物だ。

 

 

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